この疾患の要点
動脈炎性前部虚血性視神経症(AAION)は巨細胞性動脈炎 (GCA)が引き起こす眼科的緊急疾患である。
主に50歳以上(特に75歳以上)の高齢者に発症し、急激な重度視力 低下をきたす。
未治療では65%が10日以内に僚眼(反対側の眼)にも発症する。
罹患眼の視力回復はほとんど期待できないが、ステロイド 治療は僚眼発症の予防に効果がある。
診断はESR・CRP の血液検査と側頭動脈生検(TAB)を組み合わせて行う。
TABが陰性でも臨床的に巨細胞動脈炎が疑われる場合は治療を継続すべきである。
前部虚血性視神経 症(AION)全体の5〜10%を占め、残りの大多数は非動脈炎性前部虚血性視神経症 (NAION)であるため鑑別が重要である。
動脈炎性前部虚血性視神経症(Arteritic Anterior Ischemic Optic Neuropathy; AAION)は、短後毛様動脈(SPCAs)の炎症・血栓形成による視神経乳頭の虚血性梗塞である。前部虚血性視神経症全体の5〜10%を占め、大多数は非動脈炎性前部虚血性視神経症である。
原因の大部分は巨細胞性動脈炎 (Giant Cell Arteritis; 巨細胞動脈炎、旧称:側頭動脈炎)である。その他、帯状疱疹・再発性多発軟骨炎・高安動脈炎・関節リウマチ・結節性動脈周囲炎・SLE ・Churg-Strauss症候群などの血管炎疾患も原因となる。9割以上の前部虚血性視神経症が非動脈炎性であり、AAIONの疾患頻度は少ないが、治療・視機能予後が大きく異なるため鑑別は臨床上非常に重要である。
50歳以上の女性に多く(男女比1:3)、70歳以上で急激に発症率が増加する。AAIONの推定年間発症率は50歳以上で10万人あたり0.36とされ、白人での発症率が高く遺伝的要因の関与が示唆されている。巨細胞動脈炎は眼科における医療緊急疾患(medical emergency)の一つである。
巨細胞動脈炎の視覚合併症は10〜30%に発生し、一部の研究では最大70%に達するとの報告もある3) 。AAIONは巨細胞動脈炎に伴う視力喪失の60〜90%を占める。
Q AAIONと非動脈炎性前部虚血性視神経症(非動脈炎性)はどう違うのか?
A AAIONは前部虚血性視神経症全体の5〜10%を占め、巨細胞動脈炎などの血管炎が原因である。視力予後は非動脈炎性前部虚血性視神経症より著しく不良で、患者の60%以上が視力20/200未満となる。また対側眼の乳頭に「disc at risk」(小乳頭・小陥凹)がみられる非動脈炎性前部虚血性視神経症とは異なり、AAIONでは対側眼の乳頭径と生理的陥凹は正常である。鑑別にはESR・CRPなどの炎症マーカーが有用で、非動脈炎性前部虚血性視神経症ではこれらの上昇はみられない。
急激な視力低下 :患者の60%以上で視力20/200未満の重度障害をきたす。発症年齢は多くが75歳以上で、20%以上で光覚なしという重篤な視機能障害をきたす。
前駆症状(一過性黒内障 ) :一過性の視力喪失(amaurosis fugax)を自覚している場合も多い。一過性の視力喪失は非動脈炎性前部虚血性視神経症では極めて稀であり、AAIONとの鑑別点となる。
全身症状の先行 :巨細胞動脈炎の全身症状が眼症状に先行する場合がある(数週〜数ヶ月前)1) 。
頭痛 :65〜85%に認められる最も一般的な巨細胞動脈炎症状3) 。側頭部の新規頭痛が典型的。
顎跛行 (jaw claudication):咀嚼時の顎の痛み・疲労感。巨細胞動脈炎に最も特異的な症状。頻度は11〜40%3) 。
その他の巨細胞動脈炎症状 :側頭動脈・頭皮の圧痛、倦怠感、食欲不振・体重減少、発熱、関節痛・筋肉痛(リウマチ性多発筋痛症48〜53%3) )、耳痛、眼球運動制限。
複視 :10〜15%に発生3) 。
潜在性巨細胞動脈炎 :AAION患者の最大20%で明らかな全身症状を欠く(occult 巨細胞性動脈炎)。
Q 全身症状がなくてもAAIONの可能性はあるか?
