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緑内障

カナロプラスティ(シュレム管形成術)

カナロプラスティ(canaloplasty)は、柔軟なマイクロカテーテルを用いてシュレム管(Schlemm’s canal; SC)を360°拡張し、生理的房水流出路を介した排出を促進する非穿孔性緑内障手術である1)

線維柱帯切除術が前房から結膜下腔への新たな流出路(瘻孔)を作成するのに対し、カナロプラスティは線維柱帯→シュレム管→集合管→房水静脈という生理的流出路を回復させる1)8)。房水が強膜上静脈圧を下回る排出にはならないため、低眼圧とその関連合併症が生じにくい。

カナロプラスティはビスコカナロストミー(viscocanalostomy)を改良した術式である。ビスコカナロストミーでは金属カニューレを用いてシュレム管の限られた範囲のみ拡張していたが、カナロプラスティでは柔軟なマイクロカテーテルにより管全長の拡張が可能となった8)

EGSガイドラインでは、カナロプラスティは深層強膜切除術・ビスコカナロストミーとともに非穿孔性緑内障手術に分類されている10)。AAO PPPでは、シュレム管の円周方向粘弾性拡張と管内テンション縫合糸の留置を特徴とする術式として記載されている9)

Q カナロプラスティと線維柱帯切除術の根本的な違いは何ですか?
A

線維柱帯切除術は結膜下腔への瘻孔を作成し房水をバイパスさせる術式である。カナロプラスティはシュレム管を拡張して生理的流出路を回復させるため、濾過胞を形成しない1)。このため低眼圧・濾過胞関連合併症は大幅に少ないが、到達可能な眼圧は一般に線維柱帯切除術よりも高い。

カナロプラスティの対象は開放隅角緑内障(OAG)の患者であり、以下の症状・状態を呈する。

  • 視野欠損:緑内障性の進行性視野障害
  • 眼痛・頭痛:高眼圧に伴う場合がある
  • 点眼薬への不耐容:副作用やアドヒアランス不良

手術適応を判断するために評価すべき所見を示す。

  • 眼圧:薬物療法で目標眼圧に到達しない、または点眼に不耐容な場合が手術適応
  • 隅角所見:隅角鏡でSchafferグレード3〜4の開放隅角であることが必須。閉塞隅角は絶対的禁忌
  • 視神経乳頭:陥凹拡大・RNFL菲薄化の程度により手術時期を判断
  • 視野検査:進行性の視野障害が確認されている場合に手術を検討

カナロプラスティの適応と禁忌を以下に示す。

  • 開放隅角緑内障(原発開放隅角緑内障〔POAG〕、落屑緑内障色素緑内障ステロイド緑内障を含む)1)8)
  • 薬物療法・レーザー治療で目標眼圧に到達しない場合
  • 透明水晶体を有する若年患者(白内障進行リスクが低い)
  • 強度近視(線維柱帯切除術で低眼圧リスクが高い場合)
  • 無水晶体眼(硝子体が瘻孔を閉塞するリスクがある場合)
  • 線維柱帯切除術後の不成功例2)
  • 絶対的禁忌閉塞隅角緑内障1)
  • 相対的禁忌:先天緑内障、隅角後退(angle recession)、血管新生緑内障、強膜上静脈圧上昇1)

Ab externo法では結膜切開・強膜弁作成の後、シュレム管を露出してマイクロカテーテル(iTrack, Nova Eye Medical)を360°挿入する1)8)

主な手順は以下の通りである。

  1. 輪部基部の結膜切開を行う
  2. 5×5 mmの表層強膜弁を作成する
  3. 4×4 mmの深層強膜弁を作成し、線維柱帯・デスメ膜窓を露出する
  4. シュレム管を同定し、光ファイバー付きマイクロカテーテルを360°挿入する
  5. カテーテル引き抜き時に粘弾性物質(OVD)を注入してシュレム管を拡張する
  6. 10-0ポリプロピレン(プロレン)縫合糸を管内に留置し、線維柱帯に張力をかける
  7. 強膜弁を水密に閉鎖する(濾過胞形成を回避する場合)

管内テンション縫合糸はシュレム管の開存維持と線維柱帯への張力付与の二重の効果を持つ9)

Ab interno canaloplasty(ABiC)は結膜・強膜の切開を必要としない低侵襲手法である1)10)

  • 透明角膜切開から隅角鏡下にアプローチする
  • 限定的な隅角切開からマイクロカテーテルを挿入し、引き戻しながらOVDを注入する
  • テンション縫合糸は使用しない
  • MIGS(低侵襲緑内障手術)に分類される5)

OMNIサージカルシステムはカナロプラスティ(シュレム管粘弾性拡張)と線維柱帯切開術を一つのデバイスで行える手法である1)4)。360°カテーテル挿入+粘弾性拡張に加え、180°の線維柱帯切開を同時に施行する。

