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緑内障

屈折矯正手術後の眼圧測定

1. 屈折矯正手術後の眼圧測定とは

Section titled “1. 屈折矯正手術後の眼圧測定とは”

屈折矯正手術(LASIK・PRK・RK・SMILE等)は角膜の厚さと生体力学的特性を変化させる。この変化により圧平眼圧計による眼圧測定値が実際の眼圧より低くなる1)

緑内障は屈折矯正手術後の長期経過で問題となりうる疾患である。術後の眼圧過小評価は緑内障の診断遅延や治療効果の過大評価につながるため、適切な眼圧測定法の選択が臨床上重要である2)

術後の屈折矯正手術歴を有する患者では、ステロイド誘発性の眼圧上昇も考慮が必要である。LASIK後の点眼ステロイド使用により眼圧が上昇しても、角膜菲薄化のため測定値が正常範囲内にとどまり見逃される危険がある2)

術式角膜への影響眼圧測定への影響
LASIK実質切除+フラップ過小評価(大)
PRK表層切除過小評価(中〜大)
RK放射状切開過小評価(変動大)
Q 屈折矯正手術後に眼圧が低く測定されるのはなぜですか?
A

屈折矯正手術では近視矯正のために角膜実質を切除するため、中心角膜厚(CCT)が減少する。Goldmann圧平眼圧計は中心角膜厚 520 μmを基準に設計されており、角膜が薄くなると圧平に要する力が減少し、眼圧が過小評価される1)。さらにLASIKではフラップ作成により角膜の構造的強度が低下し、生体力学的特性も変化するため、中心角膜厚の変化だけでは説明できない測定誤差が生じる。

3. 眼圧過小評価の原因とリスク要因

Section titled “3. 眼圧過小評価の原因とリスク要因”

屈折矯正手術の主たる眼圧測定誤差の原因は角膜実質の切除による菲薄化である。角膜切除量10 μmあたり約0.3〜0.4 mmHgの眼圧過小評価が生じるとされる。高度近視矯正では切除量が多く、過小評価の程度も大きくなる。

中心角膜厚の変化だけでなく、角膜の粘弾性特性(角膜ヒステリシス:CH)も術後に変化する。LASIKではフラップ作成とエキシマレーザー照射の両方が角膜の生体力学に影響する1)。CHの低下は圧平眼圧測定のさらなる誤差要因となる。

放射状角膜切開術(RK)後は角膜周辺部の切開瘢痕により角膜中央部が扁平化する。角膜曲率の変化に加え、日内変動が大きくなる特徴がある。RK後の角膜は温度変化にも敏感であり、朝は角膜が膨隆し日中に扁平化するため眼圧測定値も大きく変動する。

LASIK後に処方される点眼ステロイドにより眼圧が上昇することがある2)。角膜菲薄化による過小評価と眼圧上昇が相殺されると、測定値が正常範囲内にとどまり眼圧上昇が見逃される2)。吸引リングの使用も一過性の眼圧上昇を引き起こす2)

屈折矯正手術後の界面液貯留を示す前眼部所見
屈折矯正手術後の界面液貯留を示す前眼部所見
Tarannum Mansoori. Bilateral interface fluid syndrome and glaucoma progression after laser-assisted in situ keratomileusis. Oman Journal of Ophthalmology. 2023 Mar 27. Figure 1. PMCID: PMC10433060. License: CC BY.
LASIK 後の界面液貯留を前眼部写真と断面像で示している。屈折矯正手術後は眼圧評価が難しくなることを理解する補助画像として有用である。

Goldmann圧平眼圧計(GAT):臨床のゴールドスタンダードであるが、角膜の厚さと生体力学的特性の影響を受ける1)。屈折矯正手術後は眼圧を過小評価するため、測定値の解釈に注意が必要である1)2)

非接触型眼圧計(NCT):空気噴射で角膜を圧平する方式であり、GATと同様に術後は過小評価する。短時間で角膜を変形させるため、角膜生体力学の影響がGATより大きい1)

中心角膜厚の影響を受けにくい眼圧計

Section titled “中心角膜厚の影響を受けにくい眼圧計”

動的輪郭眼圧計(DCT)

原理:角膜の曲率に一致する輪郭を持つセンサーチップで直接眼圧を測定する

術後精度:中心角膜厚や角膜曲率の影響を最小限に抑えた測定が可能であり、屈折矯正手術後の眼圧測定に推奨される1)

限界:GATより高値を示す傾向がある。測定にやや習熟が必要である

ORA(IOPcc)

