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緑内障

生活習慣と緑内障(Lifestyle Habits and Glaucoma)

緑内障は網膜神経節細胞の進行性変性と視野欠損を特徴とする視神経症である4)。眼圧は緑内障の唯一の修正可能なリスク因子であり、眼圧管理が治療の基本となる1)4)

近年、喫煙、カフェイン摂取、アルコール摂取、栄養、運動、瞑想などの生活習慣因子が緑内障の発症や悪化に関連している可能性が示唆されている1)。眼圧依存性の機序と非眼圧依存性の機序の両方が関与すると考えられるが、知見には多くの矛盾があり、現時点では生活習慣に関する強い推奨を出すことはできない1)

その他の緑内障リスク因子として、年齢、人種、家族歴、近視、中心角膜厚、糖尿病、全身性高血圧、片頭痛、閉塞性睡眠時無呼吸症候群などが報告されている4)5)

Q 生活習慣を変えれば緑内障は治りますか?
A

生活習慣の改善のみで緑内障が治ることはありません。緑内障は不可逆的な視神経障害であり、薬物療法やレーザー治療、手術による眼圧管理が治療の基本です。ただし、適度な運動やバランスの取れた食事は補助的に眼圧管理に寄与する可能性があり、全体的な健康管理の一環として重要です。

緑色葉物野菜に豊富な食事性硝酸塩は、体内で一酸化窒素に変換される。一酸化窒素は血管拡張、房水流出の増加、上強膜静脈圧の低下を通じて緑内障に保護的に働くとされる。大規模コホート研究(Nurses’ Health Study等)では、食事性硝酸塩の摂取量が多い患者は原発開放隅角緑内障(POAG)の発症リスクが20〜30%低いことが示された。

オメガ3脂肪酸(EPA・DHA)は全身の微小循環と眼血流を調節する。偽落屑緑内障患者を対象とした前向き研究では、6ヶ月間のDHA経口摂取により有意な眼圧低下が認められた。しかし、オメガ6に対するオメガ3の比率が高いと緑内障リスクが高まる可能性も報告されており、結論は定まっていない。

栄養素知見
ビタミンB3眼圧誘発性ミトコンドリア障害を防ぐ
ニコチンアミド視野パラメータの改善の報告
フラボノイド視野の平均偏差の改善

ビタミンB3(ニコチンアミド)は、マウスモデルで緑内障への脆弱性を軽減し、臨床試験でも内層網膜機能の改善が示された。De Moraesらの研究では、ニコチンアミド+ピルビン酸塩の併用がパターン標準偏差の改善と関連していた。ただし、現時点では特定のビタミンサプリメントが緑内障のリスクを軽減するという十分な根拠はない。

フラボノイド(赤ワイン、ダークチョコレート、ベリー類、柑橘類、茶に豊富)のメタ解析では、視野の平均偏差の有意な改善が報告されている。

アルコール摂取は一時的に眼圧を低下させるが、慢性的な摂取は開放隅角緑内障のリスクを1.18倍高める可能性がある。10の研究を含む系統的レビューでは、慢性的アルコール摂取は眼圧上昇および高眼圧症の有病率上昇と関連していた。ただしエビデンスの確実性は非常に低い。

カフェイン摂取は健康な個人の眼圧上昇とは関連しないが、緑内障または高眼圧症の既往がある患者では摂取1時間後に約2.4 mmHgの一時的な眼圧上昇と関連する。緑内障の家族歴陽性の患者や遺伝的素因がある患者では、カフェイン摂取と緑内障の有病率の関連が示唆されている。

Q 緑内障患者はコーヒーを控えるべきですか?
A

適量のコーヒーであれば大きな問題はないとされています。ただし、緑内障や高眼圧症の患者では、カフェイン摂取後に一時的な眼圧上昇(約2.4 mmHg)が報告されています。特に緑内障の家族歴がある方や、眼圧コントロールが不十分な方は、大量のカフェイン摂取(1日2〜3杯以上のコーヒー)を控えることが望ましいでしょう。

有酸素運動の効果

ウォーキング・サイクリング:活動中に軽度の眼圧上昇を認めるが、その後眼圧低下が続く

ランニング:眼圧が約2 mmHg低下するが、運動終了後30分以内にベースラインに復帰する

視野進行の抑制:1日5,000歩の歩行または2.5時間の非座位生活ごとに視野進行が10%減少

網膜への保護効果:活動量の増加に伴い神経節細胞内網状層の菲薄化速度が低下する

注意が必要な運動

ウェイトリフティング:等尺性保持は一時的な眼圧上昇(レッグプレス中に約41 mmHg)を引き起こしうる

ヨガ(逆位のポーズ):頭が心臓より低い位置となるポーズ(ダウンドッグ等)は眼圧を著しく上昇させる。逆立ちでは眼圧が約2倍に上昇する

高強度ワークアウト:毎日の激しい運動は週3日の場合と比較して緑内障有病率が高い。フリーラジカル増加による酸化ストレスが関与する可能性がある

水泳ゴーグル:着用中に一時的かつ顕著な眼圧上昇を引き起こしうる

新たに緑内障と診断された患者を対象とした研究(Hetch 2015)では、1日30分の運動群は薬物治療群と比較して有意な眼圧低下を示した。適度な有酸素運動が緑内障管理において保護的に働くことを裏付けている。

