コンテンツにスキップ
神経眼科

甲状腺視神経症

甲状腺視神経症(dysthyroid optic neuropathy: DON)は、甲状腺眼症(thyroid eye disease: TED)に伴う視神経機能障害である。TEDはバセドウ眼症(Graves orbitopathy: GO)とも呼ばれる自己免疫疾患で、外眼筋および眼窩内脂肪の腫大により眼窩内圧が上昇し、視神経が圧迫されることで生じる。TEDの中で最も重篤な合併症の一つであり、未治療で放置すると永久的な視力喪失に至る可能性がある。

TED全症例の0.9〜8.6%にDONが発症し1)、約70%が両眼性に生じる。半数以上は矯正視力0.5以上を保つが、最悪の場合は失明に至ることもある。適切な治療を行えば視機能の回復が期待できるため、早期診断が極めて重要である。

Q 甲状腺眼症があれば必ずDONになるのですか?
A

DONを発症するのはTED全症例の3〜8%程度であり、大多数のTED患者ではDONに至らない。ただし筋腫大型の表現型や喫煙・高齢などのリスク要因がある場合は注意が必要である。詳細は「原因とリスク要因」の項を参照。

????????????????????
????????????????????
Jesús Barrio-Barrio, Alfonso L Sabater, Elvira Bonet-Farriol et al. Graves’ Ophthalmopathy: VISA versus EUGOGO Classification, Assessment, and Management. Journal of Ophthalmology. 2015 Aug 17; 2015:249125. Figure 4. PMCID: PMC4553342. License: CC BY.
???????????????????????????????????????????????????????????????????????????

DONの初発症状は、中心視力のぼやけと色の鮮やかさの低下(彩度低下)である。視力低下の程度は軽微なものから光覚消失まで多様であるが、半数以上は視力0.5以上を保つ。

主な自覚症状を以下に示す。

  • 視力低下:中心視力の霧視として自覚される。急性から亜急性の経過をとる。
  • 彩度低下:赤色を中心に、色が以前より鮮やかに見えなくなる。
  • 複視:筋腫大型の表現型では眼球運動制限に伴い複視を訴えることが多い。
  • 眼窩部不快感:鈍い疼くような痛みを感じることがある。

DONの主な臨床所見とその出現頻度を以下に示す。

臨床所見出現頻度
視力低下約80%
色覚低下約77%
視野欠損約71%
眼球運動制限約70%
視神経乳頭浮腫約20%

その他の重要な臨床所見を以下に列挙する。

  • 相対的瞳孔求心路障害(RAPD):視神経症の程度に左右差がある場合に陽性となる。両眼同程度の障害では検出されない。
  • フリッカ値低下:視神経機能障害を反映する。
  • うっ血性軟部組織徴候:眼瞼腫脹、結膜充血・浮腫などが顕著となる。
  • 上転時の眼圧上昇:9 mmHgを超える上昇がみられることがある。
  • 眼球突出:DONでは必ずしも顕著ではない。緊張した眼瞼が眼球の前方移動を制限し、眼窩圧のびまん性上昇を招くと考えられている。

DON症例の76%は両側性であり、乳頭腫脹は約半数で認められない。乳頭に異常を認めない場合でもDONは生じうるため、視機能検査と画像診断の組み合わせが不可欠である。

TEDは、眼窩線維芽細胞の表面にあるTSH受容体およびIGF-1受容体に対する自己抗体が原因で生じる自己免疫疾患である。抗体結合により脂肪分化、Tリンパ球活性化、サイトカイン放出が生じ、眼窩脂肪・筋肉にグリコサミノグリカン(GAG)が沈着する。

TEDは2つの表現型に大別される。

脂肪増殖型

別名:タイプI、adipogenic型

特徴:主に脂肪の拡大と上眼瞼挙筋の瘢痕化を呈する。TED患者の約2/3を占める。

DONとの関連:重度の眼球突出による視神経伸展が生じない限り、DONに至ることは稀である。

筋腫大型

別名:タイプII、myopathic型

特徴:外眼筋の肥大を伴い、うっ血性軟部組織徴候や眼球運動障害を呈する。TED患者の約1/3を占める。

DONとの関連:眼窩尖端部での視神経圧迫が生じやすく、DONの主要な原因となる。

TED自体は女性に多く(男女比1:4)、DONは高齢の男性に多い傾向がある。主なリスク要因を以下に示す。

  • 喫煙:TED進行およびDON発症の最大のリスク要因である。
  • 高齢:60歳以上では重症TEDの頻度が高い。
  • 糖尿病:併存疾患としてDONリスクを高める。
  • 放射性ヨウ素治療(RAI):TED進行リスクを最大40%上昇させる。
  • 免疫応答刺激因子:断続的な感染症、局所手術、その他の誘発因子が含まれる。

