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緑内障

線維柱帯切除術後のレーザー縫合糸切断術(Laser Suture Lysis)

レーザー縫合糸切断術(laser suture lysis: LSL)は、線維柱帯切除術後に経結膜的にレーザーを照射して強膜弁のナイロン縫合糸を切断する処置である1)。Lieberman、Hoskins、Migliazzoらにより報告された手技で、圧迫コンタクトレンズを用いて縫合糸を可視化しレーザーで切断する。

線維柱帯切除術では術後早期の過剰濾過と低眼圧を防ぐため、強膜弁をタイトに縫合する。その後、術後の眼圧に応じてLSLにより段階的に濾過量を増加させ、目標眼圧の達成を図る1)。マイトマイシンC(MMC)や5-フルオロウラシル(5-FU)の併用により手術成功率は向上したが、術後低眼圧の発生率も増加したため、LSLを前提としたタイトな縫合がより重要となった。

LSLは房水濾過量が不足していると判断された場合に施行する1)。具体的には以下の条件である:

  • 眼球マッサージを行っても眼圧が十分に下降しない
  • 濾過胞が低い・機能していない・不全の状態
  • 術後早期の房水流出を増強する必要がある2)

絶対的な禁忌はないが、以下の条件下では回避が望ましい:

  • テノン嚢が肥厚し炎症を起こしている場合
  • 線維柱帯切除部位に結膜下出血がある場合
  • 結膜がフルオレセインで染色されている場合(アルゴンレーザーの透過を制限し結膜熱傷のリスクとなる)
Q レーザー縫合糸切断術はどのような場合に行いますか?
A

線維柱帯切除術後に眼圧が目標値より高く、眼球マッサージでも十分な眼圧下降が得られない場合に行います。強膜弁の縫合糸を1本ずつ切断することで、房水の流出量を段階的に増やし、眼圧を目標範囲に調整します。外来で点眼麻酔下に施行できる簡便な処置です。

すべてのレンズは結膜を圧迫して虚血化させ、縫合糸の視認性を高める目的で使用される。

レンズ名特徴
ホスキンス最も一般的。倍率1.2倍
ブルメンタール突起で狙撃的圧迫。倍率2〜3倍
マンデルコーン倍率1.32倍

結膜が薄い場合はホスキンスレンズで面圧迫する。テノン嚢が厚く見えにくい場合はブルメンタールレンズで局所的に圧迫して可視化する。

  1. 点眼麻酔を施行する
  2. 結膜充血がある場合は2.5%フェニレフリンで血管収縮させる
  3. 患者に下方視させ、上眼瞼を挙上する
  4. 切断用レンズを縫合糸直上に置き結膜を圧迫・虚血化させる
  5. 縫合糸を可視化しレーザーを照射する
  6. 一度に1本ずつ切断する角膜縁に最も近い縫合糸から切断し、遠位を最後に残す

切断後に眼圧測定と濾過胞の評価を行う1)。効果不十分であれば同レンズで眼球マッサージを追加する。

アルゴンレーザー(最も一般的)

スポットサイズ:50〜200 μm

パワー:100〜300 mW(結膜が薄い場合は低出力)1)

照射時間:0.1〜0.2秒1)

照射回数:1〜2発で切断可能

その他のレーザー

Nd:YAGレーザー:1064 nm または 532 nm

ダイオードレーザー:840 nm

結膜熱傷回避:赤色レーザーの使用が望ましい1)

マルチスポット法:50μm×5スポットで250μmの「レーザーライン」を作成する手法も報告されている

術後48時間は過剰濾過と低眼圧のリスクがあるため待機する。HoskinsとMigliazzoは術後1〜3週間のLSLが効果的と報告した。

代謝拮抗薬を使用しない場合のLSL許容期間は術後2週間以内(4日〜3週間)である。マイトマイシンC使用は創傷治癒を著しく遅らせるため、LSL実施可能な期間が延長される。

しかし術後経過とともに強膜弁周囲の瘢痕化が進行し、LSLの効果は減弱する1)マイトマイシンC併用例でも術後3週〜1ヶ月で切糸効果が減弱するとされ、LSLまでの期間が長いほど長期眼圧が高い傾向となる1)。原則として術後1ヶ月以降は強膜弁の瘢痕化が完了し、効果がほとんど得られない。

結膜創離開:結膜の過度な操作により生じ、外科的修復を要することがある。結膜穿孔:出血部位上からの照射で発生する。小さい場合は24時間以内に治癒する。

低眼圧:最も一般的で発生率18〜35%。レーザー直後の過度なマッサージを避ける。通常は自然に軽快する。

前房・消失前房:調節麻痺薬・房水産生抑制薬・圧迫眼帯で管理する。

虹彩嵌頓:周辺虹彩切除部が小さい場合、急激な減圧により虹彩が瘻孔に嵌頓する。外科的修復を要する。

悪性緑内障:切断後の急激な減圧により発生する稀な合併症である。術後48時間以内に発症する。閉塞隅角を伴う高眼圧がリスク要因である。

進行性水晶体混濁:18%と報告されている。巨大濾過胞:デレン(角膜乾燥陥凹)の形成を伴うことがある。

Q レーザー縫合糸切断術は何回まで行えますか?
A

通常、手術時に2〜5本程度の縫合糸で強膜弁を固定しており、その本数分が切断可能な最大回数です。一度に1本ずつ切断し、その都度眼圧と濾過胞を評価して次の切断の要否を判断します。すべての縫合糸を切断しても眼圧が十分下降しない場合は、ニードリングや追加の手術を検討します。

経結膜的に照射されるレーザーエネルギーが縫合糸を融解・切断する。これにより強膜弁レベルでの密着圧が解除され、結膜下腔への房水流出が促進される。

線維柱帯切除術では術後の眼圧は房水産生量と強膜弁を介した濾過胞への流出量のバランスで決まる1)。手術成績は術後早期の濾過量調整と長期の結膜下瘢痕化抑制に依存するため、LSLは手術手技と並ぶ重要な術後管理要素である1)

LSL前にまず強膜マッサージを試みる1)。マッサージで十分な濾過量が確認されない場合にLSLを施行する。高眼圧であれば後方の縫合糸から切断し、濾過胞を円蓋部方向へ広げる。一方、過剰濾過で低眼圧となった場合はアトロピン点眼、経結膜強膜弁縫合、自己血注入を検討する1)

Manoらの研究では、術後8日目から12週目までの早期LSLの有効性が強調されている。眼圧10 mmHg超の症例に対して行われ、特に1回目のLSL後に効果的な眼圧下降が観察され、合併症発生率の増加は認められなかった。

マルチスポットレーザーシステムを用いた手法が報告されている。グリーンレーザー(532nm)で直径50μm×5スポットを連結し250μmの「レーザーライン」を作成する方法で、患者の協力が得られにくい場合や術者の習熟度が十分でない場合に有用とされる。

LSLに代わる方法として可撤式縫合(releasable sutures)や調整式縫合(adjustable sutures)がある3)。可撤式縫合は術後に引き抜くことで同様の効果を得られるが、LSLは外来で非侵襲的に施行でき、切断のタイミングをより柔軟に選択できる利点がある2)

  1. 日本緑内障学会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126:85-177.

  2. American Academy of Ophthalmology. Primary Open-Angle Glaucoma Preferred Practice Pattern. 2020.

  3. European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 6th Edition. PubliComm; 2025.

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