早期発症の機序
前房出血:赤血球・フィブリン・血小板が線維柱帯を閉塞する1)
線維柱帯破壊:機械的損傷により房水流出抵抗が増加する1)
外傷性虹彩炎:炎症細胞の漏出が線維柱帯での抵抗を増大させる
脈絡膜出血:後方の占位効果で水晶体・虹彩が前方移動し閉塞隅角を生じる

外傷性緑内障は、眼外傷により引き起こされる続発緑内障である1)。鈍的(非穿孔性)外傷と穿通性外傷のいずれでも発症しうる。開放隅角型と閉塞隅角型の両方の機序が関与する1)。
| 分類 | 発症時期 | 主な機序 |
|---|---|---|
| 鈍的外傷・早期 | 受傷直後〜数週間 | 前房出血、線維柱帯破壊 |
| 鈍的外傷・遅発性 | 数か月〜数年以上 | 隅角後退、ghost cell緑内障 |
| 穿通性外傷 | 急性〜慢性 | 虹彩前癒着、上皮迷入 |
急性期には房水産生も影響を受けることが多く、房水流出路に障害があっても必ずしも眼圧が上昇するとは限らない。複数の眼圧上昇因子が同時に関与しうる点が本症の特徴である。
隅角後退があっても必ずしも緑内障を発症するわけではない。180度以上の隅角後退がある場合に10年で6〜20%と高率に緑内障が認められるが、それ以下では発症リスクは低い。ただし、受傷後数年〜10年以上経過してから発症する場合があるため、隅角後退を有する患者には長期的な眼圧モニタリングが推奨される1)2)。
急性の眼圧上昇では角膜浮腫による霧視、眼痛、嘔気を自覚する。慢性の高眼圧では無症状のまま視野障害が進行し、発見が遅れることがある。
前房出血:鈍的外傷の最も一般的な合併症である1)。出血量が多いと前房全体が赤色〜黒褐色を呈する(8-ball hyphema)。
隅角後退:隅角鏡検査で毛様体帯の拡大として観察される。毛様体筋の縦走筋と輪状筋の間の裂傷に起因する。
角膜染血症:高度な前房出血に高眼圧が持続すると、角膜後面が血液で染色される。前房出血消退後にも視力障害が残存しうる。
Ghost cell:硝子体出血後数週間で変性した赤血球(カーキ色の小胞)が前房に認められる。多量の場合は偽前房蓄膿を形成する。
水晶体所見:亜脱臼(水晶体振盪)、嚢破損、外傷性白内障を認めることがある。
早期発症の機序
前房出血:赤血球・フィブリン・血小板が線維柱帯を閉塞する1)
線維柱帯破壊:機械的損傷により房水流出抵抗が増加する1)
外傷性虹彩炎:炎症細胞の漏出が線維柱帯での抵抗を増大させる
脈絡膜出血:後方の占位効果で水晶体・虹彩が前方移動し閉塞隅角を生じる
遅発性の機序
隅角後退緑内障:線維柱帯の瘢痕化により房水流出が慢性的に低下する1)2)
Ghost cell緑内障:変性赤血球が線維柱帯を閉塞する。硝子体出血後1〜3週間で発生する2)
溶血性緑内障:遊離ヘモグロビンとマクロファージが線維柱帯を閉塞する(稀)
ヘモジデリン緑内障:鉄の線維柱帯細胞への毒性作用による(極めて稀)
穿通性外傷では、前房出血や水晶体脱臼に加え、以下の機序が関与する1):
アルカリや強酸による化学外傷では、炎症による瞳孔ブロックや虹彩前癒着、線維柱帯の炎症・瘢痕化が眼圧上昇の原因となる。放射線外傷では網膜虚血による新生血管緑内障が発生しうる。
起きうる。アルカリや強酸による化学外傷では、炎症に伴う瞳孔ブロック、虹彩前癒着、線維柱帯組織自体の炎症・瘢痕化により眼圧が上昇する。特にアルカリ外傷は眼内深部への浸透性が高く、重度の前眼部障害と続発緑内障を来しやすい。
視力検査、対光反射検査、眼圧測定、細隙灯顕微鏡検査が基本となる。前房出血の量、水晶体の位置異常、虹彩離断の有無を確認する。Seidel試験で角膜穿孔を除外する。
隅角後退、毛様体解離、線維柱帯の亀裂を評価する。ただし再出血のリスクが高い受傷後1〜2週間は避ける。隅角後退は毛様体帯の拡大として観察される1)。
| 検査 | 適応 | 注意点 |
|---|---|---|
| CT | 眼内異物検索 | 金属異物の検出に有用 |
| 超音波生体顕微鏡 | 毛様体解離の評価 | 穿孔性外傷では禁忌 |
| 前眼部OCT | 隅角構造の評価 | 非接触で安全 |
