視神経乳頭所見
C/D比の増大:陥凹の垂直方向への拡大が特徴的である3)
両眼間の左右差:C/D比の0.2を超える左右差は有意とされる3)
神経網膜縁の菲薄化・ノッチング:上極・下極に好発する。ISNT則の破綻が診断の手がかりとなる3)
乳頭出血(DH):進行のバイオマーカーとして重要である3)7)。カップ型(近位型)DHは乳頭周囲型(遠位型)より進行リスクが高いと報告されている7)
β乳頭周囲萎縮:緑内障性変化に伴い出現する

原発開放隅角緑内障(POAG)は慢性・進行性・不可逆性の視神経疾患である1)。視神経乳頭縁とRNFL(網膜神経線維層)の消失に伴い視野欠損を生じる1)3)。前房隅角は開放しており正常な外見を呈する3)。一般に両側性であるが左右差を認めることが多い3)。
主要なリスク因子は眼圧上昇と加齢である1)。早期診断と治療により視機能障害は多くの場合予防可能である1)3)。
2020年時点で世界のPOAG患者は約5,300万人と推定される3)。人種・民族間で有病率に大きな差がある3)。アフリカ系アメリカ人では白人の約3倍の有病率を示し、不可逆的失明の主要原因となっている3)。アフリカ系カリブ海集団ではさらに高い有病率が報告されている3)。ヒスパニック系の有病率はアフリカ系と同等の水準にあると報告されている3)。アジア系アメリカ人の有病率もラテン系と同等であり白人より高いとする報告がある3)。
統計学的に正常上限を超える眼圧(21 mmHg超)でもPOAG患者の割合は集団により異なる3)。Baltimore Eye Surveyでは白人の約7%、アフリカ系アメリカ人の25%が30 mmHgでPOAGを有していた3)。このことは特定の眼圧カットオフ値をスクリーニングに用いることの限界を示している3)。
原発開放隅角緑内障は広義には狭義の原発開放隅角緑内障と正常眼圧緑内障(NTG)に分類される。わが国では統計学的正常眼圧の上限を20 mmHgとすることが多い。両者は連続した疾患群であり、治療方針は基本的に同一である。
両者は同じ原発開放隅角緑内障(広義)に属する連続した疾患群である。統計学的正常上限(日本では20 mmHg)を超える眼圧を認めるものが狭義POAG、常に正常範囲内のものが正常眼圧緑内障(NTG)と分類される。ただし眼圧には日内変動があり、両者の鑑別には反復測定が必要である。NTGでは乳頭出血がより高頻度にみられ、傍中心暗点が多いとされる。治療方針は同一であり、エビデンスに基づく治療は眼圧下降のみである。
原発開放隅角緑内障患者の大部分は初期に無症状である。疾患が進行すると視野狭窄や視力低下を自覚する。視界の白っぽさ、夜盲、転倒や物にぶつかるなどの生活上の支障が出現する。多くは定期眼科検診や他疾患の受診時に偶発的に発見される。
視神経乳頭所見
C/D比の増大:陥凹の垂直方向への拡大が特徴的である3)
両眼間の左右差:C/D比の0.2を超える左右差は有意とされる3)
神経網膜縁の菲薄化・ノッチング:上極・下極に好発する。ISNT則の破綻が診断の手がかりとなる3)
乳頭出血(DH):進行のバイオマーカーとして重要である3)7)。カップ型(近位型)DHは乳頭周囲型(遠位型)より進行リスクが高いと報告されている7)
β乳頭周囲萎縮:緑内障性変化に伴い出現する
視野所見
弓状暗点:最も特徴的な緑内障性視野欠損である3)
鼻側階段:水平経線を境界とする局所的欠損として出現する
傍中心暗点:NTGでは比較的高頻度に認められる
全般的感度低下:びまん性の感度低下を伴うことがある
緑内障半視野テスト異常:上下半視野の非対称性を検出する
乳頭出血の病態については血管説と機械説が提唱されている7)。血管説では一酸化窒素シグナリングの障害による自己調節能の低下と、高剪断応力下での視神経動脈の破綻が示唆されている7)。出血のデンシトメトリー解析では動脈由来を支持する所見が報告されている7)。乳頭出血による局所的な網膜神経線維の圧迫が構造的・機能的障害を引き起こす可能性がある7)。
