原発小児緑内障
原発先天緑内障(PCG):隅角発生異常が原因。発症時期により新生児期(0〜1ヶ月)・乳児期(1〜24ヶ月)・遅発性(2歳以上)に細分される4)
若年開放隅角緑内障(JOAG):4歳以降に発症。開放隅角で眼球拡大を伴わない4)

小児緑内障は18歳未満に発症する緑内障の総称である3)。眼圧上昇により緑内障性視神経症および視力障害を招く不均一な疾患群であり、ほぼ全例で手術治療を要する1)。
原発先天緑内障(PCG)が小児緑内障の中で最も頻度が高い。白人における出生頻度は1/12,000〜18,000であるが、血族婚が存在する集団では5〜10倍高くなる1)。男児が65%を占め、70%が両眼性である1)。日本では約10万人に1人とまれである。
原発先天緑内障の標準的な初回手術は隅角切開術(goniotomy)または線維柱帯切開術(trabeculotomy)である4)。これら隅角手術が不成功の場合に濾過手術や緑内障ドレナージデバイスが考慮される1)。
低侵襲緑内障手術(MIGS)は結膜を温存する手技であり、成人の軽症〜中等症緑内障を主な対象として発展してきた1)。結膜温存により将来の濾過手術の選択肢が残される利点から、小児緑内障への応用にも関心が高まっている。ただし小児緑内障におけるMIGSの安全性と有効性に関するエビデンスは限定的である。
GATT・KDB・Trab360・PreserFloなどのMIGS手技が小児緑内障で試みられており、有望な短期成績が報告されている。ただしエビデンスは症例シリーズや小規模研究が中心であり、長期成績のデータは不足している。従来の隅角手術が第一選択である点は変わらない。
緑内障の病型にかかわらず、流涙・羞明・眼瞼けいれんが初発症状としてしばしば認められる。これらは眼圧上昇による角膜上皮浮腫に伴う刺激の結果である。乳児では不機嫌・啼泣が疑いの契機となることがある1)。常に症状を呈するとは限らない5)。
小児緑内障はChildhood Glaucoma Research Network(CGRN)の分類が国際的に採用されている3)4)。
原発小児緑内障
原発先天緑内障(PCG):隅角発生異常が原因。発症時期により新生児期(0〜1ヶ月)・乳児期(1〜24ヶ月)・遅発性(2歳以上)に細分される4)
若年開放隅角緑内障(JOAG):4歳以降に発症。開放隅角で眼球拡大を伴わない4)
続発小児緑内障
原発先天緑内障の本態は隅角形成異常(trabeculodysgenesis)である1)。線維柱帯の発達が未熟であるため傍Schlemm管結合組織が異常に厚く、細胞外マトリックスの蓄積、毛様体の線維柱帯付着など複数の病理学的異常が報告されている。
遺伝的には常染色体劣性遺伝が多い。最も一般的な関連遺伝子はCYP1B1であり、TEK/ANGPT1、LTBP2、MYOC、EFEMP1なども報告されている1)。大規模なオーストラレシアの疾患レジストリでは、遺伝子診断の達成率は24.7%であり、CYP1B1の両アレル変異(23.2%)、MYOC(19.2%)、FOXC1(16.8%)が主要な変異として報告された3)。血族婚は疾患重症度の増加および予後不良因子と考えられている1)。
原発先天緑内障は常染色体劣性遺伝が多く、CYP1B1遺伝子変異が最も一般的な原因遺伝子である1)。JOAGは常染色体優性遺伝でMYOC遺伝子異常が報告されている。遺伝性発症が疑われる場合は遺伝子検査と遺伝カウンセリングが推奨される。
小児緑内障の診断基準(WGA基準)は以下の5項目のうち2項目以上を満たすことである4)。
| 項目 | 基準 |
|---|---|
| 眼圧 | >21 mmHg |
| 視神経乳頭 | C/D比増大の進行、左右非対称≧0.2 |
| 角膜所見 | Haab線、角膜径増大 |
| 眼軸長 | 正常発達を超えた伸長 |
| 視野 | 緑内障性視野欠損 |
