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緑内障

落屑緑内障

落屑緑内障(pseudoexfoliative glaucoma:PXG)は落屑症候群(pseudoexfoliation syndrome:PXF/PEX)に伴う続発開放隅角緑内障である。落屑物質が房水流出路に沈着し房水流出抵抗が増大することにより眼圧が上昇する。PXGは続発開放隅角緑内障の最も一般的な形態であり、有病率は集団間で大きく異なる2)3)

PXFは高齢者に多く、70歳以上の約4%に認められる。PXF患者の15〜26%が5年間で緑内障を発症し、最終的にPXF患者の約50%が緑内障と診断される2)3)。PXGの進行速度は原発開放隅角緑内障の約3倍であり、発見時に視野障害が進行していることが少なくない3)

項目PXG原発開放隅角緑内障
眼圧高い3)比較的低い
進行速度約3倍速い3)緩徐
眼圧日内変動大きい3)比較的小さい

PXF/PXGは全身疾患との関連が報告されている。血管疾患・鼠径ヘルニア・女性の骨盤臓器脱出などとの関連がある2)3)

Q 落屑症候群と落屑緑内障の違いは何ですか?
A

落屑症候群(PXF)は前眼部や全身の組織に落屑物質が沈着する全身性疾患である。落屑緑内障(PXG)はPXFに伴って眼圧上昇と緑内障性視神経症を発症した状態を指す2)3)。PXF患者全員がPXGを発症するわけではなく、約50%が最終的に緑内障と診断される。PXFのみの段階でも年1回の眼圧測定による経過観察が推奨される。

PXGの自覚症状は原発開放隅角緑内障と同様であり、初期には無症状であることが多い。片眼性で緩徐に進行するため気づかれにくく、進行した視野欠損を伴って発見されることが少なくない。急激な眼圧上昇時には眼痛・霧視・虹視症が生じうる。水晶体の前方移動を伴う場合は近視化をきたす。

前眼部所見

落屑物質瞳孔縁・水晶体前嚢に白い線維状の物質が沈着する。水晶体前嚢ではcentral disc・intermediate zone(落屑物質を認めない)・peripheral bandの三層構造を示す

散瞳不良虹彩色素上皮の萎縮により「moth-eaten pupil」を呈する2)3)

水晶体振盪:Zinn小帯の進行性障害により水晶体振盪・水晶体亜脱臼を認めることがある3)

偽水晶体眼での所見白内障術後もIOL表面や瞳孔縁に落屑物質が沈着することがある。沈着パターンは有水晶体眼とは異なり中間部に集中する8)

隅角・眼底所見

Sampaolesi線:Schwalbe線より前方の波状色素沈着であり、PXGに特徴的な所見である2)3)

線維柱帯色素沈着:高度で不均一な色素沈着を示す。「salt and pepper」外観と表現される3)

隅角閉塞:9〜18%でZinn小帯脆弱による二次性隅角閉塞を伴いうる

視神経乳頭:緑内障性視神経症を呈する。診断時にすでに高度な視野・視神経障害を認めることが多い2)3)

散瞳後に初めて落屑物質が確認されることがある。無散瞳では約20%の症例で見落とされる可能性がある。片眼性の場合、対側眼の線維柱帯色素沈着の増加が最も初期の徴候となりうる。

PXGの原因は落屑症候群における異常な線維顆粒状タンパク質(落屑物質)の産生と沈着である2)3)

  • LOXL1遺伝子:弾性線維の生合成に関与するlysyl oxidase-like 1(LOXL1)遺伝子の多型がPXFの遺伝的素因として強く関連する2)3)。本邦では人口の約半数がハイリスク多型を有する
  • 高齢:50歳以上で発症し、集団間で大きな差異がある2)3)
  • 民族:スカンジナビア系・地中海沿岸の民族で有病率が高い
  • 紫外線曝露:環境因子として関与が示唆される
  • 環境因子:PXFからPXGへの進展には環境因子が影響する2)3)