原発開放隅角緑内障の確立されたリスク因子は以下の通りである3)4)。
| リスク因子 | 概要 |
|---|---|
| 眼圧上昇 | 唯一の修正可能因子3) |
| 加齢 | 最も強い非修正因子3) |
| 人種・民族 | アフリカ系・ヒスパニック系3) |
| 家族歴 | OR 3〜133) |
| 薄い中心角膜厚 | OHTS独立因子3)4) |
| 低眼灌流圧 | 拡張期血圧低下3) |
| 2型糖尿病 | 40〜100%高リスク3)4) |
| 近視 | 議論あり3) |
| 乳頭出血 | 進行因子3)7) |
眼圧はPOAG発症における最も重要なリスク因子である1)3)。疫学調査で眼圧上昇に伴いPOAG有病率が増加することが示されている3)。臨床試験では眼圧下降がPOAG発症リスクおよび進行を減少させることが証明されている3)。一方で眼圧に対する視神経の感受性には大きな個体差がある3)。
2型糖尿病はPOAGのリスクを40〜100%増加させると報告されている3)4)。視神経における微小血管変化が感受性増大に寄与する可能性がある3)。全身性動脈性高血圧を有する患者では開放隅角緑内障発症リスクが17%増加し、糖尿病を合併すると48%増加するとの報告がある3)。降圧薬治療中の患者では低拡張期灌流圧が緑内障リスク増大と関連する3)。
その他の関連因子として片頭痛、睡眠時無呼吸、末梢血管痙攣(Raynaud症候群)、心血管疾患が報告されているが、一貫した結果は得られていない2)3)。食事やライフスタイルの影響については、運動が保護的に働く可能性がある。
OHTSで薄い中心角膜厚(CCT)がPOAG発症の独立したリスク因子であることが示された3)4)。薄い角膜では眼圧が実際より低く測定される傾向があり、眼圧の過小評価がリスクの一因となる。また薄いCCTは篩状板や強膜など視神経周囲の支持構造の剛性低下を反映し、眼圧に対する脆弱性を示唆するとの理論もある。CCT 555 μm未満で眼圧25 mmHg超の群では5年間の緑内障移行危険率が36%に達するとされる。
原発開放隅角緑内障の診断には、眼圧評価・視神経乳頭障害の確認・開放隅角の確認・視野欠損の評価が必要である3)。
ゴールドマン圧平眼圧計(GAT)がゴールドスタンダードである3)。中心角膜厚(CCT)の測定を併せて行う3)。角膜の生体力学的特性が眼圧測定に影響を与えるが、その補正は予測困難である3)。眼圧の日内変動を把握するためにフェイジング(日内変動測定)を行うことがある。
開放隅角の確認と続発緑内障の除外に不可欠である3)。色素散布や落屑物質、新生血管、周辺虹彩前癒着の有無を確認する3)。初診時に必ず施行すべきである。
臨床的評価がゴールドスタンダードである3)。OCTによるRNFL厚・神経節細胞層の定量評価が客観的補助手段として広く用いられる3)。進行モニタリングにはOCTによる経時的変化の評価が有用である。
ハンフリー視野計による自動静的閾値視野検査がゴールドスタンダードである3)。SITA(Swedish Interactive Threshold Algorithm)により検査時間が短縮されている。緑内障半視野テスト(GHT)が上下半視野の非対称性を検出する。
鑑別すべき疾患には高眼圧症、NTG、原発閉塞隅角緑内障、色素緑内障、落屑緑内障、ステロイド緑内障がある3)。YAGレーザー硝子体融解術後の続発開放隅角緑内障も鑑別に挙げられる8)。YAGレーザー硝子体融解術後に線維柱帯へのタンパク粒子蓄積による慢性的な眼圧上昇を来した症例が報告されており、術後の眼圧モニタリングの重要性が示されている8)。
緑内障疑い(glaucoma suspect)は持続的な眼圧上昇、緑内障が疑われる視神経乳頭・RNFL・視野所見のいずれかを有する状態と定義される4)。OHTSでは未治療OHT患者の90%以上が5年間でPOAGに進行しなかった4)。治療開始の判断はリスク因子の数と程度、または視神経・視野変化の進行所見に基づく4)。定期的な検査(6〜12ヶ月ごと)で構造的・機能的変化をモニタリングし、進行が認められた場合に治療を開始する。
