直接型(急性)

頸動脈海綿静脈洞瘻
ひとめでわかるポイント
Section titled “ひとめでわかるポイント”1. 頸動脈海綿静脈洞瘻とは
Section titled “1. 頸動脈海綿静脈洞瘻とは”頸動脈海綿静脈洞瘻(carotid cavernous fistula; CCF)は、内頸動脈(ICA)または外頸動脈(ECA)の枝と海綿静脈洞(CS)の静脈チャネルとの間に生じる異常な血管接続(動静脈シャント)である。ICD-10-CMではI77.0(後天性動静脈瘻)に分類される。
頸動脈海綿静脈洞瘻はBarrow分類が広く用いられる。
| 型 | 供給動脈 | 流量 | 代表的原因 |
|---|---|---|---|
| A型 | ICA直接(直接型) | 高流量 | 外傷、ICA動脈瘤破裂 |
| B型 | ICA硬膜枝のみ | 低流量 | 特発性・硬膜型 |
| C型 | ECA硬膜枝のみ | 低流量 | 特発性・硬膜型 |
| D型 | ICA+ECA両方 | 低流量 | 特発性・硬膜型(最多) |
間接型(硬膜型)はType B/C/Dを指す。Preechawatらの80例ではB型14%、C型15%、D型71%であり7)、自然発生頸動脈海綿静脈洞瘻ではD型が最多である9)。
- 外傷性頸動脈海綿静脈洞瘻は外傷性脳損傷患者の0.2%に発生1)
- 頭蓋底骨折患者では最大4%に発生
- ICA海綿静脈洞部動脈瘤を持つ患者の最大24%で頸動脈海綿静脈洞瘻が発生
- 両側性頸動脈海綿静脈洞瘻は稀だが外傷性症例の最大1%に報告されている
- 特発性頸動脈海綿静脈洞瘻は全頸動脈海綿静脈洞瘻の最大30%を占め、閉経後の女性に多い
- 全体の75%は頭部外傷により発生、残り25%は特発性で中年女性に多い
- 間接型頸動脈海綿静脈洞瘻の平均診断遅延は234日に及ぶ7)
両側性頸動脈海綿静脈洞瘻は外傷性症例の最大1%で報告されている。自然発生型の両側直接頸動脈海綿静脈洞瘻も文献上35例が報告されており6)、稀ながら両眼性に発症しうる。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”
直接型(高流量・急性発症)と間接型(低流量・緩徐発症)で症状の性質が大きく異なる。
間接型(慢性)
慢性的な結膜充血:軽度から中等度で、緩徐に進行。
眼瞼浮腫・腫脹:眼窩の静脈うっ滞による。
複視・視力低下:軽度で気づかれにくいことも多い。
無症状からの発症:低流量型では眼症状が乏しく、「赤目」のみで受診するケースがある9)。
全頸動脈海綿静脈洞瘻患者の90%に眼球突出、90%に結膜浮腫、50%に複視、最大50%に視力障害、5%に頭蓋内出血(ICH)が認められる3)。
臨床所見(医師が診察で確認する所見)
Section titled “臨床所見(医師が診察で確認する所見)”直接型頸動脈海綿静脈洞瘻の三徴(Dandy三徴):
- 拍動性眼球突出(pulsatile exophthalmos)
- 眼窩部血管雑音(orbital bruit)
- 結膜浮腫(chemosis)
血管所見:結膜充血は「メデューサの頭(caput Medusae)」と呼ばれる蛇行・怒張した血管パターンを示す。輪部に向かって収束するコルク抜き様(コルクスクリュー様)上強膜血管が特徴的である。
眼圧上昇:上強膜静脈圧上昇(正常8〜10mmHg)を反映し、続発開放隅角緑内障を生じうる。体位による変動があり、臥位で上昇する。眼虚血が持続すると血管新生緑内障を発症することもある。
眼球運動障害:動眼神経(III)・滑車神経(IV)・外転神経(VI)麻痺による複視を生じる。
その他の所見:眼瞼浮腫・下垂、乳頭浮腫、網膜静脈拡張・蛇行、網膜中心静脈閉塞(CRVO)、虚血性視神経症、脈絡膜剥離。
間接型は低流量で緩徐発症のため、典型的な三徴(拍動性眼球突出・血管雑音・結膜浮腫)を揃えないことが多い。慢性的な結膜充血のみが主訴となる場合があり、結膜炎・副鼻腔炎・眼窩蜂巣炎と誤診される9)。コルクスクリュー様上強膜血管が鑑別の手がかりとなる。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”外傷性(最多原因)
Section titled “外傷性(最多原因)”- 閉鎖性頭部外傷・頭蓋底骨折:最も多い原因。骨折やせん断力によるICA直接裂傷、または急激な内腔圧上昇による血管壁破裂で生じる1)
- 穿通性頭部外傷:刺傷・銃創など
- 医原性:頭蓋内手術・経蝶形骨手術・副鼻腔手術・血管内治療後
