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緑内障

内視鏡下毛様体光凝固術(Endoscopic Cyclophotocoagulation:ECP)

1. 内視鏡下毛様体光凝固術(ECP)とは

Section titled “1. 内視鏡下毛様体光凝固術(ECP)とは”

ECPは1992年にMartin Uramにより開発された毛様体破壊術の一種である。従来の経強膜的アプローチでは術者が毛様体を直視できず、破壊程度の定量性に乏しいという問題があった。ECPでは810 nm半導体ダイオードレーザー、ビデオカメラ、照準ビーム、175 Wキセノン光源を一体化したファイバーオプティックケーブルにより眼内から毛様体突起を直接可視化しながら治療する2)。これによりレーザー治療のより精密な調整(titration)が可能となる2)

ECPの有効性は良好であり、眼圧下降率は34〜57%と報告されている2)。大部分の研究で270〜360度の毛様体を治療する2)。2005年時点でMedicare毛様体光凝固術の47%がECPであり、2012年には77%に増加した2)

毛様体光凝固術の適応は、濾過手術やドレナージデバイスが成功する見込みが低い場合、失敗した場合、または施行不能な場合であり、難治性緑内障が主な対象となる1)。しかし近年は緑内障の重症度がより低い症例への施行が増加している。

ECP(内視鏡法)

照射経路:眼内から毛様体突起を直接可視化2)

組織損傷:毛様体突起のみに局所的収縮。1か月後に部分的再灌流あり

合併症リスク:低眼圧・眼球癆のリスクがTSCPCより低い

適応拡大:白内障手術との併用で軽度〜中等度にも使用可能

TSCPC(経強膜法)

照射経路:経強膜的。毛様体を直視できない

組織損傷:毛様体突起と虹彩根部に深刻な破壊。閉塞性血管障害が持続

合併症リスク:低眼圧・眼球癆のリスクがより高い

適応視力予後不良眼、切開手術の候補にならない眼が主対象2)

Q ECPと経強膜毛様体光凝固術(TSCPC)の違いは何ですか?
A

最大の違いは可視化の有無です。ECPは内視鏡で毛様体突起を直接見ながらレーザーを照射するため、治療の精度が高く周囲組織への損傷が少なくなります。組織学的研究では、TSCPCは毛様体突起と虹彩根部に深刻な破壊を引き起こしますが、ECPは毛様体突起のみに局所的な収縮を生じ、1か月後には部分的な血流回復がみられます。このためECPでは低眼圧や眼球癆といった重篤な合併症のリスクが低いとされています。ただし、ECPには専用機器が必要であり、角膜縁または扁平部からのアプローチで眼内操作が必要です。

ECPは緑内障治療法であるため、対象患者は緑内障による視野障害を有する。ECPの術後には一過性の霧視、眼痛、充血がみられることがある。

  • 術前所見:眼圧上昇、視神経乳頭陥凹拡大、視野障害。ECPの適応判断には隅角検査、水晶体硝子体の状態評価が重要
  • 術中所見:毛様体突起の白変と収縮が最適な治療効果の指標。レーザーは100〜300 mWの連続波で照射する
  • 術後所見:術後眼圧スパイク(粘弾性物質残存による)が14.5%に発生。前房出血3.8%、脈絡膜剥離0.36%、嚢胞状黄斑浮腫0.7%

ECPは治療法であるため、本セクションでは合併症のリスク因子を述べる。

  • 進行緑内障新生血管緑内障眼で重篤合併症(網膜剥離0.2%、脈絡膜出血0.09%、低眼圧0.12%、光覚なし0.12%)がすべて発生した。POAGや偽落屑緑内障ではこれらの合併症は報告されていない
  • 過剰治療:毛様体への過剰なエネルギー照射は眼球癆のリスクを高める。破壊が過度に及ぶと眼球癆に至る可能性がある
  • 粘弾性物質の選択:Healon 5はスペース維持に優れるが術後早期の眼圧スパイクリスクを高めうる。分散性粘弾性物質はスペース維持能力が低くレーザーエネルギーを吸収する

