マイトマイシンC(MMC)
機序:DNA架橋剤。線維芽細胞増殖を抑制する8)
濃度:0.1〜0.5 mg/mL8)
投与法:スポンジ塗布(1〜5分間)または結膜下注射8)
利点:5-FUより強力。より低い眼圧が得られる
欠点:低眼圧関連合併症のリスクが高い7)

線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)は、分層強膜弁の下から前房への瘻孔を作成し、眼外への房水流出を可能にする濾過手術である。房水は結膜下腔へ流れ込み、結膜の隆起(濾過胞)を形成する。
原発開放隅角緑内障(広義)をはじめ、大部分の緑内障病型に対して最も広く行われている術式である6)。濾過部位の瘢痕化抑制を目的に、代謝拮抗薬であるマイトマイシンC(MMC)または5-フルオロウラシル(5-FU)が術中・術後に使用される6)。
CIGTS(Collaborative Initial Glaucoma Treatment Study)では、初期線維柱帯切除術は初期薬物療法と比較して眼圧下降効果が高く、進行した視野障害を有する患者の視野進行を抑制した7)。
日本人の原発開放隅角緑内障では、点眼薬使用下で眼圧16 mmHg未満を保てる確率は10年で約50〜60%であり、成功例の術後平均眼圧は10 mmHg前後である。
薬物療法やレーザー治療で眼圧コントロールが不十分な場合に適応となる7)。進行した緑内障で低い目標眼圧が必要な症例や、薬剤のアドヒアランスが不良な症例も適応である。正常眼圧緑内障であっても、濾過手術で1桁の眼圧を達成することは視野障害進行速度の抑制に有効である6)。一方、余命が限られている患者や、上方結膜の広範な瘢痕化がある場合は、チューブシャント手術や毛様体破壊術を検討する。
線維柱帯切除術は、薬物療法および適切なレーザー治療で疾患コントロールが不十分な場合に適応となる7)。進行した緑内障では、初回手術として薬物治療より効果的な管理オプションとなりうる8)。
低い眼圧で進行する正常眼圧緑内障に対しても、濾過手術で1桁の眼圧を達成することは視野障害進行の抑制に有効である6)。術後眼圧10 mmHg未満の92%でMD slopeが改善したのに対し、10 mmHg以上では20%のみが改善したとの報告がある6)。
余命が限られている患者や、上方結膜の広範な瘢痕化がある場合は他の術式を検討する。失敗のリスク因子として、過去の眼内手術歴、新生血管緑内障・ぶどう膜炎性緑内障、黒人、若年が挙げられる。
線維柱帯切除術の単独手術と白内障同時手術の比較では、眼圧下降効果は単独手術の方が優れるとする報告がある6)。白内障同時手術による合併症リスクは単独手術と同等である6)。視力改善効果は白内障同時手術群で当然高く、患者満足度に寄与する。益と害のバランスを十分検討した上で併施を決定する6)。
隅角鏡検査を含む詳細な眼科検査が必要である。結膜の瘢痕化、強膜の菲薄化、隅角所見を確認する。出血性疾患の既往や抗凝固薬の使用状況も聴取する。
円蓋部基底は術中操作性が良く濾過胞形態が良好だが、術後早期の濾過胞漏出率が高い。輪部基底は創閉鎖が確実だが、晩期の漏出・感染リスクがある。
マイトマイシンC(MMC)
機序:DNA架橋剤。線維芽細胞増殖を抑制する8)
濃度:0.1〜0.5 mg/mL8)
投与法:スポンジ塗布(1〜5分間)または結膜下注射8)
利点:5-FUより強力。より低い眼圧が得られる
欠点:低眼圧関連合併症のリスクが高い7)
5-フルオロウラシル(5-FU)
機序:ピリミジンアナログ。DNA合成を阻害する
投与法:スポンジ塗布または結膜下注射(50 mg/mL)8)
利点:安価。希釈不要。安全域が広い
欠点:マイトマイシンCより効果が低い。複数回注射が必要な場合がある。角膜毒性の発現率が高い7)
代謝拮抗薬の使用は低眼圧、晩期の濾過胞漏出、晩期感染のリスク増加を伴うため、ベネフィットとリスクを考慮して使用を決定する7)。
