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緑内障

非穿孔性深層強膜切除術(Deep Sclerectomy / NPDS)

1. 非穿孔性深層強膜切除術(NPDS)とは

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非穿孔性深層強膜切除術(non-penetrating deep sclerectomy: NPDS)は、1989年にKozlovとFyodorovが報告した緑内障手術である1)。深層強膜弁を切除し、シュレム管の外壁(天蓋)を除去した後、近管腔線維柱帯を剥離して、線維柱帯・デスメ膜窓(trabeculo-Descemet membrane: TDM)を介した房水濾過を促進する1)2)

NPDSの最大の特徴は、前房を貫通しない点にある1)。近管腔線維柱帯は房水流出抵抗が最大の部位であり、これを除去することで房水流出を増加させ眼圧を下降させる。前房への急激な減圧を回避するため、低眼圧・脈絡膜剥離・前房消失などの穿孔性手術に伴う重篤な合併症のリスクが軽減される1)4)

非穿孔性濾過手術の歴史は1964年のKasnovとWalkerによるシヌソトミーに遡る。その後数十年にわたり改良が重ねられ、NPDSとして確立された。欧州では緑内障手術の主要な選択肢として広く普及しているが、技術的難易度が高くラーニングカーブが長いことから、米国では施行頻度が低い1)

線維柱帯切除術の利点

長期眼圧下降:NPDSより低い術後眼圧を達成しうる1)

術後薬剤数:NPDSより術後の眼圧下降薬使用数が少ない傾向1)

技術的容易さ:ラーニングカーブがNPDSより短い1)

NPDSの利点

低眼圧合併症の低減:低眼圧・脈絡膜剥離のリスクが低い1)

白内障進行の抑制:線維柱帯切除術より白内障形成率が低い傾向1)

術後管理の軽減:濾過胞管理の負担が少ない1)

Q NPDSと線維柱帯切除術の違いは何ですか?
A

NPDSは前房を貫通せずにTDMを介して房水を濾過させる術式であり、線維柱帯切除術は前房を全層貫通して房水を排出させます。NPDSは低眼圧や脈絡膜剥離などの重篤な術後合併症が少ない反面、長期的な眼圧下降効果は線維柱帯切除術にやや劣る傾向があります。メタアナリシスでは両術式の眼圧下降効果が同等との報告もありますが、線維柱帯切除術のほうが術後薬剤数が少なくなる傾向が示されています。

NPDSは原発性および続発性開放隅角緑内障に適応される1)2)。最大許容薬物療法やレーザー治療で眼圧がコントロールできない症例が主な対象となる。先天緑内障に対しても有用性が報告されている4)

ぶどう膜炎続発緑内障では、穿孔性手術と比較して術後炎症が軽減されるためNPDSが有利となりうる。眼軸長が長い眼は穿孔性濾過手術後の低眼圧症リスクが高いため、NPDSの適応を検討すべきである。

分類対象疾患
適応原発性・続発性開放隅角緑内障
絶対禁忌閉塞隅角・新生血管緑内障
相対禁忌狭隅角・外傷性緑内障

閉塞隅角緑内障と新生血管緑内障はTDMを介した房水流出が期待できないため絶対禁忌である。狭隅角緑内障では水晶体再建術を併用して隅角を開放すれば施行可能な場合がある。

結膜切開は輪部基底法または円蓋部基底法で行う。両法の眼圧下降効果に差はない。線維化リスク低減のため代謝拮抗薬(MMCまたは5-FU)をできるだけ広く後方に塗布する2)

表層強膜弁は三角形・長方形・台形のいずれかで作成する。厚さは強膜の1/3〜1/2、長さは3〜5mmとする。この弁が減圧室の屋根となる2)

後方から脈絡膜上腔に近い深層で剥離を開始し、前方へ進めて強膜突起とシュレム管を同定する2)。シュレム管の天蓋を除去し、篩状線維柱帯とシュレム管内壁をカプソロレキシス鉗子で愛護的に剥離する。このステップでは眼球への圧迫を避け、TDM穿孔を防ぐことが重要である。

