頭蓋内高圧
頭痛:臥位で増悪する傾向がある。
乳頭浮腫:頭蓋内圧上昇を示唆する。
原因:シャント閉塞や機能不全。

特発性頭蓋内圧亢進症(idiopathic intracranial hypertension: IIH)は、原因不明の頭蓋内圧(ICP)上昇を特徴とする疾患である。主に肥満体型の生殖年齢女性に好発する。IIHの発生率は世界的に増加傾向にある1)。
IIHの診断には改訂Dandy基準が用いられる。具体的な診断要件は以下の通りである。
脳脊髄液短絡術(CSF diversion)には脳室腹腔(VP)シャントと腰椎腹腔(LP)シャントがある。いずれもIIHの頭蓋内圧を低下させるが、シャント術は一時的な措置となることが多い。LPシャントの機能不全は比較的高頻度に生じ、不全までの平均期間は5〜10年と報告される。
臨床像が多様なため、遅発性にLPシャント不全が生じた場合は診断が困難となる。現在、多くの施設ではLPシャントよりもVPシャントの使用に移行している。
多くの報告では、LPシャント機能不全までの平均期間は5〜10年とされる。ただし、BMIやカテーテルの種類によって個人差が大きい。詳しくは「原因とリスク要因」の項を参照。

LPシャント不全は、IIH再発と同様の症状を呈する。主な症状と頻度は以下の通りである。
IIHの頭痛は初期には起床時に増悪する頭蓋内圧亢進型を呈するが、経過とともに慢性化し、片頭痛様の性状(光過敏・音過敏・嘔気を伴う)を示すことが多い1)。
乳頭浮腫はIIHの典型的所見であるが、LPシャント不全では必ずしも認められない。通常は両側性かつ対称性だが、片側性または非対称性の場合もある。
LPシャント機能不全時の臨床データは以下の通りである。
視野検査では盲点拡大、鼻側階段、弓状暗点が多く検出される。長期にわたるシャント不全例では、視神経萎縮に至ることもある。
LPシャント再建術が必要となる原因は多岐にわたる。主な原因を以下に示す。
サイラスティック(Silastic)カテーテルの使用により、閉塞および断裂率は劇的に減少した。その結果、LPシャントの寿命がさらに延長された。
BMIとシャント生存期間の関連を以下に示す。
| BMI | シャント生存期間中央値 |
|---|---|
| <25.0(健康的) | 44か月 |
| 高BMI | 18か月 |
肥満患者では腹膜下へのカテーテル留置が技術的に困難であることが、生存期間短縮の要因と考えられる。
小児は機械的ストレスの増加、くも膜下腔内のチューブサイズ変化、成長に伴うカテーテルの相対的短縮により合併症リスクが高い。したがって、遅発性LPシャント不全は成人期に初回留置された場合に多い。
IIH自体のリスク因子として、肥満・体重増加が最大の修正可能因子である2)。内分泌障害(アジソン病、副甲状腺機能低下症、ステロイド離脱)もIIH発症に関与する2)。
BMIが25.0未満の患者ではシャント生存期間の中央値が44か月であるのに対し、高BMI患者では18か月にとどまる。肥満患者ではカテーテル留置の技術的困難が一因と考えられる。
過去にLPシャント術を受けた患者における再発症状の原因特定には、病歴聴取と身体診察が鍵となる。以下の検査を組み合わせて評価する。
眼科的精査として以下を実施する。
LPシャント不全以外の頭蓋内圧亢進の原因を除外する必要がある。
過剰ドレナージ(頭蓋内低圧)とシャント不全(頭蓋内高圧)の鑑別は特に重要である。両者の症状には重複がある。
頭蓋内高圧
頭痛:臥位で増悪する傾向がある。
乳頭浮腫:頭蓋内圧上昇を示唆する。
原因:シャント閉塞や機能不全。
頭蓋内低圧
頭痛:立位で増悪する傾向がある。
乳頭浮腫:通常認められない。
原因:シャントによるCSF過剰ドレナージ。
外転神経麻痺・視界のかすみ・頭痛は、過剰ドレナージ・ドレナージ不足のいずれでも生じ得るため注意が必要である。
頭蓋内高圧では臥位で頭痛が増悪し、乳頭浮腫を伴うことが多い。一方、低圧では立位で頭痛が増悪する。ただし外転神経麻痺や複視は両者で生じ得るため、腰椎穿刺による初圧測定が鑑別に重要である。
LPシャント不全の治療は、通常シャントの再建術または交換を必要とする。
多くの施設がIIHのCSF短絡術としてVPシャントを選好する。その理由は以下の通りである。
VPシャント術は急速な視力悪化を呈した患者や、薬物療法・視神経鞘切開術(ONSF)にもかかわらず進行性の視力障害を認めたIIH患者で、視力を改善または安定させたとの報告がある。
英国では、ICP モニター・プログラマブルバルブ・抗サイフォンバルブの使用が推奨されている1)。
内科的治療に失敗した場合、またはシャント再建術を受けられない場合にONSFが選択肢となる。頭痛は軽度だが視機能の重度低下と持続する視神経浮腫を伴う患者に適する1)。
IIH患者の30〜93%に局所的な静脈狭窄が認められる。横静脈洞またはS状静脈洞に局所的な狭窄を呈する患者が対象となる。
IIHに対しては減量と低塩分食が推奨される。減量手術(bariatric surgery)はICP の持続的低下と体重減少をもたらすことが示されている1)。体重の24%減少で疾患の寛解が得られるとされるが、乳頭浮腫の消退には5〜15%の減量でも有益である1)。
現在、多くの施設がVPシャントを選好している。VPシャントはLPシャントと比較して合併症率・再建率が低く、シャント不全時の入院期間も短い傾向がある。
IIHにおけるICP上昇の正確な機序は完全には解明されていない。CSF動態の調節異常および代謝・ホルモン因子の関与が示唆されている2)。
ICPと頭蓋内容積の関係はS字状の圧-容積曲線で示される。30 cm³までの容積増加では代償機構(頭蓋内静脈血の排出など)によりICPの変動はわずかである。代償機構が破綻すると、わずかな容積増加でもICPが急峻に上昇する2)。
IIHは遺伝的因子と環境因子の双方が関与する多因子疾患である2)。
LPシャントが遅発性に機能不全に陥る要因は複合的である。
静脈ステント留置術はIIH治療における新たな選択肢として注目されている。
英国では、静脈ステント留置術とシャント術を比較するランダム化比較試験(RCT)が進行中である1)。静脈狭窄を伴い、圧較差が証明された患者で、内科的治療に不耐容または無効な例が対象となる。欠点として術後6か月間の抗血小板療法が必要である。
IIH研究において以下の領域が優先課題として同定されている2)。
Toshniwalら(2024)は、アセタゾラミドなどの既存薬がICP低下において限定的な効果しか示さない可能性を指摘し、新規薬物標的の探索が急務であると述べた2)。前臨床研究の精緻化がIIH病態生理の理解と治療選択肢の拡大に不可欠とされる。