ドルゾラミド塩酸塩(トルソプト®)
濃度:0.5%・1%・2%点眼液
点眼回数:単独使用時1日3回、併用時1日2回6)
特徴:眼内移行性を高めるため粘弾性剤を添加。点眼時の刺激感(しみる)が特徴的である
主な副作用:眼刺激症状、結膜充血、苦味5)

炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)は毛様体無色素上皮に存在する炭酸脱水酵素アイソザイムIIを阻害し、房水産生を抑制することで眼圧を下降させる薬剤である4)5)。
内服CAI(アセタゾラミド)は1950年代から眼圧下降薬として使用されてきたが、倦怠感・知覚異常・代謝性アシドーシス・腎結石など多くの全身副作用が問題であった5)。点眼用CAIは角膜透過性を確保しつつ全身副作用を大幅に軽減した製剤として開発された。
現在の点眼用CAIにはドルゾラミド塩酸塩(トルソプト®)とブリンゾラミド(エイゾプト®)の2剤がある6)。単剤使用のほか、β遮断薬やプロスタグランジン関連薬との併用で相加的な眼圧下降が得られる。
| 製剤 | 濃度 | 点眼回数 |
|---|---|---|
| ドルゾラミド | 0.5〜2% | 1日2〜3回 |
| ブリンゾラミド | 1% | 1日2回 |
内服CAI(アセタゾラミド)は30〜40%の強力な眼圧下降効果を持つが、全身副作用(知覚異常、倦怠感、腎結石、代謝性アシドーシス、血液障害等)の頻度が高く、長期継続には向かない5)。点眼用CAI(ドルゾラミド、ブリンゾラミド)は眼圧下降率15〜20%と内服より弱いが、全身副作用が大幅に軽減されており長期使用が可能である4)5)。内服は緊急避難的な眼圧下降に限定し、長期管理には点眼薬を用いるのが原則である。
点眼用CAIの主な適応は原発開放隅角緑内障(POAG)および高眼圧症である。炎症性緑内障においても房水産生抑制薬として使用される。
緑内障薬物療法ではプロスタグランジン関連薬が第一選択、β遮断薬が第二選択として使用されることが多い6)。CAI点眼薬は第二選択薬群に位置づけられ、単剤で効果不十分な場合の併用薬として追加される4)6)。
多剤併用時には配合点眼薬がアドヒアランス向上に有用である6)。点眼薬1剤での効果が不十分な場合は薬剤の変更をまず考慮し、単剤治療を目指す。それでも不十分な場合に多剤併用療法(配合点眼薬を含む)を行う6)。
| 配合 | 商品名 | 点眼回数 |
|---|---|---|
| ドルゾラミド+チモロール | コソプト® | 1日2回 |
| ブリンゾラミド+チモロール | アゾルガ® | 1日2回 |
ドルゾラミド塩酸塩(トルソプト®)
濃度:0.5%・1%・2%点眼液
点眼回数:単独使用時1日3回、併用時1日2回6)
特徴:眼内移行性を高めるため粘弾性剤を添加。点眼時の刺激感(しみる)が特徴的である
主な副作用:眼刺激症状、結膜充血、苦味5)
ブリンゾラミド(エイゾプト®)
濃度:1%懸濁性点眼液
点眼回数:1日2回6)
特徴:懸濁液のため点眼後に霧視が生じる。他剤併用時は最後に点眼する
主な副作用:霧視、異物感、味覚倒錯5)
眼局所副作用:灼熱感・刺激感、苦味(金属味)、表層角膜炎(SPK)、霧視、結膜充血、アレルギー性結膜炎・皮膚炎、角膜浮腫4)5)
全身副作用:頻度は低いが頭痛、蕁麻疹、血管浮腫、知覚異常、一過性近視が報告されている5)。少量の薬剤が全身循環に到達するため、稀に血小板減少症の報告もある。
禁忌:スルホンアミドアレルギー、重篤な腎障害6)
慎重投与:角膜内皮細胞数が低い患者(角膜浮腫のリスク増大)5)、肝機能障害6)
角膜内皮細胞数が低い患者では、CAI点眼薬により角膜浮腫のリスクが増大する5)。日本の緑内障診療ガイドラインでも高度の角膜内皮障害は慎重投与の対象としている6)。角膜内皮機能が著しく低下している症例(Fuchs角膜内皮ジストロフィー等)では、他の緑内障薬への変更を検討すべきである。
房水は毛様体無色素上皮から分泌される。この過程で炭酸脱水酵素II(CA-II)が重要な役割を担う5)。CA-IIは二酸化炭素(CO2)の水和反応を触媒し、炭酸(H2CO3)を生成する。炭酸は重炭酸イオン(HCO3-)と水素イオン(H+)に解離する。
重炭酸イオンの形成はナトリウムイオン(Na+)の能動輸送に必要なpH環境を調節し、体液輸送を促進する。CAIがCA-IIを阻害すると重炭酸イオンの生成が減少し、その結果としてイオン輸送と房水分泌が抑制され眼圧が低下する4)5)。
