コンテンツにスキップ
緑内障

緑内障濾過手術後の脈絡膜滲出の管理

1. 緑内障濾過手術後の脈絡膜滲出とは

Section titled “1. 緑内障濾過手術後の脈絡膜滲出とは”

脈絡膜滲出(choroidal effusion)は、脈絡膜と強膜の間の潜在的空間である脈絡膜上腔に液体または血液が異常に貯留した状態である。漿液性(serous)と出血性(hemorrhagic)の2型がある。

緑内障手術は脈絡膜剥離の最も一般的な原因であり、TVT(Tube versus Trabeculectomy)研究では線維柱帯切除術の19%、緑内障ドレナージインプラントの16%で術後脈絡膜滲出が報告された。低侵襲緑内障手術(MIGS)では発生率が低い傾向にあるが、リスクは依然として存在する2)

脈絡膜滲出、毛様体脈絡膜滲出、漿液性脈絡膜剥離はほぼ同義で使用される。脈絡膜剥離はこれらより広い概念であり、出血性のものも含む。

Q 緑内障手術後に脈絡膜滲出が起きたらどうなりますか?
A

小さく周辺部にある脈絡膜滲出は無症状のことが多く、自然に消退します。しかし大きな滲出は視力低下や前房浅形成を引き起こすことがあります。多くは保存的治療(散瞳薬ステロイド)で改善しますが、前房が消失するほどの重症例や、長期化する場合は外科的なドレナージが必要になることがあります。

漿液性脈絡膜滲出:術後2〜5日に最も多く発生する。小さな周辺部滲出は無症状であることが多い。大きな滲出では視力低下、周辺視野の狭窄、近視化を来す。高齢患者は脈絡膜滲出を発症しやすく、若年患者は低眼圧黄斑症を発症しやすい傾向がある。

出血性脈絡膜剥離:術後に突然の激しい拍動性疼痛と即時の視力喪失を呈する。毛様体神経の伸展による痛みで嘔気・嘔吐を伴うことがある。術中発生の場合は眼内容物の脱出(駆出性出血)を来す緊急事態となる。

所見漿液性出血性
眼圧通常低い通常高い
透照陽性陰性
B-scanエコーフリー高エコー

眼底検査では周辺部に多房性の隆起が認められる。渦静脈付着部位で区切られた最大4つの滑らかな隆起として観察される。前房は正常深度、浅い、または消失していることがある。

低眼圧黄斑症を合併した場合、黄斑部のしわや網膜血管の歪みを呈する。低眼圧黄斑症が持続すると永久的な視力障害を来す可能性がある1)

術後低眼圧が最も一般的な原因因子である。スターリングの式に基づくと、眼圧低下(間質圧の低下)により毛細血管圧が相対的に高くなり、脈絡膜上腔への液体貯留が生じる。炎症による脈絡膜毛細血管透過性の亢進も寄与する。

脈絡膜上腔への液体蓄積は毛様体機能の低下を通じて房水産生を減少させ、低眼圧をさらに悪化させる悪循環が生じる1)

後毛様体動脈の枝の破裂により脈絡膜上腔に血液が急速に蓄積する。急激な眼球減圧、特に高眼圧状態から手術が開始された場合にリスクが高い。代謝拮抗薬(MMC・5-FU)の使用も寄与する。

手術関連因子

濾過手術:線維柱帯切除術、XENジェルステント手術2)

チューブシャント手術:出血性滲出の発生率が線維柱帯切除術より有意に高い(1.2〜2.7% vs 0.6〜1.4%)

代謝拮抗薬:マイトマイシンCまたは5-FUの使用は低眼圧を助長する

術後の房水産生抑制薬:低眼圧と脈絡膜滲出のリスクを増加させる

患者関連因子

高齢者・高血圧・動脈硬化:出血性リスクの増加

小眼球症:強膜肥厚による渦静脈圧迫が関与する

既存の緑内障・抗凝固薬使用:リスク増加

薬剤誘発性:ドルゾラミド等の炭酸脱水酵素阻害薬が特異反応を引き起こすことがある3)

眼底検査:脈絡膜剥離は茶褐色で表面が平滑な凸レンズ様の硬い隆起として観察される。鋸状縁が圧迫なしで容易に観察できることが特徴である。

Bモード超音波検査:漿液性と出血性の鑑別に不可欠である。漿液性はエコーフリーな丸い隆起、出血性は高エコーの隆起として描出される。臨床的に明らかでない微小な脈絡膜上腔液体貯留も検出可能である。

超音波生体顕微鏡(UBM):毛様体と強膜の分離を観察でき、毛様体の前方回転を可視化するために使用される。

鑑別診断網膜剥離との鑑別が重要である。脈絡膜剥離は前方の位置、鋸状縁への広がり、渦静脈付着部で区切られた多房性の隆起で区別される。

術中・術後の低眼圧を最小限に抑えることが予防の基本である1)

線維柱帯切除術では強膜弁に複数の縫合糸を配置し、レーザー切糸は少なくとも1週間遅らせる。前房の安定には粘弾性物質や前房維持装置を使用する。バルブなし緑内障ドレナージデバイスでは吸収性縫合糸によるチューブの結紮が必要である。

