近用拡大と読書支援
拡大読書器:倍率変更、高コントラスト化、白黒反転が可能でLVSのゴールドスタンダードである
光学的補助具:矯正用・遮光用・弱視用の眼鏡。単眼鏡は遠方の情報確認に有用である
電子機器:タブレット端末、スマートフォン、パソコンを用いた視対象の拡大・コントラスト上昇・音声入出力が可能である
タイポスコープ:読書ガイドとして行を追いやすくする。署名ガイドやプレースマーカーも有用である

ロービジョン(低視力)は、眼疾患に起因する視覚障害であり、良眼の視力が20/50(0.4)以下で通常の矯正手段では改善できないものと定義される3)。視力が20/50より良好でも、視野欠損・コントラスト感度低下・グレア増加を伴う場合はロービジョンに含まれる。
緑内障は世界における不可逆的な失明の最も一般的な原因である1)。2020年時点で世界の緑内障患者数は7,600万人と推定され、2040年には1億1,180万人に達すると予測される1)。開放隅角緑内障(OAG)は閉塞隅角緑内障(ACG)より有病率が高いが、失明に至る割合はACGの方が高い(OAG約10%、ACG約25%)1)。
緑内障患者の57%がより多くの光が必要と報告し、55%がかすみ目、46%がグレア、36%が顕著な視野欠損、30%がコントラスト感度低下を訴える。視覚リハビリテーションを受けている緑内障患者では、読書の困難(88%)、執筆の困難(72%)、移動の困難(67%)が上位を占める。
はい。緑内障による視覚障害は不可逆的ですが、ロービジョンケアにより残存視力を最大限に活用する方法を学ぶことができます。拡大読書器、遮光眼鏡、照明の工夫、スキャニング訓練などにより、読書・移動・日常生活動作の改善が期待されます。担当の眼科医にロービジョン外来への紹介を相談してください。
緑内障の初期には自覚症状を認めないことが多い4)。進行に伴い「部分的にかすむ感じ」「物を認識できない領域がある」と感じるようになる。より進行した場合には「全体にかすむ」「まぶしい」などの症状を訴える。見にくさ、視力低下、視界の白っぽさ、夜盲などの視機能低下とともに、転倒や物にぶつかるなど生活上の支障が出現する。
視野障害:緑内障は従来、周辺視野の喪失が中心で末期まで中心視力が保たれると考えられてきた。しかし、近年のエビデンスでは早期の緑内障性障害でも黄斑部が従来考えられていた以上に頻繁に侵されることが示されている2)。
コントラスト感度低下:緑内障における網膜神経節細胞の障害はコントラスト感度の低下をもたらす2)。コントラスト感度の低下とクラウディング現象の増加が、視覚スパン(一度に認識できる文字数)と機能的視野の狭小化に寄与する2)。
読書困難:視力が維持されていても読書困難が生じる。行を追うことの困難、次の行への移動の困難、小さな文字の判読困難、持続的な読書における読書速度の低下(毎分80語未満)が報告されている2)。
緑内障によるロービジョンの根本原因は、網膜神経節細胞の進行性変性とそれに伴う視神経症である2)。網膜神経節細胞数と視野感度には明確な相関がある2)。
| 機能障害 | 関連する神経障害 |
|---|---|
| 周辺視野欠損 | 上下の篩状板での軸索障害 |
| 中心視野障害 | 黄斑部の神経節細胞障害 |
| コントラスト低下 | 網膜神経節細胞の機能異常 |
ロービジョンに至るリスク因子としては、高齢、進行した視野障害、両眼性の障害、治療アドヒアランス不良、低い教育水準などが挙げられる。緑内障患者が自覚的に視野異常を感じた場合には、視神経障害がすでに大きく進行している場合が多い4)。
ロービジョンの評価では、通常の眼科検査に加えて機能的な視覚能力を評価する。
視力検査:高コントラスト視力表と明るい照明を用いる。logMAR視力表を使用し0.02刻みの細かい測定を行うことがロービジョン評価のメリットである。投影式視力表はコントラストが低く暗室で提示されるため不適切である。
近接視力:ベイリー・ロビー近接読書カード等を用い、単語全体の読書視力を評価する。読書補助具の処方に有用である。
視野検査:リハビリテーションに利用可能な残存視野を評価する4)。ゴールドマン視野計では大きな視標で評価を容易にする。ハンフリー視野計10-2プログラムは末期緑内障の残存中心視野の評価に有用である4)。
コントラスト感度:ペリ・ロブソン・コントラスト感度表やVISTECHコントラストテストを用いる。顔の認識、錠剤の区別、階段の段差判別など日常の視覚タスクに重要である。
