機械説
眼圧上昇と篩状板変形:相対的な眼圧上昇により篩状板が変形・菲薄化し、網膜神経節細胞(RGC)の軸索輸送が途絶してアポトーシスが生じる
眼圧下降治療の根拠:多くの大規模研究が眼圧を緑内障発症・進行の最大の危険因子と位置づけている5)
限界:正常眼圧緑内障や眼圧下降でも進行する症例を十分に説明できない3)

光干渉断層血管撮影(Optical Coherence Tomography Angiography: OCTA)は、網膜および視神経乳頭の血管を非侵襲的に可視化する画像技術である。同一断面を繰り返しスキャンし、血管内を流れる赤血球の移動によって生じる反射変化を検出する。灌流血管と周囲の静止組織との間に画像コントラストが生まれ、造影剤なしで血管構造を描出できる。2015年に最初の市販OCTAが導入された。
緑内障は世界で最も多い不可逆的失明の原因であり2)、約50%が未診断とされる。OCTAは緑内障眼における血管密度低下を検出可能であり、診断と進行評価への応用が期待されている。OCTAを用いると乳頭内・乳頭周囲血管の消失や黄斑部毛細血管網の減少を非侵襲的に観察できる。緑内障診療ガイドラインでは、OCTAによる網膜表層・深層血流の評価が可能であるとし、進行した緑内障ほど網膜表層血流が低下することが知られる1)。
通常のOCTは網膜の構造(厚さ)を静的に測定する。OCTAはこれに加えて血流情報を動的に取得し、血管密度や血流の変化を評価できる。構造的情報と機能的情報の両方を提供する点が特徴である。
緑内障眼では対照眼と比較して血管密度(VD)が低下する。乳頭周囲および黄斑部の両領域において、浅層(表層)でVD低下がより顕著である。VDの減少は初期〜中期緑内障よりも末期緑内障でより著明となる。緑内障眼では陥凹拡大の進行に伴い乳頭内毛細血管が消失し、網膜神経線維層欠損と一致して放射状乳頭周囲毛細血管が脱落する。黄斑部では中心窩無血管域(FAZ)の拡大・変形も認められる。
微小血管脱落(Microvascular dropout: MvD)は乳頭周囲萎縮領域における脈絡膜毛細血管の消失である。多くはβゾーン内の耳下側に認められる。MvDはRNFL菲薄化・篩状板欠損・視野欠損・乳頭出血と関連する。MvDの有病率とサイズは緑内障の重症度とともに増加する。MvDはRNFL菲薄化と視野欠損のより速い進行速度を予測する指標である。
視神経乳頭周囲の深層血流脱落所見が緑内障の進行と関係することも注目されている1)。
| 項目 | 構造的OCT | OCTA |
|---|---|---|
| 評価対象 | 網膜層厚(静的) | 血管密度(動的) |
| Floor effect | 進行例で限界あり | 影響を受けにくい1) |
| 早期緑内障 | RNFL厚の感度が良好 | VDは同等〜やや劣る |
OCTAの診断能はOCT(RNFL厚・GCC厚)と概ね同等である。ただし初期緑内障ではOCTによるRNFL厚の方が感度が良いとする報告もある。一方で進行した緑内障ではOCTのfloor effectを受けにくいOCTAが有利となる可能性がある1)。
OCTAが緑内障診療で注目される背景には、緑内障の病態生理における血管因子の関与がある。
機械説
眼圧上昇と篩状板変形:相対的な眼圧上昇により篩状板が変形・菲薄化し、網膜神経節細胞(RGC)の軸索輸送が途絶してアポトーシスが生じる
眼圧下降治療の根拠:多くの大規模研究が眼圧を緑内障発症・進行の最大の危険因子と位置づけている5)
限界:正常眼圧緑内障や眼圧下降でも進行する症例を十分に説明できない3)
血管説
眼血流低下と虚血:眼灌流圧の低下や血管自動調節能の喪失により視神経が虚血・酸化ストレスに曝される3)
動脈硬化の関与:動脈硬化が高い拍動性を生み、眼の微小血管に障害をもたらす可能性が示唆されている3)
OCTAの意義:血管説の検証に、血管密度を定量評価できるOCTAが有力なツールとなる
近年では「機械説」と「血管説」は互いに独立したものではなく、視神経乳頭の生体力学理論として統合的に捉える考え方が主流となっている。眼圧依存性因子と眼圧非依存性因子(循環障害・自己免疫・酸化ストレスなど)が複雑に関連し合い、緑内障性視神経症を構成すると考えられる。
OCTAはSD-OCTまたはSS-OCTを基盤とする。同一網膜位置で繰り返しBスキャンを取得し、連続画像間のデコリレーション(信号変化)を検出する。血管内を流れる赤血球は反射信号を変化させるが、周囲の静止組織は変化しない。この差が血流マップとして可視化される。
主要アルゴリズム
SSADA:スペクトラム分割振幅デコリレーション法。AngioVue®(Optovue®)に搭載
OMAG:OCTベースの微細血管撮影法。Angioplex®(Zeiss®)に搭載
OCTARA:OCTA比分析法。Triton®(TopCon®)のSS-OCTAに搭載
その他:AngioScan®(NIDEK®)の強度・位相デコリレーション結合法、SPECTRALIS®(Heidelberg®)の強度デコリレーション法
装置選択の注意点
装置間非互換性:アルゴリズムやデフォルトのスラブ深度が異なるため、同一患者でも装置間の直接比較は不可能である
SS-OCTA:TopCon®、Canon®、Zeiss®が波長掃引型OCTAを提供しており、脈絡膜層の評価で速度・解像度が向上する
画質基準:信号強度指数(SSI)40未満(Zeissでは6未満)の低画質画像は除外する
| 用語 | 定義 |
|---|---|
| 血管密度(VD) | 血管が占める面積の割合 |
| 乳頭周囲VD | 乳頭境界から外側750µm環状領域のVD |
| 傍中心窩VD | 中心窩中心の直径1〜3mm間のVD |
