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角膜・外眼部疾患

光角膜炎(紫外線角膜炎)

光角膜炎は、保護具なしに紫外線(UV)を浴びた後に発症する急性の角膜上皮障害である。眼の「日焼け」に相当する病態であり、紫外線角膜炎とも呼ばれる。

紫外線は波長により以下の3種に分類される。

  • UVC(短波長紫外線):最も傷害性が強い。太陽光には含まれないが、電気溶接・殺菌灯・水銀灯・アセチレン溶接などの人工光源から照射される
  • UVB(中波長紫外線):太陽光に含まれる。DNAに直接吸収され損傷を与える
  • UVA(長波長紫外線):太陽光に含まれる。酸化ストレスを介して間接的に細胞を障害する

光角膜炎は原因となる光源により2つの病型に大別される。

  • 電気性眼炎:UVCを含む人工光源(溶接アークなど)による曝露で発症する
  • 雪眼炎(雪目):太陽光中のUVB大量曝露により発症する。太陽光は人工光源より波長が長いため、一般に症状は軽度で発症までの時間も長い

ICD-10コード:H16.131(右眼)、H16.132(左眼)、H16.133(両眼)、H16.139(詳細不明)。

Q 電気性眼炎と雪眼炎はどう違うのか
A

原因となる紫外線の種類が異なる。電気性眼炎は溶接や殺菌灯など人工光源のUVC(短波長紫外線)が原因で、傷害性が強い。雪眼炎は太陽光のUVB(中波長紫外線)が原因で、一般に症状は軽度であり発症までの潜伏期もやや長い。詳細は「病態生理学・詳細な発症機序」の項を参照。

紫外線曝露から30分〜24時間の潜伏期を経て症状が出現する。日中に溶接作業やスキーをし、夜になって発症して救急受診するパターンが典型的である。

  • 眼痛:最も顕著な症状。自力で開瞼できない症例も多い
  • 異物感:角膜上皮の脱落により生じる
  • 流涙:反射性に亢進する
  • 羞明(まぶしさ):光に対する過敏性が強い
  • 視力低下:軽度〜中等度。痛みで検査困難なことも多い
  • 眼瞼けいれん:疼痛に伴い出現する

通常は両眼性である。顔面や眼瞼の紅斑(紫外線による皮膚の日焼け)を伴うことがある。

  • 点状表層角膜症(SPK)角膜全面にわたる広範囲の点状表層角膜症が特徴的所見である。フルオレセイン染色で確認する。重症例では点状表層角膜症が融合し、角膜びらんとなる
  • 結膜充血・結膜浮腫:球結膜に充血と浮腫を認める
  • 眼瞼結膜の保護:眼瞼で紫外線が遮断されるため、眼瞼結膜は比較的保たれる
  • 虹彩炎:時に合併する
  • 眼瞼の発赤・腫脹:紫外線による皮膚障害として生じることがある
Q なぜ紫外線を浴びた直後ではなく数時間後に痛みが出るのか
A

紫外線は角膜上皮細胞にアポトーシス(プログラム細胞死)を誘導する。細胞が実際に脱落して上皮下の神経が露出するまでに時間差があるため、曝露直後ではなく30分〜24時間後に症状が出現する。詳細は「病態生理学・詳細な発症機序」の項を参照。

電気性眼炎

アーク溶接:最も代表的な原因。保護面なしの作業や、近傍での曝露で発症する。

殺菌灯・水銀灯:短波長UVCを放射する。実験室・医療施設での事故的曝露がある。

アセチレン溶接:UVCを含む人工光源の一つである。

雪眼炎

スキー場:雪面の高い反射率により大量のUVBに曝露される。

高地登山:大気が薄くUV散乱が減少する。降りたての雪のアルベド(反射率)は最大90%に達する。

日焼けサロン・サンランプ:人工的なUVB/UVA光源による曝露。

その他の曝露源として、損傷したメタルハライドランプ(体育館などで使用)やハロゲンランプの破裂がある。

保護眼鏡やゴーグルをしないで、よく晴れた日に1時間半〜2時間を超えてスキー場にいると発症のリスクが高まる。

Q どのくらいの時間紫外線を浴びると発症するか
A

保護具なしの場合、晴天下のスキー場で約1時間半〜2時間を超える曝露が発症の目安とされる。ただし溶接アークなどUVCを含む人工光源では、ごく短時間の曝露でも発症しうる。