視覚関連QOL質問票(NEI-VFQ-25、GQL-15等)を用いて患者の機能的訴えを把握する3)。臨床検査以外でも緑内障患者の視覚障害をスクリーニングすることが重要である。

近用拡大と読書支援
拡大読書器:倍率変更、高コントラスト化、白黒反転が可能でLVSのゴールドスタンダードである
光学的補助具:矯正用・遮光用・弱視用の眼鏡。単眼鏡は遠方の情報確認に有用である
電子機器:タブレット端末、スマートフォン、パソコンを用いた視対象の拡大・コントラスト上昇・音声入出力が可能である
タイポスコープ:読書ガイドとして行を追いやすくする。署名ガイドやプレースマーカーも有用である
視野補強と移動支援
スキャニング訓練:頭を振り、目を走らせ、接近速度を落とすなどの系統的な探索パターンを訓練する
偏心視訓練:中心暗点がある場合、周辺視野を活用する偏心視(eccentric viewing)訓練が有効である
歩行訓練:白杖の使い方、屋内外の安全な移動方法の訓練が基本となる
グレアコントロール:遮光眼鏡、偏光レンズ、反射防止コーティング、照明の工夫で管理する
ロービジョンケアは失われた視力そのものを回復させる治療ではありません。残存視力を最大限に活用して日常生活の機能を改善することが目的です。拡大読書器、遮光眼鏡、スキャニング訓練などにより、読書・移動・日常生活動作の質が改善することが複数の研究で示されています。
緑内障における網膜神経節細胞(RGC)の損失は視神経乳頭の篩状板で起こる2)。RGC軸索の順行性・逆行性軸索輸送が遮断され、神経栄養因子の供給が途絶えることでプログラム細胞死(アポトーシス)が再活性化される。
RGCの損失は中心視機能にも影響を及ぼす2)。黄斑部のRGC障害はコントラスト感度の低下、空間的加算の変化、視覚的クラウディングの増加をもたらし、これらが複合的に視覚スパンと機能的視野の狭小化に寄与する2)。従来の高コントラスト単一文字の視力検査や標準的な自動視野計では、患者の日常生活における実際の視覚機能を十分に反映しない可能性がある2)。
緑内障患者の多くは自身の暗点(スコトーマ)を自覚しにくい2)。視覚系は欠損した視野情報を周囲の情報で補完(filling-in)する傾向があり、これが早期発見を困難にする要因の一つである。
ロービジョンケアの治療アウトカムは複数の研究で評価されている。治療後には全体的な視覚能力、読書、移動能力、社会的機能、情緒的幸福感を含む多くのカテゴリーで統計的に有意な改善が認められた。LVSを受けた患者の約半数で臨床的に意味のある改善が示されている。
緑内障患者を対象としたランダム化試験では、ロービジョン検査と治療を受けた群は検査のみの群と比較して、読書能力と全体的な視覚能力に有意な改善が見られた。
近年の研究では、緑内障の早期段階でも黄斑部の障害が従来考えられていた以上に一般的であることが明らかになっている2)。注意分割や時間制約のある視覚タスクでは、緑内障患者はより大きな困難を示す2)。緑内障患者の中心視機能障害がどのように読書や顔認識に影響するかについて、さらなる研究が必要とされている2)。
視覚リハビリテーションの最大の課題は、医学的リハビリテーションと自立訓練・職業訓練との連携である。各都道府県単位で整備が進められているロービジョンケアネットワーク(スマートサイト)の全国整備により、この橋渡しがより円滑に進むことが期待される。
緑内障の進行度によります。視野障害が軽度であれば運転は可能ですが、特に夜間の運転で困難が増加することが報告されています。緑内障患者は自覚的な視覚欠損により運転を中止する割合が約3倍高いとされます。日本では運転免許の更新時に視野検査の基準がありますので、担当医に相談してください。
European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 6th Edition. PubliComm; 2025.
Kwon M. Glaucomatous Retinal Ganglion Cell Loss and Pattern Vision. Annu Rev Vis Sci. 2024;10:427-445.
American Academy of Ophthalmology. Primary Open-Angle Glaucoma Preferred Practice Pattern. 2020.
日本緑内障学会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126:85-177.