STREAMLINEサージカルシステム(2021年FDA承認)は、線維柱帯を穿刺して直接シュレム管にOVDを注入するab interno法である3)6)。3〜8回の注入(1回約7 µL)でシュレム管を分節的に拡張する。

Q Ab externo法とab interno法のどちらが良いですか?
A

Ab externo法は管内テンション縫合糸を留置でき、長期のシュレム管開存維持が期待できるが、結膜・強膜の切開が必要である。Ab interno法(ABiC)は結膜を温存しMIGSに分類される低侵襲手法だが、テンション縫合糸は使用しない1)5)。3つの改良法を比較した研究では、眼圧低下効果に有意差はなかったと報告されている5)

CanaloplastyにおけるSchlemm管カニュレーション
CanaloplastyにおけるSchlemm管カニュレーション
ScientificWorldJournal. 2014;2014:469609. Figure 4. PMCID: PMC3915493. License: CC BY.
強膜越しにマイクロカテーテル先端を確認しながらSchlemm管をカニュレーションしている術中像である。Canaloplasty の要点となる操作を端的に示している。

カナロプラスティの眼圧下降率は術式・ベースライン眼圧により異なるが、概ね30〜42%である1)8)

主要な研究成績をまとめる。

研究・術式眼圧低下率最終IOP
Ab externo単独(3年)34%15.1 mmHg
Ab externo+白内障(3年)43%13.8 mmHg

Bullら(2011)は109例の多施設共同試験で、ab externo単独のカナロプラスティで眼圧が23.0→15.1 mmHg(-34.3%)、白内障同時手術では24.3→13.8 mmHg(-43.2%)に低下したと報告した5)7)

GEMINI試験(Gallardoら 2022)では、OMNIシステム+白内障手術120眼で12か月後の無投薬眼圧が23.8→15.6 mmHg(-34%)に低下し、80%が無投薬となった4)

Lazcano-Gomezら(2024)はSTREAMLINE+白内障手術40眼で、12か月後に23.0→15.3 mmHg(-33.5%)の低下を報告し、70%が無投薬であった6)

TVC試験(Matlachら 2015, RCT, 62眼)では、カナロプラスティの2年後眼圧は14.4 mmHg、線維柱帯切除術は10.8 mmHgであった2)5)。しかし線維柱帯切除術群では一過性低眼圧37.5%、90日以上の低眼圧18.8%、脈絡膜剥離12.5%と高い合併症率が認められた。カナロプラスティの長期低眼圧率は1%未満であった2)

iStent inject Wとの比較(VENICE試験)

Section titled “iStent inject Wとの比較(VENICE試験)”

Goldbergら(2024, VENICE試験)は初のRCTとして、STREAMLINE(35眼)とiStent inject W(37眼)+白内障手術を比較した3)。6か月後の眼圧はSTREAMLINE 16.5 mmHg vs iStent inject W 16.1 mmHgで有意差なし(P=0.596)。無投薬率はそれぞれ81.8%と78.4%であった3)

改良法:脈絡膜上腔ドレナージ(ScD)

Section titled “改良法:脈絡膜上腔ドレナージ(ScD)”

Szurman(2023)は417眼の比較研究で、カナロプラスティ+脈絡膜上腔ドレナージ(ScD)がIOP 35.9%低下(20.9→13.1 mmHg)を達成し、従来法の31.2%(20.8→14.0 mmHg)を上回ったと報告した2)。白内障同時手術+ScDでは47.4%のIOP低下(23.2→12.2 mmHg)に達し、初めて線維柱帯切除術の成功例に匹敵する結果が得られた2)

主な合併症は以下の通りである1)5)7)

  • マイクロハイフィーマ(微小前房出血):最も頻度が高い(1.6〜12.8%)。多くは1か月以内に自然消退
  • デスメ膜剥離:1.6〜6.1%。粘弾性物質の過剰注入が原因
  • 一過性眼圧上昇(>30 mmHg):1.6〜8.7%
  • 低眼圧:1%未満。線維柱帯切除術(18.8%)と比較して極めてまれ2)
Q カナロプラスティは重度緑内障にも有効ですか?
A

従来は軽度〜中等度緑内障が主な適応とされていたが、近年の報告では重度緑内障でも軽度〜中等度と同等の眼圧低下率(約33%)が得られるとされている1)。また、脈絡膜上腔ドレナージ(ScD)などの改良法により、さらなる眼圧低下が期待できる2)

6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

房水の主経路(conventional outflow pathway)は線維柱帯→シュレム管→集合管→房水静脈→上強膜静脈→体循環である。主経路は全房水流出の83〜96%を担う5)