甲状腺機能異常はTEDの重症度と相関するが、DONの発症や重症度との間には明確な相関がないとされている。また、甲状腺自己抗体がすべて陰性であってもDONは発症しうる。

Q 喫煙はDONのリスクをどの程度高めるのですか?
A

喫煙はTEDの進行およびDON発症の最も重要なリスク要因とされる。放射性ヨウ素治療後のTED悪化リスクも喫煙者で高い。禁煙によりTEDの治療抵抗性も低下することが知られている。

DONの診断は、TED患者における視神経機能障害の確認と、画像診断による眼窩尖端部の圧迫所見に基づく。

  • 自動視野計:最も一般的に行われる検査である。中心暗点・傍中心暗点が多い。下方の弓状暗点、水平欠損、汎発性感度低下、盲点拡大が約70%で検出される。
  • 色覚検査:非対称的な視神経症では、より障害が強い眼で彩度低下として検出される。対称的で発症が遅い場合は明らかでないことがある。
  • RAPD検査:視神経症を検出する単純かつ有用な方法である。対称的な障害では陰性となる。
  • フリッカ値検査:視神経機能低下の早期指標として有用である。
  • VEP(視覚誘発電位):DON症例の約3/4で潜時延長と振幅減少を認める。臨床所見や視野結果が曖昧な場合に補助的に用いる。
  • OCT(光干渉断層計)網膜神経線維層(RNFL)と黄斑神経節細胞複合体(GCL)の菲薄化を客観的に評価できる。

DONの確定診断および手術計画において画像診断は必須である。

検査主な利点
CT骨の描出に優れる。手術計画に最適
MRI(STIR)炎症活動性の評価に有用
  • CT:眼窩尖端部の過密状態(apical crowding)を高頻度で描出する。重度の尖端部過密状態は感度62%・特異度91%の予測因子である。視神経の尖端部消失が50%を超える場合、感度80%・特異度70.6%となる。手術計画や術中ナビゲーションにも使用される。
  • MRI:特にSTIR(短タウ反転回復法)シーケンスで炎症活動性を評価できる。内直筋や上直筋・挙筋複合体の肥大はDON発生率を高める。冠状断のみでは総腱輪近傍での視神経圧迫を見逃すことがあるため、水平断撮像の併用が重要である。

最近DONを発症した患者の96%が高力価の甲状腺刺激免疫グロブリン(TSI)を有していたとの報告がある。ただし、自己抗体がすべて陰性でもDONは発症しうるため、血清学的検査のみでの除外診断はできない。

Q CTとMRIのどちらを優先すべきですか?
A

CTは骨の描出に優れ、迅速・安価に撮影でき、手術計画にも適するため第一選択となることが多い。一方、MRIのSTIRシーケンスは炎症活動性の評価に優れる。両者は相補的であり、状況に応じて使い分ける。

DONの第一選択治療はステロイドパルス療法(またはハーフパルス療法)である。

  • ステロイドパルス療法:メチルプレドニゾロン(IVMP)1 g/日を3日間連続で静脈内投与する。これを1クールとして1〜3クール施行する1)
  • 後療法:パルス療法後はプレドニゾロン内服に切り替える。急激な漸減は視神経症再燃の原因となるため避ける。
  • 累積投与量の制限:プレドニゾロン換算で累積8 gを超えると、急性肝障害による死亡リスクが高まる1)。日本のガイドラインでは、パルス療法前に肝機能検査・肝炎ウイルス検査・T-SPOT検査などの事前検査を推奨している1)

EUGOGOガイドライン(2021年)では、1日最大1 gを3日間投与し、改善傾向があれば必要に応じて毎週繰り返す高用量投与を推奨している。

外部放射線照射療法(EBRT)はリンパ球と線維芽細胞を標的として炎症を抑制する。即効性がないため急性期治療として単独で用いることはなく、ステロイド療法の補助として位置づけられる。ステロイドとの併用により、DON発症予防効果が報告されている。

ステロイドパルス療法開始後2週間以内に視神経機能の改善が見られない場合は、緊急眼窩減圧術が検討される。日本ではDON患者の22〜38%が眼窩減圧術を施行されている1)

手術アプローチには以下がある。

  • 経皮的アプローチ:上眼瞼しわ切開から深い外側壁へ到達する。
  • 経結膜アプローチ:内側壁および後方支柱を含む眼窩底へ到達する。
  • 経鼻内視鏡アプローチ:内側壁からのアプローチに用いる。

眼窩尖端部の容積拡大により視神経の減圧を図り、内側壁・眼窩底・深い外側壁を対象とする。術前のCT計画および術中ナビゲーションが有用である。

放射性ヨウ素(RAI)治療は、既存のTED患者の最大20%で症状を悪化させる可能性がある。RAI前の経口プレドニゾンによる予防投与が推奨される。RAI後のTED悪化に関連する因子として、喫煙、治療前のT3高値、治療後の甲状腺機能低下症、筋腫大型疾患が挙げられる。