金属異物が疑われる場合、MRIは禁忌である。前房出血で眼底透見不能な場合はBモード超音波検査を行う。
安静(座位またはベッド頭側30〜45度挙上)を基本とする。散瞳薬(アトロピン硫酸塩)点眼で消炎と隅角ストレス軽減を図る。ステロイド点眼と止血薬内服を併用する。
ピロカルピン塩酸塩は絶対的禁忌である。炎症を助長するだけでなく、隅角を開大させ出血増加や再出血を誘発し、悪性緑内障を惹起する危険性がある。
β遮断薬、炭酸脱水酵素阻害薬(点眼・内服)、α2作動薬を用いる。プロスタグランジン関連薬は急性炎症を増強する可能性があるため避ける。高浸透圧薬(マンニトール等)の点滴も考慮する。
以下の場合に外科的前房洗浄を行う:
再出血の可能性が少ない受傷後4日目頃が前房洗浄に適している。
外傷後炎症が鎮静化した状態での眼圧上昇には、線維柱帯の瘢痕化や虹彩前癒着が関与する。複数の眼圧下降薬でコントロール不良な場合は手術適応となる2)。
難治例にはチューブシャント手術(Baerveldt緑内障インプラント、Ahmed緑内障バルブ)の適応を検討する2)。外傷による結膜の癒着・瘢痕化があり、濾過手術は困難なケースが多い。毛様体破壊術も選択肢となる。
Ghost cell緑内障では、眼圧下降薬投与に加え、前房洗浄および硝子体手術でghost cellを除去することが望ましい2)。水晶体偏位や損傷がある場合は水晶体摘出が必要となる。
再出血は受傷後3〜7日目に起きやすい。初回の血塊が退縮・溶解し始める時期に一致する1)。再出血は初回出血より多量となることが多く、合併症リスクも増大するため注意が必要である。安静の維持、散瞳薬投与、抗凝固薬の中止検討が重要である。小児や前房出血が1/3〜1/2を超える場合は入院管理が望ましい。
鈍的外傷により前房圧が急激に上昇すると、毛様体筋の縦走筋と輪状筋の間で裂傷が生じる(隅角後退)1)。この毛様体筋の損傷は線維柱帯のより重度な損傷を示唆する。損傷部位の治癒過程で瘢痕組織が形成され、線維柱帯の房水流出能が慢性的に低下する。180度以上の隅角後退で緑内障リスクが高まり、発症時期は受傷後数年〜10年以上にわたる。
硝子体出血後、赤血球が数週間にわたり硝子体中に停留すると、細胞内容成分が吸収され変性ヘモグロビン(Heinz小体)のみを含む中空の胞体(ghost cell)となる。Ghost cellは正常赤血球に比べ変形能が低下しており、線維柱帯を通過できず閉塞させる2)。前部硝子体面が破壊され硝子体前房間に交通がある場合にghost cellが前房に移動する。前房出血のみではghost cellは形成されない(前房内の高酸素分圧と迅速な循環のため)2)。
外傷による水晶体嚢の破損で水晶体物質が漏出すると、線維柱帯に沈着して眼圧が上昇する(phacolytic glaucoma)。水晶体皮質を貪食したマクロファージによる線維柱帯閉塞が主な機序である。水晶体蛋白に対するIII型アレルギー反応(phacoanaphylactic glaucoma)も発症しうる。
上皮迷入(epithelial downgrowth)は、穿通創を通じて前房内に侵入した上皮細胞が線維柱帯を被覆して房水流出を阻害する1)。鉄錆症(siderosis bulbi)は、鉄含有の眼内異物から溶出した鉄イオンが線維柱帯細胞に毒性を及ぼし、慢性的な房水流出障害を引き起こす1)。
外傷性緑内障は複数の機序が複合的に関与するため、個々の症例に応じた眼圧上昇原因の特定と治療戦略が求められる1)。
隅角後退緑内障の遅発性発症は受傷後10年以上経過してからも起こりうるため、長期的な眼圧モニタリング体制の確立が重要な臨床課題である2)。
今後の課題:
- European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 6th Edition. Br J Ophthalmol. 2025.
- European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 5th Edition. PubliComm. 2020.