- 遅発性発症:外傷後13日で発症した症例報告もあり1)、外傷直後だけでなく経過観察中も注意が必要
特発性・素因
Section titled “特発性・素因”- ICA海綿静脈洞部動脈瘤破裂またはICA解離
- 先天性動静脈奇形(AVM):Dural 頸動脈海綿静脈洞瘻の基礎となることがある
- 素因疾患:エーラス・ダンロス症候群、弾力線維性仮性黄色腫、骨形成不全症、線維筋形成不全症
- 間接型頸動脈海綿静脈洞瘻のリスク因子:高血圧、女性、高齢、糖尿病。高血圧や糖尿病がDural 頸動脈海綿静脈洞瘻の誘因となることがある
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”各モダリティの特性を以下に示す。
| 検査法 | 主な所見 | 役割・特徴 |
|---|---|---|
| CT/CTA | SOV拡大・海綿静脈洞拡大・頭蓋底骨折 | 初期スクリーニング。患側海綿静脈洞の拡大とSOV拡張は「ほぼ特異的」 |
| MRI/MRA | flow void・眼窩浮腫・SOV拡張 | 頸動脈海綿静脈洞瘻ではCSの血流が速くなりflow voidとして認識される。自然経過や術後血栓化の観察に有用 |
| DSA | 瘻孔の正確な位置・供給動脈・静脈還流路 | 確定診断のゴールドスタンダード |
- 眼窩ドプラ超音波:上眼静脈(SOV)の拡張や血流逆流の確認に有用
- DSA(4血管造影):Dural 頸動脈海綿静脈洞瘻ではICAとECAの両方の血管造影が必要。瘻孔の位置・供給動脈の同定・流量・静脈還流路の全貌を把握し、治療計画の立案に不可欠
頸動脈海綿静脈洞瘻と鑑別すべき主な疾患:
- 海綿静脈洞血栓症:発熱・感染の先行が多い
- 甲状腺眼症(Graves眼症):両側性の場合に特に類似6)
- Tolosa-Hunt症候群・眼窩炎性偽腫瘍:炎症性疾患。ステロイド反応性
- 上眼窩裂症候群・眼窩先端症候群
- 後眼窩出血
CT・MRIは海綿静脈洞の拡大やSOV拡張を示唆できるが、瘻孔の正確な位置、供給動脈の種類(ICA枝・ECA枝)、静脈還流路の詳細は特定できない。DSAのみがこれらを確定し、コイルやバルーンの挿入経路を含む治療計画の立案を可能にする。Dural 頸動脈海綿静脈洞瘻では4血管造影が必要である。
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”頸動脈海綿静脈洞瘻の治療方針は疾患の型・重症度・症状の進行度によって決定する。まず脳神経外科への紹介が必要であり、眼科は眼症状の管理と経過観察を担当する。
経過観察の適応と自然閉鎖
Section titled “経過観察の適応と自然閉鎖”短絡量が少なく眼症状が乏しい間接型頸動脈海綿静脈洞瘻は自然閉鎖が期待できる。
- 硬膜型頸動脈海綿静脈洞瘻の自然閉鎖率は50%弱
- 間接型頸動脈海綿静脈洞瘻の最大70%が自然閉鎖するとの報告がある6)
- 直接型頸動脈海綿静脈洞瘻は3週間を超えると自然閉鎖が少ない
- 軽症例では頸動脈圧迫手技による治癒例もみられる
血管内治療(第一選択)
Section titled “血管内治療(第一選択)”持続的な眼圧上昇・視力低下・複視、脳出血/くも膜下出血のリスクがある場合、または自然閉鎖が期待できない場合は血管内治療を施行する。
コイル塞栓術:離脱型コイルによる海綿静脈洞充填。直接型・間接型の両方に適用可能。
- 経静脈的アプローチ:間接型頸動脈海綿静脈洞瘻に最も安全・有効。最も一般的なルートは下錐体静脈洞(IPS)2)。IPSが使用不能の場合はSOV・下眼静脈(IOV)・上錐体静脈洞・翼突筋静脈叢・対側SOV/IPSを検討
- 経静脈的塞栓術の成功率は96.9%に達する4)
バルーン塞栓術:ICAを温存しながらバルーンで瘻孔を閉塞する。90%以上で治療成功1)。ただし離脱型バルーンの供給は現在限定的である3)。
液体塞栓材料:Onyx(エチレン-ビニルアルコール共重合体)、n-BCA(ヒストアクリルグルー)。高流量直接瘻ではグルー逆流・遠位迷入のリスクに注意3)。
経眼窩的アプローチ:経静脈ルートが使用できない場合の代替手技。
- Dyna-CTガイド下SOV直接穿刺:三次元的な深度調整が可能で、超音波やフルオロスコピーより眼窩骨干渉の影響を受けにくい8)
- 内視鏡下経眼窩アプローチ(ETOA)については「最新の研究」の項を参照
眼科的対症療法
Section titled “眼科的対症療法”- 高眼圧:ドルゾラミド-チモロール配合点眼薬などの降圧薬を使用する9)
