頸動脈海綿静脈洞瘻/AVM
血管内塞栓術:経静脈的・経動脈的アプローチによる瘻孔閉塞が主流である。
経過観察:Dural 頸動脈海綿静脈洞瘻で短絡量が少なく眼症状が乏しい場合は自然閉鎖を待つこともある。自然閉鎖率は約50%弱とされる。
対症療法:緑内障点眼薬、頸動脈手動圧迫法。

上眼静脈(superior ophthalmic vein: SOV)は眼窩内で最も太い静脈である。眼窩の前内側において眼窩上静脈・滑車上静脈・内眥静脈が合流して始まり、後方に走行して海綿静脈洞へ流入する。正常SOVの平均径は約2mmであり、拡張例では3mm以上となる。
SOV拡張は、視力や生命を脅かしうる疾患を示唆する画像所見である。CT・MRIでSOV拡張が認められても、それ自体が特定の診断を確定するわけではない。背景に存在する原因疾患の検索が不可欠である。
SOV拡張の原因として最も多いのは、頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF)・動静脈奇形(AVM)・SOV血栓症である。そのほか、眼窩蜂窩織炎・甲状腺眼症・眼窩腫瘍・頭蓋内圧亢進なども原因となりうる。
SOV血栓症(SOVT)の推定年間発生率は約3〜4例/100万人ときわめてまれであるが4)、海綿静脈洞血栓症への進展や失明のリスクを伴う重篤な病態である。
眼窩の静脈系には弁がなく、顔面・鼻咽腔・海綿静脈洞とつなぐ静脈叢を介して炎症や血栓が双方向に波及しやすい構造的特徴を持つ。
SOV拡張自体は多様な疾患に伴う画像所見であり、独立した疾患の頻度は明確ではない。原因として最も多い病態であるSOV血栓症の発生率は年間約3〜4例/100万人ときわめてまれである4)。ただし、頸動脈海綿静脈洞瘻など原因疾患ごとの頻度も考慮する必要がある。
SOV拡張を引き起こす基礎疾患に応じて多彩な症状が出現する。
SOV血栓症では急性の眼窩痛、眼球運動時の疼痛、眼瞼の「ぼんやりした」腫脹が特徴である1)。結膜充血を伴わないSOVTもあり、眼球運動制限が進行の重要な指標となる1)。
基礎疾患により所見が異なるが、共通して以下が認められうる。
頸動脈海綿静脈洞瘻では拍動性眼球突出・血管雑音(bruit)・**結膜充血浮腫(「メデューサの頭」)**の3主徴が知られる。眼運動神経(動眼・外転・滑車神経)麻痺による複視、網膜出血、網膜静脈の蛇行・拡張も認められる。ただしdural 頸動脈海綿静脈洞瘻では上眼静脈への逆流が乏しい症例があり、充血浮腫などの特徴的眼症状が軽微で診断が遅れるため注意が必要である。
眼窩静脈瘤では、頭位変換(前屈、Valsalva法、咳嗽など)による間欠的眼球突出が特徴的な所見である。瞳孔散大、網膜血管拡張、高眼圧を伴うこともある。
SOV拡張の病因は多岐にわたる。以下に主要な分類を示す。
| 病因分類 | 代表的疾患 |
|---|---|
| 血管奇形 | 頸動脈海綿静脈洞瘻、眼窩・顔面AVM |
| 血栓症 | SOV血栓症、海綿静脈洞血栓症 |
| 感染性 | 眼窩蜂窩織炎、副鼻腔炎 |
| 炎症性 | 甲状腺眼症、特発性眼窩炎症 |
| 腫瘍性 | 眼窩リンパ腫、傍鞍部髄膜腫 |
頸動脈海綿静脈洞瘻はSOV拡張の最多原因である。直接型(direct CCF)は内頸動脈本幹から海綿静脈洞へ直接流入するもので、外傷に続発するものが多い。間接型(dural CCF)は硬膜穿通枝を介する短絡であり、先天性AVMの存在や高血圧・糖尿病が誘因となる。直接型は短絡量が多く症状が高度で、間接型は短絡量が少なく慢性経過をとることが多い。
SOVTは感染性と非感染性に分けられる。感染性の原因には眼窩蜂窩織炎・副鼻腔炎・歯性感染が含まれる1)9)。非感染性では過凝固状態・自己免疫疾患・悪性腫瘍2)・甲状腺眼症5)が背景にある。近年、COVID-19感染に伴う全身性過凝固状態によるSOVTも報告されている7)。ChAdOx1 nCoV-19ワクチン接種後に免疫性血小板減少症とSOVTを同時発症した症例も報告された8)。
