眼科検査
細隙灯顕微鏡検査:両眼性の角膜深部への血管侵入を伴う角膜炎を認めた場合、梅毒性角膜実質炎を考慮する。ゴースト血管やglass ridgeの有無を確認する。
間接照明法:角膜深層の新生血管の観察に有用である。スクレラルスキャター法で瘢痕性混濁の範囲が明瞭に観察できる。

梅毒性角膜炎(syphilitic interstitial keratitis)は、Treponema pallidum感染症による非潰瘍性の角膜実質炎であり、臨床的に認められる角膜実質炎の約90%を占めるとされる。先天梅毒と後天梅毒のいずれでも発症するが、先天梅毒に伴う発症が圧倒的に多い。
世界全体では年間570〜600万例の梅毒新規感染が報告されている1)。わが国でも2011年以降の増加が著しく、2011年に報告数が1,000件未満であったものが2017年には6,000件を超えた。ペニシリンの開発以降、梅毒性角膜炎の発生率は劇的に減少したが、根絶されたわけではない。
| 項目 | 先天梅毒 | 後天梅毒 |
|---|---|---|
| 発症年齢 | 5〜15歳(遅発性) | 40歳以降は稀1) |
| 両眼性 | 最大80% | 片眼性が60% |
| 血管新生 | 高度 | 軽度・限局性 |
先天梅毒は経胎盤感染により生じ、発症時期によって胎児梅毒、早発性先天梅毒(2歳まで)、遅発性先天梅毒(2歳以降〜思春期)に分類される。遅発性先天梅毒の所見はHutchinson三徴(Hutchinson歯、角膜実質炎、内耳性難聴)として知られる。通常両眼性で女性に多い。
後天梅毒では第2期以降の全身症状に伴って眼症状が生じる。米国では2014〜2015年のサーベイランスで梅毒患者の0.6%に眼症状が認められた。後天梅毒における角膜実質炎は先天梅毒と同様の病態を示すが、片眼性を好み角膜血管新生も少ない傾向がある。
遅発性先天梅毒に特徴的な3つの所見の組み合わせであり、Hutchinson歯(上顎切歯の咬合面の切痕)、角膜実質炎、内耳性難聴からなる1)。角膜実質炎は学齢期から思春期にかけて発症し、通常両眼性である。わが国では周産期医療の充実により遅発性先天梅毒の新鮮例は極めてまれとなっている。

炎症が強いと角膜の基本的構築が崩れ、内皮障害やデスメ膜の消失をきたす。
原因微生物はTreponema pallidum(梅毒トレポネーマ)である。ただし本症はT. pallidum自体の直接感染ではなく、トレポネーマ抗原に対する免疫反応により生じると考えられている。角膜病変が全身ペニシリン投与に抵抗性を示す一方、ステロイドに反応することがこの仮説を裏付ける1)。
眼科検査
細隙灯顕微鏡検査:両眼性の角膜深部への血管侵入を伴う角膜炎を認めた場合、梅毒性角膜実質炎を考慮する。ゴースト血管やglass ridgeの有無を確認する。
間接照明法:角膜深層の新生血管の観察に有用である。スクレラルスキャター法で瘢痕性混濁の範囲が明瞭に観察できる。
血清学的検査
STS法(RPR法):脂質抗原をプローブとして抗体を測定する。感度が高く早期に陽性となるが、生物学的偽陽性も多い。RPR 16倍以上で活動性が高いと判定する。
TP抗原法(TPHA法):梅毒病原体抗原を用い特異性に優れる。確定診断に必須であるが、治療後も陽性が続くため治療判定には適さない。TPHA 1,280倍以上で活動性が高い。
潜伏梅毒や梅毒性角膜炎では非トレポネーマ抗体価が低下していることがあるため、トレポネーマ検査から開始すべきとの提案がある1)。
角膜実質炎をきたす鑑別疾患として、結核、単純ヘルペス、帯状ヘルペスがあげられる。病歴、経過、血清学的所見の総合的評価が重要となる。梅毒性ぶどう膜炎の診断には手掌にみられる梅毒性乾癬や梅毒性ばら疹も診断の助けとなる。
梅毒の全身治療として経口合成ペニシリン剤を用いる。先天梅毒や神経梅毒を合併した場合はベンジルペニシリンカリウムもしくはセフトリアキソンの点滴静注を行う。CDCのガイドラインでは、眼梅毒のいかなる症状も神経梅毒に準じた治療(ペニシリンG 14日間投与)を推奨している1)。
駆梅療法の効果はRPR法の推移で判定し、抗体価8倍以下または初期値の1/4まで低下を目標とする。
梅毒性角膜炎の第一選択治療はステロイド点眼である。角膜病変はペニシリンに抵抗性を示す一方、ステロイドに良好に反応する1)。炎症が強い例では駆梅療法と同時にステロイド点眼を併用する。
ステロイド点眼の長期使用による白内障・緑内障のリスクがあるため、再発性の梅毒性角膜炎にはシクロスポリンやタクロリムスが推奨される。免疫抑制剤のほうがステロイドより再発防止効果に優れるとの報告がある。
角膜混濁が高度な場合は全層角膜移植術(PKP)の適応となる。10年間のグラフト生存率は約80%と報告されている。正常視力が得られない例では、小児期の梅毒性角膜炎による弱視の関与が推測されている。
梅毒性角膜炎の病態はT. pallidumの直接感染ではなく、トレポネーマ抗原に対する免疫反応である。角膜からスピロヘータは検出されず、抗菌薬に反応しない一方でステロイドに良好に反応する。このことが免疫介在性の病態であることを裏付けている1)。ただし全身の梅毒感染に対しては駆梅療法が必要であり、角膜の局所治療とは区別して行う。
実験的研究ではT. pallidumが角膜実質細胞に付着し、血行性に眼内に侵入できることが示されているが、梅毒性角膜炎の罹患眼からスピロヘータを検出することは困難である1)。このため、角膜への直接感染ではなく免疫反応が病態の中心と考えられている。
有力な仮説では、角膜に残存するトレポネーマ抗原に対する遅延型過敏反応、あるいは自己抗原との分子模倣(molecular mimicry)により免疫介在性の炎症が惹起されるとされる1)。病理組織学的には、角膜実質にリンパ球の浸潤と血管侵入が認められる。
数週間持続する両眼性の虹彩炎に続き、強い毛様充血とびまん性の角膜細胞浸潤をきたす。その後、血管進入を伴った瘢痕性の深部角膜混濁を生じる。発症から3〜6か月で沈静化し、ゴースト血管として血管腔が残存する。混濁は徐々に吸収傾向となるが、完全には消退しないことが多い。
適切な治療後も5〜15%の患者で再発が起こる。
梅毒性角膜実質炎の瘢痕期に認められる、血流が途絶えた血管痕である。活動期に角膜実質に侵入した新生血管が、炎症の沈静化後に血流を失い空虚な管腔構造として残存する。角膜実質深層に認められ、梅毒性角膜実質炎の既往を示す重要な所見である。一部のゴースト血管は開存しており赤血球を運んでいることもある。