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緑内障

非主流房水流出路(ぶどう膜強膜流出路)

房水は主に2つの経路で眼外へ排出される1)。主経路は線維柱帯−シュレム管を経由し、全房水流出量の80〜95%を担う。副経路はぶどう膜−強膜路であり、5〜20%が流出する。

項目主流流出路非主流流出路
経路線維柱帯→シュレム管→集合管毛様体筋→脈絡膜上腔→強膜
流出量の割合80〜95%5〜20%
圧力依存性眼圧依存性圧力鈍感性

非主流流出路は「unconventional outflow pathway」とも呼ばれ、1960年代にAnders Billがサルを用いた放射性トレーサー研究によってその存在を確立した。前房から毛様体を通り、脈絡膜・脈絡膜上腔を経て強膜へ至る房水の流れが証明された。

主経路の流出抵抗の主座は傍シュレム管結合組織の細胞外マトリックスに存在する1)2)。一方、副経路からの房水流出は非眼圧依存性であり、毛様体筋のトーヌスが流出量に影響する。

Q 主経路と副経路の流出量の比率はどのくらいですか?
A

ヒトでは主経路(線維柱帯−シュレム管経由)が全房水流出量の80〜95%、副経路(ぶどう膜強膜流出路)が5〜20%を占める1)。ただし、一部の報告ではヒトにおける非主流流出の割合を4〜60%とする広い範囲の推定値が示されている。これは測定法(直接法と間接法)の違いや、年齢・測定条件によるばらつきを反映している。なお、種差が大きく、サルなどの霊長類ではヒトよりも副経路の割合が高いことが知られている。

経路の流れ

前房隅角:房水は毛様体前端部の細胞間隙に入る

毛様体筋束間:毛様体実質の筋束間結合組織を通過する

上脈絡膜:脈絡膜上腔の結合組織に達する

強膜経由:渦静脈・毛様神経・毛様動脈周囲の疎な結合組織を経て眼外へ流出する

補助的経路

ぶどう膜渦静脈経路:房水が脈絡膜に入り渦静脈を通じて排出される

角膜経路:角膜を通る流出は無視できる量である

虹彩経路:虹彩を通る流出も無視できる量である

網膜経路網膜色素上皮のポンプ機能により微量の流出が生じる

毛様体の前端および虹彩表面には限界膜が存在しない。そのため、前房水は毛様体および虹彩実質の中に容易に浸透する。毛様体実質に入った房水はぶどう膜に沿って眼球の後方へ向かい、強膜を経由して眼外に流出する。経ぶどう膜強膜流出路からの房水流出量は0.2〜0.4 µL/分との報告がある。

脈絡膜上腔の圧力は前房圧よりも低い3)。この圧力勾配が房水を前房から脈絡膜上腔方向へ駆動する力の一つとなっている。

前房にトレーサー分子を導入し、眼組織内および血液中へのトレーサーの蓄積率を測定する。主流・非主流双方の流出を定量できるが、組織学的分析が必要であり、非侵襲的ではないため、一般にヒトへの適用は困難である。

房水産生量と線維柱帯経路を通る房水流出量をそれぞれ独立して測定し、その差から非主流流出を推測する方法である。臨床的に使用可能だが、間接的な推定値であるため精度に限界がある。

プロスタグランジン関連薬は緑内障点眼薬の第一選択として広く使用されている。その眼圧下降機序はぶどう膜強膜流出の促進が主体である。具体的な機序として、毛様体筋内の細胞外マトリックスの減少、特定のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の生合成増加、毛様体筋の弛緩、細胞骨格の変化などが報告されている。

副経路からの房水流出は毛様体筋のトーヌスに影響される。

ピロカルピン(副交感神経刺激薬):毛様体筋を収縮させ、筋束間のスペースを減少させるため、非主流流出を減少させる。

アトロピン(副交感神経遮断薬):毛様体筋を弛緩させることで非主流流出を増加させる。

非主流流出路を通る流出率は加齢や夜間に低下する。落屑症候群高眼圧症でも低下が認められる。一方、虹彩毛様体炎やPosner-Schlossman症候群では増加する。

