利点
アクセス向上:遠隔地・医療過疎地の患者に対する眼科ケアを提供できる。
効率化:検査と医師の対話を分離する「デジタル統合診察」方式が開発された。
アドヒアランス支援:医師-患者関係の維持により薬物アドヒアランスの改善が期待される。
感染対策:ドライブスルー眼圧クリニックなど、接触を最小化する手法が試みられた。

COVID-19パンデミックは2020年以降、緑内障診療の提供体制に劇的な変化をもたらした。緊急でないと判断された外来受診の中止に加え、社会的距離の確保やCOVID-19感染への恐怖が重なり、新規診断数・定期フォローアップ受診数・線維柱帯切除術の実施数がいずれも減少した。
多くの眼科学会が選択的診療の回避を推奨し1)、対面診療に代わるものとして遠隔医療(テレメディシン)が急速に導入された。しかし、緑内障管理に不可欠な眼圧測定・視野検査・眼底評価は遠隔では実施困難であり、遠隔診療は数か月以内に多くの施設で中止された1)。
Liuら(2023)はニューヨーク市の緑内障専門医20名への半構造化インタビューを通じて、パンデミック下の遠隔医療の導入・課題・中止・将来展望を4つのテーマに整理した1)。
眼圧モニタリングは緑内障管理の基盤である。パンデミック中、ゴールドマン圧平眼圧計の使用は感染伝播リスクの観点から制限された。ディスポーザブルチップの使用が推奨されたが、一部施設では使用中止に至った。
在宅眼圧測定のための機器(リバウンド眼圧計 Icare HOMEなど)は承認されているが、デバイスコストと自己測定の信頼性の問題から普及は限定的である。テレメトリ眼圧センサー(Eyemate)はヨーロッパで承認された永久植込み型デバイスであり、将来の遠隔モニタリングの可能性を秘めている。
マスク着用に伴う視野検査のアーチファクトが新たな問題となった。
パンデミックは視野検査の遵守率にも影響を与えた。ただし、緑内障疑い(glaucoma suspects)とレーザー線維柱帯形成術既往のある患者では遵守率への影響は限定的であった。
マスク着用により下方視野欠損(マスク上縁による遮蔽)、固視不良の増加、眼鏡の曇りなどのアーチファクトが生じうる。これらは緑内障の進行による真の視野障害と誤認される可能性があり、マスク上縁をテープで固定するなどの対策が推奨されている。
遠隔緑内障診療はパンデミック中に急速に導入された。主な構成要素は病歴聴取、眼底写真、RNFL画像、眼圧測定、角膜厚測定、前房画像などである。
利点
アクセス向上:遠隔地・医療過疎地の患者に対する眼科ケアを提供できる。
効率化:検査と医師の対話を分離する「デジタル統合診察」方式が開発された。
アドヒアランス支援:医師-患者関係の維持により薬物アドヒアランスの改善が期待される。
感染対策:ドライブスルー眼圧クリニックなど、接触を最小化する手法が試みられた。
欠点
眼圧測定不能:遠隔では信頼性のある眼圧測定が行えない1)。
客観データの制約:視野検査・OCTなどの対面検査に代替できない1)。
デジタル格差:高齢者・低所得者層ではインターネットアクセスやデジタルリテラシーに障壁がある1)。
新規患者への不適合:すでに診断確定済みの患者のモニタリングには適するが、新規診断には不向きである。
インタビュー調査では、遠隔医療は主観的訴え(症状・副作用の確認)への対応には有用であったが、客観的データの収集が不可能であるため患者安全への懸念から多くの施設で中止された1)。
パンデミックが眼圧降下薬のアドヒアランスを悪化させたとのエビデンスがある。高齢者、複数の眼疾患を有する患者、教育水準の低い患者でレジリエンス(回復力)が低く、アドヒアランス低下が顕著であった。
線維柱帯切除術は術後の頻回受診と処置(縫合糸切断、ニードリングなど)が必要であるため、パンデミック中に実施数が大幅に減少した。
術後管理が比較的軽微な術式への移行が生じた。
手術時間の短縮と術後介入の最小化が、パンデミック後の手術選択に大きな影響を与えた。
遠隔診療は症状の確認や薬物アドヒアランスの支援には有用であるが、眼圧測定・視野検査・眼底評価など緑内障管理に不可欠な客観的検査を遠隔で実施することは現時点では困難である1)。既存患者のモニタリングには一定の役割があるが、対面診療の完全な代替とはならない。
在宅での眼圧測定(リバウンド眼圧計、テレメトリ眼圧センサー)や在宅視野検査デバイスの開発が進められている。理論的には、在宅で眼圧・視野・OCTの全てが測定可能になれば、対面受診の必要性を大幅に減らせる可能性がある1)。
Liuら(2023)の調査では、多くの緑内障専門医が遠隔医療の将来的な実装に楽観的であり、技術の進歩に伴い遠隔医療は緑内障ケア提供の最前線になりうるとの見方を示した1)。
パンデミックは以下の教訓を残した1)。
パンデミックはアフリカ系アメリカ人やヒスパニック系コミュニティなど、緑内障による失明リスクが高い集団に不均衡な影響を及ぼした1)。デジタル格差がこれらの集団の遠隔診療へのアクセスをさらに制限する可能性がある。
多くの施設ではパンデミック初期に導入された遠隔診療を患者安全の懸念から数か月以内に中止した1)。しかし、在宅モニタリング技術の発展とともに遠隔診療の再導入が期待されており、将来的なパンデミックへの備えとしても位置付けられている。