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緑内障

網膜手術に関連する眼圧上昇(Elevated Intraocular Pressure Associated with Retinal Procedures)

1. 網膜手術に関連する眼圧上昇とは

Section titled “1. 網膜手術に関連する眼圧上昇とは”

続発緑内障はさまざまな硝子体網膜手術の後に発生する。対象となる術式は経扁平部硝子体切除術(PPV)、強膜バックリング、汎網膜光凝固PRP)、硝子体内抗VEGF薬投与、硝子体内トリアムシノロンアセトニド注入(IVTA)、シリコーンオイルタンポナーデ、および眼内ガス注入である。

眼圧上昇の病態は開放隅角メカニズム・閉塞隅角メカニズム・またはその両者に分類される1)ガスタンポナーデは著明な眼圧スパイクを誘発しうる1)線維柱帯は増殖網膜症による新生血管、瘢痕、色素散布、炎症、または網膜細胞外節の細胞残渣(Schwartz症候群)により閉塞されうる1)

リスク因子は術式ごとに異なるが、緑内障・高眼圧症の既往は術式横断的な共通リスク因子である1)2)。術後早期では炎症と眼圧の管理が主体であり、点眼や内服でほとんどはコントロール可能である。

  • 眼痛:眼圧上昇に伴い生じる。充血を伴うことが多い1)
  • 霧視角膜浮腫や前房炎症に起因する
  • 視力低下:高度かつ持続的な眼圧上昇では視神経障害が生じうる3)
術式眼圧上昇発生率
硝子体手術20〜60%
強膜バックリング1.4〜4.4%
汎網膜光凝固32〜94%
抗VEGF3.5〜6%
IVTA約40%
シリコーンオイル2.2〜56%
眼内ガス(SF6)6.1〜67%

硝子体手術後48時間以内に約60%が5〜22 mmHgの急激な眼圧上昇を示し、約36%で30 mmHgを超える。術前眼圧と術後後期の眼圧に有意差はなく、多くは一過性である。

硝子体網膜手術後の臨床所見として前房内フィブリン析出、前房内シリコーンオイル気泡、隅角閉塞、瞳孔ブロック毛様体脈絡膜剥離などがみられる。

黄斑円孔術後のday 1介入必要率は4.7%(95%CI 3.0–13.9)であり、そのうち最多が眼圧上昇である2)。iFTMHグループでは6%が30 mmHg超の眼圧上昇を認めた2)。眼圧上昇を呈した症例の50%に緑内障・高眼圧症の既往があり、80%でガスが使用されていた2)

Q 網膜手術後にどのような眼圧上昇パターンがみられますか?
A

術式により異なりますが、硝子体手術後は48時間以内に急性の眼圧スパイクが多くみられます。汎網膜光凝固後は治療直後2時間以内に検出されます。シリコーンオイル関連では早期から数か月後まで幅広い時期に生じます。抗VEGF薬では急性の一過性上昇に加え、繰り返し投与による持続的上昇も報告されています。IVTAでは注入後6か月時点で約40%が24 mmHgを超えます。多くは一過性で薬物療法によりコントロール可能ですが、持続例では外科的介入が必要になることがあります。