病歴聴取が最も重要である。紫外線曝露歴と症状出現までの潜伏期が診断の鍵となる。

  • 細隙灯顕微鏡検査:角膜全面の観察を行う
  • フルオレセイン染色:点状表層角膜症(SPK)または角膜びらんを検出する。コバルトブルーフィルターで励起し、観察系にフルオレセインフィルターを入れるとより明瞭に描出できる
  • 両眼性の確認:光角膜炎では通常両眼に同程度の所見を認める。片眼性であれば他の原因を検索する

両眼性の充血・疼痛・羞明を呈する他の疾患との鑑別が必要である。

疾患鑑別のポイント
ウイルス性結膜炎片眼から発症、眼瞼結膜にも充血
CL過装用CL使用歴あり
ドライアイBUT短縮、UV曝露歴なし
薬物毒性点眼薬使用歴あり
化学物質曝露化学物質の接触歴
上眼瞼異物片眼性、垂直線状擦過傷

光角膜炎は基本的に自然治癒する疾患である。角膜上皮は通常24〜72時間で再生する。治療は支持療法が中心となる。

  • 抗菌点眼薬:感染予防目的で処方する。上皮欠損部からの二次感染を防ぐ
  • ヒアルロン酸点眼薬:角膜上皮の再生を促進する
  • 眼軟膏:塗布により眼表面を保護し、快適性を高める。エリスロマイシン軟膏を1日4回、2〜3日間塗布する方法がある
  • 経口鎮痛薬:疼痛管理に使用する。局所NSAIDs点眼薬より費用対効果に優れる
  • 局所NSAID点眼薬:ケトロラクやジクロフェナクなどの使用は議論がある。2017年のコクランレビューでは外傷性角膜擦過傷に対する明確な利益を示せなかった
  • 眼帯:角膜擦過傷の治癒を遅らせる可能性があり、推奨されない
  • 調節麻痺薬:シクロペントラートやホマトロピンの有効性は証明されていない

コンタクトレンズ装用者は、角膜が治癒するまで装用を中止する。

初診から1〜2日以内に再診し、症状と所見の改善を確認する。新たな痛みの出現や悪化があれば速やかに再評価する。

Q 痛み止めの目薬を処方してもらえないのはなぜか
A

点眼麻酔薬は角膜上皮の修復を妨げ、障害を悪化させるため、患者への処方は禁忌とされている。診察時の一時的な使用にとどめ、自宅での使用には経口鎮痛薬を用いる。


6. 病態生理学・詳細な発症機序

Section titled “6. 病態生理学・詳細な発症機序”

角膜は透明であり、可視光(400〜700 nm)を透過させる一方、紫外線(10〜400 nm)を吸収する。角膜上皮は290 nm以下のUV(UVC領域)をほぼ100%吸収し、下層の角膜実質・内皮を保護する役割を果たしている。

紫外線は生体中の核酸や芳香族アミノ酸に吸収され、遺伝子や蛋白質を変性させることで細胞障害を引き起こす。

紫外線の波長による角膜への影響の違いを以下に示す。

UV種別波長主な作用機序
UVC10〜280 nm上皮に直接吸収。最強傷害性
UVB280〜320 nmDNA直接損傷
UVA320〜400 nm酸化ストレス(間接的)

角膜上皮細胞が紫外線を吸収すると、アポトーシス(プログラム細胞死)が誘導される。損傷を受けた上皮細胞は時間差をもって脱落し、上皮下に存在する角膜神経叢が露出する。この神経露出が激しい疼痛の原因である。

曝露から症状発現までの潜伏期(30分〜24時間)は、上皮細胞のアポトーシスと脱落に要する時間を反映している。

電気性眼炎と雪眼炎の病態の違い

Section titled “電気性眼炎と雪眼炎の病態の違い”

電気性眼炎はUVCを含む短波長紫外線が原因であり、傷害性が強く潜伏期が短い傾向がある。一方、雪眼炎は太陽光由来のUVBが主因であり、波長が相対的に長いため症状は軽度で、発症までの時間も長い傾向にある。

大量の紫外線曝露では、上皮を越えて角膜実質や内皮にも損傷が及びうることが動物実験で示されている。

生涯にわたる紫外線曝露の蓄積は、翼状片・紫外線関連角膜変性・悪性黒色腫・非黒色腫性皮膚がんなどのリスク因子となる。また慢性的なUV曝露は角膜内皮細胞や水晶体にも酸化ストレスを与え、角膜内皮障害や白内障の一因となることが知られている。


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