軽症
局所ステロイド:1%酢酸プレドニゾロンを1日6回以上点眼する。
予防的抗菌薬:二次感染予防として局所抗菌薬を併用する。

パリトキシン角膜炎は、パリトキシン(palytoxin: PTX)の眼への局所曝露により生じる角膜炎ないし角膜結膜炎である。サンゴ角膜炎(coral keratitis)とも呼ばれる。
PTXは分子量2,680 kDaの非タンパク質性ポリエーテル毒素であり、1971年にハワイで初めて単離された。スナギンチャク(zoanthids)を中心としたソフトコーラルに含有されるが、イソギンチャク、渦鞭毛藻、藻類、多毛類、カニ、魚類からも検出されている。
本疾患は1993年に初めて報告された。きわめて稀であり、文献上の報告例は16例程度にとどまるが、うち12例は2015年以降に発表されている。家庭用アクアリウムの普及に伴い報告数が増加傾向にある。
PTXの全身曝露は致死的となりうる。苦味・金属味、倦怠感、呼吸困難に始まり、重症例では呼吸不全や心不全により死亡する。
スナギンチャク属のすべてのサンゴがPTXを保有するわけではないが、外見からの判別は不可能であり、すべてが有毒であると想定して取り扱うべきとされる。アクアリウム愛好家の間でも、PTXの危険性に関する認知は限定的である。
曝露直後から急性の症状が出現する。
眼症状に加え、全身症状(呼吸困難、胸痛、咳嗽、頻脈、悪心・嘔吐、頭痛、発熱、筋肉痛、金属味)が現れることがある。
細隙灯顕微鏡所見は多彩であるが、代表的な所見を以下に示す。
| 所見 | 頻度 | 特徴 |
|---|---|---|
| 結膜充血 | 高頻度 | 曝露直後から出現 |
| 輪状浸潤 | 高頻度 | PTX角膜炎の特徴的所見 |
| デスメ膜皺襞 | 高頻度 | 角膜浮腫に伴う |
PTXの眼への曝露は以下の経路で生じる。
保護ゴーグル・防水手袋・マスクの着用が基本である。サンゴの除去に熱湯を使用するとPTXがエアロゾル化するため、この方法は避けるべきとされる。換気のよい場所で作業し、作業後は必ず手洗いを行う。
PTX曝露を検出する確定的な検査法は存在しない。診断は臨床的に行われ、以下の2点が必須である。
非特異的な臨床像を呈するため、鑑別は多岐にわたる。
確立された治療プロトコルは存在しない。発表された症例報告からの経験的知見に基づき対応する。
治療の第一歩は洗眼による毒素除去である。生理食塩水または人工涙液で速やかに大量洗眼を行う。コンタクトレンズを装用している場合は直ちに除去する。レンズが毒素の濃度や曝露時間を増大させるためである。
軽症
局所ステロイド:1%酢酸プレドニゾロンを1日6回以上点眼する。
予防的抗菌薬:二次感染予防として局所抗菌薬を併用する。
中等症
局所ステロイド強化:1%酢酸プレドニゾロンを1時間ごとに点眼する。
アスコルビン酸:角膜実質融解の予防を目的とする。
ドキシサイクリン内服:コラゲナーゼ活性を抑制し角膜融解を防ぐ。
経口ステロイド:炎症が高度な場合に追加する。
重症
直ちに大量の水または生理食塩水で洗眼する。コンタクトレンズを装用中であれば速やかに除去する。眼をこすらないように注意し、できるだけ早く眼科救急を受診する。
PTXの角膜細胞に対する影響は完全には解明されていないが、いくつかの機序が提唱されている。
PTXの主要な細胞毒性機序はNa+/K+ ATPase(ナトリウム・カリウムポンプ)の阻害である。このポンプの機能が破綻すると、細胞膜を介した陽イオンの非制御的な流入が起こり、細胞内イオン環境が崩壊する。結果として細胞死が惹起される。
PTXはアクチン・マイクロフィラメントを破壊する。これにより角膜上皮細胞の遊走能が低下し、創傷治癒プロセスが遅延する。
PTXは血管収縮作用をもち、結膜の部分的な無血管化を引き起こしうる。加えて炎症性反応を誘導する。
これらの機序が複合的に作用し、以下の病態が段階的に進行する。
角膜移植が行われた検体の組織病理学的検査では、重度の角膜融解、急性および慢性角膜炎(炎症細胞数は比較的少ない)、実質瘢痕が認められている。