深層弁剥離前に前房穿刺を行うと線維柱帯の膨隆が抑えられ、穿孔リスクが軽減される。万が一穿孔が生じた場合は微小虹彩切除で対応する。

術後の強膜スペース(強膜内湖)を維持するため、空間保持デバイスを使用することがある2)

非吸収性インプラント

T-flux®:poly-Megma®製の高親水性アクリルインプラント。T字型の腕をシュレム管開口部に挿入する

Esnoper®:非吸収性アクリルポリマー製の新しいインプラント

吸収性インプラント・その他

Aquaflow®:円柱状コラーゲンインプラント。設置後に吸水して体積が3倍になり、6〜9ヶ月で分解される

SK-gel®:架橋ヒアルロン酸製。Healon GV(粘弾性物質)も空間保持に使用される

CO2レーザー補助強膜切除術(CLASS)

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CO2レーザースキャンシステム(IOPtiMate)は乾燥組織の蒸散に有効で、強膜組織の薄層化を制御しながらシュレム管とTDM窓の精密な処理を可能にする。赤外線CO2レーザーは房水に吸収・遮断されるため、眼内穿孔を防ぐ自己調節機能を有する。従来のNPDSと比較してラーニングカーブが短く手術時間も短い。

NPDS後、TDMを介した房水流出抵抗は時間経過とともに増加し眼圧上昇を招くことがある5)。この場合、Nd:YAGレーザーによるゴニオパンクチャー(LGP)でTDMに全層の孔を作成し、流出抵抗を減少させる。

項目設定
レーザーNd:YAG(Qスイッチ)
初期エネルギー2mJ
エンドポイントマイクロ濾過胞出現

術前に2%ピロカルピンと局所麻酔を行い、コンタクトレンズで隅角を観察しながらTDM前縁に照射する。術後3ヶ月以内のLGPは低眼圧や虹彩嵌頓のリスクがあるため推奨されない。LGP後の最も頻度が高い合併症は虹彩脱出・嵌頓(最大17.6%)である。

ゴニオパンクチャー後の濾過胞形態は結膜弛緩症の影響を受けることがある5)。結膜弛緩症を有する眼では、LGPによる急激な房水流出増加が弛緩結膜を低抵抗経路として利用し、下方への異常な濾過胞伸展を生じうる。この現象は自然退縮することが多いが、術前に結膜弛緩症の有無を確認し術後管理に反映させることが重要である5)

Q ゴニオパンクチャーとは何ですか?
A

ゴニオパンクチャーは、NPDS後にTDMの肥厚により眼圧が上昇した際に行うNd:YAGレーザー処置です。隅角鏡下にTDMに全層の孔を開けることで房水の結膜下腔への流出抵抗を減少させます。初期エネルギー2mJ程度で照射し、マイクロ濾過胞の出現をエンドポイントとします。術後3ヶ月以内の施行は低眼圧リスクが高いため推奨されません。最も多い合併症は虹彩嵌頓(最大17.6%)です。

Deep sclerectomy の強膜フラップ作成
Deep sclerectomy の強膜フラップ作成
Sci Rep. 2020 Jul 30;10:12801. Figure 1. PMCID: PMC7393495. License: CC BY.
結膜を開き、表層強膜フラップを作成している術中像である。Deep sclerectomy の基本手順を示す代表的な写真である。

NPDSと線維柱帯切除術を比較した複数のメタアナリシスが報告されている1)3)。長期的な眼圧下降効果は線維柱帯切除術が優る傾向にあるが、一部のRCTでは両術式の有効性が同等であったとする報告もある2)。術後の眼圧下降薬使用数はNPDSのほうが多い傾向にある1)

一方、NPDSは低眼圧関連合併症が有意に少なく、白内障進行率も低い傾向が示されている1)。術後管理の負担が軽減されることも臨床的利点である。

NPDSは一般的に良好な安全性プロファイルを有するが、特有の合併症が存在する1)4)

術中の最も一般的な合併症はシュレム管の同定不能TDM穿孔である。TDM穿孔は最大30%に報告されており、大きな穿孔は虹彩嵌頓を招き線維柱帯切除術への転換を要する7)