抗菌薬点眼を1日3回で2週間行い、ステロイド点眼は漸減しつつ約6か月継続する。術後眼圧が高めの場合はレーザー糸切術や解除可能縫合の抜糸で濾過量を調整する6)。術後のニードリングに5-FUやマイトマイシンCを併用することで、不全濾過胞の再建も可能である7)。
マイトマイシンCは5-FUより強力で、より低い眼圧を達成できるが、低眼圧関連合併症のリスクが高い7)。5-FUは安価で安全域が広いが、効果はマイトマイシンCに劣る。現在はマイトマイシンCの術中使用が主流であるが、術後の濾過胞管理には5-FUの結膜下注射が用いられることもある8)。患者の瘢痕化リスク(若年、有色人種、炎症既往など)を考慮して選択する。
| 合併症 | 頻度 | 備考 |
|---|---|---|
| 浅前房・前房消失 | 10〜13% | 粘弾性物質注入を検討 |
| 脈絡膜滲出 | 11〜13% | 低眼圧が遷延すれば介入 |
| 前房出血 | 8〜10% | 通常自然吸収 |
| 創部漏出 | 6〜11% | 圧迫眼帯・縫合で対処 |
濾過胞漏出(5%)、低眼圧黄斑症(4%)、眼内炎・濾過胞炎(3%)が代表的である。日本人におけるマイトマイシンC併用線維柱帯切除術後の晩期感染症の発症確率は5年で2.2%であった6)。白内障の進行促進も報告されている8)。
低眼圧が持続する場合、経結膜的強膜弁縫合は低眼圧黄斑症に対し長期にわたる有効性が示されている6)。自己血の濾過胞内注入も低眼圧の改善に有効だが、急激な眼圧上昇を来すこともある6)。
経過とともに濾過胞が縮小し眼圧が再上昇する場合、代謝拮抗薬併用のニードリングが有効である6)。被嚢濾過胞(encapsulated bleb)は線維柱帯切除術後の約13%に生じ、眼圧上昇の原因となる6)。
帯状疱疹後の急性濾過胞不全:Kandarakisらは、線維柱帯切除術13か月後に帯状疱疹性眼症(HZO)を発症し、3日以内に濾過胞が平坦化して眼圧が上昇した症例を報告した2)。抗ウイルス薬とステロイド治療にもかかわらず1週間以内に濾過胞は完全に不全となった2)。
Valsalva手技による強膜弁創離:Gur Gungorらは、マイトマイシンC併用線維柱帯切除術5.5年後にValsalva手技で強膜弁の創離を来し、低眼圧黄斑症を発症した31歳女性を報告した5)。心膜パッチ移植で修復された5)。
前房が深い場合は、瘻孔の閉塞または強膜弁からの流出不全が疑われる。レーザー糸切術や解除可能縫合の抜糸で濾過量を増やす。虹彩による瘻孔閉塞にはアルゴンレーザーを用いる。前房が浅い場合は、脈絡膜上腔出血、瞳孔ブロック、悪性緑内障を鑑別する。眼圧を薬物で管理しつつ原因に応じた治療を行う6)。
線維柱帯切除術は、強角膜輪部に小孔を形成し、前房と結膜下組織の間に新たな房水流出路を作成する手術である6)。線維柱帯の房水流出抵抗を迂回し、結膜下腔への直接的な排出経路を確保する。
濾過胞に到達した房水は、①結膜を介した涙液層への濾過、②結膜血管・血管周囲組織による吸収、③リンパ管への流入、④房水静脈を介した排出——などの経路で処理される。
強膜弁を作成せずに強膜を全層切除する全層濾過手術では、術後早期の低眼圧による合併症が顕著であった。強膜弁を作成する線維柱帯切除術は、縫合の本数と張力で濾過量を調整でき、低眼圧合併症を回避できる。術後にレーザー糸切術で段階的に濾過量を増やすことが可能である6)。
マイトマイシンCはDNA架橋剤として線維芽細胞の増殖を非選択的に抑制する8)。5-FUはピリミジンアナログとしてDNA合成を阻害する。いずれも濾過部位の瘢痕化を抑制し、濾過胞の長期維持に寄与する。代謝拮抗薬の広範な塗布面積と円蓋部基底結膜弁の併用が、薄い嚢胞性濾過胞の発生を最小限にする8)。
Fangらは、マイトマイシンC併用増強型線維柱帯切除術を施行した206眼の視野変化を後ろ向きに検討した1)。平均眼圧は22.7 mmHgから10.4 mmHgへ50.2%低下し、84.5%が術後24か月で薬剤不要となった1)。
視野については、17%が改善、37.4%が安定、45.6%が悪化を示した1)。術前MD値が-12 dBまでの症例では視野改善・安定率が高く、-24 dBを超える進行例では悪化率が高かった1)。この結果は、視野障害がMD -12 dB未満の段階での早期手術介入の重要性を示唆する1)。
