涙点プラグ型
L-PPDS(Evolute):ラタノプロストを充填した涙小管内留置型プラグ。第II相試験で4週間にIOP 5.7 mmHg低下、87%が不快感なし
OTX-TP:トラボプロストを3ヶ月間徐放する涙点プラグ。第III相試験でプラセボとの有意差なし。開発中止
利点:非侵襲的、容易に挿入・除去可能

持続放出型緑内障薬物送達システム(Sustained Release Glaucoma Delivery Systems)は、従来の点眼治療に代わり、長期間にわたって緑内障治療薬を持続的に放出するデバイスの総称である2)3)。
緑内障の薬物治療は点眼薬が第一選択であるが、アドヒアランスの低さが重大な課題となっている。最大80%の患者が処方された用法・用量を守れていないと報告されている。日本においても初回緑内障点眼薬処方患者の約40%が治療開始1年で脱落する1)。アドヒアランス不良は緑内障進行の重要な要因である1)。
非アドヒアランスの要因は多岐にわたる。薬剤費用、副作用、複雑な投薬レジメン、眼表面疾患、生活上の問題、疾患理解の不足、医師とのコミュニケーション不足などが報告されている1)2)。持続放出型デバイスはこれらの問題を解決する将来的選択肢として位置づけられている2)。
| 分類 | 代表的デバイス |
|---|---|
| 涙点プラグ | L-PPDS、OTX-TP |
| 結膜円蓋部インサート | ビマトプロスト眼インサート |
| 前房内インプラント | Durysta、iDose TR |
緑内障の点眼治療では最大80%の患者がアドヒアランス不良であり、日本でも約40%が1年以内に治療を中断する1)。点眼の失念、身体的制限による点眼困難、多剤併用の煩雑さ、防腐剤による眼表面障害が主な要因である2)。持続放出型デバイスは1回の投与で数週間〜数ヶ月にわたり薬物を放出するため、日々の点眼負担を解消しアドヒアランスを根本的に改善できる。また点眼と比較して眼圧変動が小さく、安定した薬物濃度を維持できる利点がある。
涙点プラグ型
L-PPDS(Evolute):ラタノプロストを充填した涙小管内留置型プラグ。第II相試験で4週間にIOP 5.7 mmHg低下、87%が不快感なし
OTX-TP:トラボプロストを3ヶ月間徐放する涙点プラグ。第III相試験でプラセボとの有意差なし。開発中止
利点:非侵襲的、容易に挿入・除去可能
結膜円蓋部・コンタクトレンズ型
ビマトプロスト眼インサート:リング状シリコンインプラント。上下結膜円蓋部に挿入。保持率88.5%(6ヶ月)。チモロールと同等の眼圧下降
TODDD:上結膜円蓋部挿入型ポリマー。3ヶ月以上の薬物拡散。動物実験で37%の眼圧下降
薬物充填コンタクトレンズ:ラタノプロストまたはビマトプロスト充填。LL-BMT1は第II相で3週間にIOP 19%低下
Durysta(ビマトプロスト)
承認:2020年FDA承認。開放隅角緑内障/OHT患者の眼圧下降目的で承認された初の持続放出型療法3)
構造:生分解性ポリマー製。28ゲージ針で前房内に注入。下方前房隅角に留置
放出特性:90日間の非拍動的定常状態放出。局所投与と比較して虹彩・毛様体での活性薬剤濃度が4,400倍
成績:IOP 24.6→17.7 mmHg(約30%減)。チモロールに非劣性3)4)
iDose TR(トラボプロスト)
構造:チタン製リザーバー(幅0.5mm×長さ1.2mm)。ナノ多孔性EVA膜から防腐剤フリーのトラボプロスト75μgを徐放
留置:線維柱帯に配置し強膜アンカーで固定。白内障手術との併用または単独手術
成績:IOP 5.5〜8.5 mmHg低下。12ヶ月で81%が薬剤フリー。結膜充血が局所トラボプロストより低頻度
利点:虹彩色素沈着や眼窩周囲脂肪萎縮が認められず
OTX-TIC:生分解性ハイドロゲルにトラボプロスト充填微粒子を組み込んだインプラント。4〜6ヶ月間の徐放を目指すが、第III相試験で主要評価項目を達成できなかった。
ENV515/トラボプロスト XR:PRINT®技術で製造されたPEA製生分解性インプラント。前臨床試験で24週間にわたりIOP 35%低下。第IIa相試験で11ヶ月にIOP 25%低下。
PA5108/ラタノプロスト FA SR:棒状生分解性インプラント。ゼロ次放出プロファイルを達成。前臨床試験で10〜34週間のIOP低下を実証。第I相試験が進行中。
SpyGlassシステム:白内障手術時に眼内レンズの光学・支持部接合部に薬物放出パッドを取り付ける。視軸外に配置され最大3年間の薬物放出を実現。9ヶ月でIOP 45%低下(23眼)。
| デバイス | 主要成績 | 安全性 |
|---|---|---|
