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神経眼科

中枢性神経細胞腫

中枢性神経細胞腫(central neurocytoma; CN)は、CNS(中枢神経系)原発の良性神経細胞腫瘍であり、WHO分類グレードIIに相当する。1982年、Hassounらによって初めて記載された比較的新しい疾患概念である。2021年のWHO第5版分類では、神経細胞性・混合性神経膠神経細胞性腫瘍(neuronal and mixed neuronal–glial tumours)の1カテゴリに位置づけられている。3)

CNは全脳腫瘍の0.1〜0.5%、全頭蓋内腫瘍の1%未満を占める稀な腫瘍である。2)3)4)発生部位は側脳室が50%、側脳室+第三脳室が13%、第三脳室単独が3%であり、まれに第四脳室や脳室外にも発生する。3)腫瘍径の中央値は4.2cmである。3)

好発年齢は20〜40歳(第3〜4十年代)の若年成人であり、男女差はない。2)3)白人集団より韓国・インド・日本などアジア人集団での報告が多い。アフリカでの報告はきわめて稀で、文献上2例のみとされる。3)

細胞起源については、透明中隔の神経細胞や側脳室の上衣下(subependymal)細胞に由来するという仮説が有力であるが、確立された結論はまだない。1)3)

Q 中枢性神経細胞腫はどのくらい稀な腫瘍か?
A

全脳腫瘍の0.1〜0.5%を占める稀な腫瘍である。20〜40歳の若年成人に好発し、男女差はない。アジア人集団での報告が相対的に多い。3)

最も多い症状は頭痛であり、腫瘍によるモンロー孔閉塞→閉塞性水頭症→頭蓋内圧亢進を機序とする。複数の症例報告において、数週〜数ヶ月にわたる進行性頭痛が初発症状として記録されている。1)2)4)5)

  • 頭痛:閉塞性水頭症に起因する。前頭部の鈍痛が多く、体動・体位変換により増悪する。4)
  • 悪心・嘔吐:頭蓋内圧亢進に伴い高頻度に認める。2)4)
  • 視覚障害:CN患者の37%に視覚に関する訴えを認める(32例のシリーズ)。霧視・視力低下・複視が含まれる。2)
  • 認知・行動変化:集中力低下や物忘れが報告されている。4)
  • 失調:腫瘍が大きい場合に認めることがある。2)
  • てんかん発作:まれに初発症状となる。3)
  • 片麻痺:大きな腫瘤による正中偏位・脳実質への圧迫で生じうるが、非典型的提示である。3)

**乳頭浮腫(うっ血乳頭)**は最大43%の症例で認められる最も重要な眼科的所見である。2)頭蓋内圧亢進→視神経周囲くも膜下腔の圧力上昇→視神経への締め付け→軸索流停滞というメカニズムで生じる。

眼底検査では以下の所見を確認する。

  • 視神経乳頭の発赤・腫脹:両眼性に認める。境界が不鮮明となる。
  • 乳頭面上および周囲の出血・白斑:炎症波及による変化。
  • 網膜静脈の拡張:静脈うっ滞を反映する。

初期には数秒間の一過性視朦のみを訴えることが多い。乳頭浮腫が数ヶ月持続すると出血・白斑が吸収され、下鼻側または求心性視野狭窄が生じる。その後、視力低下が顕在化する。眼底所見の定期的なモニタリングが重要である。

また、乳頭浮腫の遷延→眼圧上昇→一過性の視神経虚血→突然の視力喪失というリスクも存在する。腫瘍の占拠性効果による視野欠損も報告されている。2)

外転神経麻痺(偽局在徴候)は、頭蓋内圧亢進全般に伴う非局在性の神経症状として生じうる。

Q 中枢性神経細胞腫で視覚症状が起こる理由は?
A

腫瘍がモンロー孔を閉塞させることで閉塞性水頭症を生じ、頭蓋内圧が亢進する。これにより視神経周囲くも膜下腔の圧力が上昇し、軸索流が停滞して乳頭浮腫が形成される。患者の37%に視覚症状(霧視・視力低下など)が認められ、最大43%に乳頭浮腫を伴う。2)