ECPの適応決定には通常の緑内障評価を行う。

  • 眼圧測定:ゴールドマン圧平眼圧計。術前ベースラインと目標眼圧を設定
  • 隅角鏡検査:隅角開放度・周辺虹彩前癒着の有無を確認。閉塞隅角緑内障でもECPは適応となりうる
  • 視野検査OCT視神経障害の重症度評価。治療効果の経時的モニタリングに使用
  • 水晶体・硝子体の状態評価:アプローチ方法の決定に重要。有水晶体眼・偽水晶体眼・無水晶体眼でアプローチが異なる
Endoscopic cyclophotocoagulation の術中像
Endoscopic cyclophotocoagulation の術中像
BMC Ophthalmol. 2020 Oct 9;20:406. Figure 2. PMCID: PMC7545548. License: CC BY.
上段は内視鏡下で毛様体突起を確認している像、下段は実際の手技場面である。ECP の流れを読者が掴みやすい術中写真である。
  • 角膜縁アプローチ:白内障手術併用ECPに一般的。1.5〜2.2 mmの切開創から内視鏡を挿入する。透明角膜切開・強膜トンネル切開のいずれも使用可能
  • 扁平部アプローチ:偽水晶体眼で検討。毛様体突起を最も完全に観察できるが、前部硝子体切除の併施が必要
  1. 前房を粘弾性物質(OVD)で安定させ毛様体溝を深める。凝集性粘弾性物質(Healon、Healon GV)が最適
  2. 18〜23ゲージの内視鏡プローブを毛様体突起から約2 mmの距離に配置する
  3. 810 nm半導体ダイオードレーザーを100〜300 mW、連続波で照射する
  4. 毛様体突起の白変と収縮が確認されるまで各突起を系統的に凝固する
  5. 最適な眼圧下降には少なくとも270度の治療が必要。360度治療は2つの切開創を介して行うとより効果的

複数の緑内障手術が失敗した難治性症例に対し、扁平部アプローチで治療範囲を扁平部まで1〜2 mm延長する手法である。硝子体切除術の併施が必要であり、偽水晶体眼または無水晶体眼が対象。術後2年時点で眼圧は27.9±7.5 mmHgから11.1±6.5 mmHgへ低下、薬剤数も3.4±1.2剤から0.6±1.3剤に減少したが、低眼圧が約7.5%と標準ECPよりも高率に報告されている。

白内障手術との併用(phaco-ECP)

Section titled “白内障手術との併用(phaco-ECP)”

ECPは白内障手術(phacoemulsification)と同一の角膜縁切開創から施行できるため、併用手術として広く普及している2)

指標phaco-ECPphaco単独
IOP変化(最終受診)MD −1.49 mmHg基準
薬剤数変化(最終受診)MD −0.75剤基準

2024年のメタ解析(9研究、5,389眼)では、phaco-ECP群はphaco単独群と比較して全時点で一貫して眼圧が低く、薬剤使用数も少なかった3)。ただし最高矯正視力はphaco単独群がやや良好であった(MD 0.09 logMAR)3)。合併症率は一般合併症(OR 3.96)・重篤合併症(OR 8.82)ともにphaco-ECP群で有意に高かった3)

phaco-ECPの利点

眼圧低下:6か月時MD −1.84 mmHg、12か月時MD −1.68 mmHg3)

薬剤負担軽減:最終受診時MD −0.75剤3)

手技の簡便さ:白内障手術と同一切開創から施行可能2)

phaco-ECPの注意点

合併症率増加:一般合併症OR 3.96、重篤合併症OR 8.823)

視力予後:phaco単独群のほうが最終BCVAがやや良好3)

長期有効性:6年解析で68%が追加介入を必要とした

周術期には広域スペクトル抗菌薬点眼、ステロイド点眼(1%酢酸プレドニゾロンまたはジフルプレドナート)、NSAID点眼を使用する。術後早期の眼圧スパイク予防に緑内障治療薬の点眼または内服を併用する場合がある。緑内障治療薬は眼圧レベルと目標に応じて術後1〜2か月で漸減する。

術後は疼痛管理を考慮し、ステロイド点眼とアトロピン点眼を必要に応じて使用する1)。術後直後はIOPをモニタリングし、抗緑内障薬を適宜調整する1)

Q 白内障手術とECPの併用はどのような患者に適していますか?
A

視機能に影響する白内障と軽度〜中等度の緑内障を合併した患者が良い適応です。特に2剤以上の緑内障点眼薬を使用中で、薬剤負担の軽減が望まれる場合に有用です。メタ解析では眼圧低下と薬剤数減少の持続的な効果が示されていますが、合併症率はphaco単独より高いため、個々のリスク・ベネフィットの慎重な評価が必要です。難治性緑内障に対してはECP Plusが検討されますが、低眼圧のリスクが高まるため注意が必要です。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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ECPは房水の産生組織である毛様体上皮をレーザー光凝固により破壊し、房水産生を低下させることで眼圧下降を図る。810 nmダイオードレーザーは毛様体上皮に吸収され、組織の白変・収縮を引き起こす。

