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神経眼科

巨細胞性動脈炎

巨細胞性動脈炎(Giant Cell Arteritis; GCA)は、中〜大型血管を侵す全身性肉芽腫性血管炎である。側頭動脈炎(temporal arteritis)とも呼ばれる。50歳以上に好発し、中央値は75歳である。

10世紀バグダッドのAli Ibn Isa al-Kahhalによる記述が最古とされる。1890年にHutchinsonが頭部の「痛みを伴う赤い筋」を記述した。1932年にBayard Hortonが初めて側頭動脈生検を実施し、肉芽腫性血管炎として記載した。1941年にGilmourが巨細胞を初めて記述した。

発症率は50歳以上で年間10万人あたり18〜29例と報告されている3)。年齢とともに増加し、60歳代で10万人あたり2.3例、90歳代で44.7例とされる。

性差として、女性は男性の2〜6倍の頻度で発症する。人種差が顕著であり、北欧系白人で最も多く、ノルウェーでは10万人あたり約30人に達する。一方、日本での発症率は10万人あたり1.47人と欧米に比べてきわめてまれである。欧州では50歳以上の原発性全身性血管炎の中で最も多い疾患で、毎年100万人あたり32〜290人の発症が報告されている。

Q 巨細胞性動脈炎は日本人にも起こるのか?
A

日本での発症率は10万人あたり1.47人と欧米に比べてまれだが、発症は報告されている。日本では高安動脈炎が多く、巨細胞動脈炎は相対的に少ない傾向がある。アジア人でも発症しうる疾患であり、典型的な症状がある場合は積極的に疑うことが重要である。

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Guohong Tian, Weimin Chen, Qian Chen et al. Giant cell arteritis presenting as bilateral anterior ischemic optic neuropathy: a biopsy-proven case report in Chinese patient. BMC Ophthalmology. 2018 Oct 30; 18:282. Figure 1. PMCID: PMC6208180. License: CC BY.
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  • 頭痛:最も一般的な全身訴えであり、症例の約90%に認める。新発の側頭部または後頭部の頭痛が特徴的である。
  • 頭皮の圧痛:髪を梳かしたり枕に頭を置く際に不快感を生じる。
  • 顎跛行:咀嚼筋領域の血管炎による。100例の検討では45%に認められた1)
  • 全身症状:発熱、体重減少、倦怠感、食欲不振、筋肉痛など。
  • 視力障害:患者の30〜50%に急激な視力喪失が生じる。20%以上で光覚なしの重篤な障害に至る。
  • 一過性黒内障(amaurosis fugax):恒久的視力喪失の約30%で前駆症状として出現する。通常、恒久的視力喪失の約8.5日前に認められる。発症率は2〜19%と報告されている。
  • 複視:第3・4・6脳神経麻痺による。
  • PMR(リウマチ性多発筋痛症)症状:患者の最大50%に合併する。両側性の首・肩・骨盤の痛みやこわばりを呈する。
Q 一過性黒内障は巨細胞性動脈炎の前兆として重要か?
A

恒久的視力喪失の約30%で前駆症状として認められ、平均8.5日前に出現する。一過性黒内障を生じた場合は緊急に眼科を受診し、巨細胞動脈炎を積極的に鑑別すべきである。早期にステロイド治療を開始することで恒久的視力喪失を予防できる可能性がある。

臨床所見(医師が診察で確認する所見)

Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”

眼所見

視神経乳頭の蒼白浮腫(pallid swelling):動脈炎性前部虚血性視神経症(A-AION)の典型所見。

RAPD(相対的求心性瞳孔反応)陽性:患側で陽性となる。

乳頭周囲出血・軟性白斑網膜所見として認められる場合がある。

蛍光眼底造影:視神経乳頭への充盈遅延、乳頭周囲脈絡膜の充盈遅延・欠損を認める。

全身所見

側頭動脈の異常:怒張、結節、圧痛、拍動の減弱または消失。

眼球運動制限:脳神経麻痺による複視と眼球運動制限を生じることがある。

Horner症候群:まれに巨細胞動脈炎診断時に認められる。部分的眼瞼下垂と縮瞳を呈する6)