眼窩静脈瘤は間欠的眼球突出の原因の90%を占める。先天性(静脈壁の脆弱性に起因)と後天性(頭蓋内AVMと関連)の2型に分類される。下肢などに静脈瘤を合併することがある。
頸動脈海綿静脈洞瘻は内頸動脈または外頸動脈から海綿静脈洞へ異常な交通路(瘻孔)が形成される疾患である。高圧の動脈血が低圧の海綿静脈洞に流入することでSOVへの逆流・拡張が生じ、拍動性眼球突出・結膜充血浮腫・血管雑音などの症状を呈する。詳細は「原因とリスク要因」の項を参照。
SOV拡張の診断と原因検索には画像検査が中心的役割を果たす。
主な検査法の特徴を以下に示す。
| 検査法 | 主な役割 |
|---|---|
| MRI/MRA/MRV | SOV検出率が高く第一選択 |
| 造影CT | 骨情報に優れ撮影迅速 |
| カテーテル血管造影 | 血管性病因の確定診断 |
冠状断T2強調像はSOVの3次元構造の把握に最適であり、高い検出率を示す。頸動脈海綿静脈洞瘻では海綿静脈洞内の血流速度が増加するため、MRIで無信号(flow void)として描出される。MRAはSOV拡張に加え、海綿静脈洞の異常血管像も描出できる。間接型頸動脈海綿静脈洞瘻の経過観察や血管内手術後の血栓化評価にもMRIは有用である。
造影CTではSOVの拡張と充填欠損を検出でき、副鼻腔炎などの感染性病因の評価にも適する。骨に関する情報量が多く撮影時間が短いため、緊急例や小児で有用である。眼窩静脈瘤ではValsalva法直後のCT撮影で、安静時に描出困難な腫瘤が検出されることがある。静脈結石(phlebolith)が球状の石灰化像として認められれば静脈瘤の診断を支持する所見となる。
血管性病因の確定診断におけるゴールドスタンダードである。頸動脈海綿静脈洞瘻の確定診断のみならず、血管内塞栓術など治療を兼ねることもできる。Dural 頸動脈海綿静脈洞瘻では内頸動脈と外頸動脈の両方が原因となりうるため、両側の内頸動脈・外頸動脈の4血管を造影する必要がある。
Bモード超音波検査でSOVの腫瘤陰影を捉えることが可能である。体位変換やValsalva法後の評価に補助的に用いられる。
SOV拡張を呈する疾患は多岐にわたり、前隔壁蜂窩織炎・眼窩蜂窩織炎・海綿静脈洞血栓症・甲状腺眼症・特発性眼窩炎症・眼窩腫瘍などとの鑑別が必要である1)。結膜充血を伴わないSOVTは前隔壁蜂窩織炎と誤診されることがあり、眼球運動制限の出現が鑑別の鍵となる1)。
SOV拡張の治療は基礎疾患に応じて異なる。
頸動脈海綿静脈洞瘻/AVM
血管内塞栓術:経静脈的・経動脈的アプローチによる瘻孔閉塞が主流である。
経過観察:Dural 頸動脈海綿静脈洞瘻で短絡量が少なく眼症状が乏しい場合は自然閉鎖を待つこともある。自然閉鎖率は約50%弱とされる。
対症療法:緑内障点眼薬、頸動脈手動圧迫法。
SOV血栓症
抗凝固療法:ヘパリンまたはLMWHを開始し、経口薬へ切り替える。感染性・非感染性を問わず中心的な治療である。
抗菌薬:感染性では広域スペクトル抗菌薬を静脈内投与する。
外科的ドレナージ:膿瘍合併例で適応となる。
眼窩静脈瘤
経過観察:視力良好で眼球運動障害がなければ観察する。静脈瘤拡大姿勢の回避を指導する。
手術/塞栓術:視力障害・眼球運動障害の増悪時に摘出術または塞栓術を行う。
頸動脈海綿静脈洞瘻/AVMの治療は脳神経外科と連携し、眼科的・脳神経外科的所見から総合的に方針を決定する。眼科的治療としては高眼圧に対する降圧薬投与が中心である。直接型頸動脈海綿静脈洞瘻は3週間を超えると自然閉鎖は少なく、放置すれば海綿静脈洞の破裂・脳出血・くも膜下出血など生命予後が悪い。
特発性眼窩炎症に伴うSOV拡張では、全身性ステロイド療法が有効である。必要に応じて抗凝固療法を併用する。
海綿静脈洞血栓症は感染性の場合が多く、高単位の抗菌薬の静脈内投与を行い、耳鼻科医・脳外科医と連携する。