流涙・角膜混濁を呈する疾患との鑑別が重要である。結膜炎、鼻涙管閉塞、後部多形性角膜ジストロフィ(PPMD)、先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ(CHED)、X連鎖性巨大角膜、分娩時外傷などが挙げられる1)。
原発先天緑内障の治療の第一選択は手術治療である4)。薬物治療は周術期または術後の補助手段として位置づけられる4)。
隅角手術
隅角切開術:透明な角膜が必要。1回で90〜120°切開可能。3回まで有効4)
線維柱帯切開術:角膜混濁でも施行可。結膜弁・強膜弁の作製が必要。360°切開術も試みられている4)
成功率:生後3〜12ヶ月のPCGで両術式とも70〜90%4)
二次的手術
濾過手術:隅角手術無効例に適応。小児では濾過胞形成が困難な場合があり長期成績は成人に比べ不良(1年成功率50〜87%)4)
チューブシャント手術:濾過手術も無効な例に使用。日本では明確なエビデンスが限定的4)
毛様体破壊術:上記いずれの治療でも眼圧コントロールが得られない場合に考慮4)
薬物治療は原発開放隅角緑内障に準じて組み合わせるが、乳幼児では体重・体表面積に比して投与量が過多となりうる点に注意を要する4)。
小児緑内障にMIGSを応用した報告が近年増加している。主な手技と成績を以下に示す。
| 手技 | 対象・眼数 | 術後眼圧 | 成功率 |
|---|---|---|---|
| KDB(Elhilaliら) | PCG 21眼 | 11.8 mmHg(12ヶ月) | 57.1% |
| GATT(Groverら) | PCG/JOAG 14眼 | 14.8 mmHg(12ヶ月超) | ― |
| GATT(Shiら) | JOAG 70眼 | 15.8 mmHg(12ヶ月) | 91.4% |
| Trab360(Areauxら) | 46眼 | 18 mmHg | 70% |
| PreserFlo(Brandtら) | 12眼 | 11.0 mmHg | 75% |
| ECP(Glaserら) | 80眼 | ― | 81%(1年)→34%(5年) |
KDBは線維柱帯の帯状切除を行うデバイスである。Elhilaliらの前向き比較研究では、原発先天緑内障患者42眼(KDB群21眼 vs 従来隅角切開術群21眼)を比較し、12ヶ月時の平均眼圧はKDB群で24.4→11.8 mmHg、従来群で23.05→12.8 mmHgといずれも有意に低下した。両群間に統計的有意差は認められなかった。
GATTは照明付きマイクロカテーテルまたは縫合糸を用いた全周性線維柱帯切開術である。Groverらは小児14眼(PCG 4眼、JOAG 10眼)で眼圧が27.3→14.8 mmHg(治療薬2.6→0.86剤)に低下したと報告した。最も一般的な合併症は前房出血であった。
Quanらの研究(74眼)では、中央値28.5ヶ月のフォローアップで失敗率が48.6%であり、不完全な線維柱帯切開・術後眼圧スパイク・若年が失敗のリスク因子であった。
Trab360はナイロンフィラメントにより180°ずつのTM切開を行うデバイスである。Areauxらは手術時年齢中央値12ヶ月の46眼で眼圧が30→18 mmHg(治療薬2.5→1剤)に低下し、初回手術例の成功率は70%であったと報告した。原発先天緑内障では二次性緑内障よりも成功率が高い傾向であった。
ECPは内視鏡下で毛様体突起を直接凝固する手技である。Glaserらの80眼の研究では、複数回のセッションにより成功率は1年81%、3年49%、5年34%と経年低下が認められた。
原発先天緑内障では診断後できるだけ早期に手術を行う。第一選択は隅角切開術または線維柱帯切開術であり、生後3〜12ヶ月の発症例では成功率70〜90%と報告されている4)。乳幼児では薬物治療の実効性確認が困難なため、手術が優先される。
GATTは隅角鏡補助下に照明付きマイクロカテーテルまたは縫合糸をSchlemm管内に全周通し、引き抜くことで360°の線維柱帯切開を行う内路手技である。小児緑内障でも有望な結果が報告されているが、若年例や不完全切開例では失敗率が高くなる傾向がある。
