3セグメント構造
前部(Anterior portion):前房内に留置される。直径0.3 mmで、Ahmed・Baerveldt・Moltenoインプラントと同一サイズである
補強部(Reinforcement portion):強膜溝レベルでチューブを固定するフランジ(翼状部)を含む。サイズは6×1.6 mmである
後部(Posterior portion):球後腔(脂肪組織)内に導入される。直径1.02 mmで、房水流出のための窓形成(fenestrations)が施されている

球後シャント(Retrobulbar Shunt)は、前房の房水を球後腔(retrobulbar space)へ導くシリコン製の緑内障ドレナージデバイスである。従来の緑内障ドレナージデバイス(Baerveldt・Ahmed・Moltenoなど)が結膜下・テノン嚢下のプレートへ房水を排出するのに対し、球後シャントは球後脂肪組織内に房水を誘導する。
| 項目 | 球後シャント | 従来の緑内障ドレナージデバイス |
|---|---|---|
| 排出先 | 球後腔(脂肪組織) | テノン嚢下プレート |
| 濾過胞・プレート | 不要 | 必要 |
従来の緑内障ドレナージデバイスでは上強膜・テノン嚢・結膜の線維芽細胞による線維化がプレート周囲の被嚢化を引き起こし、手術不全の原因となる1)2)3)。ABC試験・AVB試験の統合データによると、Ahmedシャントの約49%、Baerveldtシャントの約37%が5年以内に不全となる。球後シャントは濾過胞形成が不要であるため、この被嚢化の問題を回避できる。
球後シャントの主な適応は以下の通りである。
従来の緑内障ドレナージデバイスは線維柱帯切除術の不成功眼や、血管新生緑内障・ぶどう膜炎緑内障など濾過手術の成功が見込めない症例に適応される1)2)3)。球後シャントはこれらの緑内障ドレナージデバイスがさらに不成功に終わった症例に対するレスキュー療法として位置づけられる。
最大の違いは房水の排出先である。従来の緑内障ドレナージデバイス(Ahmed・Baerveldt等)は結膜下・テノン嚢下のプレートに房水を導き、プレート周囲に形成される被膜を通じて吸収させる2)3)。球後シャントはプレートを持たず、球後脂肪組織内に房水を直接排出する。球後脂肪組織はテノン嚢下組織より線維化しにくいため、被嚢化による手術不全のリスクが低い。また濾過胞が不要であるため、漏出・露出・斜視のリスクも最小限に抑えられる。
3セグメント構造
前部(Anterior portion):前房内に留置される。直径0.3 mmで、Ahmed・Baerveldt・Moltenoインプラントと同一サイズである
補強部(Reinforcement portion):強膜溝レベルでチューブを固定するフランジ(翼状部)を含む。サイズは6×1.6 mmである
後部(Posterior portion):球後腔(脂肪組織)内に導入される。直径1.02 mmで、房水流出のための窓形成(fenestrations)が施されている
設計上の特徴
プレート不要:従来の緑内障ドレナージデバイスと異なりプレートを持たないため、斜視・複視のリスクが低い
バルブ不要:弁機構を備えていないが、粘弾性物質の前房内注入で術後低眼圧を予防する
簡便な手術:手術時間は標準的なシャント設置術の約半分である
強膜移植片:チューブ保護のため強膜移植片の使用が推奨される
球後麻酔またはテノン嚢下麻酔で行う。主な手順は以下の通りである。
術後低眼圧を防ぐため、デバイス留置後に前房内へ粘弾性物質を十分に注入する。
ステロイド点眼(酢酸プレドニゾロン)と抗菌薬点眼(モキシフロキサシン)を4週間で漸減投与する。
過去のすべての緑内障手術が奏功しなかった難治性緑内障19眼の検討では、6ヶ月時点で眼圧がベースラインの35.3±2.3 mmHgから18.5±1.1 mmHgに低下した(−16.8 mmHg、−47%、p<0.0001)。緑内障治療薬数もベースラインの2.4±0.3剤から0.3剤未満に減少した。対象症例の79%が過去にチューブシャント手術の不成功を経験していた。
| 指標 | 術前 | 術後6ヶ月 |
