一次的損傷メカニズム
グルタミン酸興奮毒性:過剰なグルタミン酸がNMDA受容体を活性化し、Ca²⁺流入によるRGC死を誘導する2)9)
酸化ストレス:活性酸素種(ROS)の過剰産生。原発開放隅角緑内障では房水中の水溶性抗酸化物質(グルタチオン・アスコルビン酸)が低下し、血清中のマロンジアルデヒドが約2倍に上昇する6)
ミトコンドリア機能障害:篩状板でのRGC軸索は無髄であるためエネルギー需要が高い。ミトコンドリア複合体I活性の低下とATP合成の減少が報告されている6)

緑内障はRGCの進行性喪失と視野欠損を特徴とする視神経症であり、世界における不可逆的失明の主要原因である2)。IOPは唯一の修正可能なリスク因子であるが、IOP下降にもかかわらず約50%の患者で緑内障性損傷が進行するとされる2)。
神経保護は「ニューロンの損傷を直接的に予防または抑制することを目指す治療的アプローチ」と定義される11)12)。動物モデルでは複数の化合物にRGC保護効果が示されているが、ヒトの緑内障において十分なエビデンスに達した薬剤はまだない11)12)。
緑内障診療ガイドライン(第5版)は、臨床的に神経保護効果を判断するには少なくとも4年の観察が必要と述べたSenaらのシステマティックレビューを引用し、エビデンスの確立には今後の研究を待つ必要があるとしている10)。
眼圧下降が唯一確立された緑内障治療であり最優先である10)11)。神経保護は眼圧下降に代わるものではなく、補助的なアプローチとして研究が進められている。神経保護戦略のみに依存し確立された眼圧下降療法を軽視することは推奨されない11)。
緑内障では網膜の最終出力ニューロンであるRGCが選択的に喪失する8)。他の網膜ニューロン(アマクリン細胞・視細胞など)は比較的保たれる。視野欠損はRGC喪失の機能的表現であり、従来は周辺視野の障害が注目されてきたが、近年では早期から黄斑部GCL菲薄化が認められることが明らかになっている。
RGC死は多因子的であり、複数の経路が関与する9)。以下に主要なメカニズムと対応する神経保護の標的を示す。
一次的損傷メカニズム
グルタミン酸興奮毒性:過剰なグルタミン酸がNMDA受容体を活性化し、Ca²⁺流入によるRGC死を誘導する2)9)
酸化ストレス:活性酸素種(ROS)の過剰産生。原発開放隅角緑内障では房水中の水溶性抗酸化物質(グルタチオン・アスコルビン酸)が低下し、血清中のマロンジアルデヒドが約2倍に上昇する6)
ミトコンドリア機能障害:篩状板でのRGC軸索は無髄であるためエネルギー需要が高い。ミトコンドリア複合体I活性の低下とATP合成の減少が報告されている6)
二次的損傷メカニズム
神経保護薬の臨床効果を証明するためには、長期にわたる前向き無作為化比較試験が必要である9)10)。
| 評価法 | 指標 | 特徴 |
|---|---|---|
| 視野検査 | MD・PSD | 機能評価の標準。2〜4年の追跡が必要 |
| OCT | RNFL・GCC厚 | 構造評価。変化の検出感度が高い |
| 電気生理 | PERG・VEP・PhNR | RGC機能を直接反映 |
理想的な神経保護薬は以下の条件を満たす必要がある9)。①網膜・視神経に特異的な標的受容体を持つ。②実験的に神経抵抗性の増強が証明されている。③標的組織で治療濃度に到達可能。④前向き無作為化臨床試験で神経保護効果が実証されている。現時点で④を満たす薬剤は存在しない。
ブリモニジンはα2アドレナリン受容体作動薬であり、眼圧下降薬として広く使用される。動物実験では、IOP非依存的にRGC生存率をチモロールの約1.5倍に高めることが報告されている2)7)。
提唱されている神経保護メカニズム2)5):
LoGTS(低眼圧緑内障治療試験):低眼圧緑内障178名を対象とした多施設二重遮蔽RCTである10)11)。ブリモニジン酒石酸塩0.2%とチモロールマレイン酸塩0.5%を比較した。48ヶ月の追跡でIOP下降効果は同等であったが、ブリモニジン群(9.1%)はチモロール群(39.2%)より有意に視野進行が少なかった7)11)。ただしブリモニジン群で55%、チモロール群で約30%の脱落者があり、ブリモニジン群の脱落の多くは眼アレルギーによるものであった。この高い脱落率がバイアスとなり、確定的な結論は得られていない10)11)。
動物モデルでは眼圧非依存的なRGC保護効果が示されている2)7)。LoGTS試験ではチモロールと同等のIOP下降にもかかわらずブリモニジン群で視野進行が有意に少なかった10)11)。しかし脱落率が高く、エビデンスは十分ではないと評価されている10)。