巨細胞動脈炎の病因は複合的であり、遺伝的要因と環境因子が免疫反応を誘発すると考えられている。

HLA DRB1*04、DRW6、DR3が感受性増加と関連する。TNF-α遺伝子座やIL-10プロモーターの多型もリスク増大と相関する。

クラミジア・ニューモニエ、水痘帯状疱疹ウイルス、パルボウイルスB19の関与が示唆されているが、相反する報告も存在する。水痘帯状疱疹ウイルスとの関連を示唆する特徴が報告されている。

内弾性板・エラスチン・細胞外マトリックスの石灰化が年齢特異的発現を説明する可能性がある。

  • 加齢:中央値75歳。50歳以下での発症は極めてまれ。
  • 性別:女性は男性の2〜6倍のリスク3)
  • 民族:北欧系白人に最多。黒人・東洋人にはまれ。
  • 喫煙:リスク増加因子の一つ。
  • 低体格指数(BMI):関連が報告されている。
  • 早期閉経:女性のリスク因子。
  • PMR合併:巨細胞動脈炎とPMRは強い関連を示す。

巨細胞動脈炎の診断には臨床所見、血液検査、画像検査、側頭動脈生検を組み合わせる。

1990年ACR(米国リウマチ学会)分類基準では以下の5項目中3項目以上で診断する。

項目基準
1. 発症年齢50歳以上
2. 新たな頭痛新発の頭痛
3. 側頭動脈異常圧痛または脈拍減弱
4. 赤血球沈降速度≥50 mm/h
5. 動脈生検単核細胞浸潤または肉芽腫性炎症

2022年ACR/EULAR分類基準ではCRP≥10 mg/Lが追加され、より包括的な診断が可能になった3)

  • 赤血球沈降速度(ESR):95%以上の患者で亢進する。基準値は男性で年齢÷2、女性で(年齢+10)÷2。ただし巨細胞動脈炎患者の5%では赤沈は正常値を示す。
  • C反応性蛋白(CRP):赤血球沈降速度より特異度が高い。2022年基準ではCRP≥10 mg/Lが追加項目となった3)
  • 血小板:上昇は巨細胞動脈炎診断の補助となる。CRPと血小板の組み合わせが最も診断有用性が高い(p<0.001)3)

確定診断のゴールドスタンダードであり、感度・特異度ともに95%以上とされる。検体はできるだけ大きく採取し、スキップ病変(skip lesion)があるため通常2cm以上の採取が推奨される。巨細胞は確定診断に必須ではないが、内弾性板の破壊が重要な所見である。

偽陰性率は最大61%との報告もあり、生検陰性でも巨細胞動脈炎を否定できない3)

非侵襲的で反復可能な検査であり、欧州では巨細胞動脈炎早期診断の主要画像ツールとして普及している。感度77%、特異度96%と報告されている2)

特徴的な超音波所見を以下に示す。

  • halo sign:血管壁肥厚による低エコー環。最も診断に有用な所見。
  • compression sign:圧迫による血管壁変化。
  • 狭窄:血流速度の変化を伴う。
  • 閉塞:血流消失。

スキップ病変のため、両側かつ多領域の動脈を包括的に検索することが重要である4)

  • 蛍光眼底造影(FFA):視神経乳頭・乳頭周囲脈絡膜への充盈遅延・欠損を確認する。A-AIONでは乳頭浮腫出現前から充盈遅延が認められる場合がある。
  • ポジトロン断層撮影(PET)-CT:動脈樹全体の炎症を可視化し、大動脈炎の検出や代替診断の発見に有用5)
  • 頭部MRI:急性期では通常正常であるが、視神経炎・鼻性視神経症との鑑別に有用である。