| Durysta | IOP 30%低下 | 結膜充血27% |
| iDose TR | 81%薬剤フリー | 眼内炎1例 |
| ビマトプロスト眼インサート | 保持率88.5% | 安全・忍容性良好 |
Durysta: 第III相試験(1,122名)でチモロールに非劣性を達成した3)4)。第I/II相試験では単回投与で40%の患者が12ヶ月間、28%が24ヶ月間眼圧コントロールを維持した。最も一般的な副作用は結膜充血(27%)であり、異物感・眼痛・羞明・角膜内皮細胞減少が5〜10%に認められた。角膜内皮細胞ジストロフィー、角膜移植歴、後嚢破裂がある場合は禁忌である。
iDose TR: 第II相試験(3年間)でチモロール群と同等の眼圧下降を示し、インプラント群の63〜69%が同等またはより少ない薬剤数で眼圧コントロールを達成した。第III相試験(590名)で12ヶ月にわたりチモロールに非劣性を実証した。局所プロスタグランジン関連薬に伴う虹彩色素沈着や眼窩周囲脂肪萎縮が認められなかった点が特筆される。
OTX-TP・OTX-TIC: いずれも有効性の主要評価項目を達成できず。涙点プラグ型のOTX-TPは開発中止となった。
Durysta(ビマトプロスト)は生分解性ポリマー製で前房隅角に自然留置され、90日間薬物を放出する。iDose TR(トラボプロスト)はチタン製リザーバーで線維柱帯に固定され、より長期の薬物放出が可能である。いずれもチモロールに非劣性を達成しているが、iDose TRは12ヶ月で81%が薬剤フリーという高い成績を示した。Durystaの最も一般的な副作用は結膜充血(27%)であるのに対し、iDose TRでは結膜充血が局所プロスタグランジン関連薬より低頻度であった。
緑内障は慢性進行性疾患であり、患者が治療推奨に持続的に従うことが求められる2)。「コンプライアンス」よりも患者の能動的参加を含む「アドヒアランス」の概念が広く用いられている2)。
アドヒアランス不良の要因は以下に分類される1)2)。
アドヒアランス改善には投薬レジメンの簡素化、患者教育、効果的コミュニケーション、リマインダーの活用が推奨される1)2)。しかし現状ではこれらの対策を十分に実施している施設は限られている1)。
持続放出型デバイスは以下の薬物動態的利点を有する。
一定の薬物濃度維持:点眼は投与直後に高濃度、その後急速に低下するという変動パターンを示す。持続放出型はゼロ次放出により安定した薬物濃度を維持する。
局所高濃度達成:Durystaは虹彩・毛様体で局所投与の4,400倍の活性薬剤濃度を達成する。これにより効率的な眼圧下降が得られる。
全身副作用の回避:前房内投与は鼻涙管を経由した全身吸収を回避するため、β遮断薬の心肺系副作用やプロスタグランジン関連薬の眼窩周囲脂肪萎縮を軽減する。
持続放出型緑内障薬物送達システムの分野は急速に発展している。
今後の課題として以下が挙げられる。
前房内インプラントではPA5108(ラタノプロスト、ゼロ次放出、第I相進行中)やENV515(トラボプロスト、第IIa相完了)が開発中である。IOLベースのSpyGlassシステムは白内障手術との統合で最大3年間の薬物放出を実現する革新的プラットフォームである。薬物充填コンタクトレンズ(LL-BMT1)は非侵襲的な選択肢として第II相試験で有効性を示した。将来的には複数薬剤の同時徐放や生分解性素材のさらなる改良が期待される。
- 日本緑内障学会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126:85-177.
- European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 6th Edition. Br J Ophthalmol. 2025.
- American Academy of Ophthalmology. Primary Open-Angle Glaucoma Preferred Practice Pattern®. 2020.
- American Academy of Ophthalmology. Primary Open-Angle Glaucoma Suspect Preferred Practice Pattern®. 2020.
- Fellman RL, Mattox CG, Ross C, et al. Reporting Clinical Endpoints in Studies of Minimally Invasive Glaucoma Surgery. Ophthalmology. 2025;132(2):141-159.