CNの確立されたリスク因子は現在のところ報告されていない。稀な腫瘍であるため疫学的研究は限られており、遺伝的・環境的要因との関連は未解明である。

細胞起源に関しては、脳室周囲基質(periventricular matrix)に埋め込まれた双極性前駆細胞(bipotential progenitor cells)に由来するという仮説が有力である。1)腫瘍は小型の段階では側脳室壁に広い基部で付着し、透明中隔への付着は軽度にとどまる。腫瘍が増大するにつれて透明中隔方向へ成長し、対側の側脳室にまで及ぶことがある。1)

分子生物学的特徴については近年知見が蓄積されており、CNとEVN(脳室外神経細胞腫)は異なるDNAメチレーションプロファイルおよびコピー数プロファイルを持つことが明らかになっている。1)CNの一部でEWSR1-ATF1融合遺伝子やMUTYH変異が報告されているが、定義的なドライバー変異は同定されていない。

CTでは等吸収域〜高吸収域の腫瘤として描出され、均一な造影増強を示す。約50%に石灰化を認める。腫瘍が大きい場合には囊胞域を伴う。3)4)

MRIは最も重要な画像検査である。

  • T1強調画像:等〜低信号。2)4)
  • T2強調画像:高信号、不均一。2)
  • 造影増強:中等度〜強い増強効果。1)4)
  • フローボイド(flow voids):腫瘍の豊富な血管性を反映する。2)
  • DWI:拡散制限を示さないことが多い。4)
  • 灌流画像:中等度の血管性を示す。4)
  • 典型的形態:透明中隔に付着し側脳室を占拠する境界明瞭な充実囊胞性腫瘤。2)4)

画像上の主な鑑別診断としては、subependymoma(上衣下腫)、ependymoma(上衣腫)、脳室内髄膜腫、脈絡叢乳頭腫、膠腫、悪性奇形腫、星細胞腫などが挙げられる。2)4)

確定診断は定位生検または手術検体による組織学的検査に基づく。

光顕所見は以下の通りである。

  • 均一な小型円形細胞:中等度の密度で配列し、単調な印象を与える。3)
  • ハニカムパターン:乏しい細胞質と点状クロマチンにより、oligodendroglioma類似の外観を示す。1)2)3)
  • 核周明庭(perinuclear clearing):いわゆる”fried egg”外観。3)
  • 線維状(ニューロピル様)基質:腫瘍細胞間の特徴的な線維状背景。1)2)3)
  • 細い分岐毛細血管(chicken wire pattern):豊富な血管網を形成する。2)3)
  • 血管周囲偽ロゼット:pineocytomatous rosetteとも呼ばれる。1)2)3)
  • 石灰化:砂粒体状を含む石灰化を伴うことがある。1)2)3)
  • 異型・核分裂・壊死がないこと:典型的な非異型CNの定義的特徴。

鑑別に有用な免疫染色マーカーを以下に示す。

マーカーCNOligodendrogliomaEpendymoma
シナプトフィジンびまん性陽性陰性〜弱陽性陰性〜弱陽性
NeuN陽性陰性陰性
GFAP腫瘍細胞陰性陰性〜弱陽性陽性
EMA陰性陰性陽性(ドット状)
OLIG2陰性陽性陰性〜弱陽性

シナプトフィジンのびまん性陽性は最も信頼性の高い診断マーカーである。1)2)3)4)NeuN・NSEの陽性も神経細胞性分化を支持する。2)3)4)GFAPは腫瘍細胞本体には陰性であるが、混在する反応性星状膠細胞が陽性を示す。1)2)3)

Ki-67/MIB-1増殖指数は予後評価に重要である。典型的な非異型CNでは2〜3%未満であることが多い。2)3)4)MIB-1 LI <2%の症例では22%が再発するのに対し、MIB-1 LI >2%の症例では63%が再発するとされる。3)5%超では異型CNの可能性を考慮する。

