Trabectome
方式:高周波電極によるTM焼灼・除去(最大180度)
特徴:灌流・吸引を内蔵。フットプレートで隣接組織を保護。外壁への熱伝導は約1.2℃と最小限。
手技:1.6 mm角膜切開。強膜突起レベルで0.8 mWから開始。粘弾性物質は不使用。

アブ・インテルノ線維柱帯切除術・線維柱帯切開術(ab interno trabeculectomy and trabeculotomy: AIT)は、前房内から線維柱帯(TM)を直接切除または切開し、シュレム管(SC)への房水流出を増加させることで眼圧を下降させる手術群の総称である。
低侵襲緑内障手術(MIGS)とは、ab interno(眼内から)アプローチで正常解剖の破壊を最小限に抑え、良好な安全性プロファイル、迅速な回復、少ない術後管理を目指す非濾過胞形成手技と定義される1)。AITはMIGSの中で線維柱帯/シュレム管を標的とするカテゴリに属する2)。
MIGSの眼圧下降効果は濾過胞形成手術より低く、術後眼圧はmid-teens(15 mmHg前後)にとどまることが多い1)2)。しかし安全性の高さから、軽度〜中等度の緑内障に適したアプローチとされる1)。
AITには以下のデバイス・手技が含まれる2)。
ab internoアプローチは前房内から角膜切開を介して操作を行う。結膜剥離を必要とせず、将来の濾過手術のオプションを温存できる。一方、ab externo(眼外から)アプローチは結膜切開・強膜弁作製を要する従来の線維柱帯切開術であり、小児緑内障で広く用いられてきた。
MIGSは前房内からアプローチするため結膜を温存でき、術後回復が早い。濾過胞を形成しないため、濾過胞関連の合併症(感染・漏出など)がない。ただし眼圧下降効果は濾過手術より控えめである1)。軽度〜中等度の緑内障が適応となる。
Trabectome
方式:高周波電極によるTM焼灼・除去(最大180度)
特徴:灌流・吸引を内蔵。フットプレートで隣接組織を保護。外壁への熱伝導は約1.2℃と最小限。
手技:1.6 mm角膜切開。強膜突起レベルで0.8 mWから開始。粘弾性物質は不使用。
KDB
方式:二連刃によるTM帯状切除
特徴:切除型のためフラップ残存なし。鋭利先端→ヒール→ランプ→二連刃の4構造。
手技:1.5 mm角膜切開。粘弾性で隅角を深め、鼻側TMに刺入し3〜5時間分前進。
GATT
方式:カテーテルまたは縫合糸による360度TM切開
特徴:Prolene縫合糸で低コスト実施可能。2014年Fellman・Groverが報告。
手技:隅角切開→SC内に挿入→全周通過後に求心的牽引でTM切開。術後眼圧30 mmHg以上に維持。
OMNI
方式:SC粘弾性拡張+180-360度線維柱帯切開
特徴:拡張と切開の2機能を1デバイスで実施可能。
手技:可撓性マイクロカテーテルを180度ずつ挿入。粘弾性注入後にカテーテル牽引でTM切開。
谷戸マイクロフック(TMH)は再利用可能な器具で、直型・右角型・左角型がある3)。鋭利な屈曲先端でTMを切開する手技であり、主に日本で普及している。鼻側TMに対し約120度の切開を行う。
日本では線維柱帯切開術は従来ab externoで行われてきた。強膜弁を作製し、シュレム管を同定して金属プローブ(トラベクロトーム)を挿入・回転させる手技である。濾過手術と比較して術中術後の合併症が少ない。落屑緑内障やステロイド緑内障では原発開放隅角緑内障よりも眼圧下降効果が高い。
術式の選択は緑内障の病型・重症度、白内障手術の同時施行の有無、術者の経験などにより異なる。メタ解析ではAIT全般がiStentやendoCPGより眼圧下降・薬剤減少に優れるとされる4)が、併用手術か単独かによっても成績が異なる。主治医と相談のうえ最適な術式を選択することが重要である。

主要なメタ解析・比較研究の結果を以下に示す。
| 術式 | 眼圧下降効果 | 成功率 |
|---|---|---|
| Trabectome単独 | — | 46%(2年)3) |
| Trabectome+CE-眼内レンズ | — | 85%(2年)3) |
| KDB+CE-眼内レンズ | low teens到達 | 93.7%(1年)3) |
| GATT | −9.81 mmHg | — |
GATTのメタ解析(537眼)では、眼圧が平均9.81 mmHg低下し、薬剤数が平均1.67剤減少した3)。KDB+CE-眼内レンズ群はiStent+CE-眼内レンズ群と比較し、1年時の手術成功率が有意に高かった(93.7% vs 83.3%、P = 0.04)3)。
