MYOC(ミオシリン)遺伝子
GLC1A座位:染色体1q24.3-q25.2に位置する2)
JOAG症例の8〜36%に変異:ANZRAG研究ではJOAGの9.5%にMYOC変異が確認された1)
重症表現型:MYOC変異保有者は早期発症・高眼圧・より攻撃的な緑内障を呈する2)
表現型-遺伝型相関:Gln368Stop変異は比較的軽症、Tyr437His・Ile477Asn変異はより重症の表現型と関連する

若年開放隅角緑内障(juvenile open-angle glaucoma: JOAG)は、原発開放隅角緑内障(POAG)の一亜型であり、3歳超から40歳未満で診断される3)。推定有病率は4〜20歳で10万人あたり0.38〜2人と稀である。
成人原発開放隅角緑内障と比較し以下の特徴を有する:
乳児緑内障(3歳未満発症)とは区別される。JOAGでは牛眼・流涙・羞明の三徴がなく、巨大角膜・Haab線条・前眼部形成異常も認めない3)4)。
原発開放隅角緑内障と同様に多くの場合は無症状で発見される。症状がある場合はかすみ目、眼圧上昇による眼痛、末期での視力低下を呈する。
眼圧:著しい高値が特徴的である。ANZRAG研究(660例)ではJOAG群の眼圧中央値は29 mmHg(IQR 23〜38)であった1)。MYOC変異保有者ではさらに高く40 mmHg(IQR 29〜45)と報告されている1)。
隅角:隅角鏡検査では一般に開放隅角を呈する。眼圧が著しく高い場合は隅角形成異常(dysgenesis)が認められることがある3)。虹彩高位付着や顕著な虹彩突起がみられることもある3)4)。
視神経乳頭:散瞳検査でしばしば両側性の乳頭陥凹が認められる。JOAGの乳頭は成人原発開放隅角緑内障と比較してサイズが大きく、陥凹の深さ・容積・C/D比が高い傾向がある。
視野:ハンフリー自動視野計が標準的検査である。年少児にはゴールドマン視野計も使用される。
はい。JOAGは3歳以上から発症しうる疾患です。ただし多くの場合10代後半〜30代で診断されます。初期は無症状のことが多いため、緑内障の家族歴がある場合は小児期から定期的な眼科検診が推奨されます。
JOAGは高い浸透率を伴う常染色体優性遺伝が主な遺伝形式である1)2)。
MYOC(ミオシリン)遺伝子
GLC1A座位:染色体1q24.3-q25.2に位置する2)
JOAG症例の8〜36%に変異:ANZRAG研究ではJOAGの9.5%にMYOC変異が確認された1)
重症表現型:MYOC変異保有者は早期発症・高眼圧・より攻撃的な緑内障を呈する2)
表現型-遺伝型相関:Gln368Stop変異は比較的軽症、Tyr437His・Ile477Asn変異はより重症の表現型と関連する
その他の関連遺伝子
CYP1B1:JOAGの3.2%に二重対立遺伝子変異が報告されている1)。先天緑内障の主要原因遺伝子でもある
CPAMD8:前房の圧力動態に関与する蛋白をコードする。JOAGの一部症例で変異が報告されている1)
TBK1・OPTN:正常眼圧型JOAGとの関連が報告されている1)
FOXC1:Axenfeld-Rieger症候群の原因遺伝子だが、JOAG症例での変異報告もある1)
ANZRAG研究(327名のJOAG)では分子診断が得られたのは約15.5%にとどまり、大部分の症例では原因遺伝子が未同定である1)。
| 要因 | 詳細 |
|---|---|
| 男性 | 125眼の研究で64%が男性 |
| 近視 | JOAG患者の87%が近視 |
| アフリカ系 | 有病率が高い |
JOAGの診断は原発開放隅角緑内障と類似の手順で行うが、若年者特有の注意点がある。
眼圧測定:ゴールドマン圧平眼圧計が基準。若年者ではトノペンとの測定差が大きいことがある。
角膜厚測定:JOAGにおける正式な役割は未確立だが、精密検査の一部として推奨される。
隅角鏡検査:隅角閉塞を除外し、形成異常や虹彩高位付着の有無を評価する3)4)。
光干渉断層計(OCT):網膜神経線維層厚のモニタリングに有用である。成長に伴う正常な眼軸長延長を考慮する必要がある。
視野検査:ハンフリー自動視野計が基本。協力困難な年少児にはゴールドマン視野計を用いる。
遅発型先天緑内障、ステロイド誘発性緑内障、外傷性緑内障、炎症性緑内障が鑑別に挙がる。小児では網膜芽細胞腫に伴う虹彩新生血管緑内障、母斑症、若年性黄色肉芽腫も除外する。
先天緑内障は3歳未満で発症し、牛眼(眼球拡大)・流涙・羞明の三徴が特徴的です。角膜拡大やHaab線条(デスメ膜破裂)も認められます。一方、JOAGではこれらの所見がなく、眼球の構造的変化を伴わないのが特徴です。
先天緑内障とは異なり、JOAGではまず薬物治療を開始する。ただし眼圧が持続的に上昇するため、手術への橋渡しとなることが多い3)。
