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神経眼科

自己免疫関連網膜症および視神経症(ARRON)

1. 自己免疫関連網膜症および視神経症(ARRON)とは

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自己免疫関連網膜症および視神経症(Autoimmune-Related Retinopathy and Optic Neuropathy; ARRON)は、痛みのない通常両眼性の視力障害を特徴とする稀な自己免疫性眼疾患である。網膜症と視神経症の両方の証拠を認め、腫瘍性プロセスの証拠がない点が定義の根幹となる。別名として、自己免疫性網膜症(AIR)または非腫瘍随伴性自己免疫性網膜症・視神経症とも呼ばれる。

ARRONの疫学は正確には不明なほど稀である。Keltnerらの報告によれば12人のARRON患者が記載されており、女性に多く発症平均年齢は50歳(範囲37〜75歳)とされる。

ARRONと類似した臨床像を呈する腫瘍随伴性疾患として、癌関連網膜症(CAR)とメラノーマ関連網膜症(MAR)がある。CARは腫瘍随伴症候群の一つで、腫瘍組織に異所性発現した網膜特異抗原(リカバリン)に対する自己抗体により網膜視細胞が傷害される疾患である。MARは皮膚悪性黒色腫に伴い、網膜双極細胞に対する自己抗体が関与する。ARRONではこれらと異なり悪性腫瘍を認めない。

Q ARRONと癌関連網膜症(CAR)はどのように区別されるか?
A

ARRONは悪性腫瘍を伴わないことが診断の前提となる。CARは腫瘍随伴症候群であり、悪性腫瘍の存在が必須要件である。両者の臨床像が類似するため、ARRON診断には徹底的な悪性腫瘍スクリーニングが必要である。詳細は「診断と検査方法」の項を参照。

ARRONの症状は潜行性に進行するため、受診が遅れることが多い。

  • 視力障害:両眼性・亜急性・無痛性で左右非対称な視力障害。矯正視力は20/20(1.0)から光覚なしまで多岐にわたる。
  • 光視症:閃光など陽性の視覚現象が出現する。
  • 夜盲(暗所での見えにくさ):暗順応障害による。
  • 昼盲:明るい環境での視力低下を呈する場合がある。
  • 視野欠損中心暗点・傍中心暗点・中間周辺暗点などの形態をとる。
  • 色覚異常:色の識別困難を生じる。
  • 光過敏まぶしさを強く感じる。
  • 視力:矯正視力は1.0から光覚なしまで幅広い。
  • RAPD(相対的瞳孔不同:片眼性または両眼非対称な場合に認める。
  • 視野検査:自動視野計で中心・傍中心・中間周辺の欠損を確認する。
  • 前部・後部ぶどう膜炎:スリットランプで炎症所見の有無を確認する。
  • 眼底所見:視神経乳頭蒼白・非特異的な網膜およびRPE変化が認められる。
  • 嚢胞状黄斑浮腫CME:合併することがある。

GFAPアストロサイトパチーの眼所見

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GFAPアストロサイトパチーはARRONと関連する重要な疾患概念である。592人の大規模解析では25%に視覚系関与が認められた。

  • 両眼性視神経乳頭浮腫:最も多い眼所見であり、乳頭浮腫の半数以上が無症状である。
  • 視覚症状霧視・一過性視覚消失が17%に出現する。
  • 真の視神経炎:6%で認められる。
  • 再発との関連:視覚所見のある患者は再発率が有意に高い(35%対11%)。
Q ARRONの症状はゆっくり進行するため受診が遅れることがあるか?
A

症状は潜行性に進行することが多く、受診が遅れやすい。両眼性かつ無痛性の経過のため、異常を自覚しても軽微と判断されがちである。光視症・夜盲・視野欠損の組み合わせがあれば早期に眼科専門医への受診が望まれる。

ARRONの病態生理は視神経・網膜に対する自己抗体が病原性を持つと推定されている。ただし、これらの自己抗体が病原性を持つのか、随伴現象なのか、または免疫特権部位である網膜が露出した後の正常免疫反応なのかは、依然として議論の余地がある。