Paikら(2025)のサブグループ解析では、AITはendoCPGおよびiStentと比較して眼圧下降・薬剤減少の両面で有意に優れていた4)。
白内障手術との併用はMIGS単独と比較して追加2〜2.8 mmHgの眼圧低下が得られ、再手術率も低い(2年時3% vs 24%)5)。
前房出血(hyphema):最も頻度が高い。シュレム管からの血液逆流による。
眼圧スパイク(IOP spike):Trabectome 6%、KDB 17%、GATT 1.9〜32.3%3)
毛様体脈絡膜剥離・毛様体解離(cyclodialysis cleft):
Otsukaら(2024)はマイクロフックトラベクロトミー後に毛様体脈絡膜剥離と遷延性低眼圧(1〜4 mmHg、2か月以上持続)を呈した2例を報告した6)。硝子体手術+ガスタンポナーデにより解消された。
Huangら(2022)はマイクロフック後の毛様体解離が5か月後に自然閉鎖した症例を報告した9)。閉鎖時に急性の眼圧上昇(42 mmHg)を認めたが、その後正常化した。前房OCT(AS-OCT)が隅角鏡より毛様体解離の検出に優れていた。
その他:Descemet膜剥離(0.5〜3.8%)、虹彩離断(0.5%)、硝子体出血(2.9%)3)。周辺虹彩前癒着(PAS)はTrabectome後に14%で報告されている3)。
AITは白内障手術(水晶体再建術)との同時施行が広く行われており、併用により単独MIGSよりも良好な眼圧下降が得られる5)。一部のデバイス(iStentなど)はFDA上白内障同時施行が必須であるが、Trabectome・KDB・GATT・OMNIは単独でも施行可能である2)。
房水は毛様体で産生され、後房から瞳孔を通り前房に流入する。前房から眼外への主経路は経線維柱帯流出路(conventional pathway)であり、以下の構造を通過する。
房水流出抵抗の大部分は傍管内皮組織(juxtacanalicular tissue)とSC内壁に存在する。開放隅角緑内障ではこの部位の抵抗が病的に増大している。
AITはTMとSC内壁を物理的に除去または切開することで、前房からSC外壁・集合管への直接的な連通を形成する1)2)。これにより近位の流出抵抗が解消され、房水は集合管を介して上強膜静脈へ流出する。
しかし、遠位流出路(集合管以遠)の抵抗と上強膜静脈圧がAITの眼圧下降効果の限界因子となる2)。このため、術後眼圧はmid-teens以下に下がりにくい。
120〜180度を超えると用量反応閾値に達するとされる。房水流出は全周で均一ではなく、特に鼻側・下方セグメントの流出路活性が高い。このため180度の処置(ヘミGATT)で十分な効果が得られる場合があり、残りの180度を将来の再介入用に温存できるという利点もある。
Chiharaら(2024)はKDBによる線維柱帯切除と深層強膜切除術の併用2例を報告し、術後眼圧が上強膜静脈圧以下に低下したことで大量の前房出血とフィブリン塊を生じ、周辺虹彩前癒着や集合管閉塞に至ったと報告した8)。KDB単独の眼圧下降率が約28.4%であるのに対し、併用群では有意な上乗せ効果は得られなかった。眼圧を大幅に下降させる手技同士の併用には注意が必要である。
Yoshidaら(2024)はFreeman-Sheldon症候群に合併した若年性開放隅角緑内障に対しKDBを施行し、眼圧が40 mmHgから10 mmHgに低下、27か月にわたり15 mmHg未満で安定したと報告した7)。MIGSの特殊な病型への適応拡大が検討されている。
マイクロフック後の毛様体脈絡膜剥離に対し、硝子体手術+ガスタンポナーデが有効であることが報告されている6)。またAS-OCTによる毛様体解離の早期検出が診断精度の向上に寄与している9)。
180度処置(ヘミGATT)と360度処置の比較では、180度でも十分な眼圧下降が得られ、残りの180度を将来の再介入に温存できるという報告が蓄積されつつある。下方のヘミGATTが上方より眼圧下降効果が高い傾向にあるが、統計的有意差は確認されていない。
近年の研究では、120〜180度の処置で眼圧下降の用量反応閾値に達するとされ、360度が必ずしも必要でない可能性がある。180度処置は残りの部分を将来の再介入に温存できる利点がある。下方セグメントの方が流出路活性が高いため、下方のヘミGATTが好まれる傾向にある。