高リスク群の特徴
中心角膜厚 < 555μm:最も強力な予測因子の一つ4)
眼圧 > 26mmHg:ベースライン眼圧が高いほど移行率が上昇する1)
大きなC/D比:視神経乳頭出血の出現も原発開放隅角緑内障発症の危険因子1)
アフリカ系人種:原発開放隅角緑内障発症リスクが高いことが知られている

高眼圧症(Ocular Hypertension: OHTN)は、標準的な検査で視神経損傷・網膜神経線維層欠損・視野欠損の証拠がなく、眼圧が継続的に21mmHgを超える臨床状態である4)。原発開放隅角緑内障(POAG)への進行における最大の修正可能なリスク因子であり、眼科診療において重要な位置を占める。
眼圧は集団においてほぼ正規分布し、成人の平均は約15〜16mmHg(標準偏差約3.0mmHg)である3)。伝統的に正常眼圧の上限は平均+2標準偏差、すなわち21mmHgと定義されてきた3)。ただし、眼圧の閾値のみでは健常と疾患を区別する指標としては不十分である3)。
高眼圧症治療研究(OHTS)では眼圧24〜32mmHgの高眼圧症患者を長期追跡し、未治療群の5年間原発開放隅角緑内障移行率は9.5%、治療群は4.4%であった4)。約20年間の長期追跡では参加者の約45%が最終的に原発開放隅角緑内障を発症したが、移行は通常遅れて発生し早期の軽症疾患を特徴とした。欧州緑内障予防研究(EGPS)ではドルゾラミド治療群13.4%と対照群14.1%の間に有意差はみられなかった1)。
緑内障診療ガイドラインでは、高眼圧症を原発開放隅角緑内障の発症・進行に関わる危険因子として位置づけ、ベースライン眼圧が高いこと、経過中の平均眼圧が高いことは視野および視神経障害の進行と関連するとしている1)。
高眼圧症は緑内障ではない。視神経損傷や視野欠損がなく眼圧のみが上昇した状態である4)。ただし、原発開放隅角緑内障への最大の修正可能なリスク因子であるため、定期的な経過観察が必要である。
高眼圧症の患者は無症状である。スクリーニングの眼圧測定で発見されることが多い。視力低下や痛みなどの自覚症状はなく、定期検診で偶発的に指摘される。
OHTSでは視神経障害のみ(視野欠損を伴わない)が69眼で認められ、エンドポイントの55%を占めた4)。構造的変化は検出可能な視野欠損に先行することが多い。
高眼圧症は房水流出に対する線維柱帯の抵抗増大が主因である。最大の流出抵抗部位はシュレム管内壁隣接組織(juxtacanalicular connective tissue)に局在する。マトリックスの合成と分解のバランスが崩れ、コラーゲン・フィブロネクチン・グリコサミノグリカンの過剰沈着が起こり、流出が阻害される。
OHTSとEGPSの解析から以下の危険因子が同定されている1)4)。
| 予測因子 | OHTS | EGPS |
|---|---|---|
| 高齢(10歳ごと) | HR 1.22 | 有意 |
| 高眼圧(1mmHgごと) | HR 1.10 | 有意 |
| 大きな垂直C/D比 | HR 1.32 | 有意 |
| 薄いCCT(40μmごと) | HR 1.71 | 有意 |
最も強力な予測因子は薄いCCT(< 555μm)、高い眼圧、大きな垂直C/D比である4)。CCTは真の眼圧推定と視神経の脆弱性の両方に影響を与える5)。角膜ヒステレシスなどの角膜生体力学的特性も眼圧測定と緑内障リスクに影響する5)。
高リスク群の特徴
中心角膜厚 < 555μm:最も強力な予測因子の一つ4)
眼圧 > 26mmHg:ベースライン眼圧が高いほど移行率が上昇する1)
大きなC/D比:視神経乳頭出血の出現も原発開放隅角緑内障発症の危険因子1)
アフリカ系人種:原発開放隅角緑内障発症リスクが高いことが知られている
低リスク群の特徴
厚いCCT:角膜が厚い場合、真の眼圧は測定値より低い可能性がある
小さなC/D比:正常な視神経構造を反映する
若年:ただし長期追跡が必要である
低リスク群の予後:数十年にわたっても進行する可能性が非常に低く、安全に経過観察できる
必ずしも治療は必要ではない。管理はリスク層別化に基づいて個別化される1)。低リスクの場合は定期的な経過観察のみでよいが、高リスクの場合は眼圧下降治療を開始することで原発開放隅角緑内障移行リスクを約60%減少させることができる4)。
高眼圧症の診断には以下の検査を行う4)。