非感染性SOVTの治療において抗凝固療法は標準治療と位置づけられるが、その正確な役割については議論がある。感染性SOVTではまず抗菌薬が優先され、抗凝固療法は血栓の進展予防を目的に併用される。膿瘍ドレナージの可能性がある場合は抗凝固薬の中止が必要となることがある1)。詳細は「標準的な治療法」の項を参照。
SOV拡張は以下の3つの機序で生じる。
高圧系の内頸動脈と低圧系の海綿静脈洞との間に瘻孔が形成されると、洞内に流入するSOVの圧が上昇する。この結果、拍動性眼球突出・結膜充血浮腫が生じる。Direct 頸動脈海綿静脈洞瘻は短絡量が多く症状が高度である。Dural 頸動脈海綿静脈洞瘻は短絡量が比較的少なく慢性経過をとることが多い。
海綿静脈洞の壁面には動眼神経・滑車神経・外転神経・三叉神経が走行するため、洞内圧の上昇により眼運動神経麻痺や三叉神経障害を来す。上強膜静脈圧の上昇は房水流出抵抗を増大させ、開放隅角型の続発緑内障を発症させる。
SOVTでは局所の炎症や過凝固状態により静脈血のうっ滞が生じ、血栓が形成される。静脈弁を持たない眼窩静脈系の構造的特徴から、血栓は海綿静脈洞方向へも進展しうる。
COVID-19では全身性炎症反応・内皮障害・過凝固状態が血栓形成を促進する7)。血小板活性化や凝固カスケードの亢進、線溶系の抑制が免疫血栓症として関与する。
拡張・蛇行したSOVが視神経を物理的に圧排し、静脈圧上昇を介さずに視野障害を来す機序も報告されている3)。この場合、眼圧は正常で結膜充血も認めないことがあり、診断が困難となる。
Sigurdssonら(2024)は、頸動脈海綿静脈洞瘻関連の非感染性SOVT 3例に対しメチルプレドニゾロン500mg/日×3日間の静注後に経口ステロイドへ移行する治療を報告した4)。いずれも抗凝固療法単独では改善に乏しかったが、グルココルチコイド追加後に著明な改善を認めた。2例が視力20/20、1例が20/25まで回復した。文献上のSOVTに対するグルココルチコイド使用15例中10例が良好な視力回復を示したが、グルココルチコイドの血栓促進作用のリスクを考慮し個別判断が必要であるとされた。
Khurramら(2021)は、COVID-19肺炎と鞍部肺塞栓を合併した61歳男性に偶発的にSOVTを認めた初の症例を報告した7)。LMWH投与開始後3週間でSOVTおよび肺塞栓が完全消退した。COVID-19に伴う全身性過凝固状態・免疫血栓症がSOVT発症に関与すると考察された。
Bayasら(2021)は、ChAdOx1 nCoV-19ワクチン初回接種10日後に両側SOVTと免疫性血小板減少症、さらに虚血性脳卒中を発症した55歳女性を報告した8)。デキサメタゾン40mg/日×4日間の投与で血小板数は回復したが、入院8日目に一過性の右片麻痺と失語を来した。ワクチン接種後の血栓塞栓症の可能性への注意喚起がなされた。
Hiranoら(2023)は、眼窩内動静脈瘻により拡張・蛇行したSOVが視神経を圧迫し、視野障害のみを呈した70歳男性を報告した3)。眼圧正常・結膜充血なしという非典型例であった。顔面静脈経由の経静脈的コイル塞栓術によりSOVが縮小し、術後7日目に視力0.3→0.9に改善した。
Yamadaら(2025)は、海綿静脈洞硬膜動静脈瘻の待機中にSOVが自然血栓化し、短絡血流が後頭蓋窩へ再配向されたことで小脳・脳幹の静脈うっ血を来した72歳女性を報告した6)。血管内治療のアクセスが失われたため、S状静脈洞後方開頭による岩静脈の顕微鏡手術的遮断を施行し、完全な神経学的回復と瘻孔の消失が得られた。
COVID-19感染は全身性の過凝固状態を引き起こし、SOVTの原因となりうる7)。また、一部のCOVID-19ワクチン接種後にも免疫性血小板減少症を伴うSOVTが報告されている8)。いずれもまれな合併症であるが、COVID-19患者で眼症状が出現した場合はSOVTも鑑別に含める必要がある。