
点状多色性デスメ膜前角膜ジストロフィ
ひとめでわかるポイント
Section titled “ひとめでわかるポイント”1. 点状多色性デスメ膜前角膜ジストロフィとは
Section titled “1. 点状多色性デスメ膜前角膜ジストロフィとは”点状多色性デスメ膜前角膜ジストロフィ(punctiform and polychromatic pre-Descemet’s corneal dystrophy:PPPCD)は、デスメ膜前の角膜実質後層に点状(punctiform)かつ多色性(polychromatic)の微小混濁が出現する、非常に稀な遺伝性角膜ジストロフィである。1979年に初めて報告された。
IC3D分類における位置づけ
Section titled “IC3D分類における位置づけ”International Committee for Classification of Corneal Dystrophies(IC3D)の分類では、PPPCDは「デスメ膜前角膜ジストロフィ(PDCD)、カテゴリー4」に分類される。カテゴリー4は、独立した疾患単位として十分に定義されていないことを意味する。裏付けとなる研究は極めて少なく、疾患概念の確立には更なる報告の蓄積が必要である。
PPPCDは報告数が極めて少ない稀な角膜ジストロフィである。IC3D分類ではカテゴリー4に位置づけられており、独立した疾患単位としての十分なエビデンスがまだ蓄積されていない。
2. 主な症状と臨床所見
Section titled “2. 主な症状と臨床所見”
PPPCDの患者は自覚症状を呈さない。視力障害、眼疾患、全身疾患の症状を訴えた報告はなく、細隙灯顕微鏡検査時に偶然発見される。年齢や性別による発症の偏りも報告されていない。
細隙灯顕微鏡検査で以下の所見を認める。
- 点状混濁:10〜15 μm程度の大きさを持つ多数の点状混濁がデスメ膜前の角膜実質後層に均一に分布する
- 多色性:混濁は高反射性で、黄色・緑色・赤色の色調を呈する
- 分布:角膜実質後層全体に認めるが、後層で最も密度が高い
- 角膜剛性の増加:角膜バイオメカニクス検査で角膜剛性の有意な増加が報告されている
- 前嚢下水晶体混濁:PRDX3遺伝子変異を持つ患者で前嚢下水晶体混濁が記録されており、混濁がデスメ膜前層のみに限定されない可能性がある
他の角膜ジストロフィとは異なり、ケラトサイト(角膜実質細胞)は一般的に正常である。
デスメ膜前層の微小混濁が光を散乱・反射する際に、黄色・緑色・赤色の色調を呈する。この多色性はPPPCDの特徴的な所見であり、他の深層角膜混濁との鑑別に有用である。
3. 原因とリスク要因
Section titled “3. 原因とリスク要因”PPPCDは常染色体優性遺伝形式をとる。浸透率が高く、表現型の多様性は最小限である。
以下の遺伝子変異がPPPCDの発症に関連する。
- PRDX3遺伝子:ヒト染色体10q26.11に位置する。新規ミスセンス変異 c.568G>C(p.Asp190His)が同定されている。PRDX3はペルオキシレドキシンファミリーに属するミトコンドリア特異的なペルオキシダーゼであり、細胞内の活性酸素種(ROS)の恒常性維持に関与する
- PDZD8遺伝子:染色体10q25.3-q26.11に位置する。稀なイントロン変異 c.872+10A>Tが報告されている。PDZD8は小胞体膜およびミトコンドリア関連小胞体膜に局在し、脂質・金属イオン結合活性を持つ
- OR2M5遺伝子:ミスセンス変異 c.773T>Cが報告されているが、PRDX3およびPDZD8との関連がより多く報告されている
PPPCDは常染色体優性遺伝形式をとり、浸透率が高い。片方の親がPPPCDであれば、子に遺伝する確率は理論上50%である。遺伝カウンセリングが参考になる場合がある。
4. 診断と検査方法
Section titled “4. 診断と検査方法”PPPCDの診断は主に細隙灯顕微鏡検査による臨床診断である。表現型の多様性が最小限であるため、特徴的な外観から比較的容易に診断できる。
- 細隙灯顕微鏡検査:デスメ膜前層の点状多色性混濁を直接観察する。最も基本的かつ重要な検査である
- 共焦点顕微鏡検査:角膜実質の前層および中層にも混濁を検出できるが、密度は後層より低い。共焦点顕微鏡はPPPCDと他の角膜ジストロフィとの鑑別にも有用である
- 前眼部光干渉断層計(OCT):角膜各層の構造評価に有用
- 鏡面顕微鏡検査:角膜内皮細胞の評価に使用する
サンガーシーケンシングや全エクソーム解析(WES)により、PRDX3、PDZD8、OR2M5遺伝子の変異をスクリーニングできる。
PPPCDと鑑別すべき深層角膜混濁を呈する疾患を以下に示す。
| 鑑別疾患 | 特徴 |
|---|---|
| 角膜粉状変性 | 角膜実質深層の微細顆粒状混濁 |
| 深層糸状ジストロフィ | 糸状の深層混濁 |
| 斑状角膜ジストロフィ | びまん性の角膜混濁、CHST6遺伝子変異 |
角膜バイオメカニクス評価がPPPCDと他の類似した角膜ジストロフィとの鑑別に役立つ可能性がある。
PPPCDでは角膜剛性の増加が報告されている。眼圧測定(特にゴールドマン圧平眼圧計)は角膜の物理的特性の影響を受けるため、角膜剛性が高いと実際の眼圧より高値を示す(偽高値)可能性がある。
5. 標準的な治療法
Section titled “5. 標準的な治療法”PPPCDは無症状の疾患であるため、基本的に治療は不要である。
- 経過観察:定期的な眼科検査が推奨される場合がある。角膜実質への沈着が進行して視力障害を来す可能性は極めて低いが、担当医の判断で経過を追う
- 角膜移植:万が一、広範な実質病変により重大な視力障害が生じた場合にのみ適応となる。実際にそのような報告はほとんどない
6. 病態生理学・詳細な発症機序
Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”PPPCDの病態生理は十分に解明されていないが、以下の知見が報告されている。
PRDX3の役割
Section titled “PRDX3の役割”PRDX3はミトコンドリアに局在するペルオキシダーゼであり、ミトコンドリア呼吸鎖における抗酸化防御に関与する。PPPCDに関連するミスセンス変異(p.Asp190His)はin silico予測ツールにより蛋白質機能を損傷させると予測されている。PRDX3の機能異常がミトコンドリアの酸化還元バランスを撹乱し、デスメ膜前領域の混濁形成に至る可能性が推察されるが、詳細な機序は未解明である。
PDZD8の役割
Section titled “PDZD8の役割”PDZD8のイントロン変異(c.872+10A>T)は、イントロン内の潜在性ドナースプライス部位を新たに形成する。これによりin vivoスプライスアッセイで異常な転写アイソフォームの生成が確認されている。小胞体-ミトコンドリア間連絡の異常が下流のプロセスに影響を及ぼし、角膜実質後層における混濁形成に寄与する可能性がある。
ケラトサイトの保持
Section titled “ケラトサイトの保持”他の角膜ジストロフィとは異なり、PPPCDではケラトサイトが正常に保持されている。これは混濁が細胞外物質の沈着によるものであり、実質細胞自体の変性は伴わないことを示唆する。