画像解析装置による緑内障診断能の感度特異度は80%前後であり、最終判断には眼科専門医の総合的評価が必要である。OCTでは視野変化に先行して構造的変化を検出できることがあるが、異なる機種間での測定値の比較はできない1)2)。
| 鑑別疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| 早期POAG | 視神経・視野に緑内障性変化あり |
| ステロイド誘発性 | ステロイド使用歴を確認 |
| 色素散布症候群 | 隅角に色素沈着・Krukenberg紡錘 |
| 偽落屑症候群 | 瞳孔縁・水晶体前面に偽落屑物質 |
眼圧上昇のみでは原発開放隅角緑内障の診断としては不十分である。原発開放隅角緑内障の診断には再現性のある構造的(視神経・RNFL)および/または機能的(視野)な緑内障性損傷が必要である4)。高眼圧症はあくまでリスク状態であり、定期的な経過観察によって移行の有無を判定する。
OHTSとEGPSの結果に基づき、5年以内の原発開放隅角緑内障発症リスクを推定するリスク計算ツールが利用可能である。リスク層別化により治療開始の判断とフォローアップ頻度を決定する1)。
プロスタグランジン関連薬(PGA)が最も一般的な第一選択薬である。1日1回夜間投与で約30%の眼圧下降が得られ、副作用プロファイルも良好である。PGAが禁忌の場合はα2作動薬(ブリモニジン)、β遮断薬(チモロール)、炭酸脱水酵素阻害薬(ドルゾラミド)、Rhoキナーゼ阻害薬(ネタルスジル)が選択肢となる。
防腐剤フリー(PF)製剤は眼表面障害を軽減し、治療アドヒアランスの改善に寄与する。PFタフルプロスト/チモロール配合剤は最大療法からの減薬や単剤療法からのステップアップにおいて、眼表面疾患の改善と眼圧コントロールの両立を達成した10)。PFラタノプロストの36週間延長試験では長期安全性と忍容性が確認されている11)。BAKフリーラタノプロストはBAK含有ラタノプロストと同等の眼圧下降効果を維持しつつ、結膜充血の減少が報告された7)。
SLTは高眼圧症に対する安全で効果的な治療選択肢である。LiGHT試験では初期治療としてのSLTが6年間にわたり持続的な眼圧制御と点眼薬への依存軽減をもたらすことが示された。
房水は主に線維柱帯流出路(conventional pathway)とぶどう膜強膜流出路(uveoscleral pathway)を介して排出される。線維柱帯流出路では、房水が線維柱帯を通りシュレム管へ流入する。高眼圧症はこの流出経路の抵抗増大によって生じる。
最大の流出抵抗はシュレム管内壁隣接組織とシュレム管内壁に局在する。マトリックスの合成と分解のバランスが進行性のマトリックス蓄積に傾くと、この領域が肥厚する。コラーゲン・フィブロネクチン・グリコサミノグリカンの過剰な沈着が房水流出を阻害する。
線維柱帯内皮細胞はアクチンストレスファイバーの増加により硬化し、より収縮性の高い形態をとることがある。細胞が収縮するとチャネルが狭まり、房水流出を収容する能力が低下する。これらの加齢に伴う構造的・細胞的変化が、開放隅角眼における慢性的な眼圧上昇を招く。
Xiao & Qiu(2025)は、硝子体内デキサメタゾンインプラント(Ozurdex)後の高眼圧症171例を後方視的に検討した8)。OHTは注射後2〜3か月で最も高頻度に発症し、23.3%で認められた。点眼薬(10.0%)、SLT(1.2%)、MIGS(4.1%)で管理され、線維柱帯切除術やチューブシャント手術を要した症例はなかった8)。60歳以上で発症リスクが上昇し(OR 6.65)、網膜静脈閉塞症例ではDME例に比べ発症リスクが低かった(OR 0.07)8)。
Canestraroら(2021)は、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)治療中に推定トラベクリティスにより眼圧上昇を来した2例を報告した9)。軽度の前房内炎症にもかかわらず眼圧は52mmHgおよび33mmHgに上昇した。ICI中止・局所ステロイド・抗緑内障薬の投与で7〜10日以内に消炎・眼圧正常化を達成した9)。1例ではICI再投与(低用量)後もトラベクリティスの再発は認められなかった9)。
