利便性
ポータブル:軽量ヘッドセットのため持ち運び可能。
体位自由:座位・臥位・立位いずれでも検査可能2)。
低コスト:既製品VRデバイスを活用するため機器費が安価2)。
複数患者の同時検査:複数台を用いた並行検査が可能2)。

VR視野検査(Virtual Reality Perimetry; VRP)は、VRヘッドセットを用いて没入的環境下で視野検査を行う技術である。
視野検査は緑内障診断の中核をなす。標準自動視野検査(Standard Automated Perimetry; SAP)が臨床標準だが、単眼遮蔽・厳格な体位保持・中心固視維持が求められる1)。EGS 5th Edition(欧州緑内障学会ガイドライン)では、初回評価に視野検査を強く推奨している3)。AAO PPP(米国眼科学会推奨診療パターン)もSAPを用いた視野評価を推奨する4)。
緑内障は世界で約8,000万人が罹患し、2040年には1億1,200万人に増加すると見込まれる2)。患者数の増加に対応するため、より利便性の高い視野検査法の開発が求められている。
VRPの初期プロトタイプは、アラビンド眼科病院が開発したPeriScreenerである。Google Cardboard・Android端末2台・Bluetoothクリッカーを組み合わせた低コスト装置だった。2025年時点では10種以上のVRPデバイスが存在し、Oculus Quest、TPP、VirtualEye、AVA、VisuALL、Virtual Field、Radiusなどが開発されている1)。
VRヘッドセットを用いるためポータブルで低コストであり、体位を選ばずに検査できる。SAPと同等の視野欠損検出能力を持ちながら利便性が高い。在宅検査や遠隔医療への応用も期待される。詳細は「従来型視野検査の課題とVRPの背景」の項を参照。
VRP自体は検査法であり、疾患の自覚症状とは異なる。検査を受ける患者の体験的特徴を示す。
各デバイスの仕様を以下に示す。
| デバイス | 背景輝度 | 特記事項 |
|---|---|---|
| Sb-C(Zeiss VR One plus) | 0.05 cd/m² | MS相関 r=0.8151) |
| TPP | 10 cd/m² | MD差 0.21 dB1) |
| VisuALL(Olleyes) | 1〜3 cd/m² | AUC 0.981)5) |
| AVA | 9.6 cd/m² | ICC=0.93〜0.961) |
| Radius | 10 cd/m² | MD r=0.941) |
| Virtual Field | 0.218 cd/m² | FDA承認1) |
| C3 Field Analyzer | 4 cd/m² | AUC 0.77〜0.861) |
スマートフォンベース型
専用ヘッドマウント型
視線追跡・革新的入力方式型
EEG/BCIベース型
2025年時点でFDA承認を取得しているVirtual Fieldや、両眼同時検査が可能なVisuALLが注目されている。ただし、デバイス間で標準化が進んでいないため、施設によって採用デバイスは異なる1)。
従来のSAP(標準自動視野検査)には以下の制限がある。
利便性
ポータブル:軽量ヘッドセットのため持ち運び可能。
体位自由:座位・臥位・立位いずれでも検査可能2)。
低コスト:既製品VRデバイスを活用するため機器費が安価2)。
複数患者の同時検査:複数台を用いた並行検査が可能2)。
遠隔・在宅応用
在宅検査:より頻回な検査で早期進行の検出が期待できる1)2)。
クラウド連携:検査データをクラウド保存し遠隔モニタリングが可能2)。
寝たきり・車椅子対応:従来のSAPでは対応困難な患者にも実施できる。
EGS 5th Editionの言及:モバイルアプリによる在宅モニタリングの可能性に明記3)。
軽度緑内障では精度が低下する傾向が報告されている。重症度判定ではκ=0.91〜0.93と高い一致を示すが、早期検出にはさらなる検証が必要である1)。早期緑内障が疑われる場合はSAPとの併用が望ましい。

一般的なVRP(VisuALL等)の検査手順を示す。
主要な評価指標の一致度を示す。
| デバイス | MD相関 | 特記事項 |
|---|---|---|
