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緑内障

緑内障における黄斑OCT画像診断

光干渉断層計(OCT)は低干渉ビームを用いて網膜の断層像をミクロン単位の解像度で取得する画像診断法である。緑内障診断ではONH(視神経乳頭)、乳頭周囲RNFL(網膜神経線維層)、黄斑内層の3つのパラメータ群が評価される1)4)

黄斑OCT画像診断は黄斑部の内層網膜、特にGCL(神経節細胞層)とIPL(内網状層)の厚さを定量評価する手法である。RGCの約50%が中心窩から4.5 mm半径内(中心±8°の視野に相当)に集中しているにもかかわらず、この領域は網膜全面積のわずか7.3%に過ぎない2)。黄斑部の損傷はQOLに大きな影響を与える2)

従来の緑内障評価はONH中心であったが、近年は乳頭部解析に加え黄斑部の内層網膜解析による総合評価が推奨されるようになった。OCT単独で緑内障を診断することはできず、臨床所見や視野検査との総合判断が不可欠である1)4)

Q 黄斑OCTだけで緑内障は診断できますか?
A

黄斑OCT単独での緑内障診断はできません。OCTの「正常範囲外」の結果は偽陽性の可能性があり、必ずしも緑内障を意味しません。視神経乳頭の臨床所見、視野検査、眼圧測定など他の検査結果と総合的に判断する必要があります。一方で、黄斑OCTは他の検査で変化が明らかでない早期緑内障の検出に有用な補助的ツールです。

2. 測定パラメータと黄斑内層の構造

Section titled “2. 測定パラメータと黄斑内層の構造”

黄斑部網膜の層別解析では、内層からRNFL(網膜神経線維層)、GCL(神経節細胞層)、IPL(内網状層)を評価対象とする。これらの層はそれぞれRGCの軸索、細胞体、樹状突起を含む2)

名称構成層別名
GCCRNFL+GCL+IPLGCL++
GCIPLGCL+IPL

GCC(ganglion cell complex)はRNFL・GCL・IPLの3層複合体である。一部の機種ではGCL++と呼ばれる。GCIPL(GCL+IPL)を診断パラメータとする機種もある。測定範囲は機種により大きく異なる3)

現在使用されるOCTの主な方式はSD-OCT(スペクトラルドメインOCT)とSS-OCT(スウェプトソースOCT)である。タイムドメインOCT(TD-OCT)は解像度・速度が不足するため現在ほとんど使用されていない。SD-OCTは26,000 Aスキャン/秒以上の高速解析が可能であり、GCCの高速解析を実現した。SS-OCTはより高い深達度を有し、視神経乳頭篩板や脈絡膜の解析にも応用される。

3. 緑内障診断における黄斑OCTの有用性

Section titled “3. 緑内障診断における黄斑OCTの有用性”

黄斑OCTは前視野緑内障(preperimetric glaucoma)の検出に特に有用である。臨床的に検出できる視野障害が出現する以前の段階では、画像解析装置による診断が主体となる3)。緑内障早期であってもすでに約50%のRGCが消失しているため、黄斑部のRGC層厚測定は早期検出に有効である。

軽度緑内障患者の最大80%に黄斑RGC損傷が認められ、早期黄斑損傷は従来考えられていた以上に一般的である2)。標準的な視野検査(HFA 24-2)で正常と分類された患者でもGCL・IPLの有意な菲薄化が報告されている2)

黄斑GCL+IPL厚とRGC数には強い相関がある2)。Zhangら(2014)は77健常眼・154緑内障疑い眼・159緑内障眼を対象に黄斑部の構造機能関係を調査し、緑内障眼では推定黄斑RGC数が健常眼と比較して41%減少していることを明らかにした2)。推定黄斑RGC数と黄斑GCL+IPL厚の相関はr²=0.65(p<0.001)であった2)

OCTから得られた黄斑厚と視野欠損(MD値)の間にもr²=0.47(p<0.001)の有意な相関が報告されている2)。これらの知見は黄斑RGC層の菲薄化がRGC損失の代替指標として有用であることを支持する2)

黄斑OCTの利点

早期変化の検出:黄斑の変化はRNFLの変化よりも早期かつ一貫して現れる可能性がある

撮影の容易さ:患者に眼球移動を要求しないため画像取得が容易で画質も高い傾向がある

中心視野との対応:黄斑部は固視点付近の中心視野に対応し、視力予後の評価に重要である

乳頭周囲RNFL解析の利点

確立された診断能:緑内障診断において長い使用実績がある1)

広い測定ダイナミックレンジ:中等度緑内障までの構造損失の定量に優れる

一部の研究での優位性:GCL厚とRNFL厚の直接比較でRNFL厚が優れるとの報告もある

RNFL解析と神経節細胞解析の組み合わせがOCTベースの緑内障評価において最良のアプローチとされる1)。すべてのパラメータが軽度〜中等度の緑内障眼の鑑別に使用可能である1)

構造変化に基づく多くの視神経乳頭・RNFL・黄斑内層の定量画像は緑内障診断と進行検出に広く用いられているが、臨床所見と視野検査に代替することはできない4)

OCTによる乳頭周囲RNFL厚や黄斑部網膜内層厚の測定は眼底所見を量的に記録することが可能であり、経時変化を検出するプログラムが各社のOCTに搭載されている3)。OCTの最大の利点は客観的検査であるためノイズが少ないことである。

