MRI
第一選択:最も高い解像度が得られる主要な画像診断手段。
T2強調画像:慢性CN XII麻痺による片側舌萎縮の確認に有用。
重点評価部位:斜台における悪性腫瘍の兆候を重点的に確認する。

ゴッドフレドセン症候群は、第VI脳神経(外転神経)と第XII脳神経(舌下神経)の同時麻痺を呈する稀な症候群である。1946年、デンマークの眼科医Erik Godtfredsenが転移性上咽頭癌に関連するものとして初めて報告した。当初の報告は9例の上咽頭癌患者の症例シリーズであり、腫瘍による直接的頭蓋内浸潤と咽頭後リンパ節転移の両方が原因として仮定された。
当初の定義は、同側の失明・三叉神経痛・外眼筋麻痺・舌下神経麻痺を引き起こす海綿静脈洞の浸潤性腫瘍を指すものであったが、その後、第VI・第XII脳神経の圧迫を来すあらゆる病変に拡大して使用されるようになった。現代の画像診断技術により、本症候群の多くが斜台(clivus)の病変に局在することが明らかになっている。
正確な疫学は不明である。文献報告が少なく稀な疾患と考えられるが、報告不足の可能性もある。過去20年間の文献レビューでは9症例が集積されている1)。斜台軟骨肉腫による本症候群は2022年に初めて報告された1)。
正確な疫学は不明である。過去20年間の文献レビューで9症例のみが報告されており、きわめて稀な疾患と考えられる。ただし、認識不足による報告不足の可能性も指摘されている。
代表症例では、22歳男性が1年間にわたり徐々に悪化する水平性両眼複視を訴え、右側方視で最も症状が強かった1)。
カバーテストや遮閉・遮閉解除試験により、一次偏位と二次偏位を区別することが診断上重要である。Hessチャートでは第一偏位で患眼外ひき方向にパターンが縮小する。代表症例では右眼が正中線を越えて外転できない状態が6年間持続した1)。
舌下神経(CN XII)が麻痺すると、患側の頤舌筋(おとがい舌筋)への神経支配が失われる。舌を前方に突出させる際、対側の頤舌筋の作用が相対的に強くなるため、舌は麻痺側(患側)へ偏位する。
第VI・第XII脳神経の局所的圧迫を引き起こすあらゆる病変が原因となりうる。本症候群を認めた場合は腫瘍学的合併症を念頭に置き、速やかに画像診断を行う必要がある。
原因別の報告症例数を以下に示す。
| 原因分類 | 報告症例数 |
|---|---|
| 上咽頭腫瘍 | 13例 |
| 原発性腫瘍 | 9例 |
| 転移性疾患 | 8例 |
| 硬膜下血腫 | 1例 |
過去20年間の文献レビュー(9症例)では、55.5%(5/9例)が斜台への転移性疾患、66.7%(6/9例)が腫瘍性であった1)。具体的な病因として、斜台軟骨腫、前立腺転移、膵臓転移、卵巣転移、平滑筋腫転移、直腸腺癌転移、自然寛解性多発脳神経障害、嫌気性乳突炎、後斜台硬膜下血腫が報告されている1)。
外転神経は橋から出て蝶形骨斜台を上行し、海綿静脈洞・上眼窩裂を経て外直筋に達する。走行距離が長く、斜台との解剖学的な近接性から局所病変による圧迫を受けやすい。外転神経麻痺は動眼神経麻痺・滑車神経麻痺と比較して腫瘍による頻度が多いとされる。
本症候群は腫瘍性疾患が最多原因である。文献レビューでは3分の2以上が腫瘍性であり、転移性疾患が過半数を占める1)。本症候群と確認した際は腫瘍学的合併症と考え、斜台の悪性腫瘍を念頭に置いた画像診断(MRI)を直ちに行うべきである。
MRI
第一選択:最も高い解像度が得られる主要な画像診断手段。
T2強調画像:慢性CN XII麻痺による片側舌萎縮の確認に有用。