|---|---|---|
| 眼圧(mmHg) | 35.3±2.3 | 18.5±1.1 |
| 治療薬数 | 2.4±0.3 | <0.3 |
機能不全に陥った従来の緑内障ドレナージデバイスプレートを球後腔に連通させた19眼の研究では、眼圧がベースライン33.3±2.1 mmHgから24ヶ月時点で16.0±1.6 mmHgに低下した(p<0.00001)。35眼の長期成績では、5年時点で眼圧が30.94±1.62 mmHgから13.4±1.23 mmHgに低下した(p<0.0001)。
AVB試験・ABC試験と比較すると、球後シャントは初回Ahmedシャントより大きな眼圧下降を示し、初回Baerveldtシャントと同等の眼圧下降を達成した。治療薬の減少幅も初回Ahmedシャントより大きく、初回Baerveldtシャントと同等であった。従来の緑内障ドレナージデバイスでは5年以内にAhmedの49%、Baerveldtの37%が不全となるが1)、球後シャントは被嚢化リスクが低い点で優れている。
報告された研究では、合併症・視力低下・シャント漏出・感染・角膜浮腫を経験した患者はいなかった。主な事象は術後1日目の一過性低眼圧(<5 mmHg)であり、前房内への粘弾性物質の再充填で解消された。
球後シャント手術は標準的なチューブシャント設置術の約半分の時間で施行可能とされている。従来の緑内障ドレナージデバイスでは結膜の広範な剥離・プレートの設置と縫着・パッチ材料による被覆など多くの手順が必要であるが、球後シャントではプレート設置が不要であるため手技が簡素化される。ただしチューブ保護のための強膜移植片の使用が推奨される。
球後シャントの作用機序は、房水を球後腔の脂肪組織内へ誘導することに基づく。球後脂肪組織はテノン嚢下組織と比較して瘢痕形成しにくい特性を有する。脂肪細胞間の微細管を通じて房水は眼窩の親水性骨膜に到達し、持続的な房水循環が実現する。
動物実験ではシャント周囲に線維化の痕跡は認められず、球後腔の固有の特性が線維性被嚢化のリスクを制限していることが示されている。
従来の緑内障ドレナージデバイス(Ahmed・Baerveldt等)では、シリコンチューブを通じて前房からテノン嚢下のプレートへ房水を排出する2)3)。プレート周囲に形成される結合織の被膜を通して房水が吸収される仕組みであるが、上強膜・テノン嚢・結膜の線維芽細胞による過剰な線維化が被嚢化を引き起こす。被嚢化によりプレート周囲の房水吸収能が低下し、眼圧が再上昇して手術不全に至る。
球後シャントは房水排出先をテノン嚢下から球後腔に変更することで、この線維性被嚢化の問題を根本的に回避している。
球後シャントは難治性緑内障に対するレスキュー療法として有望な結果を示している。被嚢化により機能不全となった従来の緑内障ドレナージデバイスプレートを球後腔に連通させることで機能を回復させる手法は、逐次的な緑内障ドレナージデバイス追加設置と比較してより大きな眼圧下降を達成している。
今後の課題として以下が挙げられる。
使用可能である。球後シャントは当初、機能不全に陥り線維化・被嚢化した従来の緑内障ドレナージデバイスプレートを球後腔に連通させ、正常な機能を回復させる手法として臨床研究が行われた。19眼の研究では24ヶ月時点で眼圧が33.3→16.0 mmHgに低下し、35眼の長期研究では5年時点で30.94→13.4 mmHgの眼圧下降が達成された。逐次的な新規緑内障ドレナージデバイス設置と比較して、より大きな眼圧下降が報告されている。
- 日本緑内障学会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126:85-177.
- European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 6th Edition. Br J Ophthalmol. 2025.
- American Academy of Ophthalmology. Primary Open-Angle Glaucoma Preferred Practice Pattern®. 2020.