Prathapanら(2023)は、硝子体切除術+シリコーンオイル注入後の46眼を前向きに検討した6)。術後90日のOHT発生率は21.7%であった。50歳未満(OR 147.1)、偽水晶体眼(OR 12.3)、手術時間40分以下(OR 23.8)が早期OHTの独立リスク因子、既存の緑内障(OR 7.3)が晩期OHTの唯一の独立リスク因子であった6)。
Gaurら(2022)は、COVID-19感染後に両側急性虹彩脱色素症(BADI)と高眼圧症(眼圧48/44mmHg)を発症した43歳男性例を報告した12)。抗緑内障薬とステロイド点眼で10日後に眼圧正常化、2か月後に視力20/20に回復した12)。BADIはウイルス感染や特定の抗菌薬との関連が指摘されている希少な疾患であり、眼科医が認識すべきOHTの鑑別疾患の一つである12)。
ある。ステロイド誘発性高眼圧症は知られた副作用であり、線維柱帯の生化学的・構造的変化により房水流出抵抗が増大して起こる。デキサメタゾンインプラント後にも23.3%で高眼圧症が報告されている8)。ステロイド使用中は定期的な眼圧モニタリングが重要である。
日本緑内障学会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022.
European Glaucoma Society. European Glaucoma Society Terminology and Guidelines for Glaucoma, 6th Edition. Br J Ophthalmol. 2025.
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Bacharach J, Ahmed IIK, Sharpe ED, et al. Preservative-Free versus Benzalkonium Chloride-Preserved Latanoprost Ophthalmic Solution in Patients with Primary Open-Angle Glaucoma or Ocular Hypertension: A Phase 3 US Clinical Trial. Clin Ophthalmol. 2023.
Xiao J, Qiu M. Management of ocular hypertension following intravitreal dexamethasone implant (Ozurdex). Am J Ophthalmol Case Rep. 2025;38:102274.
Canestraro J, Do A, Potash SD, et al. Immune checkpoint inhibitor associated ocular hypertension (from presumed trabeculitis). Am J Ophthalmol Case Rep. 2021;23:101125.
Ansari E, Chappiti S, Pavicic-Astalos J, et al. Treatment of open-angle glaucoma and ocular hypertension with preservative-free tafluprost/timolol fixed-dose combination therapy: 6 case reports and clinical outcomes. BMC Ophthalmol. 2022;22:152.
Shen Lee B, Malhotra R, Sall K, et al. Open-Label Extension Study Comparing Latanoprost 0.005% Without vs With Benzalkonium Chloride in Open-Angle Glaucoma or Ocular Hypertension. Clin Ophthalmol. 2022;16:2285-2293.
Gaur S, Sindhu N, Singh DV, et al. COVID-19-related bilateral acute de-pigmentation of iris with ocular hypertension. Indian J Ophthalmol. 2022;70:3136-3139.