Q プロスタグランジン関連薬はなぜ眼圧を下げるのですか?
A

プロスタグランジン関連薬はぶどう膜強膜流出路を介した房水排出を促進することで眼圧を下降させる。その機序には、毛様体筋の弛緩による筋束間スペースの拡大、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の発現増加による細胞外マトリックスの分解促進、細胞骨格の変化などが関与する。これらの作用により、毛様体筋を通る房水の透過性が向上し、非主流流出路からの房水排出が増加する。

主経路の房水流出量は眼圧依存性であり、眼圧の上昇とともに増加する1)。一方、非主流流出は眼圧が4〜35 mmHgの範囲で上昇しても一定に保たれるか、主経路よりはるかに緩やかにしか増加しない。この性質は「圧力鈍感性(pressure insensitive)」と称される。厳密には「圧力非依存性」ではなく「圧力に鈍感」である点に注意が必要である。

Bill(1977年)は、毛様体筋と脈絡膜上腔を通る間質腔のサイズが、眼圧(空間を潰そうとする力)と間質圧(空間を開こうとする力)のバランスで決定されると提唱した。眼圧が上昇すると間質腔が縮小し流出抵抗が増大するため、駆動力の増加が相殺される。この機構を「弾性スポンジモデル」と呼ぶ。

ぶどう膜渦静脈経路による説明

Section titled “ぶどう膜渦静脈経路による説明”

眼圧が上昇するとぶどう膜毛細血管内の圧力も上昇する。そのため毛細血管壁を挟んだ圧力差の変化は、眼圧の変化よりはるかに小さくなる。これが圧力鈍感性のもう一つの説明である。

毛様体解離によって毛様体筋が除去されると、筋が提供する抵抗の大部分が失われ、非主流流出は4倍以上に増加し圧力依存性となる。外傷による毛様体解離がしばしば重度の低眼圧を引き起こすのはこのためである。

Q 非主流流出路の「圧力鈍感性」とは何ですか?
A

主経路では眼圧が上昇すると房水流出量が比例的に増加する(圧力依存性)。一方、非主流流出路では眼圧が4〜35 mmHgの範囲で変動しても流出量がほとんど変化しない1)。これは毛様体筋の間質腔が眼圧の上昇により圧縮され、流出抵抗が増大して駆動力の増加を相殺するためと考えられている(弾性スポンジモデル)。ただし、毛様体解離により毛様体筋がバイパスされると、非主流流出は圧力依存性に変わり、流出量は4倍以上に増加する。

脈絡膜上腔を標的としたMIGSデバイス

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外傷による毛様体解離がしばしば低眼圧を引き起こすという臨床観察から、脈絡膜上腔の眼圧下降効果が注目されている。多くの新規MIGSデバイスが、脈絡膜上腔を標的として適切な眼圧下降と最小限の低眼圧を目指している。

毛様体筋をバイパスするシャントデバイスでは、筋が提供する抵抗の大部分が失われ、ぶどう膜強膜経路が圧力依存性となる。術後眼圧が10 mmHg台前半や1桁台に達することもある。

線維柱帯における流出のセグメント性

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房水流出は均一ではなく、高流量・中流量・低流量の領域が存在する2)。緑内障眼では正常眼と比較して低流量領域が増加している2)。高流量領域と低流量領域では分子的な組成が異なり、眼圧に対するホメオスタシス応答の際にもセグメント性の分子変化が生じる2)

今後の課題:

  • ぶどう膜強膜流出の非侵襲的測定技術の開発
  • 脈絡膜上腔デバイスの長期成績の検証
  • プロスタグランジン関連薬の作用機序のさらなる解明
  • 加齢や緑内障に伴う非主流流出路の変化の分子メカニズムの解明
  1. De Groef L, Andries L, Moons L. The zebrafish as a model for studying aqueous humor dynamics and glaucoma. Annu Rev Vis Sci. 2022;8:349-378.
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