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緑内障

眼内腫瘍に続発する緑内障

1. 眼内腫瘍に続発する緑内障とは

Section titled “1. 眼内腫瘍に続発する緑内障とは”

眼球内の腫瘍が房水流出を障害し、眼圧上昇と視神経障害を引き起こす続発緑内障である。主に前眼部の原発性または続発性眼内腫瘍が原因となる1)。腫瘍細胞による線維柱帯への浸潤、腫瘍関連の炎症・debris・出血・色素散布による線維柱帯閉塞が主な機序であり、続発閉塞隅角を呈することもある1)

眼内腫瘍を有する眼における眼圧上昇の有病率は約5%である。全身性腫瘍の眼転移有病率は約4%と推定され、脈絡膜への転移が最も多い。原発部位としては乳癌・肺癌・腎癌の頻度が高い。

成人における最も一般的な原発性眼内悪性腫瘍はぶどう膜メラノーマであり、その3〜33%に緑内障を合併する。小児では網膜芽細胞腫が最も多い原発性眼内腫瘍である。緑内障診療ガイドラインでも、後天要因による続発緑内障の代表例として腫瘍(良性/悪性、眼内/眼窩)が挙げられている5)

Q 眼内腫瘍があると必ず緑内障になるのか?
A

眼圧上昇の有病率は約5%であり、すべての症例で緑内障を発症するわけではない。腫瘍の種類・部位・大きさ、炎症・壊死・出血の程度などにより眼圧上昇のリスクは異なる。虹彩・毛様体の腫瘍では発症率が高く、虹彩メラノーマでは約3分の1に達することもある。

患者が経験する症状は腫瘍の種類・部位・眼内波及の程度により異なる。主な症状は以下の通りである。

  • 霧視:最も頻度の高い症状
  • 眼痛:眼圧上昇や炎症に伴う
  • 充血:上強膜血管の拡張を反映
  • 飛蚊症硝子体への波及を示唆

無症状の患者も存在する。非典型的・片側性・左右差の著しい緑内障を認める場合は、眼内悪性腫瘍を強く疑う必要がある。

眼圧上昇に加え、腫瘍と緑内障双方の所見が混在した多彩な臨床像を呈する1)4)

前眼部所見:

  • 色素散布前房内または隅角内の色素沈着
  • 上強膜血管の拡張:上強膜静脈圧上昇を示唆
  • 眼内炎:細胞/フレア、前房蓄膿角膜後面沈着物
  • 前房出血(hyphema):腫瘍からの出血
  • 虹彩異色(heterochromia):色素性腫瘍に特徴的
  • 虹彩・隅角の新生血管:虚血性機序を反映
  • 虹彩/毛様体/隅角の腫瘤性病変:直接的な腫瘍所見

後眼部所見:

  • 網膜剥離:脈絡膜腫瘍に伴う滲出性剥離
  • 後極部の腫瘤脈絡膜メラノーマなど
  • 硝子体炎・硝子体出血:腫瘍による炎症・出血の波及

眼内腫瘍による緑内障は、開放隅角機序と閉塞隅角機序の2つに大別される1)4)

開放隅角機序

直接浸潤:腫瘍細胞が前房隅角・線維柱帯に直接浸潤し、房水流出を機械的に阻害する。前眼部腫瘍で最も一般的な機序。

色素散布:色素性腫瘍からの大量色素が隅角を閉塞する。毛様体メラノーマで最も多い原因。

メラノマリティック:腫瘍由来色素を貪食したマクロファージが線維柱帯を閉塞する。

上皮化:悪性細胞のシート状プラークが隅角を覆い、線維柱帯を機械的に閉塞する。

EVP上昇眼窩腫瘍や眼外進展が上強膜静脈圧を上昇させ、圧力勾配を減少させる。

閉塞隅角機序

ぶどう膜炎:腫瘍に続発する炎症が周辺虹彩前癒着を形成し、隅角を閉塞する。

新生血管形成:慢性網膜剥離や虚血による虹彩・隅角の新生血管が閉塞隅角を招く。放射線治療後にも発生。

水晶体-虹彩隔壁の前方移動:後極部の大きな腫瘍塊が虹彩・水晶体を前方に押し出し、瞳孔ブロック・隅角閉塞を引き起こす。

占拠性腫瘍による水晶体・虹彩の前方移動は続発閉塞隅角の代表的原因であり、緑内障ガイドラインでも明記されている5)。腫瘍関連の炎症・debris・出血・色素散布による線維柱帯閉塞も重要な機序である1)

眼圧上昇のリスク因子:

  • 前部ぶどう膜(虹彩・毛様体)に位置する腫瘍
  • 腫瘍基底面が広い
  • 腫瘍基底が虹彩根部に位置する
  • 腫瘍の輪郭が平坦
  • 隅角播種の範囲が広い
Q 開放隅角と閉塞隅角のどちらの機序が多いのか?
A