A ある。潜在性巨細胞動脈炎(occult 巨細胞性動脈炎)と呼ばれる病態がAAION患者の最大20%に存在し、頭痛・顎跛行などの典型的な全身症状を欠く。全身症状がないからといって巨細胞動脈炎を否定することはできず、血液検査(ESR・CRP)や側頭動脈生検による評価が重要である。
視神経乳頭の白亜色蒼白浮腫 (chalky-white pallor):AAIONの典型所見。乳頭浮腫 の程度は強く、蒼白浮腫(pallid swelling)と形容される。びまん性に腫脹するが、一部セグメントで顕著な病変もあり得る。
火炎状出血 :乳頭に隣接して伴うことがある。
軟性白斑 (cotton wool spots):後極部に認めることがある。
乳頭周囲の網膜 細動脈狭細化 。
毛様体 網膜動脈閉塞 :AAIONに対してより特異的な所見。
中央網膜動脈閉塞 (CRAO ):合併する場合もある。
RAPD 陽性 :片眼性・非対称性視神経症で相対的求心性瞳孔 異常(RAPD)が陽性となる。
視野欠損 :水平半盲(altitudinal field defect)が最も一般的。
対側眼の乳頭 :AAIONでは対側眼の乳頭径と生理的陥凹は正常(非動脈炎性前部虚血性視神経症のdisc at riskとの相違点)。
視神経萎縮 と乳頭陥凹 :発症6〜8週で視神経萎縮が進行し、乳頭陥凹(optic disc cupping)を伴う3) 。AAIONの90%以上に認められる。
巨細胞動脈炎において、血管壁の樹状細胞が疾患の主要寄与因子となる。マクロファージ・T細胞を動員して病原性カスケードを開始し、中型〜大型動脈を侵す肉芽腫性血管炎を引き起こす。眼への直接的な機序は以下の通りである。
短後毛様動脈(SPCAs)の炎症 →血管壁肥厚→血管腔狭小化→血栓形成 →視神経乳頭虚血。
内側短後毛様動脈の閉塞が最も一般的(症例の20%で特に侵される)。
視神経への血液供給は主に短後毛様動脈と網膜中心動脈の枝から行われる。前篩状板 部・篩状板部は短後毛様動脈が栄養し、乳頭周囲脈絡膜 循環も担う。
加齢 :巨細胞動脈炎の最大のリスク因子。50歳未満では稀であり、第8十年紀(70歳代)に発症率がピークとなる1) 。
性別 :女性に多い(男女比1:3)。
感染因子 :水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)との関連を示唆する所見がある。
COVID-19 :パンデミック中に巨細胞動脈炎発症率が70%増加したとする報告がある2) 。COVID-19後の巨細胞動脈炎発症と眼症状の増加が複数報告されており、血管内皮への親和性・血管炎との類似性が病態的関連として示唆されている2) 。
AAIONの診断は巨細胞動脈炎確定診断と並行して進める。AAIONと非動脈炎性前部虚血性視神経症の鑑別が治療方針に直結するため、迅速かつ系統的な評価が重要である。
以下にAAIONと非動脈炎性前部虚血性視神経症の主な鑑別点を示す。
鑑別点 AAION 非動脈炎性前部虚血性視神経症 視力低下の程度 重度(多くが20/200未満) 比較的軽度 乳頭所見 白亜色蒼白浮腫 充血性浮腫 炎症マーカー ESR・CRP上昇 正常 一過性黒内障 あり 極めて稀
血液検査
ESR :感度86%。70〜120mm/hに達することもある。基準値は男性が年齢の半分、女性が(年齢+10)の半分(1時間値)。
CRP :感度97.5%。CRPのほうがESRより特異度が高い。
ESR+CRP併用 :感度99.2%1) 、特異度97%。急性期反応蛋白は80%以上で亢進する。
その他 :血小板増多症、白血球数、ヘモグロビン値も確認すべき。
側頭動脈生検(TAB)
