PPCD1(OVOL2)
遺伝子座:20p11.2–q11.2。OVOL2プロモーター変異による異所性発現。
特徴:ZEB1の発現を直接抑制するジンクフィンガー転写因子。角膜移植や続発緑内障のリスクが他のサブタイプより高い1)。
iOCT支援角膜内皮移植術:重症乳児例で有効性が報告されている2)。

後部多形性角膜ジストロフィ(posterior polymorphous corneal dystrophy: PPCD)は、角膜内皮およびデスメ膜を侵す常染色体優性遺伝の角膜ジストロフィである。Schlichting dystrophyとも呼ばれる。臨床像には広い多様性が見られ、水疱状変化・帯状病変・びまん性混濁を特徴とする3)。
PPCDは両眼性であるが、しばしば左右非対称に現れる。幼児期または思春期に発症し、多くは無症状で停止性もしくは緩徐進行性の経過をたどる。20〜30%に角膜浮腫を生じる。
IC3D分類(2015年改訂)では、以前の常染色体優性型先天性遺伝性内皮ジストロフィ(CHED-AD)は、PPCDの軽症型として再分類されている3,5)。関連する眼疾患として続発緑内障や円錐角膜がある。眼外疾患ではアルポート症候群や腹壁ヘルニアとの関連も報告されている。
ICD-10コード:H18.52。
多くの症例は停止性もしくは緩徐進行性であり、視力に影響しないことが多い3)。しかし一部では角膜浮腫が進行し視力障害を招くことがあり、特にOVOL2変異(PPCD1)は比較的重症化しやすい1)。定期的な眼科受診による経過観察が重要である。
多くの患者は無症状である。角膜浮腫が進行した場合にかすみ目(霧視)を自覚する。重症例では乳幼児期から角膜混濁が出現し、視力発達に影響を及ぼす。
PPCDの角膜後面には以下の3つの病型が認められる3)。
| 病型 | 所見 |
|---|---|
| 水疱状変化 | 青灰色のハローを伴う小水疱 |
| 帯状病変 | 平行に走る線状の隆起 |
| びまん性混濁 | 広範囲の角膜後面混濁 |
その他の臨床所見として以下がある。
PPCDは遺伝子座不均一性を示し、4つの遺伝子座が同定されている。いずれの遺伝子も上皮間葉転換(EMT)とその逆過程である間葉上皮転換(MET)の制御に関与する1)。
PPCD1(OVOL2)
遺伝子座:20p11.2–q11.2。OVOL2プロモーター変異による異所性発現。
特徴:ZEB1の発現を直接抑制するジンクフィンガー転写因子。角膜移植や続発緑内障のリスクが他のサブタイプより高い1)。
iOCT支援角膜内皮移植術:重症乳児例で有効性が報告されている2)。
PPCD3(ZEB1)
遺伝子座:10p11.22。ZEB1のLoF(機能喪失)変異。ハプロ不全が疾患機序。
特徴:50以上の病原性LoF変異が報告されている1)。浸透率は約95%と推定されるが、真の浸透率はそれより低い可能性がある1)。角膜の急峻化を伴うことがある。
pLIスコア:0.994であり、ハプロ不全に対する極めて高い非耐性を示す1)。
その他のサブタイプとして、COL8A2変異によるPPCD2(1p34.3–p32.3)およびGRHL2変異によるPPCD4(8q22.3–q24.12)がある。GRHL2もZEB1の転写を直接抑制しEMTに関与する。遺伝子型と表現型の関係は、同一家系内でも大きな個人差がある1)。
常染色体優性遺伝であるため、罹患者の子は50%の確率で変異を遺伝する。家族歴の聴取が重要である。
臨床所見のみではサブタイプの区別は困難であり、確実な分類には遺伝子検査が必要である1)。遺伝子型は予後予測に重要であり、OVOL2変異(PPCD1)は角膜移植が必要となる可能性が高く、ZEB1変異(PPCD3)は角膜急峻化を伴うことがある。
| 疾患 | 鑑別のポイント |
|---|---|
| ICE症候群 | 片眼性・散発性。PPCDは両眼性・遺伝性3) |
| Fuchs内皮ジストロフィ | 40歳以降発症。滴状角膜が中央から進行 |
