CAR
癌関連網膜症:びまん性網膜電図低下(a波・b波ともに低下)。
原発巣:肺癌(小細胞癌)が最多。眼症状が原発巣の癌発見に先行することが多い。
自己抗体:抗リカバリン抗体が代表的。

自己免疫関連網膜症および視神経症(Autoimmune-Related Retinopathy and Optic Neuropathy; ARRON)は、痛みのない通常両眼性の視力障害を特徴とする稀な自己免疫性眼疾患である。網膜症と視神経症の両方の証拠を認め、腫瘍性プロセスの証拠がない点が定義の根幹となる。別名として、自己免疫性網膜症(AIR)または非腫瘍随伴性自己免疫性網膜症・視神経症とも呼ばれる。
ARRONの疫学は正確には不明なほど稀である。Keltnerらの報告によれば12人のARRON患者が記載されており、女性に多く発症平均年齢は50歳(範囲37〜75歳)とされる。
ARRONと類似した臨床像を呈する腫瘍随伴性疾患として、癌関連網膜症(CAR)とメラノーマ関連網膜症(MAR)がある。CARは腫瘍随伴症候群の一つで、腫瘍組織に異所性発現した網膜特異抗原(リカバリン)に対する自己抗体により網膜視細胞が傷害される疾患である。MARは皮膚悪性黒色腫に伴い、網膜双極細胞に対する自己抗体が関与する。ARRONではこれらと異なり悪性腫瘍を認めない。
ARRONは悪性腫瘍を伴わないことが診断の前提となる。CARは腫瘍随伴症候群であり、悪性腫瘍の存在が必須要件である。両者の臨床像が類似するため、ARRON診断には徹底的な悪性腫瘍スクリーニングが必要である。詳細は「診断と検査方法」の項を参照。
ARRONの症状は潜行性に進行するため、受診が遅れることが多い。
GFAPアストロサイトパチーはARRONと関連する重要な疾患概念である。592人の大規模解析では25%に視覚系関与が認められた。
症状は潜行性に進行することが多く、受診が遅れやすい。両眼性かつ無痛性の経過のため、異常を自覚しても軽微と判断されがちである。光視症・夜盲・視野欠損の組み合わせがあれば早期に眼科専門医への受診が望まれる。
ARRONの病態生理は視神経・網膜に対する自己抗体が病原性を持つと推定されている。ただし、これらの自己抗体が病原性を持つのか、随伴現象なのか、または免疫特権部位である網膜が露出した後の正常免疫反応なのかは、依然として議論の余地がある。
ARRONの診断は複数の検査を組み合わせた総合的な判断による。
ARRONの確定診断には以下の基準を用いる。
必須4項目(すべてを満たすこと)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 視力・視野検査で証明される視力障害 |
| 2 | 広範な評価で悪性腫瘍が認められない |
| 3 | 視神経または網膜の異常の証拠 |
| 4 | 特定可能な原因がない |
加えて以下のいずれかを満たす
修飾因子:タイプA(他の自己免疫疾患を伴う)・タイプB(伴わない)で分類する。
髄液または血清でのGFAPα-IgG検出が必須。髄膜炎・脳炎・脊髄炎・視神経乳頭浮腫の臨床像と組み合わせて診断する。脳MRIでは視床後部の両側性高信号域が特徴的所見である。
ARRONとの鑑別が重要な疾患を以下に示す。
CAR
癌関連網膜症:びまん性網膜電図低下(a波・b波ともに低下)。
原発巣:肺癌(小細胞癌)が最多。眼症状が原発巣の癌発見に先行することが多い。
自己抗体:抗リカバリン抗体が代表的。
MAR
メラノーマ関連網膜症:Negative 網膜電図(a波ほぼ正常・b波消失)が特徴的で双極細胞障害を示す。
背景疾患:皮膚メラノーマの既診断例が多い。男性に多い。
自己抗体:TRPM1が標的。
視神経炎・関連疾患
典型的視神経炎:急性発症・眼球運動痛を伴う。15〜45歳女性に好発。
MOG-ON:両側視神経炎・視神経乳頭腫脹。31〜84%で両側性。
NMOSD(AQP4抗体):縦走性広範視神経炎・横断性脊髄炎を伴う。
非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION):急性片眼性無痛性視力障害。disc at riskが背景にある。