SWS児のSRD消失
報告:Barbosaら(2021)3)
症例:Sturge-Weber症候群の10歳児。線維柱帯切除術による眼圧正常化後、漿液性網膜剥離が2か月で完全消失した3)
Phaco後の自然濾過胞再形成
報告:Chanbourら(2021)4)
症例:不全濾過胞を有する79歳女性。白内障手術中の高眼圧が強膜弁を再開通させ、自然に濾過胞が再形成された4)
TVT study(5年成績)では、線維柱帯切除術とBaerveldt緑内障インプラント術の眼圧コントロールに有意差はなかった6)。ただし累積失敗率は線維柱帯切除術群(46.9%)がチューブシャント群(29.8%)より有意に高かった6)。合併症の内容は両群で異なり、濾過胞漏出・低眼圧黄斑症・感染は線維柱帯切除術に多く、角膜内皮障害・チューブ露出はチューブシャント手術に多かった6)。
今後の課題:
Fangらの206眼の後ろ向き研究では、術前MD値が-12 dBまでの軽度〜中等度障害例で視野改善・安定率が高かった1)。Moorfields Primary Therapy Trialでも初期線維柱帯切除術群は5年間で視野悪化を認めなかった7)。低い眼圧で進行する正常眼圧緑内障でも、濾過手術で1桁の眼圧を達成することが視野維持に有効である6)。適切な症例選択のもとでの早期手術介入は視野維持に寄与すると考えられる。
- Fang CE, Khaw PT, Bloom PA, et al. Visual field changes after augmented trabeculectomy with mitomycin C for glaucoma. Clin Ophthalmol. 2023;17:2171-2183.
- Kandarakis SA, Karampelas M, Soumplis V, et al. Acute trabeculectomy failure following herpes zoster ophthalmicus. Ther Adv Ophthalmol. 2021;13:25158414211022461.
- Barbosa RS, Salgado CM, Salgado RS, et al. Serous retinal detachment resolution after trabeculectomy in Sturge-Weber syndrome. J Glaucoma. 2021;30:e325-e328.
- Chanbour W, Hanna C, Chedid J. Spontaneous bleb reformation after phacoemulsification in a patient with previously failed trabeculectomy. BMC Ophthalmol. 2021;21:321.
- Gur Gungor S, Ceylan OM, Gul A, et al. Scleral flap wound dehiscence with Valsalva maneuver years after trabeculectomy with mitomycin C. Case Rep Ophthalmol Med. 2022;2022:8534641.
- 日本緑内障学会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126:85-177.
- American Academy of Ophthalmology. Primary Open-Angle Glaucoma Preferred Practice Pattern®. 2020.
- European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 6th Edition. Br J Ophthalmol. 2025.