リスクアレルは集団間で一致せず、ある集団で高リスクとされるアレルが別の集団では防御的に働く。同一集団内でもハイリスクアレルを持つ者の大多数はPXFを発症しない。

PXGの診断は主に臨床所見に基づく。

  • 細隙灯顕微鏡検査:瞳孔縁・水晶体前嚢の落屑物質を確認する。散瞳検査が重要であり、peripheral bandは散瞳後に初めて確認されることがある
  • 隅角検査:Sampaolesi線と高度な線維柱帯色素沈着を確認する2)3)。不均一な色素分布が色素緑内障との鑑別に有用である
  • 眼圧検査Goldmann圧平眼圧計による測定が標準である1)。日内変動が大きいため複数回の測定が推奨される
  • 視野検査OCT:緑内障性視野障害・RNFL菲薄化の評価を行う
  • OCTA:乳頭周囲・黄斑部の血管密度(VD)低下がPXGで報告されている4)

鑑別診断として、原発開放隅角緑内障・原発閉塞隅角緑内障・色素散布症候群・真性落屑(水晶体嚢剥離)・アミロイドーシスが挙げられる。落屑物質が見落とされると原発開放隅角緑内障と誤診される可能性がある。

PXG色素緑内障
高齢者に多い若年近視男性に多い
不均一な色素沈着均一な高度色素沈着
Sampaolesi線Krukenberg紡錘
Q 原発開放隅角緑内障との鑑別のポイントは何ですか?
A

最も重要なのは落屑物質の確認である。散瞳検査を行い、瞳孔縁と水晶体前嚢(特にperipheral band)を注意深く観察する。隅角ではSampaolesi線と不均一な色素沈着がPXGに特徴的である2)3)。PXGは原発開放隅角緑内障より眼圧が高く眼圧変動が大きい傾向がある3)。原発開放隅角緑内障との鑑別は治療戦略に影響するため重要である。

基本的な治療方針は原発開放隅角緑内障に準じ、眼圧下降を図る1)2)。プロスタグランジン製剤が第一選択となる。眼圧変動が大きいため目標眼圧の達成が困難なことがあり、複数の薬剤の併用が必要になることが多い。PXGでは積極的な眼圧下降が推奨される1)

レーザー線維柱帯形成術(SLT/ALT)は隅角の色素沈着が比較的強いため、PXGで比較的奏効する1)2)。ただし長期的効果には限界があり、5年後には半数以上で効果が消失する。手術までのつなぎや手術が困難な場合の緊急避難的手段として位置づけられる。

緑内障手術

線維柱帯切除術:眼圧がきわめて高い例や視野障害が高度な例では第一選択となる1)

線維柱帯切開術:有効であるが術前眼圧が非常に高い例では十分な眼圧下降が得られないことがある。術後数年で眼圧再上昇の可能性がある

濾過手術・流出路再建術:いずれも有効であり、原発開放隅角緑内障に対してより大きな眼圧下降効果が得られるとの報告がある1)

Wipe-out症候群:進行したPXGに対する濾過手術後に不可逆的な中心視力喪失が報告されている5)。術後低眼圧毛様体機能不全が原因と考えられる

白内障手術の注意点

散瞳不良:虹彩リトラクターやMalyuginリングの使用を考慮する6)10)

Zinn小帯脆弱:水晶体嚢拡張リング(CTR)の挿入が推奨される。慎重な超音波操作と核分割手技で小帯への負担を軽減する6)10)

術後IOL脱臼:PXFは術後晩期IOL脱臼の最も一般的な原因である。約6倍のリスク上昇が報告されている9)

UGH症候群:in-the-bag IOLでもZinn小帯不安定によるIOL-嚢複合体の動揺が虹彩を擦過し、前房出血を引き起こすことがある7)

Q 白内障手術で注意すべき点は何ですか?
A

PXF患者の白内障手術では3つの主要な問題がある。第一に散瞳不良があり、虹彩リトラクターやMalyuginリングを準備する6)10)。第二にZinn小帯の脆弱化であり、愛護的な操作とCTRの使用が推奨される。6 mm以上の連続環状切嚢を作成し前嚢収縮を防止する10)。第三に術後晩期のIOL脱臼リスクであり、長期的な経過観察が必要である6)9)硝子体脱出のリスクは通常の5〜10倍である。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

落屑物質は異常な線維顆粒状タンパク質であり、タンパク質の芯を糖複合体が囲む構造を持つ2)3)。非毛様体色素上皮細胞・線維柱帯内皮細胞・赤道部前水晶体上皮細胞など、前眼部の複数の細胞で産生される。酸化ストレスが産生を促進すると考えられている。

