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緑内障

網膜神経線維層光学的テクスチャ解析(ROTA)

1. 網膜神経線維層光学的テクスチャ解析(ROTA)とは

Section titled “1. 網膜神経線維層光学的テクスチャ解析(ROTA)とは”

網膜神経線維層光学的テクスチャ解析(ROTA:Retinal Nerve Fiber Layer Optical Texture Analysis)は、Leungらが開発した新しい画像解析パラメータである。標準的なOCTスキャンからRNFLの厚さと反射率の両方を収集し、光学的テクスチャ・シグネチャを算出する。

緑内障における構造的損傷の検出には、OCTによるRNFL厚測定やレッドフリー写真が標準的に用いられてきた2)3)。しかしOCTの測定精度には限界があり、緑内障と正常を完全に分別することはできていない1)。ROTAはこれらの従来法の限界を克服する可能性がある。

項目従来のOCT RNFL解析ROTA
評価対象RNFL厚のみ厚さ+反射率
解析範囲乳頭周囲円周広範囲ラスタースキャン

ROTAの利点は弓状線維束・乳頭黄斑線維束・鼻側放射状線維束の走行と光学的テクスチャを含む広い領域を明らかにできる点にある。さらにROTAアルゴリズムは網膜血管とRNFLを区別することができる。

市販のOCT装置から得られた測定値で解析可能であるため、既存の臨床現場に容易に適用できる。

Q ROTAは従来のOCT解析とどう違うのですか?
A

従来のOCT解析はRNFL厚の定量測定が中心であり、乳頭周囲の円周スキャンから得られる数値を正常データベースと比較する2)3)。ROTAはRNFL厚に加えて反射率(光学密度)を統合し、光学的テクスチャ・シグネチャとして算出する。これにより弓状線維束や乳頭黄斑線維束を含む広範囲の軸索線維束の走行パターンを可視化でき、従来法では検出困難な微細なRNFL欠損の検出が可能となる。

ROTAの解析は以下の手順で行われる。

  1. OCTで視神経乳頭周囲および黄斑をカバーするラスタースキャンを取得する
  2. RNFLの前境界と後境界をセグメンテーションする
  3. RNFLの反射率と厚さの測定値から光学的テクスチャ・シグネチャ(Sxy)を算出する
  4. テクスチャ解析マップを生成し、機械学習アルゴリズムがRNFL異常を検出する

光学的テクスチャ・シグネチャは、網膜の位置(x, y)および深さ(z)における光学密度の測定値を用いて計算される。ガンマ変換関数・ガンマ補正関数・RNFL組織厚に比例するプリセット定数などのパラメータが使用される。

ROTAの利点

広範囲の評価:弓状線維束・乳頭黄斑線維束・鼻側放射状線維束の走行と光学的テクスチャを包括的に評価できる

血管との区別:網膜血管と軸索線維束は固有の光学的テクスチャ・シグネチャを持つため、ROTAが両者を区別する

眼軸長補正:アルゴリズムが眼軸長を補正するため、近視眼における偽陽性が少ない

実現可能性:市販OCT装置のデータで解析可能であり、新規装置の導入が不要である

ROTAの限界

中間透光体混濁白内障などの中間透光体混濁がある眼では画像品質が低下する

動きによるアーチファクト:OCT撮影時の動きが解析精度に影響する

主観的解釈:RNFL欠損の解釈はレッドフリー写真と同様に主観的要素を含む

臨床実装の途上:市販ソフトウェアへの実装はまだ広く普及していない

現在のRNFL評価にはSD-OCTおよびSS-OCTが広く用いられている1)2)3)。乳頭周囲RNFL厚・視神経乳頭・黄斑部内層の3パラメータ群が計測される2)3)

OCTの測定結果は「正常範囲」「境界域」「正常範囲外」の3段階で判定される3)。ただし正常範囲外の判定が必ずしも緑内障を意味するわけではなく、臨床的文脈での解釈が必須である2)3)強度近視眼や傾斜乳頭ではアーチファクトやセグメンテーションエラーが生じやすい2)3)5)

構造評価と視野検査の一致度は部分的であるため、一つの検査のみに基づく緑内障診断は避けるべきである2)3)4)5)

Q ROTAは臨床で広く使用されていますか?
A

ROTAは現時点では研究段階の技術であり、市販OCTソフトウェアへの広範な実装には至っていない。しかしROTAのアルゴリズムは市販のOCT装置から得られる標準的なデータで動作するため、技術的には既存の臨床現場に導入可能である。今後、ソフトウェアの商用化とバリデーション研究の蓄積が臨床普及の鍵となる。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

緑内障では網膜神経節細胞障害に伴い、その軸索であるRNFLが脱落する1)。全網膜神経節細胞の約50%は黄斑部の中心20°領域に集中しており、早期緑内障であっても約50%の網膜神経節細胞が消失している。

