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緑内障

ポール緑内障インプラント(PGI)

1. ポール緑内障インプラント(PGI)とは

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過去10年間で緑内障管理における緑内障ドレナージデバイス(GDD)の使用が大幅に増加した1)。緑内障ドレナージデバイスは合成チューブとプレートから構成され、チューブを通じて房水を赤道部後方のプレート周囲に導くことで眼圧を下降させる1)。「チューブ手術」とも称される。

最も広く使用されている緑内障ドレナージデバイスはアーメド緑内障バルブ(AGV、184 mm²)とバールフェルト緑内障インプラント(BGI、350 mm²)の2種類である。日本では両者とも保険診療で使用可能である。複数の大規模RCT(ABCスタディ・AVBスタディ)でこの2種類が比較されており、BGIの方が眼圧下降に優れるが術後合併症が多く、AGVは合併症が少ないが眼圧下降は劣るとされている2)

ポール緑内障インプラント(PGI、Advanced Ophthalmic Innovations社、シンガポール)はこれらの欠点を克服するために設計された新しいバルブなしの緑内障ドレナージデバイスである。チューブ径の縮小による角膜内皮保護と、プレート形状の工夫による斜視リスクの軽減が特徴である。ただし有効性・安全性を評価する文献はまだ限られている。

Q PGIはAhmedやBaerveldtとどう違いますか?
A

PGIはバルブなしの緑内障ドレナージデバイスであり、チューブの内径(0.127 mm)と外径(0.467 mm)がAhmed・Baerveldtより大幅に小さい。これにより角膜内皮との接触面積が減少し、内皮障害のリスクが理論的に低下する。エンドプレートの横幅が短いため直筋下に入り込む面積が減り、複視のリスクも軽減される。プレート面積(342.1 mm²)はBaerveldt(350 mm²)よりわずかに小さいがAhmed(184 mm²)より大幅に大きい。

チューブの特徴

素材:医療グレードのシリコン。柔軟性に優れ植え込みが容易である

チューブ径:内径0.127 mm・外径0.467 mmでAhmed・Baerveldtより大幅に小さい。角膜内皮との接触面積の減少により内皮細胞障害リスクの軽減が期待される

閉塞操作:6/0または7/0のステントで容易に管腔を閉塞できる。Baerveldtでは3/0ポリプロピレンステントが必要である

露出リスク:眼球外部分がより小さく、チューブ露出・侵食のリスクが軽減される

エンドプレートの特徴

寸法:幅21.9 mm×長さ16.11 mm

表面積:342.1 mm²。Baerveldt(350 mm²)よりわずかに小さいがAhmed(184 mm²)より大幅に大きい

形状:前後径がBaerveldtより大きく、プレートをより後方まで到達させられる。横幅(ウィングスパン)は短く、直筋下に入り込む面積が減少する

斜視リスク:横幅の短縮により術後の斜視・複視のリスクが理論的に軽減される

項目PGIBGI (350)AGV
プレート面積342.1 mm²350 mm²184 mm²
バルブなしなしあり
チューブ外径0.467 mm

緑内障ドレナージデバイス手術の基本手技はBaerveldtと同様である。結膜を1象限以上切開しテノン囊下に麻酔を行う。プレートを外眼筋付着部から1 mm後方の強膜に固定する。前房粘弾性物質を注入し、角膜輪部から1.5〜2 mm後方に23G針で穿刺路を作製し、チューブを前房に挿入する。チューブは強膜に縫合固定し、保存強膜でチューブを被覆する。

PGIはバルブなしのため、術後早期の過剰濾過を防止する目的でチューブ根元にステントを挿入して一時的に閉塞させる。

Paul glaucoma implant の術中写真
Paul glaucoma implant の術中写真
Bryan Chin Hou Ang; Sheng Yang Lim; Bjorn Kaijun Betzler; et al. Recent Advancements in Glaucoma Surgery-A Review. Bioengineering. 2023 Sep 19. Figure 3. PMCID: PMC10525614. License: CC BY.
Paul glaucoma implant を留置する術中写真である。プレートとチューブが上方結膜下に配置される位置関係を示している。

成人緑内障の成績

Kohら(多施設前向き研究、74眼、12ヶ月):失敗率5.4%。平均眼圧は23.1→13.2 mmHg。点眼数は3.3→0.3剤に減少。主な合併症は浅前房(11眼)・処置を要する低眼圧(7眼)・チューブ閉塞(5眼)

Vallabhら(後向き、99眼、6ヶ月):失敗率9.3%。平均眼圧は28.1→13.6 mmHg。前房出血(4眼)・低眼圧(2眼)が主な合併症

Joseら(後向き、24眼、12ヶ月):完全成功率33%、限定的成功率75%。平均眼圧は31.4→12.5 mmHg。処置を要する低眼圧なし

Tanら(後向き、45眼、24ヶ月):平均眼圧は19.8→13.9 mmHg。点眼数は3.2→0.29剤。浅前房(10眼)・臨床的に重大な低眼圧(4眼)

小児緑内障の成績

Elhusseinyら(症例シリーズ、3眼、9ヶ月):全3眼で術後眼圧15 mmHg未満。術中・術後の重大な合併症なし

Vallabhら(後向き、25眼、24ヶ月):平均眼圧は30.9→13.2 mmHg(12ヶ月)→11.8 mmHg(24ヶ月)。限定的成功率は最終フォローアップ時に84%。11眼(48%)は点眼薬なしで成功

Q PGIは小児緑内障に使用できますか?
A

小規模な研究で小児緑内障への有効性が報告されている。Vallabhらの25眼の研究では限定的成功率84%、48%は点眼薬なしで成功した。ただし症例数が限られており、長期的な安全性データは不足している。小児ではAhmed緑内障バルブ(96 mm²小児用モデル)の使用実績がより豊富である。

Q 術後の低眼圧はどの程度のリスクですか?
A

PGIはバルブなしのため、術後早期の低眼圧リスクが理論的に存在する。Kohらの研究では82眼中7眼(8.5%)で処置を要する低眼圧が発生した。ただしJoseらの24眼では処置を要する低眼圧はなかった。チューブ根元のステント閉塞操作により術後早期の過剰濾過を制御するが、ステントが溶解するまでの期間は高眼圧となることがある。

PGIは比較的新しいデバイスであり、他の緑内障ドレナージデバイス(Ahmed・Baerveldt)との直接比較RCTはまだ存在しない。既存のエビデンスは主に単群研究と後向き研究に限られる1)

今後の課題として以下が挙げられる。

  • 既存緑内障ドレナージデバイスとの直接比較RCT
  • 角膜内皮細胞減少率の長期評価
  • 術後斜視・複視の発生率の検証
  • 小児緑内障における長期安全性データの蓄積

緑内障ドレナージデバイスは線維柱帯切除術が無効な難治性緑内障に対する重要な選択肢であり3)、TVTスタディでは線維柱帯切除術不成功眼やIOL挿入眼でBGIの方が5年成功率が高かった2)。PGIがこのエビデンスにどのように貢献するかは今後の研究に委ねられている。

  1. European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 6th Edition. Br J Ophthalmol. 2025.
  1. American Academy of Ophthalmology. Primary Open-Angle Glaucoma Preferred Practice Pattern®. 2020.
  1. 日本緑内障学会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126:85-177.

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