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緑内障

眼圧測定の信頼性

眼圧(IOP)は緑内障において唯一の直接修正可能なリスク因子であり、すべての治療的介入の標的となる。眼圧測定は緑内障の検出・進行評価・治療効果判定の基盤を成す。

しかし、眼圧測定値の信頼性にはさまざまな限界がある。検者間・検者内のばらつき、測定機器の原理的制約、角膜パラメータの影響、さらに眼圧そのものの生理的変動が測定精度に影響する。臨床医はこれらの限界を認識したうえで、複数の測定値と臨床所見を総合的に判断する必要がある。

測定法信頼性特徴
Goldmann圧平ゴールドスタンダード中心角膜厚の影響を受ける
非接触型中程度高眼圧で過小評価
iCare反跳式良好点眼麻酔不要
Q 眼圧測定のゴールドスタンダードは何ですか?
A

Goldmann圧平眼圧計が臨床的に最も精度が高く、緑内障診療において標準的に使用されている1)。直径3.06 mmの角膜面を圧平するのに必要な力を測定し、インベルト・フィックの法則に基づいて眼圧を算出する。ただし中心角膜厚(CCT)の影響を受けるため、測定値の解釈には角膜パラメータの考慮が必要である。

眼圧は常に一定ではなく、日内変動(diurnal variation)を示す。緑内障患者の約3分の2は通常の診療時間外、特に夜間・睡眠期に最高眼圧値を示す。24時間で10 mmHg以上の変動が生じることもあるため、通常の外来受診時の単回測定では眼圧変動を正確に把握できない可能性がある。

季節変動も報告されており、冬の平均眼圧は夏より有意に高いとされる。正常眼圧緑内障でも20年間にわたる追跡で明確な季節パターンが確認されている。

糖尿病:HbA1c高値の糖尿病患者は健常者より眼圧が高い

ステロイド:副腎皮質ステロイドの長期使用で眼圧上昇。使用者の2.8%が緑内障に移行する

薬剤:抗うつ薬(フルオキセチンなど)の単回投与でも眼圧が上昇しうる

喫煙:現在および過去の喫煙歴が眼圧上昇と関連する

体位変換:仰臥位では座位より眼圧が上昇する。睡眠中の眼圧上昇は見逃されやすい

Goldmann圧平眼圧計

原理:インベルト・フィックの法則に基づき、角膜を直径3.06 mmにわたり圧平する力から眼圧を算出する

精度:緑内障診療のゴールドスタンダードである1)。臨床的に最も精度が高い

限界:中心角膜厚が520 μmを基準に設計されており、角膜厚による測定誤差が生じる。検者内信頼性1.5±1.96 mmHg、検者間信頼性1.79±2.41 mmHg

Perkins圧平眼圧計

原理:Goldmannと同一の圧平プリズムを使用する手持ち式眼圧計である1)

利点:携帯性に優れ、細隙灯なしで使用可能。仰臥位での測定も可能

限界:測定原理はGoldmannと同じであり、中心角膜厚の影響を同様に受ける

2人の熟練した緑内障専門医による連続測定でも17%の眼で2 mmHg以上の差が生じ、技師では25%に不一致が見られる。個々の眼圧測定は機器の信頼性だけで3 mmHg以上の変動が生じうる。

噴射された空気で角膜を圧平して眼圧を測定する1)。測定手技が簡便であるが脈波の影響を受けやすく、3回以上の繰り返し測定が必要である1)低眼圧域では過大評価、高眼圧域では過小評価する傾向がある。

オキュラー・レスポンス・アナライザー(ORA) は角膜ヒステリシス(CH)と眼圧を同時に測定できる非接触眼圧計である。CHの測定により中心角膜厚の影響を補正したIOPを算出する。Goldmann圧平法と比較して眼圧を過大評価する傾向があり、眼圧が高いほど過大評価の程度が増す。

座位でも仰臥位でも測定可能なポータブル眼圧計で、先端の圧トランスデューサーで眼圧を測定する1)。中心角膜厚の影響を受け、男性では10 μmあたり0.29 mmHg、女性では10 μmあたり0.12 mmHgの誤差が報告されている。

眼圧上昇眼の3分の1を見逃す可能性があり、GATとの互換性は限定的である。ただしLASIK術後眼ではGATより信頼性が高いとする報告もある。16 mmHg超の圧力域ではPerkins眼圧計より信頼性が低い。

点眼麻酔なしで測定可能なポータブル眼圧計である1)。小さなプローブを角膜に射出し、跳ね返りの速度から眼圧値を推定する。Goldmann圧平眼圧計とよく相関するが、やや高値を示す傾向がある1)

GATとの一致度は5 mmHg以内が73%であり、Perkins眼圧計と比較すると平均3.35 mmHg高い値を示す。iCare IC200は下向きでも測定可能で、仰臥位や夜間の測定に適している。家庭での眼圧モニタリングへの応用も研究されている。