術式主なリスク因子
硝子体手術バックリング併用・散布光凝固・PVR
強膜バックリング狭隅角・環状締結・強度近視・高齢
シリコーンオイル既存緑内障・DM・無水晶体
眼内ガス高濃度使用・C3F8・光凝固併用
  • 硝子体手術:強膜バックリングとの併用、術中散布眼内光凝固、経扁平部水晶体切除術の併施がリスクを高める。増殖性硝子体網膜症に対する硝子体手術は黄斑円孔修復と比較して術後眼圧上昇の可能性が高い。フィブリン形成も続発緑内障のリスク因子である
  • 強膜バックリング:既存の狭隅角、環状締結の使用と赤道部前方への配置、強度近視、高齢、術後の毛様体脈絡膜剥離が素因となる
  • 汎網膜光凝固:レーザーエネルギー量が発生率と重症度に影響しうる。年齢や糖尿病の型は影響しない
  • 抗VEGFベバシズマブ(9.9%)はラニビズマブ(3.1%)より眼圧上昇の有病率が高い。既存緑内障の存在、投与頻度の増加もリスクとなる
  • IVTA:既存のPOAGまたはOHT、第一度近親者の緑内障家族歴、年齢(6歳と高齢で二峰性)、結合組織疾患、1型糖尿病、強度近視が素因となる
  • シリコーンオイル:既存の緑内障、糖尿病、無水晶体が主なリスク因子である1)。前房内の乳化シリコーンオイル量や重いタンポナーデ物質の使用が術後眼圧上昇と関連する
  • 眼内ガス:膨張性ガスの高濃度使用、C3F8の使用、高齢、術中光凝固、水晶体切除術併用、全周性強膜バックリング併用、前房内フィブリン性滲出物が関連する
  • 眼圧測定:ゴールドマン圧平眼圧計またはパーキンス眼圧計を使用する。ガスタンポナーデ眼では座位で測定する
  • 隅角鏡検査:開放隅角か閉塞隅角かの鑑別が治療方針を決定する。周辺虹彩前癒着(PAS)、新生血管、シリコーンオイル気泡の有無を確認する
  • 前房検査:細隙灯顕微鏡によりフィブリン析出、前房内シリコーンオイル、炎症細胞を評価する
  • 眼底検査網膜剥離の再発、ガスバブルの残存量、視神経乳頭の状態を確認する

術後レビューでは最低限、視力評価、眼圧測定、前眼部・後眼部の細隙灯検査、ガスバブル残存量の計測を行う2)3)。術後フォローアップの際にはステロイド誘発性高眼圧(通常術後7〜14日に出現)にも注意する2)。術後day 1レビューを省略する場合は、膨張性ガス濃度の管理と予防的IOP降下薬の投与を慎重に検討すべきである2)

  • 房水産生抑制薬β遮断薬(チモロール)、炭酸脱水酵素阻害薬(ドルゾラミド、アセタゾラミド内服)が第一選択となる
  • 調節麻痺薬:毛様体浮腫による隅角閉塞では散瞳薬で自然寛解を待つ。ピロカルピンは毛様体の緊張を助長し事態を悪化させることが多いため注意する
  • 抗炎症薬:術後炎症に伴う眼圧上昇にはステロイド点眼を使用する1)。ただしステロイド応答者では逆に眼圧が上昇しうる
  • 予防的投与:術後day 1レビューを省略する場合、アプラクロニジン1%点眼(術前2時間前+術終了時)またはチモロール0.5%/ドルゾラミド2%配合点眼(術終了時)が眼圧スパイクを有意に低減する2)

シリコーンオイル関連緑内障では、調節麻痺薬、ステロイド、β遮断薬、プロスタグランジン関連薬を含む局所薬物療法が30〜78%の眼圧制御に成功する。

薬物療法

房水産生抑制薬:β遮断薬・CAI点眼・アセタゾラミド内服。第一選択

調節麻痺薬:毛様体浮腫による隅角閉塞に有効。ピロカルピンは禁忌

抗炎症薬:術後炎症に伴う眼圧上昇に使用1)

予防的投与:アプラクロニジン1%またはチモロール/ドルゾラミド配合点眼2)

レーザー・手術

レーザー虹彩切開術:瞳孔ブロック例に有効。強膜バックリング後の毛様体浮腫型には無効

レーザー隅角形成術:急性期を過ぎた毛様体浮腫による閉塞に著効

経強膜CPC:シリコーンオイル抜去不能例に適応1)。内視鏡的CPCも選択肢

房水ドレナージデバイス:難治例に有効だがSO漏出リスクあり1)