閉塞隅角緑内障においてはendoCPGが房水産生抑制に加え隅角陥凹を拡大する二重作用を持つとされている4)。ただしメタ解析ではendoCPGは線維柱帯切開術AIT)より劣る結果であり、これは治療範囲が不十分であった可能性が指摘されている4)。有意なIOP低下には少なくとも270度の治療が必要である4)

組織学的研究では、TSCPCは毛様体突起と虹彩根部に深刻な破壊を引き起こし、1か月後まで閉塞性血管障害が持続する。対照的にECPは毛様体突起のみに局所的な収縮を引き起こし、1か月後には部分的な再灌流がみられる。この部分的な血流回復が、ECPでTSCPCと比較して低眼圧や眼球癆が起こりにくい理由と考えられている。

ECPは眼内法であるため網膜剥離や眼内炎のリスクがある点はTSCPCと異なる。

毛様体光凝固術全般に共通する欠点として、破壊程度が弱ければ眼圧下降が得られず、破壊が過度に及ぶと眼球癆に至る可能性があり、定量性に乏しい術式である。再治療の必要性も高く、経強膜法では再治療率0〜59%と報告されている。

2024年のAmaralらのメタ解析(9研究、5,389眼)はphaco-ECPとphaco単独を比較した初のメタ解析である3)。phaco-ECP群は全時点で眼圧低下と薬剤減少に優れたが、合併症率が有意に高かった3)

指標結果(MD/OR)P値
IOP 6か月−1.84 mmHg0.002
IOP 12か月−1.68 mmHg0.0002
薬剤数(最終)−0.75剤<0.00001
重篤合併症OR 8.820.03

PACGに対するMIGSメタ解析ではendoCPGの156眼中27件(17.3%)に有害事象が報告された4)。嚢胞状黄斑浮腫4例、線維素性ぶどう膜炎11例、出血性脈絡膜剥離1例、二次性瞳孔ブロック2例、悪性緑内障1例などである4)

2019年のコクランレビューでは、難治性緑内障に対する毛様体破壊術が他の治療と比較して優れた転帰や少ない合併症をもたらすかについて結論が不十分であった2)。また開放隅角緑内障に対するECPの研究は同定されなかった2)。毛様体光凝固術の種類間比較やほかの緑内障手術との比較には追加のRCTが必要とされている2)

ECPの長期的な有効性と安全性については、6年解析で68%が追加介入を必要としたとの報告がある。TSCPCや線維柱帯切除術との長期的RCTは未だ存在しない。毛様体光凝固術の選択は個々の術者の裁量に委ねられている2)

ECPプローブの新たな応用として、線維柱帯切開術後の再発性前房出血に対するコレクターチャネルの焼灼という報告もある5)

Q ECPの長期的な有効性はどの程度ですか?
A

白内障手術併用ECPの3年間の研究では成功率(IOP≤21mmHg、20%以上の低下、追加手術不要)が1年で70%、2年で54%、3年で45%と経時的に低下しました。6年間の解析では68%が追加介入を必要としています。一方、難治性緑内障におけるECP Plusでは2年時点で眼圧が60%低下し薬剤数も大幅に減少しました。長期的な有効性は症例によりばらつきが大きく、TSCPCや線維柱帯切除術との直接比較RCTは存在しないため、さらなる研究が必要です。

  1. European Glaucoma Society. European Glaucoma Society Terminology and Guidelines for Glaucoma, 5th Edition. Br J Ophthalmol. 2025.
  2. American Academy of Ophthalmology. Primary Open-Angle Glaucoma Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2025.
  3. Amaral DC, Louzada RN, Moreira PHS, et al. Combined Endoscopic Cyclophotocoagulation and Phacoemulsification Versus Phacoemulsification Alone in the Glaucoma Treatment: A Systematic Review and Meta-Analysis. Cureus. 2024;16(3):e55853.
  4. Paik JS, et al. Outcomes and Complications of Minimally Invasive Glaucoma Surgery in Primary Angle Closure Glaucoma: A Systematic Review and Meta-Analysis. Clin Ophthalmol. 2025;19:493-502.
  5. Gallardo MJ, Reyes T. A Novel Use of the Endoscopic Cyclophotocoagulative Probe for the Management of Excisional Goniotomy Induced Chronic Recurrent Hyphema. Am J Ophthalmol Case Rep. 2022;26:101492.

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