パスカル動的輪郭眼圧計(DCT)

Section titled “パスカル動的輪郭眼圧計(DCT)”

角膜の特性(中心角膜厚・角膜曲率)の影響を最小限に抑えた測定が可能とされる。GATと中心角膜厚には有意な相関が見られるがDCTと中心角膜厚の間には相関がなく、角膜厚の影響を受けにくい利点がある。

Q LASIK術後の眼圧測定にはどの眼圧計が適していますか?
A

LASIK術後は角膜が菲薄化しているため、Goldmann圧平眼圧計では眼圧を過小評価するリスクがある。研究ではLASIK後にTonopen がGATより信頼性が高いとする報告がある。動的輪郭眼圧計(DCT)も中心角膜厚の影響を受けにくいため、角膜手術後の眼圧測定に有用と考えられる。臨床では複数の測定法を組み合わせて評価することが望ましい。

中心角膜厚が測定値に与える影響

Section titled “中心角膜厚が測定値に与える影響”

中心角膜厚(CCT)は圧平眼圧測定の精度に最も大きく影響する因子の一つである。Goldmann圧平眼圧計は平均的な中心角膜厚(520 μm)を基準に設計されているため、角膜が厚い場合は眼圧を過大評価し、薄い場合は過小評価する。

正常値からの50 μmの差で2.5〜3.5 mmHgの測定誤差が生じうるが、中心角膜厚に基づいて眼圧を「補正」する普遍的に受け入れられた公式は存在しない。

高眼圧症治療研究(OHTS)では、ベースライン平均眼圧25.75 mmHg超の患者において角膜が薄い〜平均的(555 μm)な場合の5年後の緑内障性損傷リスクは36%であったのに対し、中心角膜厚が565〜588 μmの場合は13%であった。

機器機器内偏差機器間差
Scheimpflug法5〜15 μm最大120 μm
超音波法5〜15 μm最大120 μm
OCT最小

同一機器での偏差は5〜15 μmであるが、機器間の差は最大120 μmに達する。OCTによる測定が最も偏差が少ない。異なる機種間での中心角膜厚値の比較には注意が必要である。

生理的に厚い角膜では眼圧が過大評価され、病的に厚い角膜(浮腫)では実際の眼圧が過小評価される。コンタクトレンズ誘発性の角膜浮腫はDCTではわずかな過小評価、GATでは過大評価の原因となる。角膜乱視もGAT測定値に影響し、中等度以上の乱視がある眼では90度離れた2方向での測定が推奨される。

中心角膜厚と緑内障の関連が生物学的関連ではなく合流点バイアス(collider bias)による可能性も指摘されており、中心角膜厚単独をリスク因子として用いるべきではないとの見解がある。

Q 角膜が薄い場合と厚い場合で眼圧測定値はどう変わりますか?
A

Goldmann圧平眼圧計は平均的な中心角膜厚(約520 μm)を基準に設計されている。角膜が薄い場合は実際の眼圧より低く測定され(過小評価)、厚い場合は高く測定される(過大評価)。正常値から50 μmの差で2.5〜3.5 mmHgの誤差が生じうる。ただし補正公式は確立されておらず、中心角膜厚値はあくまで眼圧値の解釈の参考として用いるべきである1)

従来の眼圧測定は外来受診時の単回測定に限られていたが、24時間の眼圧変動を捕捉する持続的モニタリングデバイスの開発が進んでいる。

SENSIMED Triggerfish® はコンタクトレンズ型のセンサーで、角膜の形状変化から眼圧の相対的変動を記録する。Tonopen XLとの相関は弱く、絶対的な眼圧ではなく相対的な変化のみを提供するとされる。

Eyemate は眼内に留置するマイクロセンサーで、GAT測定値との平均差は−0.2 mmHg、測定値の100%がGAT ±5 mmHg以内と高い信頼性が報告されている。

iCare HOME は家庭用リバウンド眼圧計であり、患者の73.7%が使いやすいと回答し、100%が有用と感じたとの調査結果がある。診療時間外の眼圧変動の把握に寄与する。

  • 中心角膜厚に基づく普遍的な眼圧補正公式の確立
  • 持続的IOPモニタリングデバイスの精度向上と臨床普及
  • 角膜の生体力学的特性を統合した新しい眼圧測定法の開発
  • 家庭用眼圧計による長期モニタリングの有用性の検証
Q 家庭で眼圧を測定することは可能ですか?
A

iCare HOME(家庭用リバウンド眼圧計)は患者自身による眼圧測定を可能にするデバイスである。点眼麻酔不要で操作も比較的容易であり、診療時間外を含む24時間の眼圧変動パターンの把握に有用とされる。ただしGATとの一致度は5 mmHg以内が73%程度であり、絶対値の信頼性には限界がある。外来での測定と組み合わせて活用することが推奨される。

  1. 日本緑内障学会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126(2):85-177.

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