  • レーザー虹彩切開術:瞳孔ブロックによる閉塞隅角緑内障に適応がある。狭隅角眼では術前の予防的施行も考慮する
  • レーザー虹彩成形術:強膜バックリング後の隅角閉塞で薬物療法に抵抗性の場合に有効である。隅角を開放し房水流出を促進する
  • レーザー隅角形成術・隅角癒着解離術:毛様体浮腫による隅角閉塞が急性期を過ぎた後に著効することがある
  • 経強膜毛様体光凝固術(CPC):シリコーンオイル除去による網膜再剥離のリスクが許容できない場合や視力予後不良眼に適応となる1)
  • 前房穿刺:極めて高い眼圧を緊急に解消する場合に行う
  • ガス抜き:ガス過充填の場合、後眼部からのガス抜きにより眼圧を低下させる
  • シリコーンオイル除去:線維柱帯の機械的閉塞の解消が期待されるが、除去後も全眼で眼圧上昇が持続した報告もある。網膜再剥離リスクとの天秤が必要である1)
  • 房水チューブシャント:以前の網膜手術による結膜瘢痕化のため標準的濾過手術は予後不良であり、ドレナージデバイスがより有効な選択肢となる1)。耳下側アーメド緑内障シャントの成功率は植え込み後6か月で86%、1年で76%と報告されている
  • 内視鏡的毛様体光凝固術:シリコーンオイル除去と緑内障治療を同時に行う必要がある眼で選択肢となる1)
Q シリコーンオイルによる眼圧上昇はどのように管理しますか?
A

まず局所薬物療法(β遮断薬、プロスタグランジン関連薬など)を開始し、30〜78%の症例で制御可能です。瞳孔ブロック予防として6時方向への予防的周辺虹彩切除術が行われます。薬物療法で制御不良な場合、シリコーンオイル除去が検討されますが、除去後も眼圧上昇が持続する場合があり、網膜再剥離リスクとの兼ね合いが必要です。難治例では経強膜毛様体光凝固術や房水ドレナージデバイス(アーメドシャントなど)が有効な選択肢です。従来の濾過手術は結膜瘢痕化のため予後不良とされています。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”
  • ガス膨張:隅角閉塞を伴わずに眼内ガスバブルの膨張が眼内液の流出速度を超える場合に生じる
  • 炎症:炎症性・細胞性デブリによる線維柱帯閉塞2)。フィブリン析出を伴う血液眼関門の破綻した増殖性疾患では炎症が強くなる
  • シリコーンオイル関連(早期):SOの前房移動によるTM閉塞。過充填が原因となることが多い1)
  • シリコーンオイル関連(中期):乳化SOの前房移動。マクロファージに部分的に貪食されたSO粒子が上方象限のTMに蓄積しtrabeculitisを誘発する1)
  • シリコーンオイル関連(後期):SOとTMの長期接触により永続的な構造変化が生じる1)
  • ステロイド反応:術後ステロイド点眼により通常7〜14日で出現する2)。線維柱帯の微細構造変化、物質沈着増加、プロテアーゼ阻害が関与する
  • 血液介在性メカニズム:赤血球分解産物(ghost cell)によるTM閉塞
  • 抗VEGF関連:注入液量による即時的上昇、TM・ぶどう膜強膜流出路の直接阻害、慢性trabeculitis
  • 瞳孔ブロック:眼内ガス、シリコーンオイル、フィブリン、またはIOLによる瞳孔ブロックで水晶体虹彩隔壁が前方変位する
  • 毛様体浮腫(angle rotation):強膜バックリングによる渦静脈の還流阻害→毛様体充血・腫脹→強膜突起を軸とした毛様体前方回転→隅角閉塞。狭隅角眼での散瞳による瞳孔ブロックと、炎症による虹彩後癒着に由来する二次性瞳孔ブロックがある
  • 汎網膜光凝固後:毛様体腫脹または血液網膜関門一時的脆弱化に伴う脈絡膜→硝子体への体液移動が水晶体虹彩隔壁を前方変位させる

開放隅角メカニズム

ガス膨張:膨張がoutflowを超えると眼圧上昇

炎症性TM閉塞:デブリ・フィブリン・ghost cellが原因2)

SO関連3段階:前房移動→乳化SO蓄積→TM構造変化1)