メマンチンは非競合的NMDA受容体拮抗薬であり、グルタミン酸興奮毒性を抑制する。動物モデルではRGC保護効果が示された2)7)。
しかし開放隅角緑内障患者2,298名を対象とした2つのPhase III多施設共同RCT(メマンチン20mg群・10mg群・プラセボ群、48ヶ月追跡)では、一貫した緑内障進行抑制効果は確認できなかった2)7)10)。
シチコリン(シチジン5′-ジホスホコリン)は内因性化合物であり、細胞膜リン脂質の維持に重要な役割を果たす1)2)7)。
投与経路と臨床エビデンス:
眼圧コントロール下でも進行傾向を示す開放隅角緑内障患者80名を対象としたシチコリン点眼のRCTでは、3年間のHumphrey 10-2およびOCTによるRNFL厚評価において進行が有意に抑制された10)。欧州ではシチコリンは特別医療用栄養食品として承認されている11)。
複数の臨床研究でシチコリンによるPERG・VEP改善とRNFL保護が報告されている1)2)。経口・筋肉内・点眼のいずれの投与経路でも効果が認められているが、有意な効果の出現には1年以上の治療が必要との報告もある2)。現在、大規模Phase III試験が進行中である2)。
ニコチンアミド(ビタミンB3)はNAD+の主要な前駆体である。NAD+はミトコンドリアのエネルギー産生に不可欠であり、加齢やIOPストレスにより神経でのNAD+レベルが低下することが示されている6)。
DBA/2Jマウス緑内障モデルでは、高用量ニコチンアミド補充により93%の眼で検出可能な緑内障が認められなかった6)。臨床試験(57名のクロスオーバーRCT)では、経口ニコチンアミド1.5〜3g/日の3ヶ月投与でPhNR振幅が14.8%改善し(p=0.02)、27%の患者で視野が1dB以上改善した1)2)4)。
現在、660名の開放隅角緑内障患者を対象としたTGNT試験やニコチンアミド+ピルビン酸併用の大規模RCTが進行中である2)4)。ニコチンアミド+ピルビン酸の併用試験では、視野改善箇所の中央値がプラセボ7箇所に対し治療群15箇所と有意に多かった(p=0.005)4)。
BDNF
脳由来神経栄養因子はTrkB受容体を介してRGC生存を促進する8)
緑内障患者の房水・涙液・血清中のBDNFは健常者より有意に低下しており、バイオマーカーとしての可能性がある8)
動物モデルではBDNFの硝子体内投与でRGC保護効果が確認されているが、半減期が短く反復投与が必要8)
BDNF+TrkBの二重過剰発現を可能にするAAVベクターを用いた遺伝子治療が開発され、Phase I/IIa試験が計画されている2)
CNTF・NGF
毛様体神経栄養因子(CNTF):遺伝子改変細胞からCNTFを持続放出するNT-501デバイスのPhase II試験が進行中。Phase Iでは対照眼と比較し移植眼で視力・RNFL厚の低下が少なかった2)
神経成長因子(NGF):動物モデルでRGC保護効果。点眼rhNGFのPhase Ib試験では重篤な副作用なく、構造・機能指標にrhNGFに有利な傾向がみられたが統計的有意差には達しなかった2)
イチョウ葉エキス(GBE)は抗酸化作用と血管調節作用を持つ1)2)7)。27名のNTG患者を対象としたクロスオーバーRCTでは、GBE 40mg×3回/日の4週間投与で視野MDが-11.40±3.27から-8.78±2.56 dBに有意に改善した(p<0.001)1)2)。4年間の縦断的研究でもGBE治療群で有意な視野改善が報告されている2)。
しかし中国人NTGコホートを対象とした別のクロスオーバー試験では改善が認められず、結果は一貫していない2)。抗凝固薬使用中の患者には禁忌とされる11)。
| 薬剤 | 作用機序 | 臨床的状況 |
|---|---|---|
| カルシウム拮抗薬 | 眼血流改善 | ニルバジピンで眼血流改善を報告10) |
| カシスアントシアニン | 抗酸化・血流改善 | 2年間RCTで視野進行抑制10) |
| CoQ10 | ミトコンドリア保護 | 6〜12ヶ月でPERG・VEP改善1)3) |
| ドルゾラミド | 眼血流改善 | 5年間研究で視野進行抑制10) |
カルシウム拮抗薬について、緑内障診療ガイドライン(第5版)では33例の低眼圧緑内障を対象としたニルバジピンの研究でレーザードップラー法により眼血流改善が報告されたことを紹介している10)。カシスアントシアニンについても2年間の無作為化二重遮蔽試験で視野障害進行の有意な抑制が報告されている10)。