位置づけ :巨細胞動脈炎確定診断のゴールドスタンダード。適切に施行された場合、感度・特異度ともに95%以上。
陽性所見 :内膜肥厚、内弾性板の断裂、巨細胞を伴う慢性炎症性浸潤。病理確定には内弾性板の破壊と炎症細胞浸潤(急性期)または線維化(慢性期)を要する。
偽陰性 :スキップ病変や対側のみの炎症により偽陰性率3〜5%。TAB陰性でも巨細胞動脈炎は否定できない1) 。
実施時期 :ステロイド加療開始後でも数日以内に生検を行うべき。
画像診断
側頭動脈超音波 :halo sign(暗い壁の腫脹)と急性閉塞が特徴。感度87%、特異度96%。EULARは第一診断アプローチとして推奨3) 。ACRは専門家の監督下での実施を推奨3) 。
MRI :AAIONと非動脈炎性前部虚血性視神経症の鑑別に有用。視神経鞘と眼窩 脂肪の造影効果(central bright spot)を確認する。
眼科的検査
蛍光眼底造影 (FA) :脈絡膜充盈の極めて不良・欠如がAAIONの特徴。乳頭周囲脈絡膜への充盈遅延・欠損は非動脈炎性前部虚血性視神経症との重要な鑑別点。乳頭浮腫が生じる前にも認められる。
光干渉断層計 (OCT)/光干渉断層血管撮影(OCTA) :分節状乳頭浮腫や網膜神経線維層 (RNFL)厚の評価、視神経乳頭の虚血状態の評価に有用。
巨細胞動脈炎の分類基準として広く用いられる。50歳以上での発症、新規の側頭部頭痛、側頭動脈の圧痛・拍動減弱、ESR > 50mm/h、典型的病理組織所見の5項目中3項目以上で巨細胞動脈炎と分類する1) 。
Q 側頭動脈生検が陰性でも巨細胞動脈炎は否定できないのか?
A 否定できない。スキップ病変(炎症が血管の一部にのみ存在する)や対側のみの炎症により偽陰性率は3〜5%ある。TABが陰性であっても、ESR・CRPの上昇を伴う臨床的巨細胞動脈炎疑いでは治療を継続すべきである1) 。
AAIONが疑われた時点で、生検による確定診断を待たずに早急に治療を開始する。治療目的は僚眼の発症予防 が主体であり、罹患眼の視力改善はほとんど期待できない。治療により視力が改善するのは15〜20%に過ぎない。
日本の診療ガイドライン・教科書では以下のプロトコールが推奨されている。
急性期 :メチルプレドニゾロン1g/日の点滴静注を3〜5日間。入院での実施が望ましい。
維持期 :プレドニゾン(プレドニゾロン)1mg/kg/日の経口投与へ移行。
漸減 :全身状態やESR値をみながら、少なくとも4〜6ヶ月かけてゆっくりと漸減。症例によっては1年以上必要となる場合がある。
注意 :ステロイド隔日投与は推奨されない。
長期ステロイド投与に伴う副作用(糖尿病・白内障 など、約60%に発生)が問題となる場合に検討する。
トシリズマブ (tocilizumab):IL-6受容体阻害薬。2017年に巨細胞動脈炎治療薬としてFDA承認。副腎皮質ステロイド抵抗性AAIONに有効との報告がある。
メトトレキサート :コルチコステロイドの持続的中止達成率を高め、再発リスクを低下させる。症例報告では15mg/週の併用が用いられている1) 2) 。
ウパダシチニブ (upadacitinib):経口JAK1選択的阻害薬。2025年に巨細胞動脈炎治療薬としてFDA承認(詳細は「最新の研究と今後の展望」の項 を参照)。
治療における注意点
未治療のAAIONでは65%が10日以内に僚眼に発症する1) 。疑わしい場合は直ちに治療を開始すること。
治療にもかかわらず1〜4%で新たな虚血イベントが発生する3) 。
長期ステロイド投与は糖尿病・骨粗鬆症・白内障など重篤な副作用を約60%に引き起こす。副作用が問題となる場合は免疫抑制療法 の追加を検討する。
Q ステロイド治療で視力は回復するのか?