使用薬剤は原発開放隅角緑内障に準じる:プロスタグランジン関連薬、β遮断薬、炭酸脱水酵素阻害薬、α受容体作動薬。縮瞳薬は毛様体痙攣・誘発近視のため忍容性が低い。小児ではα受容体作動薬(ブリモニジン)の中枢神経抑制に注意し、アプラクロニジンが選択される場合がある。
30眼のJOAGに対する前向き研究で、12ヶ月時点の43%が追加治療なしで20%以上の眼圧下降を維持した。前眼部OCTでシュレム管が可視化される眼ではSLTの成功率が8.3〜21.4倍高い。線維柱帯上に高反射膜がある眼では効果が得られない。
線維柱帯切除術:JOAGの手術の主軸である。術後3年での薬剤なし眼圧制御率は50〜87%。MYOC変異に連鎖する家系では83%が濾過手術を要した。
緑内障ドレナージデバイス(GDD):結膜瘢痕で濾過手術が困難な場合に選択される。Ahmed緑内障バルブの1年成功率は100%との報告がある。Moltenoインプラントでは眼圧21 mmHg未満の1年制御確率は0.89であった。
隅角手術:360度線維柱帯切開術(照明付きマイクロカテーテル使用)の10眼研究では平均眼圧が50%減少した。GATT(隅角鏡下経管腔的線維柱帯切開術)はKDB(Kahook Dual Blade)隅角切開術と比較して良好な成績を示し(平均眼圧44%減少 vs 14%減少)、再手術率も低かった(GATT 5/36眼 vs KDB 8/13眼)。
低侵襲緑内障手術(MIGS):Xenゲルステントやハイドラスステントの少数例報告がある。有効な選択肢となりうるが大規模エビデンスは不足している。
眼圧上昇の原因は線維柱帯の構造異常による房水流出抵抗の増大である。超微形態的検査では、線維柱帯に厚く緻密な組織と細胞外沈着物が認められる。これらの所見はステロイド緑内障と類似する。
11検体の線維柱帯切除術標本の研究では、異常な基底膜様物質(指紋状パターン)が線維柱帯の外側角膜強膜部と篩状部に存在し、成人原発開放隅角緑内障と比較して篩状部をより高度に肥厚させていた。
ミオシリンは線維柱帯(線維柱帯梁・シュレム管隣接組織)に発現し、変異によって房水流出抵抗を増加させると考えられている2)。動物実験ではMYOCの発現レベルが眼圧と相関することが確認されている2)。原発開放隅角緑内障全体でのMYOC変異頻度は2〜4%であるが、若年発症・高眼圧・家族歴のある患者を選択すると16〜40%に上昇する4)。
OCT-Aを用いた研究で、JOAGでは成人原発開放隅角緑内障と比較して乳頭周囲の血管密度が有意に低下していた。血管密度はRNFL厚および最良矯正視力と強い正の相関を示し、視神経の血管灌流低下がJOAGの病態に関与している可能性が示唆されている。
ANZRAG研究(オーストラリア・ニュージーランド、660例)はJOAGにおける最大規模の遺伝子解析研究である1)。JOAG 252例では15.5%で分子診断が得られ、MYOC(9.5%)、CYP1B1(3.2%)、FOXC1(0.8%)、CPAMD8(0.4%)、OPTN(0.4%)の変異が同定された1)。大部分の症例で原因遺伝子が未同定であり、国際的な共同研究による新たな遺伝子の同定が必要とされている1)。
前眼部OCTでシュレム管の可視化と線維柱帯上高反射膜の有無を評価することで、SLTの治療効果を事前に予測できる可能性が示されている。隅角形成異常のない症例ではSLTの成功率が4倍高い。
MYOC変異の種類によりJOAGの重症度が異なることが明らかになりつつある1)2)。将来的には遺伝子検査パネルに基づく個別化治療計画が実現する可能性がある。
Knight LSW, Ruddle JB, Taranath DA, et al. Childhood and Early Onset Glaucoma Classification, Phenotypic and Genotypic Characteristics, and Genetic Diagnosis: The Australian and New Zealand Registry of Advanced Glaucoma. Ophthalmology. 2021;128:1549-1560.
Khawaja AP, Viswanathan AC. The Genetics of Glaucoma. Annu Rev Vis Sci. 2024;10:97-119.
European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 6th Edition. PubliComm; 2025.
European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 5th Edition. PubliComm; 2020.