腫瘍の種類と位置により異なる。前眼部の腫瘍(虹彩メラノーマなど)では直接浸潤による開放隅角機序が多い。一方、後眼部の大きな腫瘍では水晶体-虹彩隔壁の前方移動による閉塞隅角が主体となる。ぶどう膜メラノーマでは両方の機序が報告されている。

非典型的な緑内障を認める場合、詳細な病歴聴取が不可欠である。

  • がんのリスク因子に焦点を当てた既往歴・家族歴
  • 放射線治療を含む手術歴
  • 全身状態の確認(review of systems)
  • 社会歴(喫煙、職業など)

両眼の前眼部・後眼部の検査、および隅角の詳細な隅角鏡検査を行う。前房隅角の閉塞リスクがない限り、散瞳下での完全な検査を実施する。虹彩後方に腫瘍が局在する頻度が高いため、通常の細隙灯顕微鏡検査・眼底検査では不十分な場合がある。

  • Bモード超音波検査:散瞳不可例や中間透光体混濁例で後眼部腫瘍の測定に有用。網膜剥離・硝子体出血の併発も確認できる
  • 超音波生体顕微鏡(UBM):毛様体を含む前眼部腫瘍の詳細評価に有用。高周波による正確な測定が可能で、虹彩嚢胞と充実性腫瘍の鑑別に特に有効である
  • CT / MRI / PET:浸潤範囲や多臓器病変の確認のため、全身検索として必要となることが多い

詳細な検査後も診断が不確実な場合、25ゲージ針やビトレクターによる細針吸引生検(FNAB)を施行する。免疫組織化学を併用した分析が行われ、白血病やリンパ腫の診断に特に有用である。網膜芽細胞腫ではFNABは禁忌である。

続発緑内障を引き起こす眼内腫瘍の鑑別には以下が含まれる。

  • 白血病:全身性白血病の約1/3で眼波及。白血病細胞による隅角閉塞、偽前房蓄膿が特徴。ALLとAMLが続発緑内障の最も多い原因
  • リンパ腫:CNS-NHLは網膜・硝子体に好発。線維柱帯への腫瘍播種による眼圧上昇が一般的
  • 転移性腫瘍:ぶどう膜に好発。乳癌・肺癌が原発の上位。前方転移で眼圧上昇リスクが高い
  • ぶどう膜メラノーマ:成人で最も多い原発性眼内悪性腫瘍。最大25%で眼圧上昇。開放隅角・閉塞隅角の両機序
  • 網膜芽細胞腫:小児で最も多い原発性眼内腫瘍。17%に眼圧上昇。新生血管形成が主因
  • その他:髄上皮腫(毛様体先天性腫瘍、約半数で眼圧上昇)、虹彩メラノサイトーマ、多発性骨髄腫、若年性黄色肉芽腫

眼内腫瘍に続発する緑内障では、生存腫瘍細胞の排除が最優先であり、眼圧管理は第二の目標となる1)4)

腫瘍の根治的治療が眼圧改善にも寄与する。

  • 放射線療法:プラーク小線源治療、外部放射線照射
  • 手術的腫瘍切除:虹彩・毛様体腫瘍の一塊切除(en-bloc resection)
  • 化学療法:全身化学療法(特に多発眼内転移例)
  • 眼球摘出術:大きなぶどう膜メラノーマ、網膜芽細胞腫、「失明した痛みを伴う眼」に適応

悪性度や残存視機能に応じて、レーザー治療・抗癌剤・放射線治療を選択する。眼腫瘍専門医や他科との連携が重要である。

原発開放隅角緑内障の治療に準じた薬物治療を行う。

薬剤特徴備考
房水産生抑制薬第一選択β遮断薬・α作動薬・CAI
経口CAI第二選択点眼で不十分な場合
PGA議論あり転移促進の理論的懸念

薬物療法は確定的治療(腫瘍治療)までの第一選択として位置づけられる1)視力予後が不良で眼圧が高い眼では、疼痛がある場合にのみ緑内障治療を行う。

  • 毛様体破壊術:経強膜毛様体光凝固術や毛様体冷凍凝固術。侵襲の少ない眼圧管理法1)4)
  • 切開緑内障手術濾過手術チューブシャント腫瘍の制御後にのみ適応となる1)4)。腫瘍の眼外進展を促進するリスクがある
  • 一塊切除:虹彩・毛様体腫瘍の角強膜移植を併用した切除。5時計時間以上の切除で低眼圧リスク

若年性黄色肉芽腫ではステロイド治療も選択肢となる。

Q プロスタグランジン関連薬は使用できるのか?
A

厳密には禁忌ではないが、ぶどう膜強膜流出路の増加により腫瘍転移を促進する理論的懸念がある。このため眼腫瘍患者への使用には議論がある。房水産生抑制薬(β遮断薬・α作動薬・炭酸脱水酵素阻害薬)を第一選択とすることが推奨される。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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前眼部腫瘍における最も一般的な機序は、腫瘍細胞による前房隅角・線維柱帯への直接浸潤である。病理標本の観察により、悪性黒色腫や黒色細胞腫の細胞が線維柱帯に浸潤していることが確認されている。輪状メラノーマでは全周性に房水流出が阻害される。