- 根本的な血行動態の改善なしには眼圧コントロールに限界がある
- 直接型頸動脈海綿静脈洞瘻を放置すると海綿静脈洞破裂・脳出血・くも膜下出血など生命予後不良の結果を招きうる
- 失明の主な原因は続発緑内障と網膜中心静脈閉塞症
- 治療成功例では症状改善は良好:眼圧31→12mmHg、視力0.04→0.9の回復例が報告されている3)
- 閉鎖治癒後の再発もときに見受けられる
硬膜型頸動脈海綿静脈洞瘻の自然閉鎖率は50%弱であり、間接型(低流量型)の最大70%が自然閉鎖するとの報告がある6)。ただし皮質静脈逆流(CVR)を伴う場合は脳出血リスクが高く、自然閉鎖を待てない。経過観察の可否はDSAによる静脈還流路の評価を経て判断する。
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”海綿静脈洞の解剖
Section titled “海綿静脈洞の解剖”海綿静脈洞はトルコ鞍側方に位置する一対の硬膜静脈洞である。
- 脳神経の走行:外側壁内を上から順にIII(動眼神経)・IV(滑車神経)・V1(眼神経)・V2(上顎神経)が走行。VI(外転神経)はCS内腔でICAの外側を走行する
- ICA海綿静脈洞セグメント:petrolingualリガメントで入洞し、近位硬膜輪で出洞
- ICAの枝:髄膜下垂体動脈幹(MHT)・下外側動脈幹(ILT)・マッコーネルの被膜動脈
- 静脈還流路:眼窩(SOV/IOV)、シルビウス裂、前・中頭蓋窩(蝶形骨頭頂静脈洞)、後頭蓋窩(脳底静脈叢、上下岩様静脈洞)、翼突筋静脈叢
- 左右の海綿静脈洞は前後の面間静脈洞で接続する
- 眼窩内静脈は弁を有しないため、圧上昇時に容易に逆流が生じる
シャント形成から眼症状への機序
Section titled “シャント形成から眼症状への機序”動脈血が毛細血管を介さず直接CSへ流入すると、CS内圧が上昇する。
- 前方排泄型:CS圧上昇 → SOVへの血液逆流 → SOV拡張 → 眼窩の充血・眼圧上昇・眼球突出・眼筋腫大による占拠効果
- 皮質静脈逆流(CVR)型:動脈血がシルビウス静脈・脳幹静脈系に逆流 → 皮質静脈高血圧 → ICH・脳浮腫・静脈性梗塞リスク増大3)
Dural 頸動脈海綿静脈洞瘻が下錐体静脈洞へ主に流出し前方排泄が乏しい場合、結膜充血・浮腫は目立たず診断が困難となる。
自然閉鎖の機序
Section titled “自然閉鎖の機序”部分塞栓術後の自然閉鎖には以下の機序が関与する3):
- 瘻孔サイズが小さい
- 低血圧
- 動静脈圧較差の低下による静脈うっ滞
- DSA・治療中のICA攣縮・解離
- ICHによるICP上昇
- 造影剤の血栓促進作用(内皮障害・白血球接着促進・赤血球凝集促進)
- 後方ドレナージの欠如
7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)
Section titled “7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)”フローダイバーターデバイス(FDD)による治療
Section titled “フローダイバーターデバイス(FDD)による治療”フローダイバーターデバイス(FDD)は、ICA内腔から血流をリダイレクトして瘻孔への血流を漸減させるアプローチである。
Stamatopoulosら(2022)の系統的レビューでは16研究38患者を対象とし、94.7%がBarrow A型の直接頸動脈海綿静脈洞瘻であった5)。臨床的改善は92.1%(35/38)で得られ、即時完全閉塞率44.7%に対して長期閉塞率は100%に達した。FDD関連神経学的合併症率は2.6%(1/38)であった。
主な使用形式と成績:
| 使用形式 | 症例数 | 特記事項 |
|---|---|---|
| FDD単独 | 4例 | 即時完全閉塞率100% |
| FDD+塞栓材料 | 11例 | 即時完全閉塞率45.4% |
| 複数FDD | 6例 | — |
| 複数FDD+塞栓材料 | 17例 | — |
術後抗血小板療法(DAT:アスピリン100mg+クロピドグレル75mg)が84.2%の症例で投与された5)。多施設前方視的研究による更なるエビデンス構築が課題である。
内視鏡下経眼窩アプローチ(ETOA)
Section titled “内視鏡下経眼窩アプローチ(ETOA)”従来の経静脈ルートが血栓化などにより使用不能な間接型頸動脈海綿静脈洞瘻に対し、2025年に世界初の内視鏡下経眼窩アプローチ(ETOA)による治療が報告された。