近年、DNAメチレーションプロファイリングがCNとEVN(脳室外神経細胞腫)の鑑別や確定診断の強力なツールとして台頭している。1)組織学的所見が典型的であっても、メチレーションクラスが異なる腫瘍として再分類される症例の存在が報告されている。FGFR1-TACC1融合遺伝子はEVNに特徴的なマーカーであり、稀にCNに見えた腫瘍で検出される場合もある。1)

Q 中枢性神経細胞腫の確定診断に最も重要な検査は?
A

定位生検または手術検体を用いた免疫組織化学的検査が確定診断の鍵となる。シナプトフィジンのびまん性陽性が最も信頼性の高いマーカーであり、NeuN陽性・GFAP陰性(腫瘍細胞)・OLIG2陰性のパターンがoligodendroglioma・ependymomaとの鑑別を支持する。1)2)

**全摘出(GTR: gross total resection)**が標準治療である。1)2)3)4)5)GTRが達成できれば、術後補助療法なしで経過観察が可能な場合が多い。

GTRは30〜50%の症例で達成可能とされる。手術アプローチとしては前方半球間経脳梁アプローチが最も多く用いられ、神経ナビゲーションシステムの支援が有用である。3)4)5)近年は神経内視鏡下切除も報告されている。5)

治療法別の主要な治療成績を以下に示す。

治療法5年生存率5年局所制御率
GTR単独90%超〜99%1)4)100%(Schild 1997, 32例)3)
STR単独86%2)低い(補助療法要)
STR+補助放射線療法90%(中央追跡56ヶ月)3)

**亜全摘(STR: subtotal resection)**では再発リスクが高く、術後補助療法の追加を要する。2)

STR後や残存腫瘍例に対して、術後補助放射線療法が腫瘍進行・再発の予防を目的として施行される。1)2)中央線量は54Gy(範囲50〜60Gy)が用いられる。3)分割放射線療法と定位放射線手術(SRS)はいずれも効果が報告されているが、両者の優劣は未確定である。2)

化学療法は手術・放射線療法に抵抗性の手術不能例に限定されており、広く使用・研究されてはいない。2)使用される主なレジメンは以下の通りである。

  • PCV療法:プロカルバジン+ロムスチン+ビンクリスチン。2)
  • トポテカン・カルボプラチン・イホスファミド併用2)
  • カルムスチン・プレドニゾン・ビンクリスチン・シスプラチン3)

化学療法への奏効性は十分に特徴づけられておらず、有効性は不明確である。3)

Q 全摘出できなかった場合の治療はどうなるか?
A

亜全摘(STR)後は再発リスクが高いため、術後補助放射線療法が標準的に追加される。線量は中央値54Gy(範囲50〜60Gy)であり、5年生存率90%・5年PFS 76%が報告されている(中央追跡56ヶ月)。3)化学療法は手術・放射線療法抵抗例に限定される。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

CNは脳室周囲基質(periventricular matrix)に埋め込まれた双極性前駆細胞に由来すると推測される。1)シナプトフィジン・NeuNの陽性はニューロン系への分化を証明するが、腫瘍の厳密な組織発生は未解明の部分が残る。

頭蓋内圧亢進の病態機序は以下の通りである。

  • 一次的機序:腫瘍自体の占拠性効果による脳実質圧迫。
  • 二次的機序:腫瘍によるモンロー孔閉塞→閉塞性水頭症→脳室拡張。
  • 三次的機序:腫瘍周囲の脳浮腫による脳内圧の上昇。

これら三要因が相互に作用し、頭痛・悪心・うっ血乳頭といった頭蓋内圧亢進症状を引き起こす。

うっ血乳頭の形成機序は次の段階を経る。頭蓋内圧亢進→視神経周囲くも膜下腔の圧力上昇→視神経鞘の締め付け→軸索流停滞→篩状板前領域の血管圧迫→乳頭浮腫形成。乳頭浮腫が遷延すると、軸索変性・血管障害が進行して不可逆的な視力障害を引き起こす。