ステロイド誘発:TM微細構造変化・物質沈着・プロテアーゼ阻害2)

閉塞隅角メカニズム

瞳孔ブロック:ガス・SO・フィブリン・IOLが原因

Angle rotation:毛様体浮腫→強膜突起軸の前方回転→隅角閉塞

汎網膜光凝固後:脈絡膜→硝子体の体液移動→水晶体虹彩隔壁前方変位

眼内ガス注入に関しては、SF6は眼内注入量の2〜2.5倍、C3F8は4倍に膨張する。SF6は20%以下、C3F8は12%以下に濃度調整すれば予想外の膨張を避けることができる。ガスが最大に膨張するのはSF6で約24時間後、C3F8で約72時間後であるが、膨張率は最初の6時間で最も高く、眼圧上昇はガス注入直後から始まる。

数週以降では虹彩・隅角の新生血管やステロイド点眼薬による副作用にも注意する。糖尿病網膜症など網膜虚血の強い疾患では、術前に新生血管を認めなくても術後に生じやすいことに留意する。数か月以上経過したシリコーンオイル眼では乳化シリコーンオイルによる眼圧上昇が生じうる。

Q 網膜手術後の眼圧上昇にはどのようなメカニズムがありますか?
A

大きく開放隅角型と閉塞隅角型に分けられます。開放隅角型では、ガスの膨張、炎症やデブリによる線維柱帯閉塞、シリコーンオイルの前房移動、ステロイド反応、赤血球分解産物(ゴーストセル)が原因となります。閉塞隅角型では、ガスやシリコーンオイルによる瞳孔ブロック、毛様体浮腫による隅角の前方回転(angle rotation)が主な機序です。シリコーンオイル関連は時期により早期(前房移動)、中期(乳化SO蓄積・trabeculitis)、後期(TM構造変化)と機序が異なります。治療は機序に応じて選択するため、隅角鏡検査による正確な診断が重要です。

2023年のBEAVRSサーベイ(回答率35%)では、63%の施設がday 1レビューを省略している2)。Day 1レビューを省略する施設のうち34%が術後1週以内、50%が2週以内にフォローアップを行っている2)。Day 1省略時には膨張性ガス濃度管理とIOP降下薬予防投与の慎重な検討が推奨される2)

2件のRCTが術後眼圧スパイクの予防効果を報告している2)

  • Benz et al.:50眼のRCTでチモロール0.5%/ドルゾラミド2%配合点眼(術終了時投与)がプラセボと比較して術後IOPを有意に低減
  • Sciscio & Caswell:iFTMH 26眼のRCTでアプラクロニジン1%(術前2時間前+術終了時)がday 1術後IOPをプラセボと比較して有意に低減

day 1レビューを省略する場合、緑内障・高眼圧症既往のある症例では特に予防的投与を考慮すべきである2)

人口ベースの研究では、強膜バックリングと硝子体切除術の併用または硝子体切除術単独の後、10年間の緑内障発症累積確率は8.9%(95%CI 3.8–14%)であり、対照群の1.0%(95%CI 0–2.4%)と比較して有意に高い(P=0.02)。ただし111眼を対象とした別のレトロスペクティブ研究では平均49か月の追跡で長期的な眼圧上昇は認められておらず、報告間で差がある。

抗VEGF療法では網膜静脈閉塞症312人の前向き試験で60か月までに8%がベースラインから10 mmHg以上の眼圧上昇を経験し、1.6%が35 mmHgを超えた。OCTガイド下PRN投与への変更が持続的眼圧上昇リスクの軽減に有用である可能性がある。

後期の眼圧上昇は約4%で4年時に報告されている2)

  1. European Glaucoma Society. European Glaucoma Society Terminology and Guidelines for Glaucoma, 5th Edition. Br J Ophthalmol. 2025.
  2. Royal College of Ophthalmologists. Clinical Guideline on Idiopathic Full-Thickness Macular Holes. 2024.
  3. American Academy of Ophthalmology. Idiopathic Macular Hole Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2024.

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