原理:角膜ヒステリシスを利用して角膜特性を補正した眼圧(IOPcc)を算出する

術後精度:IOPccは屈折矯正手術後にGATより正確な眼圧推定を提供するとされる1)

限界:高眼圧域でGATより過大評価する傾向がある。波形品質の確認が重要である

Tonopen:先端の圧トランスデューサーで測定するポータブル眼圧計である。LASIK後の眼圧測定においてGATより信頼性が高いとする報告がある。ただし眼圧上昇眼の見逃しリスクがあり、単独での使用は推奨されない。

iCare反跳式眼圧計:点眼麻酔不要で測定可能である。中心角膜厚の影響を受けるがGATより影響は小さいとする報告がある。

眼圧計術後の信頼性中心角膜厚の影響
GAT低い(過小評価)大きい
DCT高い最小限
ORA IOPcc良好補正あり
Q 屈折矯正手術後の眼圧測定にはどの眼圧計が最も適していますか?
A

動的輪郭眼圧計(DCT)が角膜特性の影響を最も受けにくく、屈折矯正手術後の眼圧測定に推奨される1)。ORAのIOPccも角膜ヒステリシスを利用した補正により術後眼圧の推定に有用である1)。しかし単一の眼圧計のみに依存せず、可能であれば複数の測定法を組み合わせて総合的に評価することが望ましい。術前の中心角膜厚およびIOP記録との比較も重要である2)

GATはインベルト・フィックの法則に基づき、角膜を直径3.06 mmにわたり圧平するのに必要な力から眼圧を算出する1)。この法則は角膜が理想的な薄い膜であると仮定しているが、実際の角膜には厚さ・剛性・粘弾性がある。屈折矯正手術で角膜が薄くなると圧平に必要な力が減少し、眼圧が過小評価される。

角膜実質はコラーゲン線維と基質(グリコサミノグリカン・プロテオグリカン)から構成される粘弾性体である。エキシマレーザーによる切除はコラーゲンラメラの数を減少させ、角膜の弾性を低下させる1)。LASIKのフラップ作成はさらに角膜前面のボーマン膜を切断し、構造的強度を損なう。

角膜浮腫(病的に厚い角膜)では組織の含水量増加により角膜が軟化し、GATで眼圧が過小評価される1)。一方、生理的に厚い角膜ではGATで過大評価される。屈折矯正手術後の角膜は菲薄化と生体力学的変化の両方が関与するため、中心角膜厚の変化量のみから測定誤差を予測することは困難である。

LASIK後に特有の合併症としてinterface fluid syndrome(IFS)がある。フラップ界面に液体が貯留する状態であり、ステロイド誘発性の眼圧上昇やぶどう膜炎に伴って発症する。フラップが液体で挙上されるため、GATでは眼圧が正常〜低値を示すが、実際には著明な眼圧上昇を伴っている場合がある。

IFSが疑われる場合は前眼部OCTやスリットランプによるフラップ界面の観察が重要である。緊急の眼圧下降治療を要する場合がある。

Q Interface fluid syndromeとは何ですか?
A

Interface fluid syndrome(IFS)はLASIK後のフラップ界面に液体が貯留する病態である。主な原因はステロイド誘発性の眼圧上昇であり、フラップが液体で挙上されるためGATでは見かけ上正常な眼圧値を示す。しかし実際には眼圧が著明に上昇していることがあり、視神経障害のリスクがある。前眼部OCTでの界面液体の検出と、ステロイド中止を含む眼圧下降治療が必要である。

角膜生体力学を考慮した眼圧測定法の開発が進んでいる。Corvis STは高速Scheimpflugカメラで空気噴流による角膜変形を動画記録し、多数の生体力学パラメータを算出する1)。屈折矯正手術後の角膜変形パターンの解析による、より正確な眼圧推定への応用が期待される。

SMILE(small incision lenticule extraction)はフラップ作成を伴わないため、LASIKと比較して角膜生体力学への影響が小さいとされる。SMILE後の眼圧測定精度に関する研究も蓄積されつつある。

今後の課題:

  • 屈折矯正手術後に適用可能な眼圧補正アルゴリズムの開発
  • 術式別(LASIK・PRK・SMILE・RK)の眼圧測定誤差の体系的評価
  • 持続的IOPモニタリングデバイスの屈折矯正手術後眼への応用
  • 角膜生体力学パラメータを統合した新しい眼圧測定法の確立
  1. European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 6th Edition. Br J Ophthalmol. 2025.
  1. American Academy of Ophthalmology. Primary Open-Angle Glaucoma Preferred Practice Pattern®. 2020.

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