CAIは組織のCO2濃度上昇またはpH低下を介して血管拡張を引き起こし、眼血流を改善するとの仮説がある。複数の小規模前向き試験で点眼用CAIが網膜・脈絡膜・後眼球循環の灌流パラメータを改善させることが示唆されている。この作用は緑内障性視神経症における血管因子への介入として注目されている。
両剤とも同じCA-IIを標的とするが、製剤特性が異なる。ドルゾラミドは水溶液で角膜透過性向上のため粘弾性剤を添加しており、点眼時のpHがやや低いため刺激感を生じやすい。ブリンゾラミドは中性pHの懸濁液であり刺激は少ないが、懸濁粒子による霧視が特徴的である。夜間も含めた24時間の眼圧下降効果が得られる点は両剤に共通する。
チモロール・ドルゾラミド・ブリモニジンの3剤配合点眼薬にラタノプロストを追加した4剤レジメン(TDB-L)と、チモロール・ドルゾラミドの2剤配合にラタノプロストを追加した3剤レジメン(TD-L)を比較したランダム化二重盲検第IV相試験が報告された1)。
原発開放隅角緑内障患者47眼を対象とし、60日間の追跡で以下の結果が得られた1):
TDB-L群(4剤)
ベースライン眼圧:20.1 ± 1.6 mmHg
60日後眼圧:14.0 ± 2.2 mmHg
眼圧下降量:6.3 mmHg(p < 0.0001)
TD-L群(3剤)
ベースライン眼圧:20.8 ± 1.8 mmHg
60日後眼圧:16.8 ± 2.0 mmHg
眼圧下降量:4.5 mmHg(p < 0.0001)
60日時点でTDB-L群はTD-L群より有意に低い眼圧を達成した(群間差 p = 0.042)1)。両群とも忍容性は良好であり、薬剤関連の有害事象は認められなかった1)。
CAIの黄斑疾患への応用が注目されている。近視眼のドーム状黄斑に伴う両側黄斑嚢胞が、ドルゾラミド1日3回点眼で4か月後に完全消退した症例が報告された2)。タキサン系抗癌剤(nab-パクリタキセル)による嚢胞様黄斑浮腫が、薬剤中止とドルゾラミド点眼の併用で5〜10週以内に改善した2症例も報告されている3)。
CAIが黄斑浮腫を改善する機序として、網膜色素上皮基底側膜の膜結合型炭酸脱水酵素の阻害による網膜下pHの低下と、網膜下液・網膜内液の再吸収促進が推測されている3)。
今後の課題:
配合剤(ドルゾラミド+チモロール:コソプト®等)は、1本の点眼容器に2成分を含有することで点眼薬の本数と点眼回数を減らし、アドヒアランスの向上に寄与する6)。薬剤費の削減、点眼間隔管理の簡便化、洗い流し(ウォッシュアウト)リスクの低減も利点である1)。ただし作用点が同じ薬剤(例: 2種類のCAI)の併用は避け、異なる作用機序の薬剤を組み合わせる必要がある6)。
- Olvera-Montaño O, Mejia-Morales C, Jauregui-Franco RO, et al. Maximum Tolerated Medical Therapy for Glaucoma: Fixed-Dose Combinations of Timolol, Dorzolamide, Brimonidine with Latanoprost Versus Timolol, Dorzolamide with Latanoprost. Clin Ophthalmol. 2025;19:2913-2925.
- Vukkadala T, Gowdar Kuberappa R, Azad SV, et al. Resolution of bilateral foveal cysts in dome-shaped macula after treatment with topical dorzolamide. BMJ Case Rep. 2021;14:e237868.
- Otsubo M, Kinouchi R, Kamiya T, et al. Regression of taxane-related cystoid macular edema after topical dorzolamide treatment: two case reports. J Med Case Reports. 2021;15:355.
- American Academy of Ophthalmology. Primary Open-Angle Glaucoma Preferred Practice Pattern®. 2020.
- European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 6th Edition. Br J Ophthalmol. 2025.
- 日本緑内障学会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126(2):85-177.