
緑内障におけるレーザー線維柱帯切開術(ELT・FLIGHT)
1. レーザー線維柱帯切開術とは
Section titled “1. レーザー線維柱帯切開術とは”レーザー線維柱帯切開術(laser trabeculotomy)は、レーザーを用いて線維柱帯を貫通しシュレム管への通路(チャネル)を作成する手術である。MIGS(低侵襲緑内障手術)の線維柱帯レーザー処置に分類される1)。
選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)が線維柱帯細胞に生物学的効果を誘発して房水流出を促進するのに対し、レーザー線維柱帯切開術は物理的にチャネルを作成する点で根本的に異なる。
現在、以下の2つの手法がある:
- エキシマレーザー線維柱帯切開術(ELT):308 nm塩化キセノンエキシマレーザーを使用する眼内法(ab interno)
- フェムト秒レーザー画像誘導高精度線維柱帯切開術(FLIGHT):角膜を通してフェムト秒レーザーを照射する非切開法
低侵襲緑内障手術は従来の濾過手術と比較して眼圧下降効果は中等度であるが、安全性プロファイルに優れる1)2)。線維柱帯切除術が依然として最も効率的な眼圧下降手術であるが、早期〜中等度の開放隅角緑内障や高眼圧症において薬剤負担の軽減を目的とした低侵襲緑内障手術の適応が広がっている1)。
SLT(選択的レーザー線維柱帯形成術)は線維柱帯の色素細胞にレーザーを照射してサイトカイン放出を誘導し、生物学的に房水流出を促進する処置です。一方、ELT(エキシマレーザー線維柱帯切開術)は線維柱帯を物理的に貫通してシュレム管へのチャネルを作成します。SLTは外来処置ですが、ELTは眼球に切開を要する手術であり、通常は白内障手術と併用して行われます。
2. エキシマレーザー線維柱帯切開術(ELT)
Section titled “2. エキシマレーザー線維柱帯切開術(ELT)”ELTは308 nm塩化キセノン(XeCl)エキシマレーザーを使用し、前房とシュレム管の間に微小孔を作成する。短パルス(20 Hz、60〜120ナノ秒)による非熱的な切除であるため、周囲組織や集合管の損傷が最小限に抑えられ、瘢痕形成や炎症反応も少ない。
角膜パラセンテーシスを作成し、角度付き金属チップを持つ使い捨てファイバーオプティックプローブを前房に挿入する。隅角鏡ガイド下でチップを線維柱帯に接触させ、90度の範囲にわたって約10個の微小穿孔(直径約0.2 mm)を作成する。レーザー照射後、気泡と少量の逆流性出血が確認され、シュレム管内壁の貫通を示す。術後、粘弾性物質を除去し角膜実質ハイドレーションで創を閉鎖する。
ELTの安全性と有効性は複数の研究で報告されている。
| 研究 | 対象 | 追跡 | 眼圧変化 |
|---|---|---|---|
| Stodtmeister(2011) | 166眼・ELT単独 | 1年 | 26.4→16.9 mmHg |
| Stodtmeister(2013) | 46眼・ELT単独 | 5年 | 25.5→15.9 mmHg |
| Töteberg-Harms(2017) | 113眼・PEA併用比較 | 4年 | 19→14 mmHg |
白内障手術との併用が多く施行されている。Moreno Valladaresらの研究(34眼、平均11.5ヶ月追跡)では、平均眼圧が20.9 mmHgから16.3 mmHgに低下し、81%の眼で無投薬となった。Riesenらの8年追跡(161眼)では眼圧は19.3 mmHgから15.4 mmHgに有意に低下したが、薬剤使用数の有意な減少は認められなかった。
報告されたELTの合併症は稀であり、臨床的に重要でない短期間の微小前房出血が主である。線維柱帯切除術と比較して重篤な合併症の頻度は著しく低い。
3. フェムト秒レーザー画像誘導高精度線維柱帯切開術(FLIGHT)
Section titled “3. フェムト秒レーザー画像誘導高精度線維柱帯切開術(FLIGHT)”FLIGHT(ViaLase® Laser Technology)は角膜を通してフェムト秒レーザーパルスを虹彩角膜角に照射し、線維柱帯の精密な光破壊を行う非切開法である。眼球を切開することなく前房とシュレム管をつなぐ通路を構築できる点がELTとの根本的な違いである。
