前眼部の三徴
Krukenberg紡錘体:角膜内皮中央部に垂直方向に沈着した紡錘状の色素。対流により垂直配向する。PDS/PG患者の約90%に認められるが、病的特異的ではない2)3)
虹彩中間周辺部の透照欠損:車輪のスポーク状(放射状)のパターンを呈する。虹彩色素上皮と水晶体チン小帯の接触が最大となる部位に一致する2)3)
線維柱帯の高度色素沈着:隅角鏡検査で線維柱帯が均一な濃褐色を呈する2)3)

色素散乱症候群(PDS)と色素緑内障(PG)は同一疾患のスペクトラムを構成する2)。
PGは全緑内障の1〜1.5%を占める2)。白人の近視男性に好発し、30〜50歳での診断が典型的である2)3)。PDS患者がPGに進行するリスクは診療所ベースの報告で10〜50%とされるが、眼圧上昇のあるPDS患者に偏った集団である可能性がある2)3)。地域ベースの研究では5年で約10%、15年で約15%のPG転換率が報告されている。
PDSは虹彩色素の散布と前眼部への色素沈着を特徴とする状態であり、眼圧が正常でも上昇していても診断される。PGはPDSの所見に加えて緑内障性の視神経乳頭陥凹拡大や視野欠損を伴ったものである2)。すなわちPDSは緑内障の前段階であり、すべてのPDS患者がPGに進行するわけではない。
PDSは多くの場合無症状である。運動後や散瞳時の眼圧スパイクによる一過性の霧視が特徴的な症状である2)3)。光輪(ハロー)がみられることもある。視野欠損が自覚されるのはPGが進行した段階である。
前眼部の三徴
Krukenberg紡錘体:角膜内皮中央部に垂直方向に沈着した紡錘状の色素。対流により垂直配向する。PDS/PG患者の約90%に認められるが、病的特異的ではない2)3)
虹彩中間周辺部の透照欠損:車輪のスポーク状(放射状)のパターンを呈する。虹彩色素上皮と水晶体チン小帯の接触が最大となる部位に一致する2)3)
線維柱帯の高度色素沈着:隅角鏡検査で線維柱帯が均一な濃褐色を呈する2)3)
その他の所見
Scheie線(Zentmayer輪):水晶体後嚢のチン小帯付着部沿いの色素沈着2)3)
深い前房:周辺虹彩の後方湾曲(逆瞳孔ブロック)を伴う2)3)
色素逆転徴候:高齢者の「燃え尽きた」PGで上方の線維柱帯色素沈着が下方より強い
不同瞳孔・虹彩異色:左右差がある症例で色素消失側の瞳孔が大きくなることがある
メラニン色素は虹彩色素上皮から放出される2)3)。水晶体チン小帯と虹彩後面の摩擦が原因である。「逆瞳孔ブロック」と呼ばれる虹彩の後方湾曲が多くのPDS/PG眼で認められる2)3)。
瞬目により房水が後房から前房へ押し出され、前房圧が後房圧を上回る圧力勾配が生じる。この結果、虹彩が後方に凹状化し水晶体との接触範囲が広がる。散瞳・調節・激しい運動も色素放出を促進する。
| 因子 | 詳細 |
|---|---|
| 性別 | 男性に好発(男女比2:1〜5:1) |
| 屈折 | 中等度近視(-3〜-4 D)が最多 |
| 人種 | 白人に多い |
発症年齢は男性で30代、女性では約10年遅れる。扁平角膜・凹状虹彩・後方虹彩付着部も関連因子である。不完全浸透を伴う常染色体優性遺伝が示唆されており、GPDS1座位(7q35-q36)が連鎖解析で同定されている。
通常の瞳孔ブロックでは後房圧が前房圧を上回り虹彩が前方に膨隆する。逆瞳孔ブロックはその逆で、瞬目などにより前房圧が後房圧を上回り虹彩が後方に凹状化する状態である2)3)。この虹彩の後方湾曲により虹彩後面と水晶体チン小帯の接触が増加し、虹彩色素上皮からの色素放出が生じる。レーザー虹彩切開術により前後房の圧力差を解消できる可能性がある1)。
PDSの診断は以下の3所見に基づく2)3)。
外傷・後房IOL・ぶどう膜炎などの他の原因がない状態で3所見すべてが揃えばPDSが強く疑われる。PGの診断にはPDSの基準に加え視神経乳頭陥凹拡大や視野欠損を要する。
| 疾患 | PDSとの鑑別点 |
|---|---|
| 偽落屑症候群 | TM色素は斑状分布。高齢者 |
| ぶどう膜炎 | 前房炎症細胞・KP |
ぶどう膜炎・外傷・毛様溝IOL配置・虹彩メラノーマも重度の線維柱帯色素沈着を呈しうる4)。隅角鏡検査は散瞳前に実施し、線維柱帯の色素沈着の分布パターンを確認する1)。
UBMやAS-OCTによる虹彩の凹状化の評価も可能であるが、診断に必須ではない。
PGの治療は原発開放隅角緑内障に準じる1)2)3)。PGに特異的な治療は存在しない2)3)。
原発開放隅角緑内障に使用する点眼薬(プロスタグランジン関連薬・β遮断薬・炭酸脱水酵素阻害薬・α2作動薬)が用いられる1)。ピロカルピンは虹彩の凹状化を軽減し運動誘発性の眼圧上昇を抑制するが、近視化・調節痙攣・網膜剥離リスク(格子状変性が最大20%に存在)に注意が必要である。
レーザー治療
レーザー線維柱帯形成術:薬物治療と同等の有効性があるが、線維柱帯の色素沈着が高度であるため術後眼圧スパイクが生じやすい2)3)。通常より低出力で施行し、眼圧スパイク予防の前処置を行う1)2)3)