| Virtual Field | r=0.87 | 固視不良 VRP 0.05 vs SAP 0.131) |
| Radius | r=0.94 | 病期判定 κ=0.91〜0.931) |
| VisuALL | r=0.871〜0.879 | AUC 0.981)5) |
| AVA | ICC=0.93〜0.96 | 24-2および10-21) |
14研究のメタ解析では、VRPとSAPのMD相関は r=0.77〜0.94と概ね良好な一致を示した1)。Bland-Altman分析を実施した研究は約半数にとどまる1)。
VRPは緑内障でMS・欠損サイズを過小評価し、健常者で過大評価する傾向がある1)。重症度が高いほど精度が低下する傾向も報告されている1)。
VisuALLによる両眼同時検査では、固視不良眼を健眼の固視で補助できる利点がある5)。
Slagleら(2025)は、先天性緑内障(23歳)で左眼に中心暗点を持つ患者を報告した5)。HFAでは5年間にわたり信頼性不良の結果しか得られなかったが、VisuALLによる両眼同時検査により左眼の視野を再現性をもって取得することに成功した。
SAPと同様の指標を用いる(教科書由来の背景知識)。
MD相関 r=0.77〜0.94と良好だが、デバイス間での標準化が不十分である1)。同一デバイスでの経過観察が望ましく、デバイスを変更する場合はベースラインの取り直しを検討する。
従来型SAPはボウル型ペリメータ(Goldmann型)内に固定位置の静的視標を提示し、輝度を変化させて閾値感度を測定する方式をとる(教科書由来)。
VRPはヘッドマウントディスプレイ内で同様の視標提示を再現する。背景輝度はデバイスにより0.05〜25 cd/m²と幅が大きく、SAPのHFA(31.5 asb ≒ 10 cd/m²)と異なるデバイスが多い1)。大半のデバイスがGoldmann III視標を使用する1)。
閾値戦略は以下のものが用いられている1)。
手動方式
ボタンクリック:従来型SAPと同一の入力方式。大半のデバイスで採用。
ワイヤレスクリッカー:ハンドヘルド型のデバイスを使用。視標を知覚したらボタンを押す。
Visual Grasp
視線追跡型:VirtualEyeが採用する方式。ボタン操作が不要。
原理:視線方向の変化(サッカード)をeye trackingで検出。M細胞系入力による反射的サッカードを利用している1)。
EEG/BCI
nGoggle方式:脳波(EEG)によるBrain Computer Interface。
原理:多局所定常状態視覚誘発電位(mfSSVEP)で視野応答を客観的に検出。患者側の操作エラーを排除できる。
VisuALLでは各眼に独立したディスプレイを設置し、交互に視標を提示する。Dynamic Matrixアルゴリズムが軽度の輻湊不全を補正する5)。非器質性視力障害の検出への応用も提唱されている5)。
Sb-Cの背景輝度(0.05 cd/m²)は非常に低く、黄斑部のhill of visionを適切に測定できない可能性がある1)。各デバイスの輝度特性が結果解釈に影響するため注意を要する。
2025年の系統的レビュー(14研究、10デバイス)は、VRPが緑内障視野評価において強い可能性を示すと結論づけた1)。しかし、test-retest再現性データの不足が最大の課題として指摘されている1)。
Hekmatjahら(2025)は14の研究を系統的にレビューし、VRPとSAPの間に概ね良好な一致(MD相関 r=0.77〜0.94)を確認した1)。Bland-Altman分析を実施した研究は約半数にとどまり、デバイス間の標準化が不十分であることも指摘された。
EGS 5th Editionはモバイルアプリによる在宅モニタリングの可能性に言及している3)。頻回な在宅VRP検査データをトレンド解析に活用する構想も提唱されている6)。日本緑内障学会の緑内障診療ガイドライン(第5版)も視野検査の重要性を強調している6)。
今後必要とされる研究として以下が挙げられている2)。
技術的改善・標準化プロトコルの策定・縦断的研究の蓄積が必要である1)2)。在宅モニタリングや遠隔医療の可能性を秘めており、EGS 5th Editionもその可能性を認識している3)。現時点ではSAPを完全に代替するには至っていないが、補完的な検査法として普及が進むと予想される。