| デスメ膜破裂 | 鉗子分娩や先天緑内障の既往 |
| Peters異常 | 角膜中央の円板状混濁。重症 |
| CHED | 出生時から両眼性角膜浮腫。AR遺伝 |
ICE症候群は片眼性・散発性(非遺伝性)であり、主に成人に発症する。PPCDは両眼性・常染色体優性遺伝であり、小児期から所見が出現する3)。両疾患とも内皮異常・虹彩角膜癒着・瞳孔偏位を呈しうるが、遺伝歴の有無と発症パターンが最大の鑑別点である。
PPCDの多くは無症状であり、治療を必要としない。続発緑内障のリスクがあるため、眼圧の定期的モニタリングが重要である。
眼圧上昇を認めた場合は薬物療法を行う。β遮断薬・αアドレナリン作動薬・炭酸脱水酵素阻害薬が使用される。薬物でコントロール困難な場合は隅角切開術や線維柱帯切開術を検討する。
角膜浮腫が持続し視力障害をきたす場合には角膜移植が適応となる。角膜浮腫を生じた症例の20〜25%が角膜移植を要すると推定されている2)。
小児例では弱視予防が最重要であり、早期の手術介入が正当化されることがある。17週齢の乳児に対する両側iOCT支援角膜内皮移植術の成功例が報告されている2)。
角膜浮腫が持続して視力障害をきたす場合に手術が検討される。角膜浮腫を伴う症例の20〜25%が角膜移植を必要とする2)。薬物療法で管理できない続発緑内障に対しても手術が必要となることがある。多くの症例は生涯にわたり手術を必要としない。
PPCDの病態の中心は、角膜内皮細胞における異常な上皮様転換である。正常な角膜内皮細胞は単層六角形であるが、PPCDでは重層扁平上皮に類似した多層性の上皮様細胞に転換する4)。
PPCDに関与する4つの遺伝子(OVOL2・COL8A2・ZEB1・GRHL2)は、いずれもEMT/MET制御の相互抑制経路に関わる1)。ZEB1はEMTを促進する転写因子であり、OVOL2とGRHL2はZEB1の転写を直接抑制する。これらの遺伝子の変異はEMT/METバランスを破綻させ、内皮細胞の上皮様転換を招く。
ZEB1(TCF8)は、E-カドヘリンの発現を抑制してEMTを誘導するジンクフィンガー転写因子である。ZEB1ノックアウトマウスでは、角膜内皮や角膜実質細胞に上皮遺伝子の異所性発現が認められ、PPCDの特徴(異常な角膜細胞増殖・角膜肥厚・虹彩角膜癒着・角膜水晶体癒着)が再現されている4)。
ZEB1のLoF(機能喪失)変異はPPCD3を引き起こす。これまでに50以上の病原性LoF変異が報告されているが、変異は遺伝子全体に比較的均等に分布しており、特定の機能ドメインとの関連は認められない1)。このことはPPCD3がZEB1のハプロ不全により生じることを支持する1)。
PPCDの角膜内皮では、上皮様細胞がサイトケラチン(CK7・CK19)染色陽性を示し、デスモソーム様の細胞間接合と表面微絨毛を有する。これらの異常な細胞は角質化し、欠陥のある基底膜を分泌し、デスメ膜の肥厚をもたらす。デスメ膜の後面には結節状のコラーゲン沈着が認められる。
Dudakovaらは、3616例のエクソーム・88例のゲノムデータからZEB1 LoF変異を検索し、新規のc.1279C>T変異を同定した1)。ヘテロ接合体である父子2名を眼科的に精査したが、いずれもPPCD3の所見を認めなかった。gnomAD(141,456名)にも8つの異なるヘテロ接合ZEB1 LoF変異が同定されており、PPCDの浸透率は従来の家系研究に基づく推定(約95%)より低い可能性が示唆されている1)。
Muijzerらは、OVOL2遺伝子の de novo重複によるPPCD1の17週齢乳児に対し、両側iOCT支援DSAEKを施行した2)。術中の顕微鏡統合型iOCTにより、角膜混濁下でもグラフトの向き・接着・界面を高解像度で評価できた。右眼は術後角膜が透明化し良好な視覚発達を示し、左眼はグラフト剥離後の再移植を経て機能的なグラフトが得られた2)。