レーザー虹彩切開術:逆瞳孔ブロックを解消し虹彩とチン小帯の接触を減少させる目的で検討される1)。ただし有効性は議論がある3)。若年で活動的な色素放出がある患者では有益な可能性がある
手術治療
水晶体摘出術:逆瞳孔ブロックを解消し色素散布を減少させる1)。不可逆的な線維柱帯障害の予防に有用とされる
房水流出路再建術:線維柱帯切開術などが奏功する1)
濾過手術:薬物治療・レーザー治療が不十分な場合に適応となる1)
色素緑内障では線維柱帯の色素沈着が高度であるため、レーザーエネルギーの吸収が大きく術後の眼圧スパイクが生じやすい2)3)。通常より低出力で施行し、眼圧スパイク予防のための前処置(α2作動薬やβ遮断薬の予防投与など)を行うべきである1)。なお眼圧下降効果は数年後に減弱する可能性がある2)。
虹彩色素上皮からのメラニン色素放出は、水晶体チン小帯と虹彩後面の機械的摩擦により生じる2)3)。「逆瞳孔ブロック」形態により虹彩が後方に湾曲し、虹彩とチン小帯の接触が増大する2)3)。
瞬目による前房への房水押し出し(burp現象)が前後房の圧力勾配を生み、虹彩の凹状化を維持する。散瞳・調節・激しい運動も色素放出を促進する。PDS/PG眼の房水中色素顆粒濃度は正常対照の15倍に達する。
メラニン顆粒は房水流出路に沈着し流出抵抗を増大させる2)3)。線維柱帯細胞が色素を貪食し、その後細胞死に至る2)3)。これが現在のPGの発症機序の中心的理解である。線維柱帯板の崩壊・遊離色素顆粒・色素貪食マクロファージ・変性した線維柱帯内皮細胞が病理組織学的に認められる。
加齢に伴い水晶体が前方に移動し虹彩とチン小帯の接触が減少するため、高齢者では色素放出が減弱する。しかし線維柱帯の不可逆的損傷は残存するため、高齢者で新たにPGが顕在化することがある。
近年、美容目的の光切除虹彩形成術(photoablative iridoplasty)後に両眼性の重度色素緑内障が発症した症例が報告されている5)。32歳女性が虹彩色変更のレーザー治療後に眼圧50/42 mmHgとなり、緊急両眼線維柱帯切除術を要した5)。傍中心急性中層黄斑症(PAMM)も合併し、不可逆的な視機能障害が残存した5)。
毛様溝への大径(7 mm)眼内レンズ配置後にPDSが発症した症例も報告されている6)。虹彩とIOL光学部エッジの摩擦が原因であり、強膜内IOL固定術への変更により改善した6)。
単純ヘルペスウイルス-1前部ぶどう膜炎から急性虹彩透照欠損様症候群へ移行し、色素緑内障を発症した症例が報告されている7)。抗ウイルス薬なしのステロイド単独治療がウイルス複製を増悪させ、虹彩色素上皮の破壊を促進した可能性が示唆されている7)。
連鎖解析によりGPDS1座位(7q35-q36)がPDSと関連する遺伝子座として同定されているが、責任遺伝子はまだ特定されていない。PDSからPGへの転換予測バイオマーカーの開発も今後の課題である。
- 日本緑内障学会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126:85-177.
- European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 5th Edition. 2020.
- European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 6th Edition. Br J Ophthalmol. 2025.
- American Academy of Ophthalmology. Primary Open-Angle Glaucoma Preferred Practice Pattern®. 2020.
- Liu J, Korban S, Moster MR, et al. Bilateral severe iatrogenic pigmentary glaucoma following laser treatment for cosmetic iris color change. Am J Ophthalmol Case Rep. 2023;32:101927.
- Nagata M, Matsushima H, Senoo T. A case of pigment dispersion syndrome after placement of sulcus intraocular lens with 7-mm optic diameter after posterior capsule rupture. Case Rep Ophthalmol. 2022;13:1012-1018.
- Radmilovic M, Maric G, Vukojevic A, et al. An unusual manifestation of 単純ヘルペスウイルス-1 uveitis transforming into an acute iris transillumination-like syndrome with pigmentary glaucoma. Life. 2025;15:1164.