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緑内障

先天性ぶどう膜外反(Congenital Ectropion Uveae)

先天性ぶどう膜外反(Congenital Ectropion Uveae: CEU)は、出生時から存在するぶどう膜外反と、線維柱帯およびシュレム管の発育不全に起因する続発性緑内障を特徴とする稀な疾患である。別名として先天性虹彩外反症候群、原発性虹彩色素上皮増殖症がある。

EGS ガイドラインでは、CEU(ectropion uveae)は先天眼形成異常に関連した小児緑内障の一型として分類されている1)。Axenfeld-Rieger 異常、Peters 異常、無虹彩症、持続性胎生血管などとともに、非後天性眼疾患に伴う緑内障に含まれる1)

「先天性外反」という用語は1869年に Colsman によって初めて導入されたが、後に彼の記述は虹彩小隆起であったことが判明した。CEU を正確に記述した最初の報告は1891年の Wicherkiewicz と1896年の Spiro による。

Q 先天性ぶどう膜外反と後天性ぶどう膜外反はどう違いますか?
A

先天性は出生時から存在し、前房内の原始内皮の退縮不全が原因で非進行性です。後天性は増殖糖尿病網膜症や中心静脈閉塞症に伴う線維血管膜の牽引で起こり、基礎疾患が治療されない限り進行します。先天性は片側性で小児に見られ、後天性は成人に多いのが特徴です。

先天性ぶどう膜外反の細隙灯写真
先天性ぶどう膜外反の細隙灯写真
J Ophthalmic Vis Res. 2019 Jul 18;14(3):370-375. Figure 2. PMCID: PMC6815341. License: CC BY.
左眼のぶどう膜外反を示す細隙灯写真である。瞳孔縁で虹彩後色素上皮が前方へ反転し、対側正常眼との差が分かる。

CEU に伴う緑内障の発症は遅い傾向があり、先天緑内障に典型的な三徴(流涙・羞明眼瞼痙攣)は認められないことが多い。乳児期に瞳孔不同として気づかれることがある。

緑内障が進行すると以下の晩期症状が出現する。

  • 頭痛
  • 視界のかすみ
  • 眼痛

CEU は通常片側性に発症する(両側性の報告もある)。

  • 虹彩所見:ガラス状で平滑な陰窩のない虹彩表面、虹彩実質萎縮、虹彩前面への色素上皮の増殖
  • 瞳孔:通常は円形で対光反射あり。異常な色素上皮のため外見上は不規則に見えることがある
  • 隅角鏡検査:虹彩の高位付着(シュワルベ線近くまで及ぶことあり)。周辺虹彩前癒着(PAS)やそれを超える病変はない
  • 眼瞼:患眼に軽度の眼瞼下垂を認めることがある(挙筋機能は正常。ミュラー筋が神経堤由来であることに関連)
  • 緑内障視神経乳頭陥凹拡大、健眼との顕著な左右差。多くの場合、患眼の眼圧著明上昇を伴う

緑内障の診断年齢は報告により生後7ヶ月〜42歳と幅広い。学童期後半〜思春期に診断されることが多い。

CEU の原因は、前房を覆う原始内皮の退縮不全である。この退縮不全は、子宮内における神経堤組織の発育停止に起因すると考えられている。退縮不全により虹彩色素上皮の反応性増殖が誘発され、虹彩の高位付着と隅角発育不全が引き起こされる。

発育停止のトリガーは特定されていない。一部の著者は、神経堤細胞の移動欠陥を招く原発性の血管障害を仮説として提唱している。

CEU には特定の遺伝形式はなく、多くの場合全身疾患とは関連しない。ただし以下の疾患との関連が報告されている。

  • 神経線維腫症1型(NF-1):最も重要な関連疾患。NF-1 患者では虹彩の内皮化が牽引力を生じ、ぶどう膜外反を引き起こす。ぶどう膜外反の存在は緑内障発症リスクと密接に関連する
  • 顔面血液肥大
  • プラダー・ウィリー症候群

NF-1 患者56名のコホートでは、緑内障患者13名中8名にぶどう膜外反が認められた。緑内障のない43名では4名のみにぶどう膜外反があり、その全員に部分的な隅角閉塞が見られた。

新生児発症の CEU では CYP1B1 遺伝子の複数の変異が報告されている3)。CYP1B1 は原発先天緑内障(PCG)の原因遺伝子として知られ、先天性の前房発育不全を伴う緑内障と関連する3)

CEU は主に臨床診断であり、以下の3要素に基づく。

  1. 出生時から存在するぶどう膜外反
  2. 隅角発育不全(隅角鏡検査で虹彩の高位付着を確認)
  3. ぶどう膜外反の他の原因となる基礎疾患がないこと
  • 細隙灯顕微鏡検査:虹彩表面の平滑化、実質萎縮、色素上皮増殖を確認
  • 隅角鏡検査:虹彩の高位付着の範囲と程度を評価
  • 眼圧測定:乳児ではパーキンス手持眼圧計・トノペン・アイケアリバウンド眼圧計を使用。協力が得られる年長者ではゴールドマン圧平眼圧計
  • 視神経乳頭検査OCT:陥凹拡大、リム菲薄化、RNFL 菲薄化の評価
  • ハンフリー視野検査:特徴的な緑内障性視野欠損の評価