病期による特徴として、OCTは軽度の緑内障で変化を早期に検出し、中等度では構造損失との直線的関係を示す1)。商用ソフトウェアの多くは加齢を補正しないため、統計的に有意な傾きが必ずしも真の緑内障性進行を意味しない1)

進行した緑内障眼ではOCTの測定値がそれ以上の菲薄化を検出できなくなるfloor effect(底打ち効果)が存在する1)3)。黄斑部内層網膜厚は−10 dBより進行した緑内障ではそれ以上の厚み変化が乏しくなる。そのため進行期緑内障の進行判定には視野検査が主体となる3)

注意点内容
機種間の非互換性異なるOCT間で測定値の比較は不可1)3)
アーチファクトセグメンテーションエラー・画質低下
強度近視正常データベースに含まれず3)

異なるOCT機種では測定範囲やセグメンテーションアルゴリズムが異なるため、機種間の数値に互換性はない1)3)。ただし緑内障検出能は各社ほぼ同等と考えられている。

Q OCTの機種が変わると結果は変わりますか?
A

はい。OCT機種が異なると測定範囲やセグメンテーションアルゴリズムが異なるため、測定値に互換性はありません。経過観察では同一機種で測定を継続することが重要です。ただし、緑内障検出能自体は各社ほぼ同等と報告されています。バージョンの違いでも結果が異なりうる点にも注意が必要です。

OCTの「正常範囲外」の結果は偽陽性の可能性があり、対象者が緑内障であることを必ずしも意味しない1)OCT検査に基づく一つの結果のみで緑内障の診断を下すことは避けるべきである1)

自動診断プログラムの緑内障診断能の感度・特異度は80%前後と報告されている。視神経乳頭形態やRNFL厚には個人差があり、緑内障眼と正常眼の間に数値のオーバーラップがあることが主な理由である。緑内障診断には経験を積んだ眼科専門医の最終判断が不可欠である。

進行した緑内障眼ではfloor effectのため黄斑OCTによる進行判定は困難となる3)。構造(OCT)による進行と視野進行には関連があることが報告されているが、OCTによる進行評価の確定した方法は確立されていない3)

Q どの段階の緑内障でOCTが最も有用ですか?
A

OCTは特に早期〜中等度の緑内障で有用です。視野障害が出現する前の「前視野緑内障」の段階で構造的変化を検出でき、早期診断に貢献します。一方、進行した緑内障ではfloor effect(底打ち効果)により、それ以上の菲薄化を検出できなくなるため、進行判定には視野検査が主体となります。

6. 病態生理学・黄斑損傷の機序

Section titled “6. 病態生理学・黄斑損傷の機序”

緑内障は従来、ONH損傷と周辺視野欠損を特徴とし、中心視力は末期まで保たれると考えられてきた2)。この見解はHFA 24-2検査や高コントラスト視力測定に基づいており、周辺視野欠損の過大評価と中心視野欠損の過小評価をもたらしていた2)

近年のOCT研究により、黄斑損傷は緑内障の早期段階から頻繁に生じることが明らかになった2)。SD-OCTを用いた研究では、早期〜中等度の緑内障眼でRGC+層の厚さが健常眼と比較して約20%減少していることが報告されている2)

黄斑部のRGC障害はコントラスト感度の低下、空間的加算の変化、視覚的クラウディングの増加をもたらす2)。GCL+IPLの菲薄化はコントラスト感度と有意に相関する2)。これらの変化は従来の高コントラスト視力検査では十分に反映されない可能性がある2)

OCTAを用いて網膜表層・深層の血流を非侵襲的に評価可能であり、進行した緑内障ほど網膜表層血流が低下していることが知られる3)。視神経乳頭周囲の深層血流脱落所見が緑内障の進行と関係することが注目されている3)。OCTAはRNFL測定よりもfloor effectの影響を受けにくいとされ、進行期緑内障の進行判定でOCTより有利である可能性がある3)。ただし実臨床での標準化された活用方法は確立されていない3)

ディープラーニングを用いた黄斑OCTスキャンの評価により緑内障性視野欠損を予測する研究が進んでいる。眼底写真によるAI診断の進展も著しく、将来的には黄斑OCTの客観的測定値を機械学習で評価し、視野欠損出現前の構造的変化から緑内障の早期診断を支援することが期待される。

GCC体積減少、下方RNFL厚、年齢、視野欠損を含む複合指標が、6年後の緑内障発症を予測する上でどの単一因子よりも優れていたとの報告がある。多変量解析による初期段階の緑内障検出のための予測モデルの構築が進んでいる。

Q OCTAは緑内障診断に使えますか?
A

OCTAは網膜や視神経乳頭の微小血管を非侵襲的に可視化する技術です。緑内障の進行に伴う網膜表層血流の低下が報告されており、従来のOCTでfloor effectが生じる進行期緑内障でも有用な可能性があります。ただし、現時点では実臨床での標準化された活用方法は確立されておらず、今後の研究が待たれます。

  1. European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 6th Edition. PubliComm; 2025.

  2. Kwon M. Glaucomatous Retinal Ganglion Cell Loss and Pattern Vision. Annu Rev Vis Sci. 2024;10:427-445.

  3. 日本緑内障学会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126:85-177.

  4. European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 5th Edition. PubliComm; 2021.

  5. American Academy of Ophthalmology. Primary Open-Angle Glaucoma Preferred Practice Pattern. 2020.

  6. American Academy of Ophthalmology. Primary Open-Angle Glaucoma Suspect Preferred Practice Pattern. 2020.

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