重点評価部位:斜台における悪性腫瘍の兆候を重点的に確認する。
ポジトロン断層撮影(PET)
適応:転移性疾患など、より活動性の高い病変の評価に有用。
役割:原発巣の検索や全身評価において補助的に使用される。
CT
適応:緊急性がある場合や骨破壊の評価に使用可能。
限界:軟部組織の解像度はMRIに劣る。
代表症例のMRIでは、右蝶形後頭部の斜台に隣接骨の破壊を伴う病変が認められた1)。術後8か月のMRIでは海綿静脈洞への残存腫瘍の伸展が確認された1)。頭部画像診断では脳幹・頭蓋底・海綿静脈洞・眼窩領域の病変検索が必要であり、神経内科・脳神経外科への依頼も考慮すべきである。
本症候群の鑑別として以下を考慮する。
治療の第一は原発病変に対するアプローチである。腫瘍性病変では外科的切除・放射線療法・化学療法が選択される。
代表症例では、右眼窩上開頭術による腫瘍減量を施行した後、5年後の再発に対して右眼窩頬骨開頭術+腫瘍切除と33回の放射線療法を行ったが、6年間にわたりCN VI・XII麻痺の改善は得られなかった1)。
原発病変の治療と並行して、外転神経麻痺による複視の管理を行う。
末梢循環障害などの可逆性病変による外転神経麻痺では自然軽快も多く、ビタミン剤・循環改善薬投与で約6か月を目安に保存的経過観察を行う。
外眼筋手術の適応と術式は麻痺の程度による。
| 麻痺の程度 | 推奨術式 |
|---|---|
| 軽度〜中等度(眼球が正中を越える) | 外直筋短縮術+内直筋後転術 |
| 高度(正中を越えない) | 上下直筋の筋移動術(低侵襲全幅移動術) |
手術の目標は第一眼位での眼位改善と複視の消失である。側方視での術後複視残存は必発であり、術前に十分な説明が必要である。
複視への対症療法には、眼帯(パッチ)による患側眼の遮閉、プリズム眼鏡の処方、ボツリヌス毒素による患側内直筋麻痺、および外眼筋手術がある。外眼筋手術は改善がなく症状が強い場合に適応となり、麻痺の程度に応じて術式を選択する(「標準的な治療法」の項参照)。
ゴッドフレドセン症候群の解剖学的基盤は、外転神経と舌下神経の斜台近傍での走行にある。
両者はいずれも斜台の内側部を走行し、第V・VII・VIII・IX・X脳神経よりも内側に位置する1)。このため斜台正中の病変はCN VIとCN XIIのみを障害し、他の脳神経を温存しうる1)。外転神経麻痺は通常、頭蓋内圧亢進などによる偽性局在徴候と解釈されることが多いが、本症候群では斜台病変による直接圧迫であり、真の局在徴候を意味する1)。
この解剖学的近接性が、上咽頭腫瘍・斜台腫瘍・転移性疾患など多様な斜台病変が同一のCN VI・XII麻痺パターンをもたらす理由である。斜台軟骨肉腫は一般に複数の隣接脳神経を障害することが多いが、本症候群として CN VI と XII のみに限局する例も報告されている1)。
Waiら(2022)は斜台軟骨肉腫によるゴッドフレドセン症候群の初症例を報告した1)。22歳男性が2回の手術と33回の放射線療法を受けたにもかかわらず、6年間にわたりCN VI・XII麻痺の改善は得られなかった。病理組織学的には初回手術時は低悪性度(Grade 1)の軟骨肉腫(S100陽性、D2-40陽性)であったが、再発時にGrade 2へ進行し、S100強陽性を示した。再発腫瘍は右内頸動脈を圧排していた。
本症例は過去20年間の文献レビューにおける10例目であり、斜台軟骨肉腫が本症候群の原因となることを示した初の報告である1)。稀疾患であるため大規模な研究は難しく、今後の症例集積と原因別の治療成績評価が課題である。