原発開放隅角緑内障の治療目標は目標眼圧の達成と視機能の維持である3)。眼圧下降が唯一のエビデンスに基づく治療である1)3)。
点眼薬による治療
プロスタグランジン関連薬:第一選択薬として広く用いられる。房水ぶどう膜強膜流出を促進し、約25〜35%の眼圧下降効果を示す
β遮断薬:房水産生を抑制する。第二選択薬として使用される。全身性副作用(徐脈・気管支痙攣)に注意が必要である
炭酸脱水酵素阻害薬:房水産生を抑制する。点眼薬および経口薬がある
α刺激薬:房水産生抑制とぶどう膜強膜流出促進の両作用を有する
Rhoキナーゼ阻害薬:線維柱帯流出を促進する新しい薬剤クラスである
レーザー・手術治療
| 臨床試験 | 対象 | 所見 |
|---|---|---|
| OHTS | OHT患者 | 眼圧下降でPOAG発症抑制3) |
| EMGT | 新規POAG | 眼圧1 mmHg低下で進行10%減3)。25%の眼圧下降で進行リスク50%低減 |
| AGIS | 進行POAG | 低眼圧維持で視野保存3) |
EMGTの長期追跡データでは、未治療時の自然進行速度が病型により大きく異なることが示された。高眼圧型(HTG)1.31 dB/年、正常眼圧型(NTG)0.36 dB/年、落屑緑内障(PXFG)3.13 dB/年であり、落屑緑内障が最も急速に進行する3)。
Scottish Glaucoma Trialでは線維柱帯切除術が58%の眼圧下降を達成し、薬物療法(42%)より視野進行が少なかった3)。Moorfields Primary Treatment Trialでは線維柱帯切除術が最大の眼圧下降効果(60%)を示した3)。
MIGS後に眼圧コントロールが不十分な場合の対応は臨床上の課題である6)。複数の専門家によるパネルディスカッションでは、僚眼でMIGS不成功であった進行POAG症例に対し、線維柱帯切除術・チューブシャント・上脈絡膜シャントなどの選択肢が議論されている6)。シュレム管手術の不成功はシュレム管以降の流出路の制限を示唆し、線維柱帯切除術の限定的な効果は創傷治癒反応の旺盛さを示唆する6)。個々の症例の特性に応じた個別化された手術戦略が重要である6)。
手術選択は病期・眼圧レベル・前回手術歴・患者の年齢と余命・創傷治癒の傾向などを総合的に考慮して決定する6)。軽度〜中等度ではMIGS(線維柱帯流出促進)を検討する6)。進行例や目標眼圧が低い場合は線維柱帯切除術やチューブシャントが適応となる6)。Primary Tube Versus Trabeculectomy Study(PTVT)では、高い術前眼圧の症例でBaerveldt 350の成功率がより高かった6)。僚眼の手術結果から学び、次の介入を調整することが推奨される6)。
原発開放隅角緑内障の最終的な共通経路は視神経乳頭における網膜神経節細胞(RGC)の消失である5)。RGCの死が主要な病理学的過程であり、構造的・機能的にその喪失の型と速度が定義されている5)。障害のメカニズムは眼圧依存的因子と眼圧非依存的因子に大別される。
RGC軸索の一次的な障害は視神経乳頭(ONH)で生じ、順行性・逆行性の軸索輸送が遮断される5)。ONHにおける篩状板(LC)の物理的再構成が上極・下極のRGC軸索の選択的消失を説明する5)。
眼圧上昇の原因は房水流出の減少である。線維柱帯の組織病理学的変化として、線維柱帯間隙の狭小化、基底膜の肥厚、内皮細胞の減少、シュレム管の閉塞などが認められる。
血管調節障害は重要な眼圧非依存的因子である7)。原発開放隅角緑内障では一酸化窒素シグナリングの障害により自己調節能が低下し、視神経の動脈が高剪断応力下で破綻しやすくなる7)。乳頭出血は血管調節障害のバイオマーカーであり、出血による局所的なRGC軸索の圧迫が構造的・機能的障害を引き起こす可能性がある7)。