幹細胞療法では間葉系幹細胞(MSC)が注目されている。MSCはPDGF・BDNFなどの神経栄養因子を分泌する5)。しかし硝子体内注射による反応性グリオーシス・硝子体混濁・黄斑上膜の形成が報告されており2)、臨床応用にはさらなる研究が必要である。MSC由来エクソソームはmiRNA依存性にRGC生存と軸索再生を促進し、細胞移植のリスクを軽減する代替手段として研究されている2)。
遺伝子治療ではBDNF+TrkB二重過剰発現AAVベクター2)、ミオシリン遺伝子の機能喪失変異導入2)、TEK受容体の機能獲得変異2)などが研究されている。
視神経乳頭の篩状板においてRGC軸索は機械的ストレスを受ける。IOPに起因する周方向の応力(フープストレス)とIOP−視神経組織圧の差(trans-LC圧差)が主要な物理的因子である9)。
JNKストレス応答経路はRGC死のシグナル伝達に中心的な役割を果たす。c-Junの発現亢進が緑内障モデルのRGCとアストロサイトで確認されており、JNK2/JNK3二重欠損マウスではRGC生存率が改善する9)。JNK上流のキナーゼが損傷シグナルを伝達することが最も決定的に示されている。
逆行性軸索輸送の遮断は篩状板で生じ、神経栄養因子(特にBDNF)の細胞体への供給が途絶する。これによりアポトーシスが惹起される8)。軸索ミトコンドリアの機能障害も関与し、篩状板での無髄線維は高いエネルギー需要を持つためにとくに脆弱である6)。
NAD+はミトコンドリアの電子伝達系に不可欠な補酵素である6)。加齢とIOPストレスにより、NMNAT2(ニコチンアミドモノヌクレオチドアデニリルトランスフェラーゼ2)の発現が低下し、神経でのNAD+が枯渇する6)。DBA/2JマウスではNMNAT1の過剰発現により70%以上の眼で視神経障害が予防された6)。原発開放隅角緑内障リンパ芽球ではミトコンドリア複合体Iの酵素活性低下とATP合成減少が確認されている6)。
ミクログリアの活性化とTNF-α・IL-1βの放出がRGC死を促進する5)9)。補体カスケードの活性化も関与し、CR2-Crry遺伝子治療でRGC変性が軽減された報告がある5)。Fasリガンド拮抗薬(ONL1204)はグリオーシス・マクロファージ浸潤・炎症性サイトカインを減少させ、RGC死を抑制した5)。
Petritiら(2021)は、NAD+の枯渇が緑内障性神経変性の中心的機序であり、ニコチンアミド補充が有望な治療標的であることをレビューした6)。DBA/2Jマウスモデルで高用量ニコチンアミドにより93%の眼で緑内障が予防され、NMNAT1過剰発現でも70%以上の眼で視神経障害が予防された。ヒト臨床試験では1.5〜3g/日でPhNR振幅改善が確認されている。
Martucciら(2025)は、シチコリン+ホモタウリン・ニコチンアミド+ピルビン酸・CoQ10+ビタミンB3などの多標的併用療法の有効性をレビューした3)。単剤では効果が限定的であった神経保護候補薬も、相補的な経路を標的とする固定用量配合剤として投与することで、RGCの電気生理指標・視野パラメータ・QOLの改善が報告されている。
LiuとAng(2025)は、10のメカニズム(圧関連・血管性・細胞機能障害・機能的欠損)を体系的にカバーするNP-10ニューロプロテクションシステムを提唱した4)。個々のヌトラシューティカルのエビデンスを機序ごとに整理し、サフラン(IOP低下)、イチョウ葉+ビルベリー(血管性)、ニコチンアミド+ピルビン酸(ミトコンドリア)、シチコリン(機能改善)などの位置づけを示した。
Skopiskiら(2021)は、Rhoキナーゼ阻害薬(リパスジル・ネタルスジル)がIOP下降に加えて神経突起伸長と軸索再生を促進することをレビューした5)。ブリモニジンとの併用で相加的な保護効果が認められた。さらにTLR4阻害薬・ホスホジエステラーゼ4阻害薬(イブジラスト)・補体阻害・Fasリガンド拮抗薬・TNF-α阻害薬(エタネルセプト)などの免疫調節アプローチによりRGC保護が動物モデルで示されている。
ニコチンアミドの大規模RCT(TGNT試験、660名開放隅角緑内障対象、2026年完了予定)2)、シチコリン点眼のPhase III試験2)、CNTF放出NT-501デバイスのPhase II試験2)、rhNGF点眼のPhase Ib試験の次相2)、BDNF+TrkB二重過剰発現AAVのPhase I/IIa試験2)などが進行中または計画中である。
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