  • 自己抗体の標的抗原:23kDa網膜抗原やリカバリン(recoverin)は悪性腫瘍に由来する可能性が高い。
  • CAR関連抗体:リカバリン・hsc70(heat-shock-cognate-protein 70)・エノラーゼが代表的な自己抗体として報告されている。
  • MAR関連抗体:TRPM1が双極細胞への自己抗体標的として関与する。
  • 自己免疫疾患との併存:Ferreyraらの報告では、ARRON患者で他の自己免疫疾患や家族歴(SLE・クローン病・喘息・多発性硬化症)がより一般的に認められる。
  • GFAPアストロサイトパチーの機序:GFAPα-IgG自己抗体で定義される。抗体自体は細胞内に存在するため病原性を持たない可能性が高く、アストロサイトに対するT細胞介在性免疫反応が推定されている。トリガーは卵巣奇形腫(異所性GFAPα分泌)または特発性である。
  • 免疫チェックポイント阻害薬(ICI):ICIによる免疫系の脱抑制が自己抗体の出現を引き起こし、AIR・CAR・MARへの進行をきたす可能性がある。

ARRONの診断は複数の検査を組み合わせた総合的な判断による。

  • 網膜電図(網膜電図):最重要の客観的検査。全視野および多局所網膜電図の異常が網膜症の根拠となる。CARではa波・b波ともに低下(網膜電図〈ERG〉平坦化)が特徴的で、MARではnegative 網膜電図(a波ほぼ正常・b波著しい低下)を呈し、双極細胞障害を反映する。ARRONでは暗順応・明順応・双極細胞反応の各種異常が認められる。
  • OCT(光干渉断層計):視神経・網膜の構造的病理評価に有用。
  • 造影MRI(脳・眼窩:ガドリニウム造影で圧迫性病変や他の病因を除外する。
  • 血清抗体検査:抗リカバリン抗体・抗α-エノラーゼ抗体・抗ミュラー細胞抗体・抗GAD抗体などを測定する。病勢により変動するため3回以上の測定が必要。
  • 悪性腫瘍スクリーニング:ARRONの確定には悪性腫瘍の徹底的な除外が必須。CAR患者の約半数では視覚症状が腫瘍発見に先行する。小細胞肺癌・乳癌・卵巣癌・子宮頸癌・子宮内膜癌が最多の原発巣である。

ARRONの確定診断には以下の基準を用いる。

必須4項目(すべてを満たすこと)

項目内容
1視力・視野検査で証明される視力障害
2広範な評価で悪性腫瘍が認められない
3視神経または網膜の異常の証拠
4特定可能な原因がない

加えて以下のいずれかを満たす

  • (a) 網膜または視神経抗原に対する血清自己抗体
  • (b) 免疫調節治療への反応

修飾因子:タイプA(他の自己免疫疾患を伴う)・タイプB(伴わない)で分類する。

GFAPアストロサイトパチーの診断

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髄液または血清でのGFAPα-IgG検出が必須。髄膜炎・脳炎・脊髄炎・視神経乳頭浮腫の臨床像と組み合わせて診断する。脳MRIでは視床後部の両側性高信号域が特徴的所見である。

ARRONとの鑑別が重要な疾患を以下に示す。

CAR

癌関連網膜症:びまん性網膜電図低下(a波・b波ともに低下)。

原発巣:肺癌(小細胞癌)が最多。眼症状が原発巣の癌発見に先行することが多い。

自己抗体:抗リカバリン抗体が代表的。

MAR

メラノーマ関連網膜症:Negative 網膜電図(a波ほぼ正常・b波消失)が特徴的で双極細胞障害を示す。

背景疾患:皮膚メラノーマの既診断例が多い。男性に多い。

自己抗体:TRPM1が標的。

視神経炎・関連疾患

典型的視神経炎:急性発症・眼球運動痛を伴う。15〜45歳女性に好発。

MOG-ON:両側視神経炎・視神経乳頭腫脹。31〜84%で両側性。

NMOSD(AQP4抗体):縦走性広範視神経炎・横断性脊髄炎を伴う。

非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION):急性片眼性無痛性視力障害。disc at riskが背景にある。

