開放隅角緑内障リスク増加
副腎皮質ステロイド:線維柱帯の粘膜類天疱瘡-2/9発現低下→ECM沈着増加→房水流出抵抗増大。開放隅角緑内障家族歴のある患者で特にリスクが高い
ステロイドの投与経路別リスク:全身投与(経口・静注)に加え、点眼・結膜下・硝子体内投与でも眼圧上昇のリスクがある

全身疾患治療薬と緑内障の関連は、緑内障患者が高血圧・糖尿病・うつ病などの全身疾患を合併することが多いことから重要な臨床的課題である3)4)。
全身薬の緑内障への影響は以下の3カテゴリーに分類される。
| カテゴリー | 代表的薬剤 |
|---|---|
| リスク増加 | ステロイド、トピラマート |
| リスク低下 | β遮断薬、メトホルミン |
| 矛盾する報告 | CCB、SSRI |
急性閉塞隅角緑内障(AACG)を誘発しうる全身薬として、ネブライザー気管支拡張薬(臭化イプラトロピウム・サルブタモール)、SSRI、三環系抗うつ薬、筋弛緩薬、違法刺激薬、その他の副交感神経遮断薬・交感神経刺激薬が挙げられる2)3)。トピラマートやスルホンアミド系薬剤はぶどう膜浮腫による後方押圧機序で急性閉塞隅角を引き起こす2)3)。
全身性高血圧は開放隅角緑内障のリスク因子として報告されているが、研究間で矛盾がある3)4)。降圧薬による過度の血圧低下が視神経灌流を障害し緑内障リスクを高める可能性が示唆されている3)4)。2型糖尿病も開放隅角緑内障のリスク因子であり、非ヒスパニック白人で2倍のオッズ比が報告されている4)。
全身薬が緑内障に影響する機序は大きく4つに分けられる。(1)線維柱帯の房水流出抵抗増大(ステロイドによるECM沈着増加)、(2)毛様体浮腫やぶどう膜浮腫による水晶体虹彩隔壁の前方移動(トピラマート・スルホンアミド)、(3)散瞳による瞳孔ブロック・隅角閉塞(抗コリン薬・交感神経刺激薬)2)3)、(4)自発性脈絡膜上腔出血による機械的隅角閉塞(抗凝固薬)。逆に、β遮断薬は毛様体上皮の交感神経受容体を阻害して房水産生を減少させ眼圧を低下させる。
薬剤誘発性の急性閉塞隅角緑内障では急性の眼痛・頭痛・視力低下・霧視・虹輪視・嘔吐が認められる。ステロイド緑内障では自覚症状を伴わない慢性的な眼圧上昇が特徴であり、発見が遅れることがある。
急性閉塞隅角型: 結膜充血、角膜浮腫、浅前房、散大した固定瞳孔、著明な眼圧上昇(40〜60 mmHg以上)が認められる。
開放隅角型(ステロイド性): 開放隅角で眼圧上昇。長期使用では視神経乳頭陥凹の拡大と視野障害が進行する。ステロイド開始後3〜6週間以内に眼圧上昇が出現するが、中止後1ヶ月以内に正常化する傾向がある。
開放隅角緑内障リスク増加
副腎皮質ステロイド:線維柱帯の粘膜類天疱瘡-2/9発現低下→ECM沈着増加→房水流出抵抗増大。開放隅角緑内障家族歴のある患者で特にリスクが高い
ステロイドの投与経路別リスク:全身投与(経口・静注)に加え、点眼・結膜下・硝子体内投与でも眼圧上昇のリスクがある
閉塞隅角緑内障リスク増加
トピラマート/スルホンアミド:ぶどう膜浮腫による後方押圧機序で急性閉塞隅角を誘発2)3)。薬剤中止で正常化
抗コリン薬:虹彩ムスカリン受容体阻害→散瞳→瞳孔ブロック。局所投与で高リスク
ネブライザー気管支拡張薬:臭化イプラトロピウム・サルブタモールのネブライザー吸入が隅角閉塞を誘発2)3)
抗凝固薬:自発性脈絡膜上腔出血→水晶体虹彩隔壁の前方押出→隅角閉塞
薬剤誘発性の閉塞隅角は通常、浅前房など解剖学的に素因のある眼で生じる3)。全身麻酔中や麻酔後にも急性閉塞隅角が発生しうる2)3)。
2型糖尿病患者では原発開放隅角緑内障のリスクが増加する4)5)。視神経の微小血管変化が視神経障害感受性を高めると考えられている4)。全身性高血圧と緑内障の関連は議論が分かれるが、降圧薬による過度の治療が低拡張期灌流圧を介して緑内障リスクを高める可能性がある3)4)。
片頭痛・末梢血管攣縮(レイノー症候群)も視神経乳頭血流の自己調節障害を介して緑内障の進行因子となりうる4)。
薬剤誘発性緑内障の診断には詳細な薬歴聴取が最も重要である。
眼圧測定: ゴールドマン圧平眼圧計による精密測定。薬剤変更前後の比較が有用
隅角鏡検査: 閉塞隅角の有無、周辺虹彩前癒着(PAS)の程度を評価
前眼部OCT: 前房深度、隅角構造の定量的評価
視野検査・OCT: ステロイド緑内障における視神経障害の評価。標準自動視野計とRNFL厚測定
診断的散瞳は一般集団において安全であり、散瞳を行わないことによる網膜疾患の見逃しリスクの方が隅角閉塞誘発リスクよりも大きい2)3)。既知の隅角閉塞で適切な予防的治療(特許虹彩切開術)を受けている患者では散瞳は通常安全である3)。