房水中に浮遊する腫瘍細胞による線維柱帯浸潤も報告されている1)。腫瘍関連の炎症・debris・出血・色素散布による線維柱帯閉塞も重要な経路である1)

腫瘍細胞から放出された色素がマクロファージに貪食され、色素を豊富に含んだマクロファージが線維柱帯を閉塞する。免疫組織化学・電子顕微鏡により、この機序が実証されている。

房水流出は眼圧と上強膜静脈圧の圧力勾配に依存する。眼窩腫瘍や眼内腫瘍の眼外進展が直接的圧迫を通じて上強膜静脈圧を上昇させ、圧力勾配を減少させる。

ぶどう膜メラノーマにおけるNVGの一次所見としての発生頻度は、腫瘍の早期発見により減少傾向にある。近年ではNVGは放射線治療の二次的効果としてより一般的に認められる2)

メラノーマ関連の眼圧上昇機序として、直接浸潤、房水流出路への浸潤/播種、圧迫性隅角閉塞、前眼部新生血管が挙げられる2)。病態生理・重症度・患者要因に応じて、薬物療法・レーザー周辺虹彩切開術・レーザー線維柱帯形成術抗VEGF療法・毛様体破壊術が選択される2)

前房出血や硝子体内の長期残存血液も眼圧上昇を引き起こす1)。正常赤血球(前房出血)、ヘモグロビン含有マクロファージと赤血球debris(溶血性緑内障)、変性赤血球(ゴースト細胞緑内障)が線維柱帯機能障害を起こす1)。ゴースト細胞は硝子体出血後1〜4週で出現する球形・カーキ色の変性赤血球である1)

Tomkins-Netzerら(2024)は、眼内腫瘍における血液網膜関門破綻の機序を包括的にレビューした。腫瘍増殖・サイトカイン産生・低酸素条件が関門恒常性を破壊し、原発腫瘍から離れた部位でもBRB障害が生じうることを報告した3)

BRB破綻には2つの主要な経路が関与する3)

  • VEGF過剰発現:腫瘍進行に伴う血管新生需要がVEGF産生を亢進させ、血管透過性を増大させる。眼内腫瘍における血管漏出の主要因子である
  • 炎症細胞の浸潤:白血球浸潤は眼内悪性腫瘍の特徴であり、BRBの完全性を損なう。腫瘍眼では対側眼と比較して眼内炎症が増強しており、治療前のベースラインでもフレア値が上昇している

BRB破綻の臨床的帰結として、aqueous flare、臨床的に有意な網膜下液滲出性網膜剥離が生じる3)。このプロセスは複雑かつ多因子的であり、正確な病態生理機序の解明にはさらなる研究が必要とされている3)


サイトカイン・炎症細胞・構造因子の相互作用がBRB恒常性の破綻に至るが、その正確な病態生理機序の解明には追加の研究が必要である3)。BRB障害により透過性が亢進した血管壁から炎症細胞が眼内に浸潤し、細胞毒性メディエーター・プロテアーゼ・活性酸素種の放出を通じて正常な眼組織を破壊する可能性がある。

BRB破綻の機序解明は、将来的な治療アプローチの開発につながると期待されている3)

放射線治療後のNVG管理において、抗VEGF療法の有効性が報告されている2)。毛様体破壊術と組み合わせた管理が検討されている。

低侵襲緑内障手術(MIGS)が眼内腫瘍患者の眼圧管理に役割を果たす可能性がある。ただし、腫瘍播種のリスクは依然として残存しており、安全性と有効性の検証が必要である。

ドセタキセル、パクリタキセル、イマチニブなどの全身化学療法薬や、硝子体内リツキシマブ/メトトレキサートが眼圧上昇を引き起こすことが報告されている。腫瘍治療と眼圧管理の両面からの注意が求められる。


  1. European Glaucoma Society. European Glaucoma Society Terminology and Guidelines for Glaucoma, 6th Edition. Br J Ophthalmol. 2025.
  2. Kaliki S, Shields CL. Uveal melanoma: relatively rare but deadly cancer. Surv Ophthalmol. 2023;68:211-224.
  3. Tomkins-Netzer O, Niederer R, Greenwood J, et al. Mechanisms of blood-retinal barrier disruption related to intraocular inflammation and malignancy. Prog Retin Eye Res. 2024;99:101245.
  4. European Glaucoma Society. European Glaucoma Society Terminology and Guidelines for Glaucoma, 5th Edition. Kugler Publications. 2020.
  5. 日本緑内障学会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126:85-177.

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