RNFLの評価対象層として、RNFL・神経節細胞層(GCL)・内網状層(IPL)の3層があり、これらをganglion cell complex(GCC)と呼ぶ6)。GCL+IPLの複合体(GCIPL)を診断パラメータとする機種もある。

定量的評価法

cpRNFL厚:乳頭周囲の円周スキャンでRNFL厚を測定する。TSNITグラフで表示され、正常眼では上下方向に二峰性パターンを示す1)

thickness map:ラスタースキャンから乳頭周囲のRNFL厚をマップ表示する。局所的なRNFL菲薄部位の検出感度が最も高い

significance map:正常データベースとの比較で異常部位を色分け表示する。偽陽性(red disease)に注意が必要である

BMO-MRW:Bruch膜開口部を基準としたリム幅の評価。再現性に優れる

測定上の注意点

floor effect:進行期緑内障ではOCTの測定値がそれ以上変化しなくなる。黄斑パラメータの方がRNFL厚よりfloor effectの発現が遅い3)6)

加齢性変化:RNFL厚は加齢により約0.5 μm/年菲薄化する。多くの市販ソフトウェアは加齢補正を行わない2)3)

機種間互換性:異なるOCT機種間で測定値の互換性はない1)2)3)

近視眼の影響:強度近視眼では倍率効果によりRNFL厚が過小評価され、偽陽性が生じやすい1)

ROTAはRNFL厚のみでなく反射率情報を統合することで、これらの従来法の限界を補完する可能性がある。特に眼軸長補正機能により近視眼での偽陽性を低減し、広範囲の線維束走行の可視化によりfloor effectの影響を受けにくい解析が期待される。

Leungらの研究では、RNFL欠損のある363人531眼と健常者177人315眼を対象にROTA・OCT・レッドフリー写真を比較した。ROTAの緑内障検出感度は98.9%(95% CI: 95.4–100.0%)であり、レッドフリー写真の79.3%を大幅に上回った。特異度はROTAが94.3%(95% CI: 91.3–97.2%)で、乳頭周囲RNFL厚の87.9%、GC-IPLの78.1%より高値であった。

検出法感度特異度
ROTA98.9%94.3%
pRNFL厚87.9%

Suらの研究では600眼の高眼圧症患者を評価した。視神経乳頭臨床検査およびOCT解析ではRNFL欠損を示す症例は皆無であったが、ROTA解析では10.8%にRNFL欠損が検出された。最も多い欠損部位は上方弓状線維束であった。高齢と高いパターン標準偏差がROTAでのRNFL欠損と有意に関連していた。

初期緑内障における乳頭黄斑線維束の関与

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Leungらの別の研究では、初期緑内障(MD ≥ −6 dB)204眼を検査した。71.6%に乳頭黄斑線維束を含むRNFL欠損が、17.2%に乳頭中心窩線維束を含むRNFL欠損が認められた。RNFL欠損は半網膜に限定されず中心窩や黄斑も関与しており、ROTAがこの広範な神経損傷を明らかにした。

ROTAは乳頭縁蒼白の領域に対応するRNFL線維束の消失を描出できる。非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)や視神経炎は固有の乳頭縁蒼白パターンを持つため、ROTAによる緑内障との鑑別が期待される。視神経乳頭ドルーゼンやRNFL浮腫がある症例でも、ROTAはRNFL欠損を特定できる可能性がある。

  • 大規模多施設研究によるROTAの診断能の外的妥当性検証
  • 市販OCTソフトウェアへのROTAアルゴリズムの実装
  • 縦断的研究による緑内障進行検出能の評価
  • AIベースの自動診断との統合
Q ROTAは近視眼でも有効ですか?
A

ROTAのアルゴリズムは眼軸長を補正する機能を有しており、従来のOCT解析で問題となる近視眼における偽陽性を低減できる。従来のRNFL厚測定では強度近視眼で倍率効果により偽陽性が生じやすいが1)、ROTAでは眼軸長補正によりRNFL欠損やGC-IPL異常の偽陽性検出が少なくなることが報告されている。ただし中間透光体混濁がある場合は画像品質の低下により精度が影響を受ける。

  1. 日本緑内障学会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126:85-177.
  1. European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 5th Edition. 2020.
  1. European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 6th Edition. Br J Ophthalmol. 2025.
  1. American Academy of Ophthalmology. Primary Open-Angle Glaucoma Preferred Practice Pattern®. 2020.
  1. American Academy of Ophthalmology. Primary Open-Angle Glaucoma Suspect Preferred Practice Pattern®. 2020.
  1. Geevarghese A, Wollstein G, Ishikawa H, Schuman JS. Optical coherence tomography and glaucoma. Annu Rev Vis Sci. 2021;7:693-726.

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