結節性多発性動脈炎、多発血管炎性肉芽腫症(Wegener)、全身性エリテマトーデス(SLE)などの他の血管炎と鑑別する。巨細胞動脈炎では肺や腎臓が侵されないことが重要な鑑別点である。全身症状を欠き視力障害のみを呈する「オカルト巨細胞動脈炎」が約20%に存在することも念頭に置く。

Q 側頭動脈生検で陰性でも巨細胞性動脈炎を否定できないのか?
A

スキップ病変のために偽陰性率が最大61%との報告があり3)、生検陰性のみで巨細胞動脈炎を否定することはできない。臨床所見・血液検査・超音波所見を総合的に判断する必要がある。生検が陰性でも臨床的に強く疑われる場合は治療継続が考慮される。

巨細胞動脈炎は視力喪失のリスクがある眼科的救急疾患であり、確定診断を待たずに早急な治療開始が必要である。

視覚障害を伴うA-AIONに対しては、入院でのステロイド大量点滴療法(パルス療法)を行う。

  • ステロイドパルス療法:メチルプレドニゾロン1 g/日を3〜5日間静脈内投与する。
  • 引き続きプレドニゾロン内服:1 mg/kg/日から開始する。
  • 漸減スケジュール:全身状態とESRを見ながら、少なくとも4〜6ヶ月かけて漸減する。症例によっては1年以上の治療が必要となる。
  • ステロイド隔日投与は推奨されない

発症眼の視力回復は非常に困難であり、治療後も最終視力が0.1以下となる症例が多い。無治療では短期間で高頻度に僚眼にも発症し、15〜40%が両眼性となる。治療の主目的は僚眼への進展防止である。

ステロイド漸減プロトコール(参考)

Section titled “ステロイド漸減プロトコール(参考)”

海外の報告では以下の漸減スケジュールが用いられた症例がある3)

投与量期間
プレドニゾン60 mg2週間
プレドニゾン50 mg2週間
プレドニゾン40 mg2週間
プレドニゾン30 mg1週間
プレドニゾン20 mg1週間
プレドニゾン10 mg1週間

日本の教科書では全身状態・ESR・CRPを指標として漸減速度を個別に調整することが強調されている。

視覚障害を含む頭蓋虚血症状がある場合は、IV メチルプレドニゾロン500〜1,000 mgを3日間投与してから経口に切り替える方法も報告されている5)

再発時はステロイドを増量し、メトトレキサートの併用が推奨される場合がある5)

Q ステロイド治療で視力は回復するのか?
A

発症眼の視力回復は困難であり、治療後も最終視力が0.1以下となる症例が多い。治療の主目的は発症眼の回復ではなく、僚眼への進展防止にある。無治療では15〜40%が両眼性の視力喪失に至るため、早期にステロイド治療を開始することが極めて重要である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

巨細胞動脈炎の病態は2つの免疫反応機序からなる。

全身性炎症反応

IL-6媒介の自然免疫反応:循環マクロファージ・好中球・単球がIL-6を産生する。

急性期反応の過剰活性化:CRP、ハプトグロビン、フィブリノーゲン、補体の上昇と相関する。

全身症状の原因:発熱・倦怠感・体重減少などを引き起こす。

抗原特異的反応

動脈壁への侵入:外膜の栄養血管(vasa vasorum)を利用してマクロファージとT細胞が侵入する。

免疫カスケード:活性化T細胞→樹状細胞成熟→CD4+ T細胞動員→Th1/Th17分極→IFN-γ/IL-17産生→単球動員→マクロファージ分化→巨細胞形成。

血管壁破壊:メタロプロテアーゼと活性酸素中間体による内弾性板の破壊が生じる。

断裂した内弾性板と全層にわたる細胞浸潤が特徴的である。巨細胞は断裂した内弾性板の近くに位置する。急性期はリンパ球浸潤が主体であり、慢性期には線維化が生じる。なお、B細胞の関与は確認されておらず、ANCA関連血管炎との重要な鑑別点となる。