原発先天緑内障の本態である隅角発生異常では、以下の病理学的変化が認められる。
発生学的に線維柱帯細胞は神経堤由来であるのに対し、傍Schlemm管結合組織は血管内皮細胞由来である。起源の異なる組織の隣接点に最大の房水流出抵抗が存在する。
線維柱帯切開術は成人(成功率70%)と比較して先天緑内障(成功率95%)で著明に高い有効性を示す2)。この差異は小児の隅角に豊富に存在する弾性線維に起因すると考えられている。弾性線維が隅角構造の開口を促進し、術後の房水流出路の開存性を維持する2)。
Chiharaら(2024)のレビューによれば、サルの眼では線維柱帯切開術後28週以内にSchlemm管の開口が閉鎖するのに対し、ヒトの眼では外路線維柱帯切開術後6年経過しても31眼中10眼でSchlemm管が前房に対して開存していた2)。この種差はヒトの眼において術後の房水流出路がより長期に維持されうることを示唆している。
術後の不成功例の主な原因は、Schlemm管内壁の線維性増殖およびSchlemm管内皮の伸長である2)。線維柱帯の再生やコレクターチャネルの線維性閉塞も房水流出抵抗の再上昇に寄与する2)。
PreserFlo外路マイクロシャントは前房から結膜下腔に房水をシャントするデバイスである。Burgos-Blascoらは過去の緑内障手術が失敗した14名の小児患者にマイトマイシンC併用PreserFlo植え込みを行い、術後1年で86%が20%以上の眼圧下降を維持したと報告した。
OMNIサージカルシステムはTM切開と粘弾性物質のSchlemm管・コレクターチャネルへの注入(ビスコカナロストミー)を組み合わせた手技である。Sturge-Weber症候群に伴う緑内障の生後4ヶ月児に使用し、術前30 mmHg超から10ヶ月後18 mmHgへの眼圧低下が報告された。
XENゲルステントは前房から結膜下腔への房水排出を目的とした内径45 μmのインプラントであるが、小児緑内障でのエビデンスは極めて限定的であり、神経線維腫症1型の症例では複数回の再手術にもかかわらず光覚消失に至った報告もある。
小児緑内障における隅角手術は、従来の外路線維柱帯切開術から内路手技(GATTなど)へのシフトが進行している2)。内路手技は結膜弁・強膜弁の作製が不要であり、結膜を温存できる利点がある。また、内路線維柱帯切開術とカナロプラスティの併用が報告されており2)、複合的なアプローチによる成績向上が期待される。
小児緑内障におけるMIGSのエビデンスは、小規模な症例シリーズや短期フォローアップの研究が主体である。長期的な安全性・有効性を明らかにするために、大規模前向き研究やランダム化比較試験が求められる。生涯にわたる経過観察が必要な小児患者では、結膜温存による将来の手術選択肢の確保が重要な戦略となる。
European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 6th Edition. Br J Ophthalmol. 2025.
Chihara E, Hamanaka T. Historical and Contemporary Debates in Schlemm’s Canal-Based MIGS. J Clin Med. 2024;13(16):4882.
Knight LSW, et al. Childhood and Early Onset Glaucoma Classification and Genetic Profile in a Large Australasian Disease Registry. Ophthalmology. 2021;128:1549-1560.
日本緑内障学会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126:85-177.
European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 5th Edition. PubliComm; 2020.