流出抵抗の主座はシュレム管内壁の傍管組織(juxtacanalicular tissue; JCT)と内皮細胞層にある5)。緑内障では眼圧上昇によりシュレム管が虚脱し、管壁と線維柱帯に慢性的な構造変化が生じて抵抗がさらに増大するという悪循環が形成される1)

カナロプラスティは以下の機序で流出抵抗を減少させる1)8)

  • シュレム管の粘弾性拡張:虚脱した管腔を物理的に拡張し、より多くの集合管開口部を再開通させる
  • テンション縫合糸による張力(ab externo法):管内壁と線維柱帯に持続的な内向きの張力をかけ、管腔の開存を維持する。線維柱帯の房水透過性も向上する
  • マイクロラプチャー:OVD注入時の圧力によりシュレム管内壁と隣接する線維柱帯に微小な破裂が生じ、前房と管腔の間の直接的な連通が作成される

房水はシュレム管を介して排出されるため、強膜上静脈圧(通常8〜10 mmHg)以下の眼圧にはならない。このため濾過手術で問題となる低眼圧(<5 mmHg)やそれに伴う脈絡膜剥離・浅前房・黄斑症が生じにくい1)2)

脈絡膜上腔ドレナージ+コラーゲンインプラント

Section titled “脈絡膜上腔ドレナージ+コラーゲンインプラント”

Szurman(2023)はカナロプラスティ+ScD+Ologenコラーゲンインプラントの成績を報告した2)。1034眼の後ろ向き研究で、12か月時の眼圧低下率45.8%(12.7 mmHg)が4年時にも45.1%で安定していた。

カナロプラスティ+ScDと同時に脈絡膜上腔にテレメトリ眼圧センサー(Eyemate-SC)を植込む手法が開発されている2)。12か月試験でGATとの平均差0.23 mmHgと高い一致性が示された。

VENICE試験(STREAMLINE vs iStent inject W)は6か月の中間解析段階であり3)、今後の長期追跡データが両術式の比較に重要な情報を提供する。

マイトマイシンC併用カナロプラスティ

Section titled “マイトマイシンC併用カナロプラスティ”

「濾過型」カナロプラスティとしてマイトマイシンCを併用する手法では、12か月時に42.7%の眼圧低下と投薬ゼロが報告されたが、低眼圧率が15%と従来法(1.1%)より有意に高い2)。メタ解析ではマイトマイシンC群のIOP低下率が改善する一方、合併症率に有意差はなかった。


  1. Wagner IV, Gessesse BA, Garg SJ, et al. A Review of Canaloplasty in the Treatment and Management of Glaucoma. J Curr Glaucoma Pract. 2024;18(2):59-73.
  2. Szurman P. Advances in Canaloplasty — Modified Techniques Yield Strong Pressure Reduction with Low Risk Profile. J Clin Med. 2023;12(9):3287.
  3. Goldberg JL, Gallardo MJ, Heersink M, et al. A Randomized Controlled Trial Comparing STREAMLINE Canaloplasty to Trabecular Micro-Bypass Stent Implantation (VENICE Trial). Clin Ophthalmol. 2024;18:3015-3027.
  4. Gallardo MJ, Supnet RA, Ahmed IIK, et al. Canaloplasty and Trabeculotomy Combined with Phacoemulsification for Glaucoma: 12-Month Results of the GEMINI Study. Clin Ophthalmol. 2022;16:1225-1234.
  5. Cwiklinska-Haszcz A, Bak E, Wierzbowska J. Revolution in Glaucoma Treatment: A Review Elucidating Canaloplasty and Gonioscopy-Assisted Transluminal Trabeculotomy. Front Med. 2025;12:1547345.
  6. Lazcano-Gomez G, Muñoz-Villegas P, Ruiz-Lozano RE, et al. Safety and Efficacy of STREAMLINE Canaloplasty with Phacoemulsification in Hispanic Adults with Open-Angle Glaucoma. Clin Ophthalmol. 2024;18:3619-3630.
  7. Golaszewska K, Skrzypczak-Jankun E, Jankun J. Evaluation of the Efficacy and Safety of Canaloplasty and iStent Bypass Implantation in Patients with Open-Angle Glaucoma: A Review. J Clin Med. 2021;10(22):5309.
  8. Beres A, Scharioth GB. Canaloplasty in the Spotlight: Surgical Alternatives and Future Perspectives. Rom J Ophthalmol. 2022;66(3):185-195.
  9. American Academy of Ophthalmology. Primary Open-Angle Glaucoma Preferred Practice Pattern. Ophthalmology. 2021;128(1):P51-P110.
  10. European Glaucoma Society. Terminology and Guidelines for Glaucoma, 5th Edition. Br J Ophthalmol. 2025.

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