ポータブル隅角カメラで虹彩角膜角を確認し治療部位を選択する。カップリングレンズを吸引リングで対象眼に固定し、レーザーシステムにドッキングする。リアルタイム隅角ビデオとOCTを用いてミクロン単位の精度で線維柱帯表面にレーザーを照準し、フットスイッチで治療を起動する。
有効性と安全性
Section titled “有効性と安全性”Nagyらの前向きパイロット研究(11名18眼、2年追跡)では、平均眼圧が22.3 mmHgから14.5 mmHgに低下した(p=0.00005)。約82%の眼で術前比20%以上の眼圧下降が得られた。視力低下・角膜浮腫・低眼圧・前房出血・周辺虹彩前癒着・眼圧スパイクなどの重篤な有害事象は報告されなかった。24ヶ月時点の隅角鏡検査および前眼部OCTで明瞭なチャネルが確認された。
FLIGHTは角膜を通してレーザーを照射する非切開法であり、眼球に切開を加える必要がありません。この点でELTや従来の線維柱帯切開術とは異なり、より低侵襲な処置です。ただし現時点では予備的な研究段階であり、大規模な長期データはまだ得られていません。
4. 従来の線維柱帯切開術との比較
Section titled “4. 従来の線維柱帯切開術との比較”眼外法線維柱帯切開術
Section titled “眼外法線維柱帯切開術”従来の線維柱帯切開術(トラベクロトミー)は強膜弁を作成しシュレム管を同定した後、金属プローブ(トラベクロトーム)をシュレム管に挿入・回転させて線維柱帯を切開する術式である。合併症として前房出血(必発)、デスメ膜剥離、毛様体解離、一過性高眼圧がある。術後眼圧は16〜20 mmHgで推移することが多い3)。
マイクロフック眼内法トラベクロトミー(MIGS)
Section titled “マイクロフック眼内法トラベクロトミー(MIGS)”近年急速に普及しているMIGSの一つである。結膜・強膜を温存し、角膜小切開創から隅角鏡下に直接線維柱帯を切開する。従来の眼外法と同等の短期的効果があり、惹起乱視が少なく視力回復が早い。白内障手術との同時施行が標準的である3)。
5. 最新の研究と今後の展望
Section titled “5. 最新の研究と今後の展望”
ELTの長期成績
Section titled “ELTの長期成績”Riesenらの8年追跡研究は、ELTと白内障手術併用の長期的な眼圧下降効果を示した。しかし薬剤使用数の長期的な減少は限定的であり、追加治療が必要となる症例もある。再施行が必要となることは稀と報告されている。
FLIGHTの可能性
Section titled “FLIGHTの可能性”FLIGHTは眼球切開を必要としない唯一のレーザー線維柱帯切開術である。パイロット研究では安全性と有効性が示されたが、対象患者数が少なく追跡期間も限られている。今後、ランダム化比較試験による大規模な有効性・安全性データの蓄積が不可欠である。
低侵襲緑内障手術の報告基準
Section titled “低侵襲緑内障手術の報告基準”低侵襲緑内障手術の臨床試験では安全性と有効性のトレードオフが存在し、従来の濾過手術とは異なるエンドポイント設定が求められている2)。標準化された報告基準の確立が今後の課題である。
低侵襲緑内障手術としてのレーザー線維柱帯切開術は、主に早期〜中等度の開放隅角緑内障または高眼圧症の患者が対象です。白内障手術との同時施行で薬剤負担の軽減を図る場合に特に有用です。進行した緑内障や低い目標眼圧が必要な患者には従来の濾過手術が推奨されます。
6. 参考文献
Section titled “6. 参考文献”
European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 6th Edition. PubliComm; 2025.
American Academy of Ophthalmology. Primary Open-Angle Glaucoma Preferred Practice Pattern. 2020.
日本緑内障学会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126:85-177.