炎症に対する治癒反応として内膜肥厚・筋線維芽細胞増殖・細胞外マトリックス沈着が生じ、血管狭窄・閉塞をきたす。内腔側は血流速度が速いため通常影響を受けにくい。

短後毛様動脈(SPC動脈)の閉塞が主な原因である。SPC動脈の閉塞→視神経乳頭の篩板前部・篩板部への血流遮断→動脈炎性前部虚血性視神経症(A-AION)という経路をたどる。巨細胞動脈炎症例の約20%でSPC動脈の血栓性閉塞が関与する7)

7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

トシリズマブ(IL-6受容体拮抗薬)

Section titled “トシリズマブ(IL-6受容体拮抗薬)”

IL-6受容体拮抗薬であるトシリズマブはランダム化比較試験(RCT)で巨細胞動脈炎に対するグルココルチコイド(GC)スペアリング効果と寛解達成の有効性が証明されている5)。GCの長期投与に伴う毒性を軽減する代替療法として注目されている。

Fast-track pathway(超音波迅速診断経路)

Section titled “Fast-track pathway(超音波迅速診断経路)”

超音波を活用した巨細胞動脈炎迅速診断経路が欧州で普及しつつある。

Piccusらの総説(2022)によれば、fast-track pathwayの導入により視力喪失の減少、過剰治療の抑制、費用対効果の改善がもたらされることが示されている5)。超音波検査は非侵襲的かつ反復可能であり、多数の動脈領域を一度に評価できるため、欧州では早期診断の主要ツールとして位置づけられている。

巨細胞動脈炎とHorner症候群の合併

Section titled “巨細胞動脈炎とHorner症候群の合併”

巨細胞動脈炎診断時にHorner症候群(部分的眼瞼下垂・縮瞳)を合併する症例が報告されている6)。栄養血管の血管炎による交感神経線維の虚血性損傷が推定メカニズムである。

Sverdlichenkoら(2022)は巨細胞動脈炎合併Horner症候群の症例シリーズを報告し、眼周囲領域の交感神経線維の虚血性損傷がメカニズムである可能性を示唆した6)

巨細胞動脈炎と亜急性甲状腺炎の合併

Section titled “巨細胞動脈炎と亜急性甲状腺炎の合併”

巨細胞動脈炎と亜急性甲状腺炎の合併は非常にまれな病態である。超音波検査が両疾患の鑑別に有用とされる4)

2022年ACR/EULAR基準でCRP≥10 mg/Lが追加されたことにより、より包括的な診断が可能になった3)。今後も画像診断技術の進歩とバイオマーカー研究により診断精度の向上が期待される。


  1. Usami J. Giant-cell arteritis with toothache. J Gen Fam Med. 2024.
  2. Ihoriya H, Nakano Y, Otsuka F. Temporal artery thickening in giant cell arteritis. BMJ Case Rep. 2021.
  3. Stewart C, Asif RH, Dakkak T, et al. Diagnostic Dilemmas in Giant Cell Arteritis: Overcoming Anchoring Bias. Case Reports in Rheumatology. 2025.
  4. Xu C, Han Y. Coexistence of giant cell arteritis and subacute thyroiditis: A case report and literature review. J Int Med Res. 2025.
  5. Piccus R, Hansen MS, Hamann S, Mollan SP. An update on the clinical approach to giant cell arteritis. Clin Med (Lond). 2022.
  6. Sverdlichenko I, Lam C, Donaldson L, Margolin E. Horner Syndrome in Giant Cell Arteritis: Case Series and Review of the Literature. J Neuro-Ophthalmol. 2022.
  7. Salvetat ML, et al. Non-Arteritic Anterior Ischemic Optic Neuropathy (NA-AION)—Review. Vision. 2023.

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