A 罹患眼の視力改善はほとんど期待できない。視力が改善するのは15〜20%程度であり、多くの症例では視力低下が残存する。ステロイド治療の主目的は僚眼への発症を予防することであり、治療効果はその点に集約される。
巨細胞動脈炎は血管壁の樹状細胞が活性化されることを起点とするT細胞媒介性肉芽腫性血管炎である。中型〜大型動脈を選択的に侵す。
血管壁の樹状細胞が疾患の主要寄与因子として機能する。マクロファージとT細胞を動員し、病原性カスケードを開始する。
重要な免疫反応軸:IL-6–Th17–IL-17/IL-21軸 。この軸はグルココルチコイドおよびIL-6阻害薬(トシリズマブ)によって抑制可能である。
血管壁肥厚→血管腔狭小化→血栓形成→虚血性壊死の流れで眼症状が発生する。
視神経への血液供給は主に短後毛様動脈(SPCAs)と網膜中心動脈の枝によって行われる。
SPCAsは前篩状板部・篩状板部を栄養し、乳頭周囲脈絡膜循環も担う。
巨細胞動脈炎ではSPCAs(20%の症例で特に侵される)の血栓性閉塞が視神経乳頭虚血を引き起こす。
急性AAION死後調査では、篩状板前部・篩状板・篩状板後部の壊死を伴う視神経乳頭浮腫と慢性炎症細胞浸潤が確認されている。
蛍光眼底造影データはSPCA関与の組織病理学的エビデンスを裏付けている。
COVID-19パンデミックと巨細胞動脈炎発症増加の関連が複数の研究から報告されている。
Leclerら(2021)はパンデミック中に巨細胞動脈炎発症率が70%増加したことを報告した2) 。Lutherら(2020)は2019年の28例に対し2020年4〜6月に24例が発症し眼合併症率も上昇したことを、Mulhearnら(2021)は2020年に巨細胞動脈炎症例が33例超過し、内皮損傷とTh1免疫・単球-マクロファージ系の活性化が原因と推察している2) 。
COVID-19と巨細胞動脈炎は頭痛・倦怠感・炎症マーカー上昇・発熱などの一部症状が重複するため、鑑別が困難な場合がある。SARS-CoV-2が巨細胞動脈炎をトリガーした可能性を示す症例報告も存在する2) 。
ウパダシチニブ (経口JAK1選択的阻害薬):2025年に巨細胞動脈炎治療薬としてFDA承認。IL-6–JAK–STAT経路を標的とする新規治療選択肢である。
側頭動脈超音波がTABに代わるゴールドスタンダードとなり得るかについては、まだ十分な証明がなく今後の研究課題である。
巨細胞動脈炎は視覚以外にも多様な虚血性合併症を引き起こす可能性がある3) 。
脳血管障害:2〜7%に発生。
舌壊死・頭皮壊死:稀だが重篤な合併症。
末梢動脈合併症。
Charles Bonnet症候群 :永久的視力喪失(PVL)後に生じる慢性視覚性幻覚。視覚障害患者の0.4〜30%に報告される3) 。
Mandura RA. Giant cell arteritis presenting as unilateral arteritic anterior ischemic optic neuropathy. Cureus. 2021;13(7):e16653.
Szydelko-Pako U, Przedziecka-Dolyk J, Krcicka J, et al. Arteritic anterior ischemic optic neuropathy in the course of giant cell arteritis after COVID-19. Am J Case Rep. 2022;23:e933471.
Jalaledin DS, Ross C, Makhzoum JP. Rare ischemic complications of giant cell arteritis: case series and literature review. Am J Case Rep. 2022;23:e937565.
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