OCTAは緑内障の診断において機能的情報と構造的情報の両方を提供する。メタアナリシスでは、すべての評価領域で緑内障眼のVDが対照群より低いと結論づけられている。OCTAの診断能はOCT(RNFL厚・GCC厚)と同等とされる。視野(VF)とVDの相関はVFとOCTの相関よりも良好とする報告もあり、高度近視眼や末期緑内障でこの相関がより強くなる。
3ヶ月以上のフォローアップを伴う縦断的研究の多くが、VD変化と構造的(OCT)・機能的(VF)悪化との関連を見出している。ベースラインの乳頭周囲・黄斑VDが低いことは、初期〜中期緑内障におけるRNFL進行の速い速度と関連する。この関連はベースラインRNFL厚とは独立しており、OCTAが進行リスク評価に追加的な寄与を提供する可能性を示唆する。
OCTAによる進行判定は構造的OCTのfloor effectの影響を受けにくいとされ、進行した緑内障眼ではOCTよりも有利である可能性がある1)。ただし現時点で実臨床における標準化された活用方法は確立されていない1)。
手術による眼圧下降は眼の血行動態に変化を引き起こし、眼血流の増加をもたらす。複数の研究で緑内障手術後に微細血管VDの有意な増加が報告されている。VDの増加は術前眼圧が高いこと、眼圧下降幅が大きいこと、篩状板深度の減少と相関する。
乳頭周囲VDは手術後の眼圧範囲内では眼圧に依存しないが、黄斑VDは遅延反応を示し正常に近い再灌流が続くことが示されている。ただしフォローアップ期間が3ヶ月〜1年と短い研究が多く、長期的な検証が必要である。
使える可能性がある。複数の研究で手術後にVDの有意な増加が報告されており、血管回復の評価に有望である。ただし長期フォローアップの研究は不足しており、今後の検証が必要である。
眼灌流圧(OPP)は動脈圧と静脈圧の差として定義される。計算式は OPP = 2/3 MAP − 眼圧 である(MAP = 平均動脈圧)。血流には血管抵抗が影響し、血管径が50%減少すると血流は約94%減少する。この調節メカニズムの喪失が虚血を招く。
主要な血管拡張因子は一酸化窒素(NO)であり、cGMP上昇を介して血管平滑筋を弛緩させる。低酸素と高炭酸ガス血症も血管拡張を惹起する。主要な血管収縮因子はエンドセリン-1(ET-1)であり、緑内障眼の房水ではNO濃度が上昇している。これは視神経における誘導型NO合成酵素の活性亢進を反映すると考えられている。
動脈硬化による拍動性の増大は、眼の微小血管に平滑筋肥大・細動脈狭窄・血管抵抗増加・VD低下をもたらす可能性がある3)。横断研究では脈波伝播速度(PWV)と緑内障の正の関連が示されており、PWVが高い参加者ほど黄斑部VDが低い傾向にある3)。前向き研究では脈圧70mmHg超がPOAGリスクの上昇と関連していた3)。
OCTAで観察されるVD低下やMvDは、上記の血管障害メカニズムの帰結と考えられる。乳頭周囲の放射状毛細血管脱落はRNFL欠損と一致し、PPA領域内の微小脈絡膜血管脱落は脈絡膜レベルの深部血管萎縮を反映する。これらの所見を定量的に捉えられることがOCTAの臨床的価値である。
Scarpaら(2024)は、ニュージーランドの大規模コホート(ViDA Study)において、発振式装置で測定した動脈脈波伝播速度(aPWV)、大動脈脈圧(aPP)、推定PWV(ePWV)が緑内障発症を予測するかを検討した3)。PWVの増加は原発開放隅角緑内障リスクの上昇と関連し、高い動脈硬化が眼の微小血管障害を介して緑内障発症に寄与する可能性が示唆された3)。
Stangosら(2025)は、緑内障に関連する眼科的・全身的リスク因子およびバイオマーカーについてアンブレラレビューを実施した4)。87のリスク因子と46のバイオマーカーを評価し、眼圧・近視・角膜ヒステレシスの3つの眼科因子と総抗酸化状態1つの末梢バイオマーカーが「高度に示唆的なエビデンス」と評価された4)。OCTAによる血管密度評価が将来的にバイオマーカーとしての役割を担う可能性が示唆される。
OCTAの緑内障診療における本格的な臨床応用には、装置・プロトコル間の標準化と長期縦断的研究の蓄積が不可欠である。VDの測定値は眼圧変動・全身灌流・網膜酸素化の影響を受けやすいため、これらの交絡因子を考慮した解析が求められる。人工知能(AI)によるOCTA画像の自動解析も将来的な発展が期待される領域である。
日本緑内障学会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022.
European Glaucoma Society. European Glaucoma Society Terminology and Guidelines for Glaucoma, 6th Edition. Br J Ophthalmol. 2025.
Scarpa F, et al. Arterial Stiffness and Incident Glaucoma in the Vitamin D Assessment Study. Am J Ophthalmol. 2024.
Stangos A, et al. Ocular and Systemic Risk Factors and Biomarkers for Glaucoma: An Umbrella Review of Systematic Reviews and Meta-Analyses. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2025;66(12):35.
Stamer WD, Bhatt K. Intraocular Pressure. Annu Rev Vis Sci. 2024.