iStent(Glaukos社)
第1世代:スノーケル型チタン製デバイス(1.0×0.33 mm、ルーメン径120 µm)。ヘパリンコーティング。2012年FDA承認5)
第2世代(iStent inject):円錐型ステント2本を内蔵。頭部に50 µmの開口4つ。2018年FDA承認5)
iStent inject W:フランジがさらに拡大された改良型2)

線維柱帯バイパスステントは、低侵襲緑内障手術(MIGS: minimally invasive glaucoma surgery)に分類される手術手技の一つである5)。MIGSはab interno(眼内から)アプローチで行われ、結膜を切開せず、組織への侵襲を最小限に抑える5)。
開放隅角緑内障では、線維柱帯レベルでの房水流出抵抗が増大している。線維柱帯バイパスステントは、機能不全に陥った線維柱帯を貫通し、前房からシュレム管へ房水の直接的な排出経路を確保する6)。これにより、線維柱帯の抵抗を迂回して房水流出を促進し、眼圧を下降させる。
MIGSは従来の緑内障手術(線維柱帯切除術やチューブシャント手術)と比較して安全性が高いが、眼圧下降効果はやや劣る5)。安全性と有効性のトレードオフが存在し、進行例には従来手術が適応となる。
MIGS(minimally invasive glaucoma surgery)は、低侵襲緑内障手術の総称である。ab internoアプローチで結膜を温存し、組織への操作を最小限に抑える5)。線維柱帯バイパスステント(iStent、Hydrus)のほか、線維柱帯切開術(Trabectome、隅角鏡下線維柱帯切開術)やカナロプラスティなどが含まれる。従来の濾過手術に比べ合併症リスクが低く、視力回復が早いが、眼圧下降効果は控えめであるため、軽度〜中等度の緑内障が主な適応となる5)。
iStent(Glaukos社)
第1世代:スノーケル型チタン製デバイス(1.0×0.33 mm、ルーメン径120 µm)。ヘパリンコーティング。2012年FDA承認5)
第2世代(iStent inject):円錐型ステント2本を内蔵。頭部に50 µmの開口4つ。2018年FDA承認5)
iStent inject W:フランジがさらに拡大された改良型2)
Hydrusマイクロステント(Alcon社)
構造:長さ8 mmの三日月型ニチノール(ニッケルチタン合金)製スキャフォールド。シュレム管の約3時間(90度)を占有6)
特徴:シュレム管を自然幅の4〜5倍に拡張し、虚脱を防止する。超弾性により変形後も復元する
iStentおよびHydrusは、局所降圧薬で治療中の軽度〜中等度開放隅角緑内障を有する成人に対し、白内障手術との併用で承認されている5)。原発開放隅角緑内障のほか、色素緑内障や偽落屑緑内障にも使用される1)。
閉塞隅角や新生血管緑内障では禁忌である。強膜上静脈圧が上昇する疾患(甲状腺眼症、スタージ・ウェーバー症候群等)への使用も推奨されない。
iStentはチタン製の小型ステントで、シュレム管の1か所にポイント的にバイパスを作成する5)。Hydrusは8 mmのニチノール製スキャフォールドで、シュレム管の約90度(3時間分)にわたり管を拡張・支持する6)。Hydrusはより広範囲のシュレム管をカバーするため、より多くの集合管開口部へのアクセスが期待される。COMPARE試験ではHydrusがiStentより優れた眼圧下降を示した5)。
隅角鏡検査を含む緑内障精査が必要である。隅角の開放度、周辺虹彩前癒着(PAS)の有無、新生血管の確認を行う。線維柱帯の色素沈着部位の近くに集合管が存在するとのエビデンスがあり、ステント挿入位置の参考となる。
白内障手術と同一の透明角膜切開を利用する。術中隅角鏡(Swan-Jacob型等)を用いて鼻側隅角を可視化し、プリロードされたインサーターで線維柱帯を介してシュレム管にステントを挿入する1)。第2世代(iStent inject)では線維柱帯に垂直に穿刺し、2本のステントを順次留置する5)。
挿入は白内障手術の前後いずれでも可能である。術前挿入は角膜浮腫が少なく視野が良好であり、術後挿入は隅角が深くなりアクセスが向上する。
1.5 mmの透明角膜切開からプリロードされたインサーターを挿入する。カニューレ先端を線維柱帯からシュレム管に進入させ、トラッキングホイールでマイクロステントを展開する。
局所抗菌薬と抗炎症薬(ステロイド・NSAID)を使用する1)。緑内障点眼薬はステントの有効性評価のため一時休止する場合がある。術後の眼圧に応じて点眼薬の再開・中止を判断する。
| 合併症 | 頻度 | 備考 |
|---|---|---|
| 前房出血 | 2〜4% | 通常1週間以内に消失 |
| ステント位置異常 | 3〜17% | 再配置を要する場合あり |
| 一過性眼圧上昇 | 報告あり | 数日以内に安定 |
前房出血は多くの場合、ステントを通じたシュレム管からの血液逆流であり、遠位流出路の疎通性を示す兆候とも考えられる1)。
Kozera らの78眼を対象とした前向き症例集積研究では、iStent植え込み+白内障手術において重篤な術中合併症は認められなかった1)。術後早期に微小前房出血と角膜浮腫が7眼で観察されたが、いずれも1週間以内に消失した1)。