原因薬剤の中止・変更が最も重要である。トピラマート・スルホンアミド誘発性の急性閉塞隅角緑内障では原因薬剤の中止により眼圧が正常化する2)3)。ステロイド緑内障では投与経路の変更(全身→局所)、低力価ステロイドへの変更、または中止を検討する。
急性閉塞隅角発作の治療: 高浸透圧薬(マンニトール、グリセオール)の点滴静注で急性眼圧上昇を沈静化する1)。房水産生抑制薬(アセタゾラミド内服、β遮断薬点眼)を併用する1)。ただしスルホンアミド誘発性の急性閉塞隅角緑内障ではアセタゾラミドの使用は避ける。
レーザー虹彩切開術(LPI): 瞳孔ブロックが関与する閉塞隅角に対して実施する。薬剤誘発性のぶどう膜浮腫による後方押圧機序では無効な場合がある。
ステロイド緑内障の治療: 眼圧下降点眼薬で管理する。ステロイド中止後も眼圧が正常化しない慢性例では外科的治療を検討する1)。
線維柱帯流出抵抗の増大(開放隅角型): ステロイドは線維柱帯の粘膜類天疱瘡-2/9発現を抑制し、ECM(フィブロネクチン・ミオシリン)の沈着を増加させる。CLANs(架橋アクチンネットワーク)の形成も加わり、線維柱帯の微細構造に機械的変化を引き起こす。これらが房水流出抵抗を増大させ、開放隅角型の眼圧上昇をもたらす。
後方押圧機序(閉塞隅角型): トピラマートやスルホンアミドは毛様体浮腫を惹起する。水晶体虹彩隔壁が前方移動し、隅角を機械的に閉塞する。従来の瞳孔ブロック機序とは異なるため、LPIが無効な場合がある。
瞳孔ブロック機序(閉塞隅角型): 抗コリン薬・交感神経刺激薬による散瞳は、虹彩と水晶体の接触面積を変化させ瞳孔ブロックを誘発する。解剖学的に浅前房の眼で特にリスクが高い2)3)。
脈絡膜上腔出血(閉塞隅角型): 抗凝固薬使用患者では自発性脈絡膜上腔出血が生じうる。出血による脈絡膜・網膜の剥離が水晶体虹彩隔壁を前方に押し出し、二次的に隅角を閉塞する。
β遮断薬: 毛様体上皮のβ受容体を阻害し房水産生を減少させる。非選択的β遮断薬は心選択的β遮断薬よりも眼圧降下効果が高い。
メトホルミン: ミトコンドリア機能不全の抑制、線維化防止、血管新生・炎症抑制を介して開放隅角緑内障発症リスクを25%減少させるとの報告がある。
スタチン: eNOSアップレギュレーション→NO増加→血管拡張→視神経灌流改善。網膜神経節細胞のアポトーシス減少による神経保護効果も報告されている。
ステロイドは線維柱帯の粘膜類天疱瘡-2/9発現を抑制し、ECMタンパク質(フィブロネクチン・ミオシリン)の分解を阻害する。これにより線維柱帯へのECM沈着が増加し、房水流出抵抗が上昇する。さらにCLANs形成が線維柱帯の微細構造を変化させ、抵抗増大に寄与する。結果として開放隅角型の慢性的な眼圧上昇が生じる。眼圧上昇は通常ステロイド開始後3〜6週間で出現し、中止後1ヶ月以内に正常化する傾向がある。しかし慢性・長期使用では恒久的な眼圧上昇となりうる。
全身薬と緑内障の関連について、以下の研究動向が注目される。
緑内障患者が全身薬を処方される際には以下の点に注意が必要である。(1)閉塞隅角の素因がある患者にはトピラマート・抗コリン薬・SSRI・ネブライザー気管支拡張薬の処方に際して眼科コンサルトを行う2)3)。(2)ステロイド長期使用時は定期的な眼圧モニタリングを行い、必要に応じて低力価ステロイドへの変更を検討する。(3)降圧薬の過度の使用による低灌流圧が緑内障進行のリスクとなりうるため、適切な血圧目標の設定が重要である3)4)。(4)経口β遮断薬を内服中の患者では約1 mmHgの眼圧低下が期待できるが、局所β遮断薬との併用効果は限定的である。
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- European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 5th Edition. PubliComm, 2020.
- European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 6th Edition. Br J Ophthalmol. 2025.
- American Academy of Ophthalmology. Primary Open-Angle Glaucoma Preferred Practice Pattern®. 2020.
- American Academy of Ophthalmology. Primary Open-Angle Glaucoma Suspect Preferred Practice Pattern®. 2020.