その他の鑑別として、AZOOR(急激な視力低下・視野欠損・光視症を呈する近視の若年女性に好発)も念頭に置く。

Q 自己抗体が見つかれば確実にARRONと診断できるか?
A

自己抗体の検出は診断の補助にとどまり、確定診断にはならない。抗体が病原性を持つか随伴現象かは現在も議論中であり、Oyamaらの診断基準を満たすことが確定診断の要件である。また抗体価は病勢により変動するため、3回以上の測定で評価する必要がある。

ARRONの治療に関するコンセンサスは存在しない。以下は現時点での代表的な治療選択肢である。

治療法位置づけ備考
ステロイド全身投与第一選択ARRONへの適用に限る
メトトレキサート免疫調節薬ステロイド抵抗例に検討
シクロホスファミド免疫調節薬ステロイド抵抗例に検討
リツキシマブ生物学的製剤症例報告レベルで有効性が示されている
IVIG(静注免疫グロブリン)難治性に検討ステロイド・免疫調節薬抵抗例
PLEX(血漿交換)難治性に検討ステロイド・免疫調節薬抵抗例
自家造血幹細胞移植最終手段1症例の報告あり

併存する自己免疫疾患がある場合は、その疾患の治療を優先する。

GFAPアストロサイトパチーの治療:約70%が高用量ステロイドに速やかに反応し、単相性の経過をとる。NMDA-R-IgGや癌共存例は第一選択治療に反応しない傾向がある。追跡データのある患者の約18%で再発が報告されている。

Q ARRONの治療はどの程度効果があるか?
A

確立された治療コンセンサスが存在しないため、効果は症例ごとに異なる。免疫抑制療法が奏効する例がある一方、治療抵抗性を示す例も報告されている。Oyamaらの診断基準では「免疫調節治療への反応」が診断補助基準の一つであり、治療反応性自体が診断に寄与する場合がある。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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ARRONにおける自己抗体の役割は依然として議論が続いている。病原性を持つのか、随伴現象なのか、あるいは免疫特権部位である網膜の露出後に生じる正常免疫反応なのかは確立されていない。

CARの発症機序

腫瘍特異抗原の異所性発現→獲得免疫機序の活性化→網膜特異抗原(リカバリン)に対する自己抗体産生→網膜視細胞傷害の経路が想定されている。CARにおける主な自己抗体標的はリカバリン(Ca²⁺結合蛋白質)・hsc70(heat-shock-cognate-protein 70)・エノラーゼである。

MARの発症機序

網膜双極細胞に対する自己抗体が関与し、TRPM1(Transient receptor potential cation channel, subfamily M, member 1)の関与が示唆されている。Negative 網膜電図パターン(b波著しい低下)はこの双極細胞障害を反映する。

GFAPアストロサイトパチーの発症機序

GFAPα-IgGは細胞内に存在するため、抗体自体が直接病原性を持たない可能性が高い。アストロサイトに対するT細胞介在性免疫反応が主要な傷害機序として推定されている。疾患トリガーは卵巣奇形腫(異所性GFAPα分泌)または特発性である。

ICI関連の発症機序

免疫チェックポイント阻害薬(ICI)によるType 3反応として、T細胞活性化→B細胞クローン増殖→自己抗体産生→AIR・CAR・MARへの進行が想定されている。CTLA-4阻害は非特異的T細胞増殖・Treg抑制・B細胞活性化を引き起こし、PD-1阻害はオリゴクローナルT細胞集団を標的組織で刺激する。


7. 最新の研究と今後の展望(研究段階の報告)

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免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の普及に伴い、ICI使用後にAIR・CAR・MARが発症する症例が報告されるようになっている。ICI治療を受ける患者では眼科的な定期モニタリングが今後の課題となる。

CARモデルにおけるカルシウム拮抗薬の研究

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抗リカバリン抗体および抗hsc70抗体を用いたCARモデルラットにおいて、カルシウム拮抗薬が有効である可能性が示唆されている。臨床応用に向けたさらなる研究が必要な段階である。

GFAPアストロサイトパチーの大規模解析

Section titled “GFAPアストロサイトパチーの大規模解析”

592人の大規模レビューにより、血清のみ陽性患者では成人期と小児期で表現型に大きな差がないことが示されている。AQP4抗体陰性で重度両側視神経炎の症例では、GFAP髄液抗体検査の実施が推奨されるとするエキスパートオピニオンが示されている。


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