その他の鑑別として、AZOOR(急激な視力低下・視野欠損・光視症を呈する近視の若年女性に好発)も念頭に置く。
自己抗体の検出は診断の補助にとどまり、確定診断にはならない。抗体が病原性を持つか随伴現象かは現在も議論中であり、Oyamaらの診断基準を満たすことが確定診断の要件である。また抗体価は病勢により変動するため、3回以上の測定で評価する必要がある。
ARRONの治療に関するコンセンサスは存在しない。以下は現時点での代表的な治療選択肢である。
| 治療法 | 位置づけ | 備考 |
|---|---|---|
| ステロイド全身投与 | 第一選択 | ARRONへの適用に限る |
| メトトレキサート | 免疫調節薬 | ステロイド抵抗例に検討 |
| シクロホスファミド | 免疫調節薬 | ステロイド抵抗例に検討 |
| リツキシマブ | 生物学的製剤 | 症例報告レベルで有効性が示されている |
| IVIG(静注免疫グロブリン) | 難治性に検討 | ステロイド・免疫調節薬抵抗例 |
| PLEX(血漿交換) | 難治性に検討 | ステロイド・免疫調節薬抵抗例 |
| 自家造血幹細胞移植 | 最終手段 | 1症例の報告あり |
併存する自己免疫疾患がある場合は、その疾患の治療を優先する。
GFAPアストロサイトパチーの治療:約70%が高用量ステロイドに速やかに反応し、単相性の経過をとる。NMDA-R-IgGや癌共存例は第一選択治療に反応しない傾向がある。追跡データのある患者の約18%で再発が報告されている。
確立された治療コンセンサスが存在しないため、効果は症例ごとに異なる。免疫抑制療法が奏効する例がある一方、治療抵抗性を示す例も報告されている。Oyamaらの診断基準では「免疫調節治療への反応」が診断補助基準の一つであり、治療反応性自体が診断に寄与する場合がある。
ARRONにおける自己抗体の役割は依然として議論が続いている。病原性を持つのか、随伴現象なのか、あるいは免疫特権部位である網膜の露出後に生じる正常免疫反応なのかは確立されていない。
CARの発症機序
腫瘍特異抗原の異所性発現→獲得免疫機序の活性化→網膜特異抗原(リカバリン)に対する自己抗体産生→網膜視細胞傷害の経路が想定されている。CARにおける主な自己抗体標的はリカバリン(Ca²⁺結合蛋白質)・hsc70(heat-shock-cognate-protein 70)・エノラーゼである。
MARの発症機序
網膜双極細胞に対する自己抗体が関与し、TRPM1(Transient receptor potential cation channel, subfamily M, member 1)の関与が示唆されている。Negative 網膜電図パターン(b波著しい低下)はこの双極細胞障害を反映する。
GFAPアストロサイトパチーの発症機序
GFAPα-IgGは細胞内に存在するため、抗体自体が直接病原性を持たない可能性が高い。アストロサイトに対するT細胞介在性免疫反応が主要な傷害機序として推定されている。疾患トリガーは卵巣奇形腫(異所性GFAPα分泌)または特発性である。
ICI関連の発症機序
免疫チェックポイント阻害薬(ICI)によるType 3反応として、T細胞活性化→B細胞クローン増殖→自己抗体産生→AIR・CAR・MARへの進行が想定されている。CTLA-4阻害は非特異的T細胞増殖・Treg抑制・B細胞活性化を引き起こし、PD-1阻害はオリゴクローナルT細胞集団を標的組織で刺激する。
免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の普及に伴い、ICI使用後にAIR・CAR・MARが発症する症例が報告されるようになっている。ICI治療を受ける患者では眼科的な定期モニタリングが今後の課題となる。
抗リカバリン抗体および抗hsc70抗体を用いたCARモデルラットにおいて、カルシウム拮抗薬が有効である可能性が示唆されている。臨床応用に向けたさらなる研究が必要な段階である。
592人の大規模レビューにより、血清のみ陽性患者では成人期と小児期で表現型に大きな差がないことが示されている。AQP4抗体陰性で重度両側視神経炎の症例では、GFAP髄液抗体検査の実施が推奨されるとするエキスパートオピニオンが示されている。