適切な治療を行えば、約70%以上の患者で視機能の回復が得られる。外科的減圧術を行った場合の方が、完全な視力回復の確率はより高い。

Q ステロイドパルス療法で改善しない場合はどうなりますか?
A

パルス療法開始後2週間以内に視神経機能の改善が見られない場合は、緊急眼窩減圧術が検討される。日本ではDON患者の22〜38%が眼窩減圧術を施行されている1)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

DONの発症には複数のメカニズムが関与する。

  • 圧迫性機序(最も重要):眼窩尖端部において肥大した外眼筋が視神経を圧迫し、軸索流(axoplasmic flow)を阻害する。眼窩減圧術の直後に視力・視野の回復が得られることが、この機序を強く裏付けている。内直筋や上直筋・挙筋複合体はジン腱輪(annulus of Zinn)を通過する際に視神経に近接するため、これらの筋の肥大はDON発生率を特に高める。
  • 伸展性機序(稀):重度の眼球突出により視神経が伸展され、軸索機能と血流が阻害される。圧迫性機序よりはるかに稀である。
  • 炎症性機序:眼窩内の炎症が視神経炎を引き起こす。副腎皮質ステロイドの有効性がこの機序を裏付けている。

TEDの根本的な病態としては、眼窩の多分化能を有する線維芽細胞のTSH受容体およびIGF-1受容体に自己抗体が結合することにより、以下のカスケードが生じる。

  • 線維芽細胞が脂肪細胞や筋線維芽細胞に分化する
  • Tリンパ球の活性化によりTNF-αやIL-6などの炎症性サイトカインが産生される
  • グリコサミノグリカン(GAG)やヒアルロン酸の沈着により眼窩浮腫と筋腫大が進行する

これらの過程の結果、眼窩内の容積が増大し、骨性眼窩の制約のもとで視神経の圧迫または伸展が生じる。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

テプロツムマブ(抗IGF-1R抗体)

Section titled “テプロツムマブ(抗IGF-1R抗体)”

テプロツムマブはIGF-1受容体(IGF-1R)の細胞外領域に特異的に結合し、TEDにおける免疫反応を阻害するモノクローナル抗体である。

Congら(2024)は5件のRCT(計411例)を対象としたメタ解析で、テプロツムマブがプラセボと比較して眼球突出の有意な減少、臨床活動スコア(CAS)の改善、および複視の改善をもたらすことを報告した。有害事象および重篤な有害事象のリスクはプラセボ群と有意差がなかった2)

DONに対しても、ステロイド・放射線治療・手術に抵抗性であった症例でテプロツムマブが有効であったとする観察研究が複数報告されている。日本人患者におけるテプロツムマブの有効性については、今後の研究が期待される1)

  • リツキシマブ(抗CD20抗体):B細胞を標的とする。難治性の活動性炎症性眼窩症に対して検討されている。
  • トシリズマブ(抗IL-6抗体):IL-6シグナルを阻害する。難治性症例における限定的な有効性が報告されている。

いずれもDONに対する有効性のエビデンスは限定的であり、さらなる研究が必要である。

甲状腺機能低下症からバセドウ病への移行とDON

Section titled “甲状腺機能低下症からバセドウ病への移行とDON”

Mizuochiら(2025)は、甲状腺機能低下症からバセドウ病へ移行しDONを発症した55歳女性の症例を報告した。3クールの1 gパルス療法後にDONへ進行したが、追加パルス療法で視力は回復した。しかし疾患活動性は4年以上持続し、計5回の増悪を経験した。外来での0.5 g週1回パルス療法を繰り返し、メチルプレドニゾロンの累積投与量は59.5 gに達したが重篤な副作用は認めなかった1)

この報告は、DONの長期管理における慎重なモニタリング(CAS・TSAb・眼窩MRI)の重要性を示唆している。

Q テプロツムマブはDONに対して使えるのですか?
A

現時点でテプロツムマブはDONに対する標準治療としては確立されていない。しかし、ステロイドや放射線治療に抵抗性のDON症例で有効であった観察研究が複数報告されており、今後の研究が期待される。


  1. Mizuochi K, Hiromatsu Y, Nakamura Y, et al. Transition from hypothyroidism to Graves’ disease, development of thyroid eye disease, progression to optic neuropathy after inpatient pulse therapy, and long-term administration of outpatient pulse therapy: a case report with review of literature. Endocr J. 2025;72(1):115-122.
  2. Cong X, Pei L, Hu H. Teprotumumab for treating active thyroid eye disease: a meta-analysis. Medicine. 2024;104:e42966.

記事の全文をコピーして、お好みのAIに貼り付けて質問できます