UGH症候群:iStent植え込み後にぶどう膜炎・緑内障・前房出血を反復する症候群が報告されている4)。偽落屑症候群による毛様小帯脆弱化と夜間の体位変換が虹彩とステントの接触を促し、微小外傷を引き起こす機序が推定された4)。ステント除去により症状は消失した4)。
眼内炎:iStent inject併用の白内障手術後に表皮ブドウ球菌による急性眼内炎が報告された3)。硝子体タップと抗菌薬硝子体内注射で治療され、ステント除去なしに視力20/20まで回復した3)。MIGSを併用した白内障手術は白内障手術単独と比較して眼内炎リスクが約3倍とされる(0.12% vs 0.04%)3)。
デバイス不具合:iStent inject W手術中にトロカーシャフトの破損により2本のステントが連結して射出された症例が報告された2)。別のインジェクターで再留置に成功した。ステント射出不良時はデバイスの点検が推奨される2)。
Hydrusでは白内障手術単独と比較してやや多い角膜内皮細胞減少が報告されている(24か月でベースラインから-14% vs -10%)。この減少は主に術後3か月以内に生じる。
術直後の前房出血の多くはシュレム管からの血液逆流であり、遠位流出路が機能していることを示す良好な兆候である場合もある。通常は1週間以内に自然吸収され、追加治療を要しない。ただし、持続・反復する前房出血ではステントの位置異常や虹彩との接触(UGH症候群)を疑い、隅角鏡検査や前眼部OCTで評価する4)。体位変換に伴う反復性前房出血の場合はステント除去を検討する4)。
開放隅角緑内障では、線維柱帯の細胞外マトリックスの変化により房水流出抵抗が増大する1)。正常な房水排出経路は、前房→線維柱帯→シュレム管→集合管→強膜上静脈である。この経路の抵抗は主に線維柱帯とシュレム管内壁に存在する。
iStentは線維柱帯を貫通してシュレム管内にルーメンを留置することで、線維柱帯の抵抗を迂回する直接的な排出路を確保する6)。Hydrusはシュレム管の約3時間分をスキャフォールドで拡張し、管腔の虚脱を防止することで、より広範囲の集合管開口部への房水アクセスを改善する6)。
線維柱帯バイパスステントの眼圧下降効果は、集合管以降の遠位流出路の抵抗と強膜上静脈圧(EVP)により制限される5)。EVPは通常6〜9 mmHgであり、これが理論上の眼圧下降の下限となる。
白内障手術自体が線維柱帯の微細構造変化や隅角構造の拡大を通じて眼圧を下降させることが知られている。水晶体乳化吸引術時の超音波エネルギーと炎症が線維柱帯のリモデリングを誘導する。ステント留置と白内障手術を併用することで、相加的な眼圧下降が得られる1)。
Kozemらの前向き症例集積研究(78眼、ポーランド人集団)では、iStent+白内障手術により24か月で平均眼圧が18.5 mmHgから16.1 mmHg(-2.7 mmHg)に低下し、平均点眼薬数は1.8剤から0.4剤に減少した1)。68%の眼が薬剤不要となった1)。Kaplan-Meier法による24か月での完全成功率(IOP ≤15 mmHg・薬剤なし)は35.1%、適格成功率(IOP ≤15 mmHg・薬剤使用問わず)は51.9%であった1)。
HORIZON試験ではHydrus+白内障手術の長期成績が報告されており、白内障手術単独と比較して有意な眼圧下降と薬剤削減が確認されている5)。
今後の課題:
- Kozera M, Konopinska J, Mariak Z, Rekas M. Treatment of open-angle glaucoma with iStent implantation combined with phacoemulsification in Polish Caucasian population. Clin Ophthalmol. 2021;15:473-480.
- Shimada A, Ichioka S, Ishida A, Kaidzu S, Tanito M. A case of two connected stents deployed during iStent inject W surgery. BMC Ophthalmol. 2023;23:206.
- Huang J, Nguyen MT, Tsukikawa M, Chen A. Postoperative endophthalmitis after combined cataract extraction and iStent inject implantation. Case Rep Ophthalmol Med. 2023;2023:3132866.
- Siedlecki A, Kinariwala B, Sieminski S. Uveitis-glaucoma-hyphema syndrome following iStent implantation. Case Rep Ophthalmol. 2022;13:82-88.
- American Academy of Ophthalmology. Primary Open-Angle Glaucoma Preferred Practice Pattern®. 2020.
- European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 6th Edition. Br J Ophthalmol. 2025.