術後は局所・全身の房水産生抑制薬を中止し、早期のレーザー切糸は避ける1)

多くの脈絡膜滲出は保存的治療で消退する。

散瞳薬(アトロピン硫酸塩水和物)は水晶体虹彩隔壁を後方に回転させて前房を深くする。ステロイド点眼で炎症を抑制する。重症例では経口プレドニゾロン(1 mg/kg、漸減)を併用する。激しい運動や重量物の挙上は避けるよう指導する。

前房が極度に浅いまたは消失した場合、前房内に空気や粘弾性物質を注入して前房を再形成する1)

外科的ドレナージの適応は以下の通りである。

前房消失と持続的な水晶体角膜接触角膜内皮障害のリスクが高い

Kissing choroidal視神経から水晶体まで接触する脈絡膜剥離

漿液性網膜剥離の合併RPEポンプ不全による二次性網膜剥離

持続する脈絡膜滲出:保存的治療に反応しない場合

全層強膜切開(輪部から3.5〜4.5 mm後方)を通じてドレナージを行う。術中にドレナージと同時に前房に灌流液や粘弾性物質を注入して前房を再形成する。出血性脈絡膜剥離では出血が液化するまで7〜10日待ってからドレナージを行うことが望ましい1)

結膜的強膜弁縫合は低眼圧黄斑症の治療として長期的な有効性が示されている1)。自己血濾過胞内注入も低眼圧改善に有効とされるが、急激な眼圧上昇を来す可能性がある1)

Q 脈絡膜滲出は自然に治りますか?
A

多くの場合、小さな漿液性脈絡膜滲出は術後の創傷治癒や術前薬剤の効果消失に伴い自然に消退します。散瞳薬やステロイド点眼による保存的治療で改善する場合がほとんどです。しかし、大きな脈絡膜滲出や持続例では外科的なドレナージが必要になることがあります。出血性脈絡膜剥離は漿液性に比べて重篤であり、より積極的な介入が必要です。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

スターリングの式と脈絡膜滲出

Section titled “スターリングの式と脈絡膜滲出”

脈絡膜上腔への液体移動はスターリングの式で説明される。正常の脈絡膜毛細血管では静水圧のバランスが保たれているが、低眼圧により間質圧(≒眼圧)が低下すると毛細血管圧が相対的に高くなり、液体が脈絡膜上腔に貯留する。

脈絡膜滲出が一旦形成されると、タンパク質を含む血清が脈絡膜上腔に蓄積し、膠質浸透圧の平衡によりぶどう膜の再吸収が制限される。長期化すると網膜色素上皮のポンプ機構が代償不全を起こし、漿液性網膜剥離を来す。

脈絡膜は視神経と後毛様体動脈の入る部位、および渦静脈が眼球から出る部位で強膜と強固に結合している。この結合部位が脈絡膜剥離の多房性形態を決定する。上脈絡膜と強膜の結合は前方ほど緩いため、初期の脈絡膜剥離は毛様体扁平部と周辺部脈絡膜の隆起として認められる。

低侵襲緑内障手術と脈絡膜滲出

Section titled “低侵襲緑内障手術と脈絡膜滲出”

低侵襲緑内障手術は従来の濾過手術に比べて低侵襲であり、脈絡膜滲出のリスクが低い傾向にある。しかし、XEN45ジェルステント植え込み後にも脈絡膜滲出が0〜15%の頻度で報告されている2)。高齢、術前の多剤使用、術後1週間以内の10 mmHg未満の低眼圧が主要なリスク因子である2)。一側眼での発症は対側眼における同種手術でのリスク因子となる可能性がある2)

局所ドルゾラミドによる非手術眼での急性脈絡膜滲出の症例が報告されており、特異体質反応と考えられている3)。偽水晶体眼では硝子体への薬剤浸透が増加するため発症リスクが高い可能性がある3)。抗血小板薬の併用が出血性変化に寄与する可能性も示唆されている3)

OCTAや広角OCTによる術後脈絡膜滲出の早期検出と定量評価の標準化が期待される。低侵襲緑内障手術の普及に伴い、各術式に特異的な脈絡膜滲出の発生率と管理指針の確立が求められる。

Q 低侵襲緑内障手術でも脈絡膜滲出は起こりますか?
A

はい。低侵襲緑内障手術は従来の濾過手術に比べてリスクは低いですが、XENジェルステントなどの術式でも脈絡膜滲出は報告されています。高齢者、術前に多くの緑内障薬を使用している患者、術後早期に眼圧が10 mmHg未満に低下した場合にリスクが高くなります。術後の注意深い経過観察が重要です。

  1. 日本緑内障学会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126:85-177.

  2. Cassottana P, Toma C, Maltese C, et al. A Case of Bilateral Choroidal Effusion after XEN Gel Stent Implantation. Gels. 2023;9(4):276.

  3. Shaheen A, Schultis S, Magraner M, et al. Acute serous and hemorrhagic choroidal effusion associated with topical dorzolamide therapy. Am J Ophthalmol Case Rep. 2023;31:101866.

記事の全文をコピーして、お好みのAIに貼り付けて質問できます