prelaminar wedge defects(PLWDs)と呼ばれる篩前層の楔形欠損がPOAGで健常眼より高頻度に認められ、乳頭出血の既往と有意に関連する7)。PLWDsは眼圧に依存しない因子(血管機能障害など)による視神経の脆弱性を反映するとされている7)。
その他の非眼圧因子には、興奮毒性障害(過剰なグルタミン酸)、自己免疫介在性の神経障害、神経栄養因子の喪失、網膜・脈絡膜血管の自己調節能異常がある。脳脊髄圧の低下も視神経乳頭における圧勾配を増大させる可能性があり、正常眼圧でも視神経障害を引き起こしうる因子として注目されている。
MIGS不成功後の進行POAG管理は活発に議論されている6)。上脈絡膜シャント(MINIjectなど)はシュレム管以降の流出路障壁を回避し、ブレブ関連合併症を排除できる可能性がある6)。Paul glaucoma implant(PGI)は従来のチューブシャントより予測可能な術後早期眼圧と小さなチューブ径による角膜内皮保護が期待されている6)。複数のMIGS手技の併用や、線維柱帯流出・ぶどう膜強膜流出・上脈絡膜流出を標的とする異なる機序の組み合わせも検討されている6)。
乳頭出血の発生部位(近位型 vs 遠位型)と進行リスクの関連が報告されている7)。カップ型(近位型)DHは乳頭周囲型(遠位型)より進行リスクが高く、篩状板レベルでのRGC軸索への圧迫性視神経症の関与が示唆されている7)。デンシトメトリー研究では乳頭出血が動脈由来であることを支持する所見が得られている7)。
- European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 5th Edition. Br J Ophthalmol. 2021.
- European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 6th Edition. Br J Ophthalmol. 2025.
- American Academy of Ophthalmology. Primary Open-Angle Glaucoma Preferred Practice Pattern®. 2020.
- American Academy of Ophthalmology. Primary Open-Angle Glaucoma Suspect Preferred Practice Pattern®. 2020.
- Pitha I, Kass M, Guo Y, et al. Glaucoma and intraocular pressure. Prog Retin Eye Res. 2024;99:101222.
- Huang MJ, Samuelson TW, De Francesco T, et al. Managing primary open-angle glaucoma in the setting of suboptimal surgical outcomes in the fellow eye. J Cataract Refract Surg. 2023;49(7):764.
- Verticchio Vercellin A, Pasquale LR, Harris A. Disc hemorrhages in open-angle glaucoma—between a rock and a hard place? JAMA Ophthalmol. 2024;142(10):950-951.
- de Vries E, Faraj C, Gerbrandy F, et al. Secondary open-angle glaucoma following YAG-laser vitreolysis: a case report. BMJ Case Rep. 2022;15:e248937.