分子病理学的特徴:CNとEVN(脳室外神経細胞腫)は臨床病理学的には異なる疾患として定義されているが、分子レベルでは境界が必ずしも明確でない。両疾患は異なるDNAメチレーションランドスケープとコピー数プロファイルを持つ。1)CNの分子的特徴は長年十分に同定されていなかったが、近年の網羅的分子解析によりその輪郭が明確化しつつある。FGFR1-TACC1融合遺伝子はEVNの特徴的マーカーであり、この融合を持つ腫瘍が脳室内に発生した場合でも分子的にはEVNとして分類される。1)


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”

分子分類の進展:CNとEVNの境界の再定義

Section titled “分子分類の進展:CNとEVNの境界の再定義”

DNAメチレーションプロファイリングの臨床応用により、従来の病理診断と分子診断が乖離する症例の存在が明らかになっている。

Satoら(2023)は、組織学的・臨床的にCNと診断された側脳室内腫瘍1例に対してRNAシーケンシングを行い、FGFR1-TACC1融合遺伝子を検出した。さらにDNAメチレーションプロファイリング(DKFZクラシファイアv12.5)では、本症例がEVNクラスに分類された(キャリブレーションスコア0.99)。tSNE解析では21例のCNとは明確に分離し、2例のEVNとクラスター形成した。1)

同研究によれば、組織学的EVNと診断された13例が分子解析によりDLGNT・RGNT・pilocytic astrocytoma・oligodendroglioma・astrocytoma・DMG H3K27M・GBMなど多様な腫瘍タイプに再分類され、組織学的CNと診断された2例がNGS・メチレーション解析によりgangliogliomaへ変更されたとされる。1)この知見は統合的診断(画像・病理・分子所見の総合評価)の重要性を示している。

FGFR阻害薬の治療標的としての可能性

Section titled “FGFR阻害薬の治療標的としての可能性”

EVNの大多数はFGFR1-TACC1融合遺伝子を保有し、FGFR(線維芽細胞増殖因子受容体)が治療標的として注目されている。1)FGFR不可逆的阻害薬(futibatinibなど)は胆管癌・乳癌・胃癌・尿路上皮癌・食道癌・非小細胞肺癌において開発が進んでいるが、EVN・CNに対する臨床データはまだ存在しない。FGFR変異はEVN特異的ではなく、diffuse astrocytoma・pilocytic astrocytoma・DNET・PXA・PLNTY・GBMでも観察されることに留意が必要である。1)

神経内視鏡下手術の低侵襲アプローチ

Section titled “神経内視鏡下手術の低侵襲アプローチ”

脳室内腫瘍に対する神経内視鏡下切除は、開頭手術に比べて侵襲が少ない術式として報告が増加している。脳室内の直視下操作が可能であり、脳梁切開を最小限にできる可能性がある。ただし大型腫瘍への適応や長期成績については今後の検討が必要である。5)


  1. Sato D, Takami H, Takayanagi S, et al. Intraventricular central neurocytoma molecularly defined as extraventricular neurocytoma: a case representing the discrepancy between clinicopathological and molecular classifications. Brain Tumor Pathol. 2023;40:230-234.

  2. Mishra S, Phulware RH, Dhiman A, et al. Intraoperative cytologic diagnosis of central neurocytoma mimicking as oligodendroglioma. Indian J Surg Oncol. 2024;15(Suppl 3):S379-S384.

  3. Ulzen-Appiah K, Akakpo KP. Central neurocytoma in a teenager, a rare cause of hemiplegia, and a diagnostic dilemma in a resource-poor setting. Case Rep Pathol. 2024;2024:4514981.

  4. Johar MA, Dhaif AR, Mahdi アカントアメーバ角膜炎, et al. A young adult with persistent headache: a case of central neurocytoma. Cureus. 2025;17(1):e77470.

  5. Aburakawa D, Kanamori M, Akashi T, et al. Corpus callosum swelling after resection of intraventricular central neurocytoma. NMC Case Rep J. 2021;8:535-543.

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