Q 緑内障患者はヨガを避けるべきですか?
A

すべてのヨガを避ける必要はありませんが、「ダウンドッグ」「前屈」「逆立ち」など頭が心臓より低くなるポーズは眼圧を著しく上昇させるため避けることが推奨されます。特に進行リスクの高い患者では注意が必要です。座位や立位で行えるポーズは通常問題ありません。

眼圧は体位の影響を受ける2)。座位から仰臥位への変化で健康な個人では1〜2 mmHg、緑内障患者では4 mmHg眼圧が上昇する。生活姿勢(昼間は座位、睡眠時は仰臥位)を考慮して測定すると、正常人でも睡眠時の眼圧が昼間より高い2)。この睡眠時仰臥位での眼圧上昇の主な機序は体位変換による上強膜静脈圧の上昇である2)

側臥位では下側の眼の眼圧が約1.5〜2 mmHg上昇する。緑内障患者では、より障害の進んだ側を下にして寝る習慣がある場合、視野進行のリスクが高まる可能性がある。

閉塞性睡眠時無呼吸症候群は緑内障のリスク因子として報告されている5)。ただし、この関連はすべての研究で一貫して示されているわけではない4)

喫煙は緑内障のリスク因子の一つとして挙げられている1)。喫煙による酸化ストレスの増加、網膜微小循環の障害、視神経への直接的な毒性が関与すると考えられるが、喫煙と緑内障の関連を明確に示す大規模研究は限られている。

全身性高血圧と緑内障の関連については議論がある4)。低い拡張期血圧は灌流圧の低下を通じて緑内障リスクを高める可能性がある4)。糖尿病は眼圧上昇と緑内障リスクの増加に関連する可能性が示唆されている5)

眼圧の日内変動は緑内障管理において重要であり、正常人の眼圧は1日を通して3〜6 mmHg程度変動する2)。緑内障患者では房水流出率の低下のため変動幅がさらに大きくなる2)。最高眼圧は午前中に、最低眼圧は夕方から夜間に示すことが多い2)

眼圧は瞬き、眼球運動、血管拍動により短期的に大きく変動する3)。テレメトリーセンサーによる霊長類モデルの研究では、眼の擦り(eye rubbing)で100 mmHgを超える一過性の眼圧上昇が記録されている3)

Q 体重を減らすと緑内障に良い影響がありますか?
A

BMIは眼圧と正の相関があることが報告されています。肥満外科手術後の急激な体重減少を経験した患者では、術後に眼圧値が低下し、高眼圧症や緑内障治療薬の使用が減少したという報告があります。ただし、体重と緑内障の関係は複雑であり、BMIが高いと緑内障の有病率はむしろ低いという報告もあります。体重管理は全身の健康に重要ですが、緑内障治療の代替にはなりません。

ニコチンアミドの神経保護効果

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ニコチンアミド(ビタミンB3のアミド形態)の緑内障における神経保護効果が注目されている。De Moraesらの臨床試験では、ニコチンアミドとピルビン酸塩の併用がプラセボと比較してパターン標準偏差の改善と関連していた。ミトコンドリア機能障害の防止を介した保護効果が示唆されるが、さらなる大規模試験が必要である。

Panらの研究では、1日の夕方の活動が10分増加するごとに原発開放隅角緑内障患者の視野進行オッズが15%減少することが示された。また、活動量の増加に伴い神経節細胞内網状層の菲薄化速度が遅くなることも報告されている。運動が眼圧低下だけでなく神経保護的に働く可能性が示唆される。

生活習慣と緑内障の関連に関する研究の多くは観察研究であり、因果関係の証明には至っていない1)。EGS(欧州緑内障学会)のガイドラインでも、現時点では生活習慣に関する強い推奨を出すことはできないとされている1)。今後、ランダム化比較試験による質の高いエビデンスの蓄積が課題である。

  1. European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 6th Edition. PubliComm; 2025.

  2. 日本緑内障学会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126:85-177.

  3. Pitha I, Oglesby E, Engelbrecht C, et al. Intraocular Pressure and Glaucoma. Prog Retin Eye Res. 2024;99:101222.

  4. American Academy of Ophthalmology. Primary Open-Angle Glaucoma Preferred Practice Pattern. 2020.

  5. American Academy of Ophthalmology. Primary Open-Angle Glaucoma Suspect Preferred Practice Pattern. 2020.

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