角膜・涙液層の変化
点状表層角膜症(SPK):局所治療中の緑内障患者の18〜54%で認められる1)。BAK含有薬による角膜上皮障害が主因である
涙液層破壊時間(TBUT)低下:緑内障患者の60%以上でTBUTやシルマー値の異常が報告されている1)
涙液浸透圧上昇:保存剤含有点眼薬の使用本数と涙液浸透圧は正の相関を示す1)
渦状角膜混濁:ネタスジル使用患者の約20%に出現するが視力障害はなく中止で消失する

眼表面疾患(OSD)はドライアイ、マイボーム腺機能不全(MGD)、点状表層角膜症(SPK)、アレルギー性結膜炎などを包括する疾患群である。緑内障患者では一般人口と比較してOSDの有病率が高い1)。
全国調査では緑内障患者の16.5%にDEDが認められ、非緑内障者の5.6%と比較して有意に高かった1)。加齢は両疾患の共通リスク因子であるが、年齢を調整した解析でも緑内障患者のOSD有病率は高く、抗緑内障治療薬の関与が示唆されている1)。
緑内障治療に関連するOSDは「慢性的な局所薬の毒性作用により涙液層の不安定化・上皮障害・炎症をきたす眼表面の恒常性の不均衡」と定義される。保存剤含有の抗緑内障薬は既存のOSDを悪化させるだけでなく、新たにOSDを惹起しうる2)3)。
乾燥感、充血、流涙、刺激感、灼熱感、異物感、羞明、かすみ目が代表的である。眼表面疾患指数(OSDI)やDEQ-5質問票で評価する。症状と他覚所見が乖離することも珍しくない。
角膜・涙液層の変化
点状表層角膜症(SPK):局所治療中の緑内障患者の18〜54%で認められる1)。BAK含有薬による角膜上皮障害が主因である
涙液層破壊時間(TBUT)低下:緑内障患者の60%以上でTBUTやシルマー値の異常が報告されている1)
涙液浸透圧上昇:保存剤含有点眼薬の使用本数と涙液浸透圧は正の相関を示す1)
渦状角膜混濁:ネタスジル使用患者の約20%に出現するが視力障害はなく中止で消失する
結膜・眼瞼の変化
塩化ベンザルコニウム(BAK)は抗緑内障点眼薬で最も広く使用される防腐剤である2)3)。BAKは細胞膜を破壊する第四級アンモニウム化合物であり、病原体の膜と正常眼細胞の膜を区別できない。
BAK含有薬を防腐剤フリー薬に切り替えると、眼表面疾患の症状は有意に改善する2)3)。長期BAK使用は濾過手術の成功率低下とも関連する2)3)。
| 使用薬剤数 | DEDのオッズ比 |
|---|---|
| 2剤 | 1.23 |
| 3剤 | 1.63 |
| 4剤 | 2.60 |
使用薬剤数の増加に伴いDEDリスクは段階的に上昇する1)。1日あたりの点眼回数の増加も角膜染色スコアの悪化とTBUT短縮に関連する1)。
防腐剤フリー製剤でもOSDに寄与しうる1)。防腐剤フリーチモロールはTBUT短縮を、防腐剤フリータフルプロストはOSDI上昇を示した1)。β遮断薬はBAK曝露量を調整してもなお角膜上皮障害と関連していた1)。
線維柱帯切除術後はブレブの存在により涙液層が不安定となりうる1)。ただし薬剤中止による眼表面改善効果もあり、術眼は薬物治療中の僚眼と比較してTBUTが長く角膜染色が少ないとの報告がある1)。
すべてではないが、ほとんどの点眼薬がOSDに関与しうる。BAK含有薬の影響が最も大きいが、防腐剤フリー製剤でも有効成分自体による影響がある1)。α作動薬(ブリモニジン)はPurite®を防腐剤に使用した場合、DEDリスクの増加と関連しなかったとの報告がある1)。
抗緑内障薬の開始前にOSDのベースライン評価を行うことが推奨される1)。これにより治療開始後の変化を適切に判定できる。
| 所見 | BAKによる障害 | ドライアイ |
|---|---|---|
| フルオレセイン染色 | 角膜のみ染色 | 結膜のみまたは角結膜 |
| 点眼中止後 | 改善する | 変化なし |
DEQ-5(Dry Eye Questionnaire-5 item)が推奨される1)。OSDIは視機能に関する質問を含むため、緑内障による視野障害がスコアに影響しうる。DEQ-5は眼表面症状のみを評価するため、より正確な評価が可能である。
SLTを第一選択治療として考慮することで点眼薬の使用を回避または削減できる1)。MIGSは薬剤使用量の減少とOSD症状の改善に関連する1)。
影響する。眼表面の管理によりIOP下降の改善例が報告されている1)。また、術前の結膜炎症細胞が多い患者では線維柱帯切除術の失敗率が高く、長期BAK使用が濾過手術の成功率を低下させるとの報告がある2)3)。眼表面疾患の管理はOCT信号品質の改善にもつながる1)。
BAKは界面活性剤として細胞膜を破壊する。角膜上皮細胞・結膜上皮細胞・杯細胞に対して用量依存的・時間依存的な毒性を示す。1日に複数の点眼薬を必要とする場合、BAKの累積曝露量が増加し、眼表面への障害が蓄積する。
抗緑内障薬使用眼では涙液中のIL-6・IL-8・IL-1β・TNF-αなどの炎症性サイトカインが上昇する1)。BAK含有薬使用眼では粘膜類天疱瘡-9(眼表面の炎症・損傷マーカー)の上昇が46.7%に認められ、防腐剤フリー薬使用眼の16.7%と比較して有意に高かった1)。Th1およびTh2の両経路が関与する。
抗緑内障薬の長期使用により角膜sub-basal nerve fiberの密度が低下し、蛇行が増加する1)。角膜神経叢の障害は角膜知覚低下・涙液分泌低下・上皮修復遅延をきたし、眼表面疾患を悪化させる。BAKの動物モデルでは角膜神経線維密度の有意な低下が確認されている1)。
保存剤含有薬使用群は防腐剤フリー群と比較してマイボーム腺の脱落が大きい1)。防腐剤フリー薬でもマイボーム腺への悪影響が認められるが、保存剤の存在がMGDをさらに悪化させる1)。PG製剤は非PG製剤と比較してMGD有病率が高い1)。
Nijmら(2023)は緑内障患者におけるDEDの有病率・機序・管理戦略を包括的にレビューした1)。眼表面疾患の評価と治療がアドヒアランス改善、QOL向上、さらには眼圧管理の最適化にもつながることを示した。DEQ-5による症状評価、粘膜類天疱瘡-9検査による炎症評価、マイボグラフィーによるMGD評価を含む体系的な眼表面疾患評価プロトコルが提唱されている1)。
前房内ビマトプロスト徐放性インプラント(Durysta™)やビマトプロストリング(円蓋部留置)などの新規DDSは、点眼の必要性を低減し眼表面への負荷を軽減する可能性がある1)。マイクロドーズディスペンサー(Optejet™)は瞬目反射より速い速度で微小液滴を送達し、薬剤と防腐剤の眼表面曝露を最小化する技術として開発が進んでいる。
Nijm LM, Schweitzer J, Blackmore JG. Glaucoma and Dry Eye Disease: Opportunity to Assess and Treat. Clin Ophthalmol. 2023;17:3063-3076.
European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 6th Edition. Br J Ophthalmol. 2025.
European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 5th Edition. PubliComm; 2020.
日本緑内障学会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126(2):85-177.