小児緑内障の診断基準として、眼圧21 mmHg超、C/D比増大の進行、角膜径拡大、眼軸長伸長、緑内障性視神経症に一致する視野欠損のうち2項目以上を満たす場合に診断される2)。乳幼児では全身麻酔下での検査が必要となることがある1)2)

鑑別疾患CEU との違い
ICE 症候群中年女性に多い。周辺虹彩前癒着 あり
ARS両側性。常染色体優性遺伝
原発先天緑内障両側性。流涙・羞明・眼瞼痙攣
Q CEUとICE症候群はどう見分けますか?
A

両者とも片側性で瞳孔異常を呈しますが、ICE 症候群は中年女性に多く発症し、シュワルベ線を超える高い周辺虹彩前癒着(PAS)を特徴とします。CEU は出生時から存在し、周辺虹彩前癒着 は認められません。また ICE は進行性ですが、CEU のぶどう膜外反自体は非進行性です。

CEU 自体に対する治療法はない。治療は合併する二次性緑内障の管理に焦点を当てる1)

手術までの橋渡しとして、または術後の眼圧コントロールに使用される。

  • β遮断薬:小児にも使用可能。新生児では無呼吸のリスクに注意
  • 炭酸脱水酵素阻害薬(CAI):局所・全身投与ともに使用。アセタゾラミド内服(5〜10 mg/kg、6〜8時間ごと)も可能
  • プロスタグランジン関連薬:小児にも使用される
  • α2作動薬(ブリモニジン):2歳未満には禁忌(呼吸抑制・中枢神経抑制のリスク)。8歳未満では回避が望ましい

CEU の緑内障治療は主に外科的介入が必要である1)

第一選択

線維柱帯切除術代謝拮抗薬(マイトマイシンC)併用または非併用。CEU では隅角発育不全が重度であるため、隅角切開術の成功率は原発先天緑内障より大幅に低い1)

線維柱帯切開術:角膜混濁の有無にかかわらず施行可能。角膜径増大例では強膜が薄く穿孔に注意

難治例

緑内障ドレナージデバイス(GDD):線維柱帯手術を複数回施行しても眼圧コントロール不良な場合に適応1)

毛様体破壊術:他の外科的選択肢が尽きた場合の最終手段

原発先天緑内障に対する隅角切開術の成功率は生後1ヶ月〜2歳で94%と高いが、CEU ではこの数値は期待できない1)

Q CEUの緑内障は隅角切開術で治療できますか?
A

CEU では隅角の発育不全が重度であるため、隅角切開術(ゴニオトミー)の成功率は原発先天緑内障(PCG)よりも大幅に低くなります。多くの場合、代謝拮抗薬を併用した線維柱帯切除術が第一選択となります。難治例では緑内障ドレナージデバイスの植え込みが必要になることもあります。

6. 病態生理学・詳細な発症機序

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CEU の発症機序は、虹彩色素上皮の反応性増殖を中心とする。この増殖は前房を覆う原始内皮の退縮不全によって誘発される。

退縮不全のメカニズムとして、子宮内における神経堤組織の発育停止が提唱されている。神経堤細胞は前房の角膜内皮、線維柱帯、虹彩実質を形成する前駆細胞であり、その移動の停止が前房全体の発育不全をもたらす。

「神経堤細胞の移動欠陥を招く原発性の血管障害が CEU の発症に関与している可能性がある」

病理組織学的検査では、虹彩前部実質に線維血管膜が認められた CEU 症例が報告されており、血管障害と神経堤移動欠陥の因果関係を支持する所見である(Harasymowycz ら)。

NF-1 に伴う CEU では異なる機序が想定される。虹彩の内皮化が牽引力を生じさせ、虹彩色素上皮が虹彩前面へ引き出される。この変化は虹彩角膜癒着とともに緑内障を引き起こす。

CEU における緑内障は、虹彩の高位付着と線維柱帯・シュレム管の発育不全による房水流出抵抗の上昇が本態である1)。小児緑内障全般において、房水流出低下が眼圧の著明な上昇を引き起こす1)2)

CEU の視機能障害は緑内障の重症度と密接に関連する。視力予後は早期診断と眼圧上昇の早期治療に大きく依存するが、ぶどう膜外反の重症度と緑内障の重症度の間に明確な相関は見出されていない。新生児発症型では両側性重症緑内障を特徴とし、治療抵抗性を示すことがある。

  1. European Glaucoma Society. European Glaucoma Society Terminology and Guidelines for Glaucoma, 5th Edition. Br J Ophthalmol. 2025.
  2. 日本緑内障学会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). 日眼会誌. 2022;126(2):85-177.
  3. Knight LSJ, Ruddle JB, Taranath DA, et al. Childhood and Early Onset Glaucoma Classification and Genetics. Ophthalmology. 2021;128(10):1546-1559.

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