術後合併症として、低眼圧は早期に高頻度にみられるが浅前房や黄斑症を伴わなければ治療不要であることが多い。デスメ膜剥離は術後数週〜数ヶ月後に発生しうる。

稀な合併症として、先天緑内障に対するNPDS後2週間で160度の巨大網膜裂孔を生じた16歳男性の症例が報告されている4)。この患者は牛眼を有する近視眼であり、近視による硝子体の早期液化が網膜裂孔のリスク因子と考えられた4)。硝子体切除術とシリコンオイルタンポナーデで管理された。

DSAEK後の眼にNPDSを施行した症例では、TDM操作時の穿孔が内皮移植片の完全脱臼を招いたが、4週間後に自然再接着を認めた6)。大径の移植片は隅角構造を閉塞し、NPDSの成功を妨げる可能性がある6)

Q NPDSの合併症にはどのようなものがありますか?
A

術中合併症ではTDM穿孔(最大30%)とシュレム管の同定不能が最も多く、大きな穿孔は線維柱帯切除術への転換を要します。術後早期の低眼圧は高頻度ですが通常は自然改善します。稀な合併症として巨大網膜裂孔やデスメ膜剥離が報告されています。ゴニオパンクチャー後の虹彩嵌頓(最大17.6%)にも注意が必要です。線維柱帯切除術と比較すると、低眼圧黄斑症・脈絡膜剥離・濾過胞感染などの重篤な合併症は有意に少ないとされています。

XEN-DS(XEN補強深層強膜切除術)

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XENゲルステントとNPDSを組み合わせたXEN-DS(XEN-augmented deep sclerectomy)が新たな術式として報告されている7)。従来のNPDSより2mm後方に表層強膜弁を作成し、深層強膜切除の前壁からXENゲルステントを前房内に挿入する手法である7)

96歳の偽落屑緑内障患者に対してXEN-DSを施行した結果、術後眼圧は5〜8mmHgで6ヶ月間安定し、視野MD値は-9.6dBから-1.5dBに改善した7)。周術期・術後の合併症はなく、ニードリング等の追加介入も不要であった7)

XEN-DSは、NPDSの強膜内湖による強膜内流出と、XENステントの標準化された房水制御・良好な濾過胞形態という両者の長所を組み合わせた術式である7)。ゴニオパンクチャーが不要となる可能性もあり、フォローアップ通院が困難な患者にも適する。現在、長期的な有効性と安全性を検証する臨床研究が進行中である7)

結膜弛緩症と濾過胞形態への影響

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ゴニオパンクチャー後に結膜弛緩症を有する眼で下方への濾過胞伸展が生じた症例が報告されている5)。結膜弛緩症が術後の房水動態に影響を与える解剖学的因子として認識されつつあり、濾過胞形成手術の術前計画において結膜の状態を評価する重要性が示唆されている5)

  1. European Glaucoma Society. European Glaucoma Society Terminology and Guidelines for Glaucoma, 5th Edition. Br J Ophthalmol. 2025.
  2. American Academy of Ophthalmology. Primary Open-Angle Glaucoma Preferred Practice Pattern. 2025.
  3. 日本緑内障学会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126(2):85-177.
  4. Felemban MN, Alshehri M, Aljahdali FF, et al. Uncommon Complication Post-deep Sclerectomy: Giant Retinal Tear. Cureus. 2024;16(2):e53854.
  5. Alhazmi A, Alharthi F, Qedair J. Inferior extension filtering bleb formation after laser goniopuncture in a patient with conjunctivochalasis. Am J Ophthalmol Case Rep. 2026;41:102526.
  6. Salam A. Deep sclerectomy after DSAEK: A cautionary tale. BMJ Case Rep. 2021;14:e237541.
  7. Niegowski LJ, Gillmann K, Baumgartner JM. XEN-Augmented Deep Sclerectomy: Step-by-step Description of a Novel Surgical Technique for the Management of Open-angle Glaucoma. J Curr Glaucoma Pract. 2021;15(3):144-148.

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