Wongら(2025)は65歳男性のBarrow D型間接頸動脈海綿静脈洞瘻に対し、ETOAにより眼窩内から直接海綿静脈洞にアクセスし、Flosseal注入で閉塞に成功した4)。1か月後のDSAで完全閉塞が確認された。
ETOAの利点:小創・低侵襲・短い入院期間・海綿静脈洞への直接アクセス。経眼窩アプローチ(SOV直接穿刺を含む)の既報成功率は89.9%(30研究140患者)とされる4)。
部分治療後の自然閉鎖戦略
Section titled “部分治療後の自然閉鎖戦略”部分的な血管内治療(前方排泄のみ遮断)後に残存シャントが自然閉鎖した症例が報告されており、高リスク症例への低侵襲アプローチとして注目されている3)。管理の原則は短期間隔での臨床症状・画像監視と、症状悪化時の速やかな追加治療である。
8. 参考文献
Section titled “8. 参考文献”- Mahmoodkhani M, Askariardehjani N. Post-traumatic carotid-cavernous fistula. Heliyon. 2023;9:e14778.
- Rotim A, Kalousek V, Raguz M, et al. Transvenous approach for indirect carotid-cavernous fistula using detachable coils: a case report and review of treatment options. Acta Clin Croat. 2022;61:555-559.
- Liao WJ, Hsiao CY, Chen CH, Tseng YY, Yang TC. Spontaneous resolution of an aggressive direct carotid cavernous fistula following partial transvenous embolization treatment: a case report and review of literatures. Medicina. 2024;60:2011.
- Wong DK, Chan NN, Ng BC, Mak CH. Endoscopic transorbital approach to managing indirect carotid cavernous fistula: a novel technique. Surg Neurol Int. 2025;16:532.
- Stamatopoulos T, Anagnostou E, Plakas S, et al. Treatment of carotid cavernous sinus fistulas with flow diverters: a case report and systematic review. Interv Neuroradiol. 2022;28:70-83.
- Pellegrini F, Zappacosta A, Cirone D, Ciabattoni C, Lee AG. A case of spontaneous bilateral direct carotid-cavernous fistula. Cureus. 2022;14:e24634.
- Sharma R, Ponder C, Kamran M, et al. Bilateral carotid-cavernous fistula: a diagnostic and therapeutic challenge. J Investig Med High Impact Case Rep. 2022;10:1-6.
- Min XF, Yuan G, Si GY, Xu YN. Direct puncture the superior ophthalmic vein guiding by Dyna-CT to obliterating a traumatic carotid-cavernous sinus fistula: a case report and literature review. Medicine. 2022;101:e31560.
- Sarkis Y, Worden A, Schreiber T, Lapitz A. High index of suspicion: diagnosing a carotid-cavernous fistula. BMJ Case Rep. 2023;16:e253473.