産生された落屑物質は細胞外空間に放出され、Zinn小帯・瞳孔縁・水晶体前嚢・線維柱帯・角膜内皮などに進行性に沈着する。眼組織のみならず皮膚・心臓・肺・肝臓などの全身組織にも存在する。

落屑物質の線維柱帯への沈着が房水流出抵抗を増大させることが眼圧上昇の主因である。加えて以下の機序が関与する。

  • 線維柱帯細胞自体での落屑物質産生
  • 色素顆粒の線維柱帯細胞による貪食
  • 弾性線維生成阻害による細胞外マトリクスの異常沈着
  • 虹彩色素上皮の萎縮による過度な色素遊離

OCTA研究により、PXG眼では乳頭周囲および黄斑部の血管密度がコントロール眼と比較して有意に低下していることが示されている4)。落屑物質が小血管の内皮細胞・平滑筋細胞・周皮細胞に蓄積し、微小循環の調節障害や血管閉塞を引き起こすと考えられている4)

眼圧がコントロールされたPXGでも原発開放隅角緑内障より速く進行する事実は、眼圧非依存性の病態機序の存在を示唆する4)篩状板はPXG眼で原発開放隅角緑内障眼と比較して菲薄であり、剛性も低いことが報告されている4)

落屑物質のZinn小帯への沈着は進行性の脆弱化を引き起こす。水晶体の不安定化・前方移動・近視化・二次性隅角閉塞の原因となる。白内障手術時の合併症増加や術後晩期のIOL-嚢複合体脱臼にも関与する6)9)

Chatziraliらのシステマティックレビューでは、PXG眼で乳頭周囲・黄斑部のVDがコントロール眼と比較して有意に低下していることが一貫して報告されている4)。PXGと原発開放隅角緑内障の比較では結果が分かれており、PXGでVDがより低いとする報告と差がないとする報告がある4)。乳頭周囲VDは下鼻側・鼻側で特に障害されやすく、篩状板の鼻側部分が緑内障性障害に脆弱であることが示唆されている4)

偽水晶体眼における落屑物質沈着

Section titled “偽水晶体眼における落屑物質沈着”

Parkらは偽水晶体眼でIOL表面に落屑物質が沈着する稀な症例を報告した8)。白内障術後2〜20年で出現し、沈着パターンは有水晶体眼と異なる。IOL上の落屑物質はPXFからPXGへの進展の徴候となりうるため、散瞳下での定期的な細隙灯検査が推奨される8)

Nakagawaらは、PXFによるZinn小帯脆弱でIOL挿入が困難となった無水晶体眼に対し、水晶体嚢を温存した二期的IOL強膜内固定術を報告した6)。嚢温存により術中硝子体脱出の予防・虹彩動揺の抑制・IOLの瞳孔捕獲防止が期待される6)

Erdinestらは三角縫合法(TST)によるIOL強膜固定を報告した9)。三角形のプロレン縫合で人工毛様溝を作成しIOLを支持する技術であり、最長4年の安定が確認されている9)。PXF患者ではIOL脱臼リスクが約6倍上昇するため、これらの新技術は臨床的に重要である9)

Parkらは、PXG患者のin-the-bag IOLで発生したUGH症候群を報告した7)。Zinn小帯不安定による無症候性のIOL-嚢複合体動揺が虹彩後面を擦過し、反復性前房出血と嚢内出血を引き起こした7)。抗凝固療法中の患者では出血が遷延しやすい7)

Q IOL脱臼のリスクをどう管理しますか?
A

PXF患者ではIOL脱臼リスクが約6倍上昇する9)。予防としてCTRの使用・6 mm以上の連続環状切嚢・愛護的な手術操作が重要である6)10)。脱臼が発生した場合はIOL強膜内固定術が選択肢となる。水晶体嚢温存法6)や三角縫合法9)など新しい手技も報告されている。術後も長期的な経過観察が不可欠であり、IOLの動揺や偏位の徴候を確認する。

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  1. European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 5th Edition. 2020.
  1. European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 6th Edition. Br J Ophthalmol. 2025.
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  1. Kaur J, Yogesvaran R, Mohd Khialdin S, Md Din N. Wipe-Out Syndrome After PreserFlo MicroShunt Implantation in a Patient With Pseudoexfoliation Glaucoma. Cureus. 2025;17(12):e99396.
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